――全身に掛けられた、無数の枷。
これがアタシの、自分の強さに対するイメージだ。ふとした瞬間に、たまに頭の中に浮かんでくる。
全身をびっしりと埋め尽くすほどの枷が、まるで噴き出そうとする何かを抑え付けているかのようにも見える。見かけは動きづらそうに思えるが、感覚的にはそうでもない。そんな状態だ。
そして何らかのラインを越えた瞬間、枷は一つ外れる。そう、たった一つだ。数え切れないほどあるのに、たった一つしか外れない。
初めてこのイメージが頭に浮かんだとき、アタシは確信したよ。これが今の自分の状態なんだって。まだまだ成長できることを示唆しているってな。
もしもこれが強くなりたい奴、目的のために力を欲する奴、高みを目指す奴。そういう連中なら喜ぶかもしれない。
だが、アタシは決して喜ばなかった。何故なら欲しいものではなかったからだ。むしろこの状態を恐れたよ。誰よりも、何よりも。
別に力が欲しくないとか、そういうわけじゃねぇ。必要以上の力はいらないってだけだ。存在するだけで不愉快な、あの魔法も含めて。だって考えてみろよ――
――全ての枷が外れたら、どうなるかを。
「ガァァァァァッ!!」
全身に赤紫色のオーラ状の魔力を纏い、それを激しく迸らせるサツキ。その目からは理性というものが失われており、野生に生きる獣の目と同じものになっているようにも見える。
何らかのリミッターでも外れているのか、そのエネルギーは彼女の本来の魔力量を遥かに超えており、周囲を唸るように揺らしていく。
「おいおい、ここを魔力の放出だけで壊す気かよ? ――起きろアルファ」
「はい、マスター」
口だけ聞くと余裕に思えるが、実は予想外の出来事なうえに、予想を超えるサツキの力量に驚愕し、内心冷や汗を掻いているバネット。
そんな彼の呼び掛けに応え、よろめきながらも立ち上がるオリジナルの屍兵器――アルファ。彼女の目は、興味深そうに魔力を高めるサツキの姿を捉えている。
「ど、どうなっとるんじゃ……」
そしてそれは、フーカも同じだった。目を守るように両腕で顔を隠しながらも、その瞳はサツキを見つめていた。天にも届きそうなほどの、巨大なオーラ状の魔力を纏うサツキの姿を。
サツキは三人から向けられる視線などお構いなく、力を溜めるような体勢で宙に浮き、足下に再度ベルカ式の魔法陣を展開すると、
「グォォォォォォッ!!」
全身から魔力の衝撃波を放った。自分達がいる部屋を、この部屋がある工場を破壊するほどの、凄まじい威力を持つ衝撃波を。
「やっぱり壊しに掛かるのかよ!」
「早くここを出ましょう、マスター」
やりやがったなコイツ。そんな思いが込められていそうな目で、サツキを睨みつけるバネット。アルファは彼を大きな袋に変形させた右腕で覆うと、両脚に力を入れて跳び上がり、屋上を突き破っていった。
「……へっ?」
バネットとアルファが脱出した今、崩壊しつつあるこの部屋に残されたのはフーカとサツキだけ。しかもサツキは我を失っている。
フーカもフーカで脱出しようと、サツキと共に来た道を戻ろうとするも――
「ウォォォォォォッ!!」
――暴走する獣となったサツキが『まずはお前だ』と言わんばかりに、襲い掛かってきた。
咄嗟に身を屈め、彼女が繰り出した死の一撃を奇跡的に回避するフーカ。今のは偶然だ。おそらく次は避けられないだろう。
フーカがかわしたことでサツキの拳は標的を失い、そのまま壁に突き刺さり、この部屋の向こうにある、別の部屋の壁まで粉砕する。
その隙にフーカは部屋から出ることができたものの、五感が通常よりも研ぎ澄まされたサツキは彼女を見逃さなかった。
サツキは自分の顔の前に魔法陣を展開。その中心に全身の魔力が集中されていき――
――赤紫に輝く、一筋の光が放たれた。
「訓練室にて、巨大なエネルギー源を感知。熱線でしょうか?」
