Vivid Outlaw   作:勇忌煉

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第二章「第100管理外世界」
第11話「情報収集」


「この辺りのはずなんだが……」

 

 初詣から二日後。さっそくアシンと例の狙撃手の情報を得るべく、アタシは一人で裏の情報屋が潜んでいる場所を探し回っていた。

 当初はギャングやマフィア、さらに重罪クラスの犯罪者多数が集う“バザー”と呼ばれる裏街で情報収集を行う予定だった……のだが、向こうではたまに命知らずのバカ共が後ろから襲ってくるし、それの始末で無駄に時間を費やしてしまう可能性が高いから断念することにした。

 それに“バザー”へ行ったところで、必ずしもお目当ての情報が得られるとは限らない。前述の理由と合わせて無駄足になるだろう。

 

 ちなみに、というか当然レヴェントンは置いてきた。アタシが今いるのはお馴染みと言っていい路地裏だが、ここは“バザー”に近いのか、表には出られないような連中の縄張りとなっている。

 なので色んな連中をブチのめしてきたアタシはともかく、チンピラ程度しか知らないあのガキが、この辺りに来るのは自殺行為だからだ。

 

「女神の嬢ちゃん! 腹にでっかい穴開けられた気分はどうよ?」

「うっせ。黙って飲んだくれてろ」

 

 少し苛立ちながら言い返すも、それが面白いのか突っかかってきた薄汚い男は端に座り込んだまま、ゲラゲラと笑ってタバコを吸う。

 そこらの路地裏と違い、ここの路地裏はこうした連中がうようよと表にいる。しかも顔の知れた奴もいるため、今のように絡まれることが多いのだ。ここが“バザー”だと襲ってくるんだがな。

 

 それと男が口にした『女神の嬢ちゃん』という名前だが、もちろんこれはアタシのことだ。

 いつから知っていたのか、ここと“バザー”の連中はアタシが“死戦女神”だということを把握しており、語呂が良くて面白いからという理由で『女神の嬢ちゃん』と呼んでくるようになった。今ではすっかり通り名になってしまっている。

 ……ていうかちょっと待て。アタシが腹に風穴を開けられたってもう知れ渡ってるのかよ。情報が出回る早さも相変わらずだな。

 

「……ところで情報屋を見なかったか? ちょっと用があるんだけど」

「情報屋の旦那ならさっき、あそこに入っていったぜ」

 

 そう言って男が指差した先には、既視感を感じる階段があった。昔、闇拳クラブに突入したときもあんな感じの階段を下りた気がする。

 さっそく教えてもらった場所へ行こうとするも、やはりと言うべきか引き止められた。

 

「ちょいちょい、教えたんだから何かくれよ」

「……ほらよ」

 

 ここに来る途中、ゴロツキから調達した札の一枚を上着のポケットから取り出して渡すと、男は嬉しそうにそれを受け取った。

 まぁ、これがここの平常運転だ。基本的に人の面や事情はそれほど気にしない奴ばかりだが、人の持ち物――特に金銭関連には今のように、ちょっとしたことで強請ってくるほどうるさいのだ。

 なので、ここや“バザー”へ行くときは必ず事前にゴロツキから資金を調達している。持参したもんを取られちゃたまらんからな。

 

「おっす嬢ちゃん。お前さんがここに来るなんて珍しいな」

「おぅ、アタシもそう思うわ」

「お久しぶり、女神のお嬢さん。後でお腹に穴を開けられた話、聞かせてちょうだいな」

「……はぁ」

 

 何か一人一人、すれ違う度に声を掛けて来やがる。というか、今日はやけに人が多いな。何かイベントでもあるのだろうか。

 

「っと、ここか」

 

 そうこうしているうちに、教えてもらった階段の前に辿り着いた。マジで闇拳クラブを思い出すな。この地下へと続く階段は。

 

 

 

 

 

 

「クソッ、マジで長ぇな。ここの階段は」

 

 階段を下りて五分ほど経ったところで、ようやく目的の場所に到着した。

 ここに来るのは初めてじゃないが、頻繁に来ていたわけじゃないので階段の長さを忘れてたよ。酸素が届いているのか気になるところだ。

 さっそく目の前にある鉄の扉を開け、中に入る。……ここも相変わらずだな。警邏隊や管理局対策なのか、外から見たら牢獄の類に見えるのに、中はバーのような集会場なのだから。

 

「おいおい、女神の嬢ちゃんじゃねぇかよ!」

「生きてやがったのかこんちくしょう!」

「腹に穴開けられたんじゃねーのかよ!?」

「そこは空気読んでくたばれよ! せっかくの札束が台無しだコノヤロー!」

 

