Vivid Outlaw   作:勇忌煉

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第19話「奥の手」

 

「アタシに――魔法を使わせやがったなァ……!?」

 

 

 

 今にも涙を流しそうなほど悔しそうな表情で、アルファとバネットを睨みつけるサツキ。さり気なく彼女の隣に立ったフーカも、サツキほどではないが敵意を込めた目付きで彼らを睨む。

 悔しさが、後悔が、屈辱が、サツキの中で酷く渦巻いていく。それこそ、また暴走を起こしかねないほどの、負の感情となって。

 だが、そこは誰よりも強固な精神力を持つサツキ。今にも溢れ出そうな負の感情を力ずくで抑え、怒りのままに口を開こうとしたところで、隣のフーカが割って入る形でバネットに問い掛ける。

 

「お前たちの目的はなんじゃ? さっきの話を聞いとる限り、世界の征服とかじゃぁなさそうじゃけん……。なんに街を襲うわ、緒方さんを操ろうとするわ、意味がわからんぞ」

 

 勝手に口を挟むな。そう言おうとするサツキだが、我を忘れている間に受けたダメージによる痛みに耐えきれず、反射的に顔をしかめたことで口も閉じてしまう。

 バネットもバネットでボロボロになった身体に鞭打つかの如く、強引に立ち上がって貧弱そうな小刀のようなデバイスを、誰にも見えないようこっそりと構える。

 この場でまともに戦えるほどの気力が残っているアルファも、サツキの底力を警戒してか、若干膝を震わせながらも右腕をライフルに変形させ、それをバネットとは対照的に派手に構えた。

 

「そんな俗物に興味はねぇよ。俺はただ、実験の過程や物を作るまでの工程で得られる知識が欲しいだけだ」

 

 そう言ってスパークしている剣を捨てると、バネットは両手を広げて空を見上げる。フーカは彼の言っていることがわからず首を傾げているが、サツキは納得するように頷いた。

 本来、魔法使いとは“知識”を求める生き物だと聞いたことがある。そのため彼らに言わせれば、実験の結果や作られた物の性能の良さ。その程度で満足しているようじゃ、技術的な進展はあり得ない。

 だがバネットは、科学者でありながらその魔法使い達と同じ思考を有している。そういう意味では彼こそが真の魔法使いと言えるだろう。

 

「……なるほど。つまりお前らは知識を得るためなら、この世界や巻き込まれる生物の命はどうなっても良い。そう言いたいんだな?」

「当然だ。それもまた俺にとっては、その場で得られる知識でしかない」

 

 バネットがサツキの言うことに肯定の意を示したところで、フーカもようやく彼の言っていることを理解する。そして底知れぬ恐怖と、命を弄ぶ愚か者に対する怒りが湧いてきた。

 

「人の命を何だと思うとるんじゃ!」

「言ったろうが。その場で得られる知識だと」

 

 この一言が引き金となったのか、それともこれ以上の会話は不毛だと判断したのか、あるいは両方か。バネットがそう言い切ると共に、アルファが動いた。鬱陶しそうな目でフーカを見ながら、右腕のライフルで、彼女を狙いながら。

 

「そこを退きなさい――!」

「誰が退いてやるかバァーカ」

 

 しかし、そうはさせまいとサツキが割り込んできたことにより、標的をフーカからサツキへ変更するアルファ。すかさずライフルを連射し始める。

 さっきの暴走状態とは違って痛みはちゃんとあるらしく、ゼロ距離で撃ち出される魔力弾が当たる度に顔をしかめるサツキ。

 それでもアルファのライフルとなった右腕を左手で掴み、右の手刀を振り下ろす――ように見せかけ、そのまま力ずくで引きちぎった。

 

「ぐぅっ……!!」

 

 力ずくはさすがに効いたのか、顔を歪めて血がドバドバと溢れ出てくる右肩を押さえるアルファ。これまで暴走時のサツキが放つ閃光や自分の攻撃で腕を喪失してきたが、雑草を引き抜く感じで持っていかれるとは思っていなかったようだ。

 

「おいどうした。また千切れたぞ、お前の腕」

 

 引きちぎった右腕を投げ捨てると、サツキはアルファが右腕を再生させようと魔力を溜めている今を狙い、右肩に回し蹴りをぶつける。

 傷口にドンピシャで食らわされたこともあり、さらに顔を歪めるアルファ。だが、サツキから見ればその一瞬さえも隙でしかない。

 もう一度傷口に回し蹴りを入れると、アルファの頭を右手で鷲掴みにし、後頭部から地面に叩きつけ、めり込ませるよう強引に押し込む。

 