「いや、おそらく魔力砲だろう。魔力の直接射出・放出が難しいとされるベルカ式で、よく撃てるな」
工場の外にて。街全体に巨大な結界を張ったバネットは、アルファと共に工場を貫き、結界をも傷付ける赤紫の光を興味深そうに見つめ、自分なりに解析していた。
閃光の如き魔力砲によって工場が爆発炎上し、物を運んでいたトラックやその場にいた部下が巻き添えになろうと、気に留めようとはしないバネット。
燃え盛る火炎の中から、どうにか閃光の直撃を免れた少女――フーカと、閃光を放った張本人である、サツキが姿を現す。サツキの方はもうフーカなど眼中にないらしいが、フーカは自分の身を護るのが精一杯なようで、近くにあった瓦礫に身を隠した。
「マスター」
「ん? どうしたアルファ」
そういえば、と言いたそうにバネットの方を向き、アルファは無の表情を変えることなく疑問を口にする。
「緒方サツキは遠隔操作できるのですか?」
「無理だな」
「何故です?」
「アルファ。屍兵器の遠隔操作に、耐魔力繊維を使っていたのは知ってるな?」
「もちろんです。マスターが嫌というほど言っていたではありませんか」
なら話は早い。そう言うとバネットは、残っていた部下に結界の修復をするよう指示を出し、ポケットから一枚の布を取り出す。
「この耐魔力繊維――正確にはこの布一枚で操れるのは、機械や兵器に限られる。だから生物を操るには、これ一枚じゃ足りねぇことがわかった」
「……なるほど。課題は繊維の量ですか」
「半分正解だ。もう半分は魔力の増幅と維持だ」
耐魔力繊維による遠隔操作。それは機械や兵器であれば布一枚分で事足りる。だが、操作の対象が生物だとその限りではない。バネットは独自で研究を進めていくうちに、生物の遠隔操作は布一枚分では全く足りず、衣類一着分もの繊維と、同量の魔力が必要だということを突き止めたのだ。
これだけなら簡単に思えるが、実行するとなれば話は別である。衣類一着分の魔力を得るには何らかの手段で増幅させる他なく、しかもその量を維持しなければならなかった。
「幸いにも、いや偶然にも、あの嬢ちゃんはその条件を満たしてやがった。だからさっき撃った弾丸で俺の魔力を染み込ませ、俺が開発したコアで魔力を増幅・維持することでコントロールに成功した……はずだった」
「ガアアアアアア!!」
バネットの視線の先には、ただひたすら天に向かって雄叫びを上げ、魔力を赤紫色に輝く炎のようなオーラ状に纏い、周囲にある瓦礫やトラックを吹き飛ばしていくサツキの姿があった。
そんな彼女の足下には古代ベルカ式の魔法陣が展開され、専用デバイスであろう首のチョーカーが点滅を繰り返している。全身から血のように噴き出す魔力を、必死に抑えているかのように。
「あの嬢ちゃん……自分が操り人形になる寸前で、強引に理性を、それも本能で吹っ飛ばしやがった。多分本人も自分が何をしたかわかってねぇよ」
「では彼女を放っておくのですか?」
「はっ、冗談も大概にしろ。……調子はどうだ?」
サツキとの戦いで一度喪失し、アルファ自身が再生させた右腕に視線を向けるバネット。
アルファは彼の意図に気付き、見せつけるように右腕を動かしながら答えた。
「問題ありませんよ。今のところは」
「なら良い。何せお前の腕に、
それは杞憂だったか。バネットは淡々と、それでいてどこか嬉しそうな声を出す。まるで我が子が重要な物事を成功させたかのような、そんな声を。
一方で雄叫びをやめたサツキは、探し回るような動作は見せずに、迷うことなくバネットとアルファの姿を捉える。人のレベルを超えた五感を持つ、彼女だからできる反応だ。
「――先にいけ、アルファ。俺も後で加勢する」
「待ってました」
その言葉が聞きたかった。アルファはそう言いたそうに両の拳を握り込むと、サツキに向かって突進していく。武器を持っていないせいか、その姿は無防備にも見える。