 中に入ったは良いが、いきなり罵声の嵐である。アタシの生死で賭け事してやがる。

 

「ほら見ろ! 俺の言った通りだろ?」

「チッ! 今回もテメェの一人勝ちかよ!」

 

「お前らなァ……」

 

 別に賭け事自体はどうも思わないが、アタシでするのはやめてもらいたい。お前らの期待には絶対に応えられない自信があるんでね。

 

「……情報屋のおっさんがここにいるって聞いたんだが」

「あそこで飲んでるぜ」

 

 受付みたいな場所に立っている店員はそう言うと、店の奥の方を指差す。

 店員が指差した先には、サングラスを掛けた細身の男が一人でワインのようなものを静かに飲んでいた。間違いない、情報屋のおっさんだ。

 店員に一言礼を述べ、バカ共の罵声をスルーしながらカウンター席の奥へ向かう。

 

「……よう、おっさん」

「ふはっ、誰かと思えば緒方ちゃんじゃないの」

「ガキみてぇに呼ぶな」

「とりあえずそこ座りな。俺に聞きたいことがあるんだろ?」

「話が早くて助かる」

 

 とりあえず店員に生ビールを頼み、言われた通りおっさんの隣の席に座る。

 ……相変わらずだな、コイツも。情報屋だからか言うほど胡散臭くはないが、掴みどころはまるで読めない。気味が悪いぜ。

 

「珍しいじゃないの、君がここに来るなんてさ」

「アタシだって来たくて来たわけじゃねぇよ」

 

 そう、情報を得るだけならそこら辺の路地裏を何度も徘徊し、何か知ってそうなゴロツキをボコって吐かせるだけで良い。何もわざわざこんな腐れた場所にまで来る必要はないのだ。

 だが、今のアタシにはレヴェントンと交わした『制約』がある。それを踏まえた場合、のんびりと情報収集している時間はない。だからこそ、裏の情報屋であるこのおっさんを頼るに至った。

 

「……それにしちゃ、馴染んでるみたいだけど?」

「別に居心地が悪いわけじゃねぇからな」

 

 むしろ居心地はかなり良いと思っている。何せ治安がそれなりに維持された表の社会と違って、クソみてぇなルールに縛られることがなく、それによる息苦しさもないのだから。

 もちろん自己責任の範囲で警戒する必要はあるが、それを差し引いてもここや“バザー”の、喧騒と馬鹿さ加減による混沌は良いものだと断言できる。

 そして集うはアウトロー。つまりここのルールもアウトロー、アウトサイダーのためのルールだ。アタシにとっては理想とする自由、その一つと言える。

 

「そうかい。だけどそれ、もうヤンキーの範囲で納まるとは思えないんだよね」

「んなこたぁわかってる。だけど、それでもアタシはヤンキーなんだよ」

 

 おっさんに痛いところを突かれ、イラっとするもできるだけ冷静に返す。ここで騒げばそれこそ時間の無駄になってしまう。

 

 

 

 別に誰かが決めたことじゃないし、自分からそうする必要もない。だけど、アタシは()()()()()()()()()()()()。直感だけの根拠なしだが、これだけは昔から確信している。

 

 

 

「ていうか、もういいだろ。そろそろ本題に入らせろ」

「はいよ。――で、何の情報が欲しいんだ?」

 

 少しだけおっさんの雰囲気が変わるも、特に支障があるわけでもないのでそのまま進めることにする。ちゃんとした情報をくれると良いのだが……。

 

 

 

「――アシンと散弾のスナイパーについてだ」

 

 

 

 次の瞬間、バカ共の騒ぎがピタリと止み、無音の空間が生まれた。

 

『オイオイ、アシンってあのアシンか?』

『よりにもよって“蒼天の一閃”かよ……』

『なんつーもんに目ぇ付けられてんだよ、あのアマ』

『てか、知ってるってことは狙われたってことだよな? よく生きてんな……』

 

 そして聞こえてくる、バカ共のコソコソ話。連中の話を聞く限り、どうもアタシは相当ヤバイ奴に殺されていたらしいな。

 

「…………驚いたよ。まさかアシンの旦那に狙われて、生き延びる奴がいるなんてね」

 

 いや、一回殺されてるんだが。起死回生の神業がなけりゃ確実に死んでたんだが。

 

「で、情報はあるのか?」

「もちろん。……でもその前に、ズボンのポケットに隠してるものを全部出しな」

 

 鋭い目付きのおっさんにそう言われ、素直にポケットに忍ばせていた宝石を全部取り出す。テスタロッサに出くわしたあの日、見つかる前にコッソリと盗んでおいたものだ。

 ……当然まだ換金していないが、大丈夫だろうか? クールに笑われて『ウチは質屋じゃないんだぜ』とか言われねぇだろうか?