「こ、の……!!」

「あァ?」

 

 アルファは顔の歪みを怒りのそれに変えると、残った左腕を光る球体のようなものに変形させると、それを閃光弾のように激しく光らせた。

 

「チッ……!?」

「そのまま暗黒を味わいなさい!」

 

 閃光をしっかりと見たサツキの目が眩んだ隙に、彼女の右手から脱出し、右のミドルキックを左頬に繰り出すアルファ。

 体勢を崩されたうえに不意をつかれたこともあり、サツキはアルファの蹴りに対応できずモロに食らうも、そのまま転がるように距離を取った。

 

「はっ、何が暗黒だ。もう散々見てきたっつうの」

 

 在学時に喧嘩を売ってきた後輩の目を狙った攻撃、今のフーカみたく自分の隣に立ち続けた魔女の末裔の目くらまし、そして――死ぬ瞬間。

 これまで暗黒どころか、何も見えない深い闇を幾度となく経験してきたサツキにとって、この程度の目くらましは可愛いものだろう。

 視界を遮断された以上、目は閉じるしかない。サツキは使えなくなった両目を閉じ、犬のように臭いを嗅ぐ動作をすると、一瞬でアルファの背後を取り、握り込んだ右の拳でこちらへ振り向いた彼女の顔面を殴りつける。

 

「あぐ……!?」

 

 もう少し奇抜的な攻撃が来ると思っていたアルファは驚きで目を見開き、避けることも忘れてサツキの右拳を顔に受け、脳天目掛けて振り下ろされた左拳も、まるで自分から受け入れるように食らってしまう。

 元々震わせていた膝がさらに震え、体勢を崩して地に膝をつくアルファ。それでもなお、サツキが攻撃の手を緩めることはない。

 彼女の顔を両手で掴んで固定し、膝蹴りを何度もブチ込むサツキ。二人から離れたところで考え込むバネットと、サツキを見守るフーカが思わず引きそうになるほど、膝蹴りの連発は続いた。

 

「立てクソヤロー」

「うっ……」

 

 そしてアルファが倒れそうになったところで蹴りを中断し、下顎に狙いを定めて彼女の身体を思いっきり上空へ蹴り上げ、すぐさま跳び上がって下顎を押さえるアルファの上に先回りすると、両の拳を合わせて振り下ろし、彼女を地面に叩きつけた。

 暴走時にも使ったそれに比べると威力は落ちるものの、大きなクレーターを生み出し、アルファに血を吐かせるくらいの効果はあったようだ。

 

「げほっ、ごほっ……こうなったら……!」

 

 サツキが地面に足をつけると同時に、全身のエネルギーを胸元に集中させていくアルファ。

 視界が戻っていない状態でほんの一瞬眉を顰めるサツキだったが、バネットが残した資料に書いてあったことを思い出し、驚くことなく彼女に問い掛ける。

 

「……自爆か?」

「えぇ。正攻法では勝てず、私の身分を考えるなら……この与えられた命を失うくらい、何てことはありません」

 

 自爆行為。アルファは自分の体内に組み込まれている、布一枚分の耐魔力繊維と己の全エネルギーを用いてその場にいる者全てを吹き飛ばすほどの大爆発を起こすつもりだろう。

 

「逃げても無駄ですよ。文字通り全エネルギーを解き放てば、結界内にあるもの全てを塵にできますので」

「あァそうかい。そんじゃ、別の方法を取るわ」

 

 別の方法。エネルギーを集める速度を一瞬だけ緩め、その言葉に反応するアルファ。今の自分は街くらいなら跡形もなく吹き飛ばせる爆弾となっている。一体どうやって止めるというのか。

 サツキは慌てた様子もなく、普通に歩いてアルファに近づくと、

 

 

 

「――こうすりゃ良いんだよ!」

 

 

 

 と叫び、アルファのこめかみに渾身の一撃を食らわせた。

 

「えっ……?」

 

 あまりの威力と脳内に響き渡った衝撃で思考が止まってしまい、胸元に集中していたエネルギーが散り散りになっていく。

 

 アルファのこめかみに、思考に影響を及ぼすほどの一撃を入れる。

 

 それは『少しでも触れると爆発する』という点がないアルファの自爆だからこそできた、強引ながらも効率の良い方法だった。

 なのでサツキにとっても一種の賭けだったが、アルファの反応から上手くいったことがわかって一瞬だけ安堵の表情を浮かべる。

 