が、それは彼女が何者かを知らない者から見た視線だ。彼女を誰よりも知るバネットから見れば、非常に頼もしい姿に見えるのだ。
地面に降り立ったサツキの前に立ち、拳を構えるアルファ。サツキの猫のような瞳は赤紫色に光り輝いており、髪もそれと同色に点滅している――ように見える。
サツキはアルファに目を据えると低く唸り声を上げ、何の合間もなく地面を蹴ってアルファに肉薄し、右の拳を繰り出した。
「っ!? いきなり過ぎませんかねぇ……!」
「ウオオオオオオ!!」
咄嗟に両腕を交差させ、ガードで拳を防ごうとしたアルファだったが、予想を遥かに超えるパワーに押され、身体が宙を舞ってしまう。
すぐさま体勢を整え、危なげなく着地するアルファ。だが、サツキはその一瞬すら見逃さない。
再び地面を蹴ると、今度はアルファの背後に回り、魔力を含んだ拳圧を飛ばしてきた。
「これは――!」
自分の量産型が食らった、矢のような拳圧。しかし量産型に放ったものとは比較にならないほど威力が凄まじく、範囲が狭いにも関わらず周囲の物を破壊しながら、まるで生き物のようにアルファを襲う。
今度はガードすら叶わず、アルファの身体が音速に匹敵する速度で工場の壁に叩きつけられ、息が詰まったうえに口から血を吐いてしまう。
アルファは口元を拭きながら立ち上がると、右腕を砲口に変え、そこから黒い魔力砲を撃ち出す。
「グォオオオオオ!!」
砲撃は何かの妨害を受けることもなく、サツキの鳩尾に直撃した――にも拘わらず、サツキは平然とした顔で突っ込んでくる。デタラメとはまさに今のサツキのことを言うのだろう。
アルファも負けじとサツキが放った左の拳を顔面に食らいながらも、そのまま前進して左の拳を、サツキの鼻っ面に叩き込む。
「ヌゥウウウ……!」
が、サツキはやはり平然と耐えてみせ、前蹴りをアルファの腹部に入れると、身体をくの字に曲げる彼女の頭を右手で掴む。
そして近くにあった、まだ被害の出ていない別の工場に突進し、アルファの顔を壁に押し付け、獣のような声を上げながら駆け出し始める。
「ぐぅ、ああああ……!」
アルファの痩せ我慢しているであろう声と共に、壁がサツキの走る方向に削り取られていく。そうして壁が途切れたことで、サツキはアルファを放り投げ、先回りしてアルファが落ちるよりも先に彼女を蹴り上げ、両拳を合わせて振り下ろし、アルファを地面に叩きつけた。
その衝撃で地面が大きく割れ、工場地帯の地形が変化していく。その中心にいるサツキの姿が燃え盛る火炎と上手く合わさっていることもあり、大災害を引き起こす悪魔のように見える。
あまりの威力にまたも血を吐いてしまい、立ち上がろうとするも顔を歪めるアルファ。だがサツキが顔面を踏みつけてきたので、急いでその場から離れる。
「グウウ……」
サツキは全身のオーラを激しく迸らせると、フーカを狙った時のように、自分の顔の前に魔法陣を展開。纏っていたオーラ状の魔力を、その中心に集中させていき――
「ガアアアアアア!!」
――赤紫に輝く、一筋の光を放った。フーカに対して撃ったように、今度はアルファを狙って。
「なっ――!?」
データではわかっていたが、実際に発射しているところを見るとなれば話は変わってくる。
咄嗟に身を翻して回避を試みるも、直撃こそ免れたが左肩を腕ごと持っていかれてしまった。
「くっ……」
すぐさま左半身に魔力を集中させ、持っていかれた左肩と腕を再生させるアルファ。その瞳からは先ほどまであった余裕が完全に失われており、まるで人間のように焦っている。
アルファは砲口に変形させていた右腕を元に戻し、再生させたばかりの左腕を八本の触手へと変形させた。傍から見れば悪趣味とでも言われそうな、ウネウネする触手を。
「貫け――!」
