Vivid Outlaw   作:勇忌煉

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第18話「暴虐の果てに」

 

 

「オオオオオオ!!」

 

 

 巨大な炎のような魔力を激しく迸らせ、足下にベルカ式の魔法陣を展開し、肉体のキャパシティなどお構いなしと言わんばかりに、体内の魔力をひたすら高めていくサツキ。

 

 

アクセラレイター・オルタ……!

 

 

 果てしなく強くなっていくサツキに対抗すべく、アクセラレイターの応用版である、システム『オルタ』を発動するバネット。

 

 次元世界サハラッタの街を巻き込んで両者が対峙する中、ようやく動けるようになったアルファがバネットの隣に立つ。

 

「遅いぞアルファ」

「お二人が速すぎるんです」

 

 アルファは恨めしそうに言うと、全身をバネットと同じ黒い魔力で覆い、拳を構える。

 善と悪の位置が逆でなければ、この状況はまさに王道と呼ばれるものだろう。……とはいえ、サツキも善人と言えるような人物ではないが。

 

 

「グゥウウウウ……!」

 

 

 力を溜め終えたらしいサツキが全身を包み込んでいた魔力を掻き消し、地面に降りてくる。

 瞳は依然として猫のような垂直のスリット型で赤紫色に輝いているものの、魔力の向上が関係しているのか、顔にいくつか青筋を浮かべており、髪が赤紫色に点滅していた。

 サツキは待つことを知らないのか、降り立つと同時に自分の顔の前に魔法陣を展開し、

 

 

「ハァアアアアア!!」

 

 

 その中心に先ほどよりも早く魔力を溜め、一筋の光を放った。

 放たれた光はさっきまでの一直線だったものとは違い、横から全てを薙ぎ払うようにバネットとアルファに襲い掛かる。

 バネットとアルファはこれを戦闘再開の合図と受け取り、二人揃って飛び上がることで光を回避すると、バネットはさっきよりも一段と速いスピードでサツキに斬りかかり、アルファは右腕を砲口に、左腕を連射可能のライフルに変形させた。

 

「ヌゥウウウ……!」

 

「やっとダメージが入ったみてぇだな」

 

 脇腹を剣で斬られ、ここに来て初めて顔をしかめるサツキ。傷こそ付いていないが、どうやら内側に打撃としてのダメージが入ったらしい。

 それが非常に嬉しいのか、思わず笑みを浮かべるバネット。その様子はさながら、子供が好きなものを見つけて喜ぶ顔のようだった。

 

 サツキはお返しと言うように剣を脇腹に抱え、右のハイキックでバネットを仕留めようとする。

 が、全身を黒く輝かせたバネットはサツキが抱えていた剣ごと姿を消し、背後から後頭部を斬りつけ、続いて正面に回ると今度は渾身の後ろ蹴りをサツキの鳩尾に叩き込んだ。

 

 

「アアアアアア!!」

 

 

 忌々しそうに唸り声を上げ、怒り狂うように首を横に振るサツキ。初めて自分よりも速い相手が現れたことで、戸惑っているのかもしれない。そう思えそうな仕草だった。

 それでも気を取り直したのか、サツキは超高速で動き回るバネットの姿をはっきりと捉え、迎撃しようと顔の前に魔法陣を展開――

 

「隙ありです」

 

「グウゥ……!?」

 

 ――しようと動きを止めたところで、アルファが左腕から撃ち出した、徹甲弾のような魔力弾を顔面に食らってしまった。

 

 しかも今の弾丸は貫通重視で構成されていたのか、バネットの剣と同じくサツキに確かなダメージを与えているようだ。

 二度も不覚を取られたせいか、サツキは悔しそうに絶叫すると全身に炎のようなオーラ状の魔力を纏い、そのまま飛び上がると、アルファに向かって突進を繰り出した。

 

「させるか――!?」

 

 加速したバネットがすかさず間に入ってサツキの突進を食い止めるも、彼女は待ってましたと言いたそうに低く唸ると、バネットの両肩を骨が砕けそうなほどの握力で掴み、頭突きと腹部への膝蹴りを何度も食らわす。

 ただでさえアクセラレイターによる負荷が大きいのに、未完成のシステム『オルタ』を使用していることもあり、その負荷も合わさって頭部から、口から血を出すバネット。

 

「ぐぅ、ごぁっ……!」

 

 そのシステム『オルタ』を最大限に発動しているにも関わらず、サツキの人間離れした握力から逃れることができない。サツキの方もそれを見越しているのか、両手の指全てをバネットの肩に文字通り食い込ませている。そのせいで両肩から酷く出血しており、血が止まる気配もない。