 

「まぁ……情報代にしちゃ充分な量だな。スナイパーの分も含めといてやる」

「……あァ、そう」

 

 ここは素直に礼を述べた方が良かった気もするが、そこは頭を下げるのが嫌いなアタシだ。そう簡単にやれるもんじゃねぇ。

 おっさんもそれがわかっているようで、宝石を回収すると同時に口を開く。

 

「まずはその散弾のスナイパーって奴だが、コイツで間違いないね」

 

 そう言うとおっさんは懐から一枚の写真を取り出し、アタシに差し出す。オイオイ、顔写真まで持ってんのかよ。このバカは。

 迷うことなく受け取ったその写真には、案の定一人の男――

 

「えっ」

 

 ――ではなく、一人の女が写っていた。

 

 地球出身のアタシから見れば特徴的な、白のメッシュが入った黒の短髪。

 常に獲物を狙っているかのような、鋭い目付きに澄んだ瞳。

 顔写真なので完全な体型はわからないが、見切れるように写っている肩を見る限り、それなりに鍛えられた肉体をお持ちのようだ。

 

「名前はランナー。ここいらの連中からは“魔の散弾”と呼ばれている」

「“魔の散弾”?」

「あぁ、殺し屋としての通り名だよ」

「アシンの“蒼天の一閃”と同じようなもんか?」

「その認識で合ってる」

 

 名前の由来は何となくわかるが、それにしたって安直過ぎやしねぇか?

 

「まっ、俺の知る限り拡散する魔力弾を使うスナイパーはその子だけだ。年は君より上……二丁拳銃の執務官と同じくらいかな」

「あっそ」

 

 最後の情報がどうでもいいものだったので聞き流そうかと思ったが、一応頭の片隅に記憶しておくことにする。念のためってやつだ。

 

 

「それじゃ次は――アシンの旦那についてだ」

 

 

 ついにきた。アタシが一番欲しかった情報。あまりの欲しさにこんな裏の社会にまで出向いたんだ。失望させるなよおっさん。

 

「もう顔は知ってるとは思うけど、名前はアシン。通り名は“蒼天の一閃”。君が次元世界最強のヤンキーであるように、旦那もまた次元世界最強の殺し屋と言われている」

 

 へぇ……殺し屋の中じゃ一番強いのか、アイツ。顔、というか容姿は確か……精悍な顔立ちに青紫色の髪、そして二メートル越えのガタイ、だったな。あんなの嫌でも忘れられん――って、ちょい待ち。

 

「なんでアタシが最強扱いなんだよ」

 

 情報自体はこれまでのおさらいとも言えるものなので、特に言うことはない。だけど比較対象はアタシなのは何故か納得がいかない。

 

「知ってるんだぜ? 君が決闘で黒のエレミアを下したのは。あのエレミアを制しておいて、最強の一角に入らないわけがないでしょ」

「アイツはあくまでアスリートだ。持つ能力こそ実戦で本領を発揮するものばかりだが、メンタルがモロに足を引っ張っているせいで実力が伴っていない。良く言えば優し過ぎ、悪く言えば脆い、だな」

 

 ふざけんなよクソが。どうしてここに来てまであのエレミアのことを思い出さなきゃならんのだ。アイツとは決別したも同然。アタシにとっちゃもう過去の存在なんだよ。

 

「う~ん、君がそう思うのならそれで良いよ。でもね、君が最強の一角という事実はどこまでもついてくる。それだけは覚えておきな」

「……チッ。さっさと話を戻せ」

 

 これ以上はもう聞いてらんねぇ。アタシが最強の一角だとか、エレミアだとか。

 おっさんも引き際は良い方だったのか、新たにグラスへ注いだワインを一口飲み、一息ついてから逸れた話の路線を戻し始めた。

 

「わかったわかった。そんなに噛み付くなって。そんでだな……これも知ってるとは思うが、旦那の基本スタイルは何らかの体術を駆使したステゴロ。主に使うのは拳による一閃だ」

 

 まぁ、確かに知っている。というか、あのとき直に食らったので身を以って実感していることになる。アレは痛いとかそんなレベルじゃなかったな。一瞬で生命を刈り取られた感じだ。

 