左腕の触手をサツキに向けると、軟体動物であるタコやイカの足のようにウネウネとしていた触手が、いきなり硬化して鋭い槍と化し、サツキの肉体を貫かんと直線的に襲い掛かった。
「ラアアアアア!!」
サツキは両の拳を握り込むと、襲い来る触手を凄まじい速度の連打で迎撃していく。
アルファによる槍と化した触手の連続突きと、サツキの拳による連打。両者の目にも止まらぬ攻防が繰り広げられた。
触手と拳による激しい打ち合いの末、それを制したのはサツキだった。アルファの動きが鈍った一瞬をつき、左拳から魔力の混じった拳圧を飛ばし、彼女を吹き飛ばした。
それでも一筋縄ではいかなかったようで、小さな火傷の痕がある右頬に切り傷ができていた。
「絞めてやる……!」
アルファはすかさず八本の触手全てを伸ばし、サツキを拘束してそのまま絞め付ける。
だが、サツキは低い唸り声を上げるだけで全く意に介しておらず、逆に腕力だけで触手による拘束を解いてしまった。
彼女が動揺した隙に、一気に距離を詰めたサツキが拳の連打を懐に打ち込んでいき、最後は豪快に振り抜いた左拳でアルファを殴り飛ばした。
「悔しいですが、一人ではこれが限界のようですね……」
「ゼアアアアアア!!」
立ち上がりながらも膝を震わせ、本当に悔しそうな顔で舌打ちをするアルファを、サツキは容赦なく殺そうと、掌から魔力の衝撃波を放つ。高密度の衝撃波はまるで砲撃のようにアルファに迫る。
アルファも最後の足掻きと言わんばかりに、左腕の触手を硬化させて盾のように構えるも、両手足首に異常なほど強固なバインドを掛けられ、動きを封じられてしまう。
いよいよ万事休すとなったアルファ。だが、希望というものは悪にも訪れる。
「――お待たせしたな。嬢ちゃん」
アルファに掛けられたバインドが、まるで分析されたかのようにあっさりと破壊され、アルファ自身の姿も一瞬のうちに消えていた。
サツキが忌々しそうに上空へ視線を向けると、呆然とした顔のアルファを脇に抱える、バネットの姿があった。飛行魔法を使用している影響か、全身が黒く輝いている。
「ま、マスター?」
「どうだ、一瞬のヒーローごっこは?」
正義のヒーローみたく微笑み、地面に降り立つとアルファをやや乱暴に落とすバネット。右手に持つ銃型のヴァリアントアームズを剣の形に変形させる。
どうしてこのタイミングで、バネットが加勢してきたのか。それは簡単な理由だった。試作品であるアームズとフォーミュラの調整を間に合わせたからだ。その結果が、アルファに掛けられたバインドの解除と、彼女の救出である。
サツキと対峙したバネットは自信満々な笑みを浮かべると、
「アクセラレイターッ!」
アクセラレイター。彼は確かにそう叫んだ。
すると次の瞬間、バネットの全身が再び黒のエネルギー光に覆われ、姿が消える。
アルファも、瓦礫に隠れて動こうにも動けないフーカも、完全に彼を見失っていた。
「ヌゥウウウ……!」
だが、五感の優れたサツキにはしっかりと見えていた。
バネットが消えると同時に後ろを向き、ヴァリアントウェポンである両刃剣を振り下ろす、バネットの姿を捉える。そして、振り下ろされた剣を片手で受け止めた。
「この速度でも出し抜けないか……!」
「ハアアアアア!!」
空いている右手で拳を作り、それをバネットの顔面に放つサツキ。
さすがにこの距離は拙いと思ったバネットは、音速をも超えるであろう驚異的なスピードで拳をかわし、両刃剣でサツキの首元を斬りつけ、逃げるように距離を取る。
刃で斬られたサツキだが、暴走しているせいで耐久力まで向上しているのか、彼女の身体には傷一つ付かなかった。それどころか、斬る側だった剣の刃が削がれてしまっていた。
今度は剣を大型片手銃に変形させ、低い音を立てながらエネルギーを充填させていく。