 そんな中、絶体絶命の状況にある自分の主を助けようと、右腕の砲口にエネルギーを充填させたアルファは、攻撃の手を緩めないサツキの背中に、さっきの弾丸同様、貫通性を重視した砲撃を撃ち込んだ。

 

 

「ゴアアアアア!!」

 

 

 先ほどよりも大きなダメージが入ったらしく、バネットの肩を握り締めながら悲鳴に等しい雄叫びを上げるサツキ。なのにバネットを放そうとはせず、彼を掴んだまま一度結界の傍まで急上昇すると、そこから一気に降下し始めた。降下の勢いを利用して、バネットを地面に叩きつけるつもりだ。

 彼女の意図に気付いたアルファは右腕を砲口からアンカーのようなものに変形させると、それを背後からサツキの右肩に撃ち込む。そして、

 

「いい加減、離れなさい……!」

 

「ガアアアアアア!?」

 

 

 

 魔力で構成された電流を流し込んだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「グアアアアア!!」

 

 

 さすがのサツキもこれは相当効いたのか、今までと違って明らかな苦悶の表情を浮かべ、意地でも放さなかったバネットを地面に投げつける形で解放する。

 バネットも自分が解放されたことに気付き、全身を黒く輝かせて加速すると、サツキに絶え間なく電流を流すアルファの元に降り立つ。

 

「大丈夫ですか、マスター」

「これのどこを見れば大丈夫に見えるんだお前は……」

 

 両肩から酷く出血し、サツキに受けたダメージとシステム『オルタ』の使用による負荷が合わさり、頭部と口元からも血を流すバネット。その姿は第三者から見ると非常に痛々しいものだった。

 右肩に撃ち込まれたアンカーを引き抜こうとするも、そうはさせまいと左腕のライフルから貫通弾を連射し、サツキを妨害するアルファ。

 

 

「ウオアアアア!!」

 

 

 アルファの妨害でアンカーが抜けず、全身に内側から流し込まれる電流に苦しむサツキ。

 徐々にダメージが蓄積されているのか、彼女が全身に纏っていたオーラ状の魔力が消滅し、髪の点滅もピタリと止まっていた。

 この光景を見てバネットは一瞬安堵の表情を浮かべるも、サツキが少しずつ拳を握り始めたのを見てすぐに気を引き締める。

 

「これで一段落といけば良かったんだがな……」

「どういう意味です?」

 

 そのままの意味だ、と力を溜める姿勢になりつつあるサツキを指差すバネット。アルファもそれに倣ってサツキを舐め回すように観察し、ハッとした顔になる。

 すぐさま流す電流の量を大幅に増やし、ライフルでサツキの額を狙い撃ち、意識を飛ばそうとするアルファ。だが、時すでに遅し。

 

 

 

「ウオオオオオオ――!!」

 

 

 

 突如気合いで電流を振り払うと、全身に途方もなく巨大な炎のような、()()()()()オーラ状の魔力を纏い、天に向かって絶叫のような雄叫びを上げるサツキ。

 その衝撃で右肩に撃ち込まれていたアンカーが破壊され、垂直のスリット型である瞳の色が、()()()()()()()()()()()()()()()()()。赤みがかった黒に戻った髪も、再び赤紫色に点滅し始めた。

 サツキはオーラ状の魔力を纏ったまま、全身から高密度の魔力の衝撃波を放ち、辺り一面を破壊していく。周りのことなど知ったことかと言わんばかりに。

 

「追い詰められると力を発揮するタイプか……」

「何を呑気に分析しているんですか。早く構えて下さい」

 

 バネットがアルファに急かされて剣を構え、アルファも破壊されたアンカーを修復し、もう一度サツキに撃ち込もうと狙いを定める。

 

 

 

 ――だが、サツキは二人の前から姿を消した。

 

 

 

「っ! どこに消え――!?」

「くそったれが――!?」

 

 見えない何かに殴り飛ばされ、物凄い速さで壁に激突するバネットとアルファ。自分達が立っていた場所を見てみると、姿を消したはずのサツキが立っていた。

 サツキは右の拳を握り込むと、それを突き出して拳圧を飛ばす。その拳圧はこれまでのものと比べても最大級の威力を秘めているようで、周りの物どころか地面をも削り取っていき、そのまま二人を襲う。

 

「ぐぉおおおおっ!」

「かはぁ……っ!」

 

 拳圧をモロに食らってしまい、バネットは血を吐き、アルファは息を詰まらせる。

 急いでその場から離れようとするも、アルファは真上からサツキに踏みつけられ、バネットもついでと言わんばかりに左腕の一振りで吹き飛ばされた。

 