「……参りました」

「やっと白旗上げたか」

「えぇ、降参です――」

 

 負けは認めたアルファだが、サツキの目が眩んでいるのを良いことに、不敵な笑みを浮かべると、

 

 

 

「――()()()

 

 

 

 と、たった一言。たった一言を強調しながら呟いた。

 

 

 

 ――その瞬間だった。

 

 

 

「? なんだ……?」

「うわわ……!」

 

 

 地震でもないのに、地面が大きく揺れ始めたのは。

 

 

 地面からの振動を察知し、目を閉じたまま周りを見回すサツキ。目が見えなくとも、優れた鼻と耳があるので問題ないだろう。

 フーカもフーカで慌てながらサツキにしがみつき、彼女の真似をするように周りを見回す。そして、サツキと違って目の見えるフーカは、あるものを見つけた。

 

「緒方さん! あ、あそこ……!」

「あァ? どこだよ?」

 

 目が見えないのであそこと言われても見ようがないのだが、フーカの慌て様から察するにそれどころではない何かを見つけたのだろう。

 後でフーカを一発殴ろう。そう決心しながら、サツキはフーカが指差す方に顔を向ける。

 

 

 

「いでよ巨神――!」

 

 

 

 そこにいたのは、足下に独自の魔法陣を展開したバネットによって、今まさに召喚されようとしている岩の巨人――ゴーレムだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「創主バネットの名の元に。全てを砕け――『ギガンテス』!」

 

 

 

 途方もなく巨大なゴーレムが召喚される影響か。大気が震え、大地が揺れていく。

 

 目が見えないサツキはともかく、フーカは轟音と共に召喚されていく巨人の上半身を見て、思わず一歩下がってしまう。

 見えない状態でも直感でフーカの心情を察したのか、彼女の前に出て目を擦るサツキ。一刻も早く揺れの正体を掴みたい。そう思いながら。

 

「………………デケェな、おい」

 

 そしてようやく目が見えるようになり、サツキも召喚されていく巨大なゴーレムを目の当たりにし、圧倒された。

 以前、インターミドルの試合映像で見たゴーレムよりも、さらに巨大なゴーレムに。

 

「はははははは!! これが俺の奥の手だ!」

 

 超巨大ゴーレム――ギガンテスの右肩に乗り、高らかに笑うバネット。これまで様々な能力や武装を使ってきた彼だが、今まで見せなかった傲慢な笑みを浮かべる辺り、このゴーレムには相当自信があるらしい。

 ついにギガンテスの全身が召喚され、地響きと共にゆっくりと動き始めた。その様はまさに特撮映画に出てくるような怪獣である。

 

「どうするんですか、あの大きいの……」

「いやどうするも何も――ブチのめすしかねぇだろ」

 

 殴る相手が途方もなく巨大になっただけだ。敵がどんな変化を起こそうと、どれだけ進化しようと、サツキのやることは変わらない。

 100mは優に超えていそうなギガンテスを前にしても、サツキは一歩も退かない。それどころか、最初のときより闘志を湧かせているように見える。

 しかし、戦闘狂ではないフーカは普通に逃げたいと思っていた。まぁ無理もないだろう。ただでさえ今回の敵が怖くて強いのに、それが今度はスケールの違い過ぎる巨人として現れたのだから。

 

「ぶっ潰せ、ギガンテス!」

 

 フーカがビビって冷や汗を掻き、サツキが右拳を左手に押し付けた瞬間、バネットの指示を受けたギガンテスが巨大な右の拳を振り上げ、それをサツキ目掛けて突き出してきた。

 

「チィッ――!?」

 

 想像以上の速さで迫る拳に、己の拳をぶつけるサツキ。見かけ通りのパワーを持つギガンテスの拳と、見かけを遥かに超えるパワーを持つサツキの拳。両者の拳が激突した瞬間、拳圧が四方八方に飛んだ。

 

「ぐうううううう!!」

 

 

『■□■□■□■――!!』

 

 

 サツキの咆哮による振動波に匹敵するほどの雄叫びを上げ、踏ん張るサツキをその巨体を前進させることで押し始めるギガンテス。

 さすがのサツキも巨大な拳に加え、さらに巨大な本体ごと来られてはどうしようもなく、後ろの地面が陥没するほどの脚力で踏ん張ってもなお、少しずつ押されていく。

 後ろのフーカが左側へ逃げたのを確認すると、サツキは自分の拳をぶつけて止めていたギガンテスの拳を、自分の拳を引いて身体を左にズラすことで回避に成功する。

 標的を失ったギガンテスの拳が地面に突き刺さると、途方もなく巨大な蜘蛛状のヒビが出来上がり、サツキとフーカの身体が宙に浮くほどの揺れを引き起こした。

 