もちろん、それを待ってくれるほどサツキは甘くない。今まで以上のスピードでバネットの視界から姿を消し、彼の背後を取ってきたのだ。
充填は完了していない。バネットは時間を稼ぐべく全身を黒いオーラで覆い、再びサツキの前から姿を消す。
「ウオオオオオオ!!」
やはりサツキには見えているようで、背後、右、左の順に首を動かす。そして左に動かしたところでバネットの姿を視認し、
「■■■■■■■――ッ!!」
魔力を含んだ、大音量の雄叫びによる振動波を放った。
その場にいる者全てが耳を塞ぎ、苦しみで顔を歪ませていく。不協和音を聞かされたような反応ではなく、純粋な大音量を間近で聞かされたような反応を見せている。
これもアクセラレイターによる加速でどうにか回避するバネットだったが、今繰り出されたのは音による攻撃であったため、一切の防御を行わなかった耳へのダメージは避けられなかった。
「この……!」
耳から出る血を押さえるように拭き、充填が完了した大型の片手銃からビームを撃ち出す。
ビームは防御の姿勢すら取らないサツキに直撃するも、やはりダメージはほぼなく、サツキは怒り狂ったように絶叫しながら間合いを詰めてきた。
「さぁ、踊ろうか!」
バネットが素早く宙に舞うと、サツキもそれを真似るように飛び上がる。そして巨大な結界を張られた街の上空にて、赤紫と黒という、二色の光が激突し始めた。
サツキは拳を、バネットは剣を振るい、お互いのそれにぶつけ合う。その度に甲高い金属音と、強烈な打撃音が響き渡っていく。
第三者から見れば互角に見えるが、実際に押されているのはバネットだった。理由としては、元々の強さが違い過ぎるから。というのが妥当だろう。
「チィッ……! 早いとこ終わらせたいってのに、あの嬢ちゃんときたら……」
「ヌゥウウウ……!」
背後から自在に空を飛ぶサツキに追いかけられながら、バネットはアクセラレイターについておさらいでもするかのように思い出していく。
アクセラレイターは、体内に循環させたナノマシンを最大稼働させることによって処理能力を飛躍的に向上させ、音速以上の速度での行動を可能にする緊急用の加速システムだ。
リスクとしては無限でないナノマシンを大幅に消耗する、身体への負担が大きい点が挙げられる。しかもバネットが使用しているのは試作品という未完成のものであるため、掛かる負担は通常の二倍となっている。
何故、彼がミッドチルダにもないこの技術を使えるのか。それはある方法で入手したヴァリアントシステムやフォーミュラのデータを元に彼なりに研究を進め、製作に成功したからである。
だが、成功したといっても彼一人の力では完成に至らず、さらなる調整が必要となってしまった。それでもここまで仕上げたのは見事としか言いようがないだろう。
何とかサツキを振り切り、一旦地面に足を付けるバネット。そして刃がボロボロになった剣を銃に変形させ、もう一度剣に変形させる。これにより、剣は新品同様の質に戻るのだ。
「ガァアアアアアアーッ!!」
一方、宙に浮いたままのサツキは苦しんでいるかのように絶叫を上げ、全身に纏っていた赤紫色に輝くオーラ状の魔力と同じ色の、巨大な炎のような魔力の中で力を溜めていた。
まさに天井知らず。普段のサツキからは想像もつかないほどの膨大な魔力が、彼女を中心にどんどん大きくなっていく。
「……しょうがねぇ。持ってくれよ、俺の身体」
無尽蔵と言われそうなほど力を高め、荒ぶるサツキを見たバネットは迷ってはいられないと言わんばかりに、腹を括る。そして――
「アクセラレイター・オルタ……!」
――さらなる加速行動能力を得るべく、その言葉を口にした。
「…………」
本能のままに暴走するサツキと、未知の加速能力を発動したバネットによる空中戦が行われる中、フーカは瓦礫の影に隠れたまま動けずにいた。