「……つーかよ、さっきからアシンを旦那呼ばわりしてるのはどういうことだ? もしかしてアイツ、お得意さんなのか?」

「詳しくは言えないけど、まぁそんなところかな」

 

 それが本当なら、おっさんの近くにいればアシンと出会える可能性があるってことじゃねぇか。レヴェントンとの『制約』がなけりゃ実行してたかもしれない。

 何にせよ、これで大体は聞けたことになるな。ほとんどが事前に知っていたことだが、その辺は仕方がないだろう。言えない部分も含めば、殺し屋の情報は元々少ないし。

 ……とはいえ、アタシはまだ肝心なことを聞いていない。これだけは聞き出さなければ。

 

「そんじゃ、最後に一つ教えてくれ。――ソイツらに会う方法とか、呼び出す方法とかないのか?」

 

 これだけは何があっても知っておく必要がある。というかこれが本命である。

 アタシの言うことを予想していたらしいおっさんは『やっと口にしたか』と言わんばかりの呆れ顔になるも、軽く一服しながら答えてくれた。

 

「コンタクト方法ねぇ……これは依頼用だが、ランナーは特定のアドレスにメッセージを送れば呼び出せる。ただ本人のルールに『同じ依頼人とは会わない』ってのがあるから気を付けて」

「つまり一回でもしくじったら二度と会えないのか」

 

 大体の殺し屋が持ってそうなルールだが、こうして聞くとなかなか厳しいルールだな。まぁ、何度も会うと相手に素性が知られてしまう危険があるのだろう。

 

「次にアシンの旦那だけど……これが結構特殊でね。とある廃墟の掲示板に漢字で『下剋上』とメッセージを書き込むと呼び出すことができる」

「とある廃墟?」

「君が腹に穴を開けられた場所だよ」

「……マジかよ」

 

 呼び出し用とは思えないワードにもツッコミを入れたかったが、それ以上に掲示板が置かれている場所に驚かされた。まさか、掲示板のある場所がミッド西部の山林地帯にある廃墟だなんて。

 こりゃ今すぐ奴を呼び出すのは危険だな。あそこはまだ警邏隊の捜索範囲内だろうし、知り合いと鉢合わせする可能性もある。傷も癒えてないし、しばらくは様子見に徹するか。

 

「まっ、今話せるのはこれだけかな。まだまだ情報はあるけど、これ以上は追加料金になるからやめた方が良いぜ」

「別に良いさ。聞きたい情報も聞けたしな」

 

 それに、まさかこんなに話してくれるとは思わなかったしな。嬉しい誤算だよ。

 後ろでバカ共が再び騒ぎ出し、取り出したタバコで一服しながら、ようやく来た生ビールを一口飲む。やっぱビールは良いな。

 

「それじゃ、俺は嬢ちゃんが死ぬ方に賭けるぜ!」

「ならオレは敢えて生き延びるに賭けよう!」

「今回は生きてたが、次はあのアシンだもんなぁ……無難に死ぬ方でいくわ」

「死ぬ方に札束入れてやっから、生きて帰ってくんじゃねーぞ!」

 

 まーたアタシの生死で賭け事始めやがった。しかも最後の言い分が理不尽過ぎる。その期待、絶対に投げ捨ててやるから覚悟しとけよ。

 そんなことを思いつつも少し呆れ、怒りを通り越して苦笑いしていると、ワインを飲み終えたおっさんが神妙な顔付きで話しかけてきた。

 

「ところで緒方ちゃん。これからどうするの?」

「ほとぼりが冷めるまで隠居に徹するさ。今すぐアシンに会おうにも、いろんな意味で場所が悪すぎる。それに、これでもまだ病み上がりなんでね」

「その割には管理局の“金の閃光”と元気にやり合ってたじゃないか」

 

 あれでも逃げるつもりだったんだよなぁ。スタミナ切れで逃げられなかっただけで、やり合う気は毛頭なかった。仮に最初からやり合ったとしても、デメリットしかなかったし。

 さて、しばらく隠居するとして……レヴェントンの教育はどうしようか。ただ知識を教えるだけじゃ成長は望めない。さすがに多少の実践経験は必要になるか……。

 レヴェントンをどう教育するかで内心頭を抱えていると、すでにこちらの事情を把握していそうなおっさんが助け舟を出してくれた。

 

「君の言うほとぼりが冷めるまで、この世界から離れてみたら? 気分転換になるかもしれないよ」

「離れるって……どこ行きゃ良いんだよ」

 

 ここを離れても大体の世界は管理局の手が行き届いているんだぞ。しかも安全な交通手段がない。自家用機でも用意するか、警備がガバガバな場所にでも行かないと確実に見つかる。

 

「そう言うと思って、あらかた調べておいたよ」

「……今度はいくらだ?」

「札五枚で。これでも安くした方だぜ?」

 

 懐から一枚の紙を取り出し、慣れた手つきで渡してくるおっさん。事前に調べたとか、こういうところはさすが情報屋だな。

 アタシも財布から札を五枚取り出し、紙と交換する形で支払う。これくらいなら財布はまだ持つ。結構ギリギリだけど。

 紙には次元世界の名前が書かれており、そこがどういう世界なのかもご丁寧に記されている。次元世界って百以上もあるのか……ん?