「クソが……!」

 

 悔しそうに舌打ちし、拳を構えるサツキ。相手が巨人とはいえ、まさか自分が力負けするとは。サツキにとっては何気に、魔法の使用以外で味わう屈辱だった。

 そのお返しと言わんばかりに、本気で握り込んだ左の拳を突き出し、ギガンテスの胸元目掛けて広範囲型の拳圧を飛ばすサツキ。

 

 

『■□■□■□■――!!』

 

 

 が、直撃するも全く効いておらず、その程度かと言うように雄叫びを上げるギガンテス。

 創手であるバネットは特に指示を出すこともなく、先ほどサツキに受けた傷が痛むのか、ギガンテスの右肩に座り込んで彼女達を見物していた。どうやら一つの指示で事足りるらしい。

 ギガンテスは右足を地響きと共に振り上げると、そのまま何もないところへ蹴りを放ち、その風圧でサツキを吹き飛ばそうとする。

 

 

 

「□□□□□□□――ッ!!」

 

 

 

 だがサツキはこれを、咆哮による大音量の振動波で真っ向から相殺してみせた。

 

「すげぇな嬢ちゃん。そこまでデタラメだとは思わなかったぜ」

「ふざけろ……!」

 

 高みの見物をしているバネットに称賛されるも、サツキは嬉しがることなく彼を睨みつける。後で絶対に殺すと言いたげな、殺意の籠った目付きで。

 次はどうしようか。そう考え始めたところで、隙ありと言いそうなタイミングでギガンテスが左拳を構え、

 

「ブチかませ! ギガンテス!」

 

 

『■□■□■□■――!!』

 

 

 ()()()()()()()()()()()()。いわゆるロケットパンチである。

 

「来たかロマン……!」

 

 サツキは慌てて右拳を溜めるように構えると、身体を捻ってそれを突き出し、ロケットの如く飛んできたギガンテスの拳を粉砕する。

 これにより発生した風圧がギガンテスの巨体を一歩だけ後退させ、飛び散った破片がフーカを襲う。

 

「なしてわしの方に来よるんじゃぁー!?」

 

 頭を両手で守りながら、降り注ぐ破片から逃げ惑うフーカ。そして手頃な瓦礫を見つけると、そこに身を隠した。相手がゴーレムじゃほとんど持たないと思うが……。

 ロケットパンチとして分離した左手を一瞬で再構築し、どうだと言いたそうに拳を作るギガンテス。物質であるゴーレムにも感情があるのだろうか。

 

「こういうのは大体創主を叩けば終わるが……」

 

 肝心の創主であるバネットがギガンテスの右肩に乗っているため、そこへ到達するにはギガンテスの腕を伝っていくか、今いる場所から飛び道具系の技を放つしかない。

 しかもインターミドルの試合映像で見たゴーレムマイスターは、召喚したゴーレムを潰されても再び召喚していた。おそらくバネットもそのマイスターと同じことができるだろう。

 ギガンテスの腕を伝っていくことに関しては、やろうと思えばできないこともない。だが、到達するよりも先に振り落とされる可能性があるので、難しいところである。

 飛び道具系のもすでに実行済みで、サツキのそれではダメージにすらならないことが判明している。残念ながら先の方法よりも可能性が低いのだ。

 

「無理だよなァ……」

 

 自分では戦えないほど傷付いているバネットだが、さっきの戦いでは様々な能力を披露している。それを無理に行使すれば、サツキの疲労次第で普通に倒せてしまうだろう。

 とはいえ、それはバネットにとっても最終手段である。何故なら能力のほとんどが安定しておらず、身体への負担が大きいからだ。

 

 

『■□■□■□■――!!』

 

 

 雄叫びを上げたかと思えば、今度は拳のラッシュを繰り出してきた。単発ではなく、ラッシュ。つまり拳の連打である。

 

「マジかよ……!?」

 

 これにはサツキも目を見開き、驚きながら回避する。一発ならまだしも、巨大ゴーレムの連打を相殺するなんて無理があるからだ。

 その巨体からは想像もできないほどの、信じられないスピードで放たれる拳を直撃スレスレでかわしていき、最後の一発に対してようやく相殺の右拳を放つサツキ。

 

「オラァァァァァ!!」

 

 

『■□■□■□■――!!』

 