「ぐぅぅ……!」

 

「ゴアアアアア!!」

 

 アルファの顔面を地面にめり込ませるほどの勢いで踏みつけると、顔の前に魔法陣を展開し――

 

「ゼアアアアアア!!」

 

「チィッ……!!」

 

 ――吹き飛ばしたバネットに狙いを定め、一筋の光を放って彼を撃墜した。

 

「マスター! ぐぁぁ……!!」

 

 地面に落ちたバネットを助けたいアルファだが、サツキに踏みつけられたままで動くことができない。

 一旦両腕を元に戻し、右腕を剣に、左腕を鎌に変え、自分の上にのせられているサツキの足を斬ろうとするも、尋常でない強度を誇る肉体に傷一つ付けるができなかった。それどころか剣の刃が削ぎ落ち、鎌の先端部が折れてしまった。

 

「……ロックバインド!」

 

 どこからともなくバネットの声が聞こえ、サツキの左足が地面から盛り上がった岩に拘束される。

 これによりアルファの顔を踏みつけていた右足の力が緩み、サツキが拘束された左足に気を取られているうちに、アルファは脱出することに成功した。

 

 

「オラアアアアア!!」

 

 

 サツキは左足を岩から強引に引き抜くと、自分の後ろにいるバネットの方へ振り向き、右腕に力を込めて振るい、発生した風圧で彼を牽制する。

 バネットの動きが止まった隙をつき、お返しと言いたげに彼の背後に回り込むと、少し跳んでミドルキックを左頬へ繰り出す。

 

アクセラレイター・オルタァァ!

 

 蹴りが当たる寸前で加速能力を行使したバネットはまたしてもサツキの背後を取り、彼女の首筋を斬ろうと右手に持つ剣を振るう。

 が、ちゃんとバネットの動きを見ていたサツキはこれを屈んで回避し、彼の体勢を足払いで崩すと、右の肘打ちで彼を数百メートル先にあるビルの壁に叩きつけた。

 

「があああああ!!」

 

 右肘が鳩尾に食い込み、想像を絶する痛みで絶叫するバネット。加えて背中を強く打ったこともあり、背骨が大きな悲鳴を上げる。

 骨が軋む音を聞いたサツキは獰猛な顔で口元を歪めると、バネットの右足を掴み、そのままおもちゃのように彼を振り回し始めた。

 

「うおおおおおー!?」

 

 危機感よりも驚きが勝るような声を上げるバネットを、顔面から容赦なく地面に、それも何度も何度も叩きつけていくサツキ。

 途中でアルファによる狙撃の妨害が入っても、彼女に背中を砲撃で撃たれても、サツキは認識したうえで全く意に介さない。

 そして彼の顔が酷く歪んだところで、その一般男性よりも大柄な身体をアルファに向かって投げ飛ばし、彼女の真上に到達したところで、

 

 

「カアアアアア!!」

 

 

 顔の前に魔法陣を展開し、中心から放った一筋の光で、またも彼を撃ち抜いた。

 

 身体から煙を出して堕ちていくバネットを受け止め、そっと地面に寝かせると、アルファは無表情だった顔に初めて怒りを見せた。

 

「よくもここまでやってくれましたね……!」

 

 黒い魔力で全身を覆うとたった一歩でサツキに肉薄して、右の鋭い蹴りを彼女の懐に突き刺し、左のハイキックを顔面にブチ当てるアルファ。

 それでもサツキは全く意に介さないが、アルファは攻撃の手を休めることはなく、密着してもおかしくないこの距離でチェーンガンに変形させた左腕から魔力弾を連射する。

 至近距離からの連射が効いたのか、サツキはほんの少しだけ後退した。その一瞬の隙をついて、アルファは彼女の顔面を何度も殴りつける。

 

 

「ウオラアアアアア!!」

 

 

 するとサツキも負けじと目では追えないほどの、拳による超高速のラッシュを繰り出す。

 アルファはラッシュを食らいながらも表向きは意に介さず、内心痛みを堪えながらサツキを殴る、蹴るを何度も繰り返す。そんな感じの、目にも止まらぬ攻防が再び繰り広げられた。

 サツキが強くなれば、アルファもまた彼女や彼女に倒された量産型からデータを採集し、それを分析・実用することで、驚くべき速さで成長していく。その様は、先ほど『一人では無理だ』と弱音を吐いて諦めたのが嘘のようだった。

 

「はああああああ!」

 

「オラアアアア!!」

 

