Vivid Outlaw   作:勇忌煉

10 / 26
第10話「新たなスタート」

「こげなときに外へ出ても大丈夫なんじゃろか?」

「どういう時だよ」

 

 元日。アタシとレヴェントンは予定通り、幸いに近所にあった神社へ初詣に訪れていた。長い長い階段の前に、人がわんさかいる。

 ……大丈夫、大丈夫。こういう神聖じみた場所での居心地はすこぶる悪いが、レヴェントンがいるおかげかまだ吐き気はしない。

 それとアタシは立場上、周りの視線も気にしなければならない。病院脱走からまだ一ヶ月どころか、二週間も経っていないしな。

 

「緒方さん、病院から脱走したせいで警邏隊や管理局に追われとるんじゃろ? それなのに――」

「外へ出ても大丈夫ってか? お前なァ……アタシが何のためにこんな変装してると思ってんだコノヤロー。好きでやってんじゃねぇんだぞ」

「変装、と言われましても……」

 

 うん、わかってる。お前の言いたいことはわかってるぞレヴェントン。

 今のアタシの服装はいつものパーカーに、キャップ帽とサングラスという、マスクが追加されたら不審者待ったなしの際どい格好だからな。これは自分でも似合っていないと思っている。

 ……サングラスは意外と気に入ってるがな。ヤンキーがよく持つアイテムの一つだし。

 

「うし、んじゃ行くぞ」

「こ、これを登るんですか……」

 

 そう、今からアタシとレヴェントンが登る階段だが……めちゃくちゃ長く、下手な坂道よりも急だ。その証拠に、上では登り切った人の九割がバテバテになっている。これもうただの試練だろ。

 とまぁ内心愚痴りながらも、アタシはトロトロしているレヴェントンを後ろから押すように階段を登っていく。さすがにキツイなこれ。

 そして無事に登り切ったところで一息つき、今は冬なのに汗だくで、よほどバッテバテなのか大の字で仰向けになっているレヴェントンへと視線を向ける。ホントだらしねぇなコイツ。

 

「こ……これはさすがに、キツイです……」

「とりあえず起きろ。通行人の邪魔だ」

 

 それにここで立ち止まっていたら、アタシの顔見知りと遭遇する可能性だってある。幸いなのは誰も動画を撮っていないことか。

 起きろといったのにレヴェントンが全く動く気配を見せないので、強引に右足を掴んでズルズルと引き摺ることにした。こうなるともはやただのお荷物である。邪魔臭い。

 

「いたたたたっ! 痛いです緒――ッ!?」

「騒ぐなクソガキ」

 

 大声でアタシの名前を言おうとしたので、右足を握る左手に力を入れる。

 微かにメキメキと骨が悲鳴を上げ、目尻に涙を溜めて目を見開くレヴェントン。仮に泣き喚いても悪いのはお前だからな?

 

「全く、世話焼かせやがってこのクソガキ……」

「じゃから、ガキ扱いせんでください……!」

 

 人気の少ない木陰に来たところで、ようやくお荷物のように扱っていたレヴェントンを解放する。物凄く文句を言いたそうにこちらを睨んでいるが、そんなことは気にしたら負けだ。

 しかし何だかんだでアタシの意図を察してくれたのか、レヴェントンは何かに気づいたかのような顔になり、ため息をついた。

 そんな不貞腐れ気味のレヴェントンはさておき、人が多くなる前にやることは全部やっちまおう。早くしないと知り合いとエンカウントする可能性が上がってしまう。

 

「早く立て。これ以上人が多くなるとアタシがヤバイ」

「は、はい……」

 

 痛そうに右足を両手で押さえていたレヴェントンだが、アタシが急かすと慌てて起き上がった。一人は寂しいのだろうか?

 周囲の視線に最大限警戒しつつ、レヴェントンがついてきていることを確認して長蛇の列、その最後尾につく。早く進んでくれよ……。

 ちなみに今からやる参拝についてだが、レヴェントンにはもう教えてある。昨日、寝る前に散々聞かれたからな。そのせいで寝坊して、危うく初日の出を見逃すところだったわ。

 

「あっ、列が進みましたよ!」

「思ったよりも早く終わりそうだな……」

 

 だが、ありがたいことに列が予想以上に早く進み始めた。これなら吐かずに済みそうだ。さっきから我慢してた甲斐があったぜ。

 そして三分後。アタシとレヴェントンは何事もなく賽銭箱の前にたどり着いた。

 

「この箱にお金を入れたらええんじゃろか?」

「小銭だけな。間違っても札は入れるなよ」

 

 レヴェントンから受け取った小銭を賽銭箱に放り投げ、鈴を鳴らして拝礼を行う。ここは神社だから……再拝二拍子一拝だな。

 

 さぁ、いよいよ神仏への祈願だ。

 

(……これしかないよな)

 

 

 

 ――明日を迎えられますように。

 

 

 

 あの日から、アタシの明日は止まっている。アシンに一度殺された、あの日から。

 アイツだけはこの手でブチのめす。そうしないと、アタシの明日は永遠にやって来ない……!