 

 最初の構図と全く同じ状況になり、今度はサツキの方が前進することでギガンテスの拳を押し始めた。

 しかし、そこは巨大ゴーレムのギガンテス。こちらも一歩も退かずに、再び本体ごと拳を押し抜こうと前進し始める。

 これによりサツキが体勢を崩すも、迫り来るパンチを咄嗟に回避し、跳び箱の要領でジャンプすることで、ついにギガンテスの腕の乗ることに成功した。

 

「ふぅ……いくぞ」

 

 ギガンテスの左腕の上を走っていき、彼女を落とそうと右の拳を音速並みの速度で放つギガンテス。

 だが、サツキはこれをバネットのいる右肩へジャンプすることで回避し、彼との距離があと数十メートル――

 

 

「ごああああああ!?」

 

 

 ――というところで、上半身だけを機敏に動かしたギガンテスが薙ぎ払うように振るった、左拳で地面に叩き落とされてしまった。

 

「ごはっ……!」

 

 ついに直撃してしまった、ゴーレムの拳。これまで受けたことのない威力にサツキは血を吐くも、まるで何事もなかったかのように立ち上がる。これにはバネットも驚きざるを得なかった。

 

「嘘だろ……いや、さっきの暴走で身体能力が向上しているとすれば……」

 

 サツキの驚異的な耐久力に驚きはしたが、自分なりにその理由に辿り着き、一人で勝手に満足して頷くバネット。それは命辛々立ち上がったサツキから見れば相当腹が立つものだった。

 

「ぜってぇ引き摺り下ろしてやる……」

 

 そう決意するサツキをよそに、ギガンテスは左足を大きく振り上げると、その巨体からは想像もつかないほど綺麗な踵落としを繰り出した。

 これをその場で踏ん張り、両手でどうにか受け止めるサツキ。その衝撃で両足が地面にめり込み、周囲の地面が割れていく。

 

「ぜああああああ……!!」

 

 

『■□■□■□■――!!』

 

 

 拳よりも威力のある足による攻撃。こればかりはギガンテスが勝つと思われていたが、意外にもサツキが押し返し始めた。

 両腕をピンと伸ばしたところで、サツキはその場で宙返りしながら渾身の蹴りを放ち、ギガンテスの巨体を引っくり返す勢いで左足を弾き返す。

 そしてすかさず左の拳から拳圧を飛ばそうとするも、体勢を整えたギガンテスがそうはさせまいと言わんばかりに、同じ左拳をぶつけてきた。

 

「だらあああああ!!」

 

 

『■□■□■□■――!!』

 

 

 両者の拳による押し合い。今回はお互いに一歩も譲らず拮抗していたが、ギガンテスが上手く腰を捻ったことでサツキの拳を押し切った。

 

「ハァ、ハァ、ハァ……クソッタレが……!」

 

 ここに来て整っていた息が上がり始め、両膝に手を乗せるサツキ。そもそも生身の人間が、ゴーレムに対抗できていること自体が凄いのだが、サツキはそれを知らない。

 追撃が来る前に息を整え、またしてもギガンテスが打ってきた拳の連打をかわしながら、思ったよりも早く目的の人物を見つけた。

 

「レヴェントン!」

 

 サツキに大きな声で呼ばれ、瓦礫の裏で身体をビクッとさせるフーカ。ここから出たくはないが、サツキがどうして自分を呼んだのか凄く気になる。

 フーカは周囲を警戒しつつ、ギガンテスの高速ラッシュが終わると同時に出ていく。

 

「な、なんじゃろか……」

 

 ギガンテスがいつ動くかわからないので身体を小さくし、弱々しく話すフーカ。これがいつもの日常なら天誅ものだろう。

 サツキは「お前に聞きたいことがある」と、血の混じった痰を吐きながら問い掛けた。

 

「お前、あと何発打てる?」

 

 この言葉を聞いて、最初は衝撃波や弾丸の類いだと思っていたフーカだが、言い方が微妙に違っていたので拳のことだとすぐに気づけた。

 

「右の一発だけです。左はもう使えんです」

「そうか。時間がねぇからよく聞けよ――」

 

 サツキは一旦言葉を区切ると、拳を格闘家のように構えるギガンテスを見て、フーカに告げる。

 

 

 

 

「――手ぇ、貸せ」

 

 

 

 

 




 次で第二章完結。なんかスケール大きくなっちゃったけど、まだ二章だからね、これ。
 それともう三人称で統一しようかなと思っている。なんかその方が書きやすくなってるし……。


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