 その攻防は倒れていたバネットが、剣を杖代わりにして起き上がるほどの時間を与えてしまうほど続いたが、決して無限の域ではないため、唐突に終わりが訪れる。

 

「あぁ……!?」

 

 拳を突き出した瞬間をつかれ、顔面に左のハイキックを叩き込まれ、そのまま地面に叩きつけられるアルファ。この打ち合いはサツキの勝ちだろう。

 それがどうした。ただ打ち合いに負けただけだ。アルファはすぐに立ち上がると飛び上がり、同じく飛んでいるサツキの足下まで迫ると、砲口に変形させた両腕をくっつけて一つの大きな砲口にして、そこから極太の魔力砲を発射する。

 

 

「グウウウウウ……!!」

 

 

 魔力砲はサツキを飲み込むと大爆発を起こし、あまりの威力に街全体を揺らしてみせた。

 なのにサツキはダメージを受けていないかのように、爆煙から飛び出してくると、

 

 

 

「■■■■■■■――ッ!!」

 

 

 

 雄叫びによる大音量の、魔力込みの振動波を口から放った。

 

 またもやその場にいるバネットの部下や、逃げ遅れた街の住民に耳を塞がせ、苦悶の表情を浮かばせる。もちろんアルファとバネット、そしてフーカも例外ではない。

 アルファは苦しそうに耳を塞ぎながらもサツキの口元を蹴りつけ、大音量の振動波を無理やり中断させると、彼女の顔を怒りの込められた拳で殴りつけた。

 サツキはそのまま地面に叩きつけられるも、休むことすらなく一瞬で立ち上がる。

 

「ケイジングスピアーズ!」

 

 その瞬間を待っていた。バネットは小声でそう言うと、今度はサツキの周囲の地面を檻状に盛り上がらせ、彼女をその中に閉じ込めた。

 いつの間にか前衛と後衛が逆転しているのだが、小刀のようなものを取り出したバネットと、宙に浮いたまま構えるアルファはそんなことに意識を回している暇がない。

 

 

「ヌゥウウウ……!!」

 

 

 檻状になった地面が思ったよりも硬いのか、それとも中が狭いのか、あるいは両方か。サツキは暴れながらも苦戦していた。

 

 

「ゴラアアアアア!!」

 

 

 とはいえ、それもほんの少しだけ。サツキは両腕で檻状になった地面を破壊し、全身にオーラ状の紅蓮に輝く魔力を纏っていく。

 バネットとアルファが予想通りと言わんばかりに距離を取るも、

 

 

「ハアアアアアア!!」

 

 

 そう来るのはわかってたと言うように右手から魔力の衝撃波を放つサツキ。 

 

「もう少し大人しくしろってんだ!」

「いよいよこちらも危ないですね」

 

 もうとっくに危ないわ。そうツッコみそうになるも、バネットはアルファと共に衝撃波を回避し、剣を大型片手銃に変形させると、チャージせずにビームを撃ち出す。

 そのビームは顔面に直撃するも、先ほどと違って全くダメージを負った様子がない。が、サツキは忌々しそうに動きを止める。

 

 

 

 ――ここではその一瞬が隙となる。

 

 

 

「今度こそ……!」

 

「ヌゥウウウ……!!」

 

 アルファは右腕を再びアンカーに変形させると、背後には回り込めないので真正面からサツキの左肩にそれを撃ち込み、電流を最大出力で流していく。

 先ほど自分を苦しめた、鬱陶しい攻撃。それを自分は、再び同じところから食らっている。

 最大出力の電流を流されてもなお、サツキは自分の状態を冷静に把握するほどの余裕があった。そして――

 

 

 

「ウオオオオオオ!!」

 

 

 

 ――全身に纏っていた紅蓮に輝くオーラ状の魔力を激しく迸らせ、全身に行き渡っていた電流をまたしても気合いで振り払った。

 

 自分を拘束する邪魔なものを払い除けたサツキは、光を放とうと顔の前に魔法陣を展開。その中心に、全身を纏うオーラ状の魔力を集中させていく。溜めがあるということは、威力も射程距離も向上させるつもりだろう。

 

「やっとデカいのを撃つ気になったか!」

「別に待っていたわけではありませんよね? どうするんですか、アレ」

「フォーミュラで分析すればイケそうだが……」

 

 フォーミュラなら例え今のサツキが使う魔法でも解析・分解できそうだが、そうすると今度は魔法なしの打撃でサンドバッグにされる。どちらにせよ、結果は見えていた。

 なので自分に掛かる負担も考え、フォーミュラの使用は断念することにした。……自分のそれは試作品で機能が安定しないというのもあるが。

 