理由はむやみに出たら二人の巻き添えになるから、自分にできることを模索し続けた結果、出るタイミングを失ってしまったからだ。
なので逃げようとは微塵も考えておらず、それどころかサツキを苦しめる原因となったコアを見つけ出し、破壊することを考えていた。
「――うわぁっ!?」
とりあえず移動しよう。そう思った瞬間、サツキであろう赤紫の光が目の前を通過した。
さすがのフーカもこれには驚き、逃げてしまった。が、その行動に間違いはなかったことに気付く。
「? こりゃぁ……緒方さんが持っとったカード?」
サツキが通過した場所の下に、先ほどサツキが構成員からくすねたカードが落ちていた。
何かの役に立つと思い、カードを手に取るフーカ。そのままコアを探すべく、瓦礫の影から飛び出した。
「絶対どこかにあるはずじゃ……」
サツキのためにコアを破壊するべく、工場地帯からは出ない程度に辺りを捜索していくフーカ。今の戦場となったこの場所で、コアを探す方法はこれくらいしかないのだ。
だがそれでも、探せど探せど見つからない。これ以上はもう無理だから、諦めた方が良いのか。そう思いかけたところで、彼女に幸運が舞い降りる。
「えっ、あれ……」
最初に彼女が身を潜めている瓦礫のすぐそばに、バネットが画面に映していた、例の黒く輝くコアがケースに入れられたまま落ちていたのだ。横転しているトラックが近くにあることを考えると、おそらくどこかへ運ぼうとしたところを、何の意図も持たないサツキによって攻撃されたに違いない。
「何にしても、これさえめげば……」
これさえ壊せば、サツキの意識が戻り、暴走が止まるかもしれない。
フーカはどこかに開ける場所がないか、ケースを隅から隅まで調べていく。そして、カードをスキャンするであろう溝のようなものを見つけた。
時間がないこともあり、フーカは躊躇いの欠片もなくカードをスキャンし、ロックが解除されたケースを力ずくで開ける。カードのスキャンが成功するかは考えていなかったが、成功したので問題ないだろう。
さっそくコアを壊そうとするフーカだったが、コアを前に動きがなくなってしまった。
「…………どうやってめげばええんじゃ……?」
壊そうと意気込んだところまでは良かったが、コアの壊し方が全くわからない。
いつものようにぶん殴ればいいのか? それとも燃やせばいいのか? もしくは圧し潰せばいいのか?
この場で破壊する方法となるとそれくらいしか浮かばず、フーカはやむを得ず選択した。
「――めげろぉ!」
ぶん殴るという選択を。
「あいたぁ……!?」
が、サツキを操れるほどのコアがそう簡単に壊れてくれるわけがない。やや半端な力で殴ったせいか、逆に手を痛めてしまった。
だがその程度でめげることなく、何度もコアを殴り続けるフーカ。右は使わず、左の拳だけで。回数が増えていくうちに、拳に魔力を纏うようになっていた。が、コアが壊れる気配はない。
試しに瓦礫にぶつけたり、選択肢にもあった燃やすという行為を、燃え盛る火炎で試みたりもしたが、どれも有効ではなかった。
そして殴り続けることにした結果、左の拳は血が出るほど痛んでしまい、額には嫌な汗が流れるようになり、顔も拳から脳に伝わる痛みで歪んでしまっていた。
「っ……!」
これだけの無理をしてもなお、フーカは諦めない。血だらけになった左の拳に魔力を纏い、今度こそ破壊すると言わんばかりに綺麗な構えを取り――
「めげろぉーっ!」
――渾身の一撃を放った。
はい、サツキ全開でした。今作の(彼女にとっての)タブーガン無視です。
なんか正義のヒーローっぽくなってますが、バネットさんとアルファちゃんは敵キャラです。勘違いはしないように。
ちなみにサツキは今の状態が最強かもしれません。魔法嫌いな本人にとっては死ぬほどなりたくないであろう状態ですが。