 

 

「――第100管理外世界?」

 

 

 気になるものが一つあった。

 

 えー、名称はサハラッタ。魔法技術と人間も存在し、ミッドチルダには劣るけど地球に匹敵する文明を持つ。ちなみに詳細が不明なため現在調査中で、未だ管理世界には加入されていない。……と、ここまでが一般的に公表されている部分。

 次に一般どころか管理局ですら把握していない部分。治安はミッドチルダ並みに悪く、一部の地方に至ってはあの“バザー”を表に出したかのような状態だとか。詳細を把握されていない今なら、違法入国も可能らしい。

 管理の外にある世界……。詳細を読み終えたアタシは思わず微笑んでしまい、口元を右手で隠す。ここなら一時的な拠点にできるな。

 

「おっ、サハラッタに興味がおアリで?」

「あァ、気に入った」

 

 安全な入国方法も記されているし、警備的にも田舎の次元港を利用すればどうにかなる。これで残る問題は資金くらいか。

 ……そう言えば昔、闇拳クラブで手に入れた大金があったな。アレで資金は賄えるか。確かクラナガンの南西に位置する都市、そこのロッカーに隠したままだったはず。アタシはまだ表に出られないし、一か八かレヴェントンに取りに行かせるか。

 

「サンキューおっさん。いろいろと助かったわ」

「そりゃ良かった。また情報が欲しくなったら、その時はここに来な。額次第でそれなりのもんを提供してやるよ」

「ふざけろ。今回みてぇに緊急でなけりゃ来ねぇよこんな所」

 

 残っていたビールを一気に飲み干し、アタシの笑いを含んだ返答を聞いて、同じく笑いながら「だろうな!」と言うおっさんに軽く手を振ってから、ビール分の代金を受付に置いてバーを後にする。

 鉄の扉越しにバカ共の喧騒が聞こえるも、アタシは振り向かない。ここは確かに居心地が良い。だけど、今はやるべきことをやらなければならない。次に来るのは全てが終わった後だ。

 

「ふぅ~……」

 

 さてと、これから忙しくなるぞ。

 

 

 

 

 

 

「あっ、緒方さん!」

「……おう」

 

 あれから誰にも見つからないよう、街頭やビルの屋上、樹上へ跳び移っていき、一度も地上に足を着かせることなく無事に帰宅した。

 さっそく一息ついてタバコを吸い、遠慮なしに腰を下ろす。やっぱり落ち着ける場所があるって良いなぁ。まぁ、あと少ししたらその場所からも離れるんだけどな。

 

「? おいレヴェントン」

「は、はいっ」

「なんでそんなに深刻な顔してんだ?」

 

 さっきからボロが出るように落ち込んだ表情になるのが気になったので、吸っていたタバコを灰皿に押し付けながら聞いてみる。

 最初のうちは視線を泳がせて迷っていたレヴェントンだが、アタシが相手だと嘘をつけないのか、ため息をついて口を開いた。

 

「実は、その……バイトをクビになってしまいまして……」

 

 またやらかしたのかコイツ。まぁいい、アタシとしても好都合だ。

 

「過ぎたことは仕方がねぇ。……レヴェントン。頼みたいことがある」

「た、頼みですか?」

「あァ。今からこのロッカーの中身を取りに行ってくれ。なかったらそのまま戻ってきていいぞ」

「えーっと……そのロッカーっちゅうのはどこにあるんじゃろか?」

 

 レヴェントンにロッカーのある街への行き方を説明し、買ってきた焼酎を一口飲む。

 彼女が玄関で靴を履いたところで、アタシは一旦レヴェントンを引き止めた。

 

「それともう一つ。後で自分の荷物まとめとけ」

「引っ越しでもしょーるんですか?」

 

 予想通り疑問符を浮かべて首を傾げるレヴェントンに、口元を歪めて一言告げる。

 

 

 

 

「――異世界合宿に行くぞ」

 

 

 

 

 




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