 

「……こ、これでええんじゃろか?」

「……あァ。さっさと行くぞ」

 

 用は済んだ。お守りなどを見たり、絵馬に願い事や目標を書いて飾ったりしたいが、人がさっきよりも多いから無理だ。

 ……いや、やっぱりレヴェントンには書かせよう。おそらく人生初であろう、絵馬を。

 

 

 

 

 

 

「で、お前的にはどうだったんだ? 人生初の初詣は?」

「え、えっと……」

 

 あれからレヴェントンが絵馬を書いて飾り終えたところで、慎重かつ迅速に神社を後にし、帰路についたところで彼女に感想を聞いてみた。

 わざわざ無理してまで連れてきたのだから、それくらい教えてもらわなきゃ困る。これでつまらなかったとかほざいたら叩きのめすぞ。

 レヴェントンはどう言えば良いのかわからないという感じで迷っていたが、ある程度の整理はできたようで、真面目な顔で口を開いた。

 

「ぶち貴重な体験をさせていただき、ありがとうございました」

「…………いや、礼は良いから感想を言え」

 

 感想を聞いたのに感謝の言葉を述べられても困るんだが。まぁ、それはそれで悪くないが。少なくとも嫌な印象は抱いてなさそうだし。

 

「すごい楽しかったです。アマザケ……でしたっけ? それは美味しかったし、お守りも買えましたし、願い事も言えましたし」

「あぁ、そう。そりゃ良かったな」

 

 とりあえずコイツが初詣をエンジョイできていたのはわかった。だからそんなキラキラと目を輝かすな。サングラス越しでも眩しいんだよ。

 レヴェントンの満足そうな笑みを確認し、取り出したタバコに彼女からくすねたマッチ棒で火を付ける。ライターは昨日使い切った。

 

「ふぅ……」

「お、緒方さんっ」

「ん?」

 

 一服して当然のように紫煙を吐いていると、いきなりレヴェントンが真剣な表情で話しかけてきた。少しはリラックスしろよコイツ。

 

「あ、あの……ほんまに良かったんでしょうか?」

「何が?」

「――緒方さんに、ついていっても」

「……まさかとは思うが、ここに来て嫌だとか言うんじゃねぇだろうな?」

 

 もしそうなら両腕を原型がなくなるまで圧し折ってやる。あと両足も。

 万が一に備えて右手に力を込めるも、その心配は一瞬で霧散することとなった。

 

「ち、違いますっ! そうじゃなくて、その……緒方さんは嫌なんですよね?」

 

 心配は霧散したが、今度は今更なことを聞かれた。いや、今更過ぎるわ。

 少しムカついているので殴ろうとも考えたが、ここは我慢することにした。

 というか、そろそろこのすぐに手を上げるパターンも控えた方が良いか? アタシとしてはこのまま続行したいんだけど……。

 

「お前がついてくるのが、か?」

「はい……」

 

 アタシから目を逸らし、しょんぼりするように俯くレヴェントン。そんな顔するなら最初から聞くなよ。自信がないってことじゃねぇか。

 

「まぁ確かに、嫌だね。少なくとも良い気はしねぇよ」

 

 アタシは一人の方が好きだ。その方が気楽で良いし、誰かに気を遣う必要もない。誰にも邪魔されず、アタシのやりたいように動ける。

 だからこそ、コイツがついてくるまでの間は窮屈で堪らなかった。全部クソだったというわけじゃねぇが、思い出すだけで反吐が出る。

 

 

 

 ――ただ一人の例外を除いて。

 

 

 

 ソイツのことだけは今でも、アタシの隣を歩いても良い存在であると認めている。認めざるを得ない。後の連中は……どうでもいいや。

 

「――けどな、あのとき見せたお前の意志は本物だった。だから我慢することにした。その意志をここで蔑ろにするほど、アタシは落ちぶれちゃいねぇよ」

「緒方さん……」

 

 アレは今でも記憶に強く焼き付いている。まさかこんなクソガキに、あんな敬意もクソもない態度と言葉遣いをされるとは思わなかったからな。

 ……もちろん、それだけならコイツを半殺しにしていただろう。でもそうはしなかった。たった今言ったように、あの時レヴェントンが言ったことに嘘も偽りもなかったからだ。

 

「……ちょうど良い。この際だ、お前に言っておくことがある」

 

 昨日、ある単語を聞いてからずっと考えていた。アタシがコイツに何をしてやれるのか。

 こんなの、アタシの柄じゃねぇ。それは百も承知だ。だが人生は何事も挑戦だ。柄じゃなくとも、興味が湧いてきたことはやりたくなる。

 

「言っとくこと……ですか?」

「あァ、大事なことだから一度しか言わねぇぞ――」

 

 一旦言葉を区切り、レヴェントンがちゃんと聞いているかを確認してから告げる。

 

 

 

「――アタシはヤンキーだ。間違ってもアスリートじゃねぇから、お前を肉体的に鍛えてやることはできない。だから教えてやる。お前の知りたいことを、可能な限り教えてやる」

 

 

 

 アタシは格闘技に関しては素人だ。だけど学校の先公みたく、知識を与えることはできる。まっ、アタシを助けた礼ってやつだな。

 

「お――押忍っ!」

 

 一瞬嬉しそうに微笑むも、すぐさま真剣な表情で返事するレヴェントン。どうやらアタシの言いたいことをわかってくれたようだ。

 さっきも思ったが、冗談抜きでアタシの柄じゃねぇ。一人で全部やって、全部解決してきたアタシにできるかはわからない。

 だが、やってやる。恩を返すという意味でも、コイツを導くという意味でも。

 だから腹ァ括れよ、レヴェントン。躓くようなら容赦なく置いていくからな。

 

 

 

 

 この日を境に、アタシとレヴェントンは『先生と教え子』の関係となった。

 

 

 

 

 




 よろしければ感想、お願いします。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。