「ここまでスリルな体験は管理局時代でもなかったぜ……」

「過去を思い出す暇があるなら今に集中してください」

 

 こうして二人が目の前のサツキから逃避するように会話している間にも、そのサツキは魔力のチャージを完了していた。

 この無駄に長引いた戦いに決着をつけようと、魔法陣の中心が鮮やかに輝き始め、いよいよ一筋の光として発射されようとした、その時だった。

 

 

 

「めげろぉ――っ!!」

 

 

 

 フーカの渾身の叫びが聞こえ、サツキの様子に変化が起きたのは。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「や……やった……!」

 

 全身の力を使い過ぎたのか、肩で息をしながらその場に座り込み、フーカは喜びの声を上げる。

 よほど痛めつけたのか、その左手は血で染まっており、顔も汗だらけだ。膝もガクガクと震えている。

 そんな彼女の視線の先には、何十発も休むことなく殴り続け、ついに破壊することができたコアが破片となって落ちていた。

 

 

「グゥウウウウ……!!」

 

 

 自分の中にあった異物――衣類に染み込まれたバネットの魔力――がなくなったからか、唸り声を上げながらもサツキは地面に足を付ける。

 彼女が纏っていたオーラ状の魔力が消滅し、髪の点滅も止まり、黒く染まっていたパーカーも元の色である灰色に戻っていく。

 それでもまだ暴れ足りないと言わんばかりに、しつこく拳を握り込んで力を溜めようとするサツキ。

 

 

「ウアアアアアア!!」

 

 

 だが、さっきまでと違って理性が戻ってきているのか、ただただ空しい雄叫びが響き渡るだけで、彼女がオーラ状の魔力を纏うことはなかった。

 ……尤もサツキの場合、使い方次第で雄叫びも振動波という攻撃として使用できるので、魔力が出なかったとはいえ油断はできないが。

 

「ほう、やるじぇねぇかおチビちゃん」

「私物を破壊されて感心するとはどういう神経をしているんですか?」

「別に。特別な拘りがあったわけじゃねぇしな」

 

 壊れたコアには一切興味を示さず、それを破壊してのけたフーカを称賛するバネット。剣の形をしているヴァリアントウェポンも使い過ぎたせいか軽くスパークしており、今の彼が使える武器は先ほど取り出した小刀のようなデバイスだけ。

 渋い顔のくせに子供っぽい主を見て呆れるも、ボロボロな彼に代わって構えを取るアルファ。戦闘兵器として生まれた彼女だが、主を護ろうとする意志は確かなようだ。

 フーカはそんな二人を警戒していたが、それ以上にサツキの身を案じていた。あれだけ派手に暴れ、嫌っていた魔法を行使したんだ。理性が戻れば身体に掛かった負荷も、精神的ダメージも一気に受けてしまうだろう。

 

「大丈夫……のはずじゃ……」

 

 息を整えたフーカが不安たっぷりの顔で呟くも、それに反応した者は誰もいなかった。そして――

 

 

 

「がああああああっ!!」

 

 

 

 ――サツキは人間寄りの雄叫びを上げると、ついに理性を取り戻した。

 

「ハァ、ハァ…………何だこりゃ……?」

 

 まず息が荒くなり、身体が重いのか両膝に手を乗せるサツキ。どうやらこれまでの間に受けたダメージが、今になって響いてきたようだ。

 暴走時の記憶はないらしく、サツキはすっかりと変わり果ててしまった工場地帯と、いつの間にか張られていた巨大な結界、自分のいる場所をゆっくりと把握していく。

 

「おいおい……冗談だろ……!?」

 

 そして、一つの結論に辿り着いた。自分が魔法を使った、という最悪の結論に。

 

 後悔と屈辱で顔を歪ませ、今にも涙を流しそうな顔になるサツキ。無意識とはいえ、自分で自分に課せたタブーを破ったことが相当応えたらしい。

 それでも心は折れておらず、すぐさま怒りの表情を浮かべると、視線の先にいたバネットとアルファに、震え声で告げる。

 

 

 

「テメェら……アタシに魔法を使わせやがったな……!!」

 

 

 

 悔しさのあまり口元から血を流すほど、唇を噛み締めながら。

 

 

 

 




 書いてる私でもちょっとわかりにくくなってきたので、少し整理してみました。


 第三者から見た今の状況

 悪人:サツキ
 子分:フーカ
 善人:バネット&アルファ


 実際

 悪人:バネット&アルファ
 善人:サツキ
 子分:フーカ


 よし、こんなもんか。サツキの場合は善人ですらないけど。


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