Vivid Outlaw   作:勇忌煉

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第3話「廃棄都市区画」

「こんなところがあったとはな」

 

 レヴェントンに一週間の猶予を与えた日の夜。

 警邏隊や管理局に見つからないよう、コソコソと北に向かっていたアタシは、ついに念願のミッドチルダ北部へ足を踏み入れた。

 そんでさっそく例のJS事件とやらが起こった、廃棄都市区間を呑気に口笛を吹きながら見物していたのだが、近くに空港らしき場所があったのでそこへ向かい、今に至る。

 確かここは……大火災が起こったせいで閉鎖されたところだった気がする。少し前まで使われていた形跡はあるものの、今は誰もいない。

 

「ふぅ……これからどうすっかなぁ」

 

 当面の目的は達成したのはいいが、その先を全く考えてなかった。

 子犬のようについてきそうなレヴェントンとも別行動中だし、呼び出そうにも通信端末の電源が切れているから無理だし。

 そうだ、いっその事ここに拠点でも作っちまうか? 暑さや寒さを凌げないのが痛いが、路地裏で汚く野宿するよりはマシだからな。

 とりあえず何かないかと散策していると、すぐ近くに奇妙なデザインのお面が落ちていた。それも一つではなく、三つほど。

 

「…………これ、使えるか?」

 

 何でこんなところにお面があるんだ。そう思いながらも、活用自体はさせてもらうことにしよう。特に壊れているわけでもないし。

 上着のフードだけじゃ顔は隠しきれねえからな。そういう意味では貴重なアイテムだ。まぁ強度がわからないから慎重に使う必要はあるな。

 さっそく三つのうちの一つ、民族的なデザインのお面を付け、周りを見渡す。う~む……視界が狭いことを除けば問題はないが、こればっかりはどうしようもないか。

 お面を少しずらし、タバコを一口吸って紫煙を吐く。この状態、面の端が鼻元に引っ掛かってる感じで凄く息がしにくい。

 

「おいねーちゃん。ここは俺らの場所だぞ」

 

 タバコを足下に投げ捨て、ずらしていたお面を戻したところで、十五人ほどの男性グループが堂々と正面口から現れた。見かけと雰囲気は大人しそうな奴らばっかだ。

 

 ――滾るような殺気までは隠せてないが。

 

 連中の容姿を観察していると、三人の男がアタシの見つけたやつと同じデザインのお面を持っていた。持ち主はコイツらか。

 しかも女のアタシを性的な対象ではなく、単純に敵として認識している。まぁすぐさま攻撃態勢に入らない辺り、比較的穏便だな。

 

「痛い目見たくなけりゃさっさと失せろ」

「お断りだね。どのみち見逃してくれない奴の言うことなんか聞くとでも思った?」

 

 ゆっくりと立ち上がり、足下のタバコを踏み潰して背筋を伸ばす。

 お面のせいで周りを見渡せないが、じりじりとこちらへ歩み寄る音が複数聞こえてくる。

 いつでも動けるよう、両脚に力を入れ、自然体のまま脱力して気配を探る体勢を取る。

 そして、戦争の引き金を引くかのように――

 

「――来いよ」

 

 たった一言。そのたった一言で状況が動いた。

 さっそく背後から何らかの攻撃を仕掛けてきた奴をかわし、すれ違いざまに腹部へ鋭い蹴りを入れ、顔面に右膝をブチ込む。

 次に至近距離から額目掛けて撃ち出された銃弾を咄嗟にキャッチ。それを握り締めたまま銃を構えるバンダナの男を殴り飛ばし、銃弾を粉々になるまで握り潰す。

 これにより鉛の粉末が出来上がり、それを払い落とそうとしたところで脇腹を鉄パイプらしき鈍器で殴られ、体勢を崩されてしまう。

 

「隙ありっ」

「チィッ!」

 

 その瞬間を好機と見た茶髪の男が振り下ろした質量のあるナイフを、彼の頭を片手で掴み、頭上を舞って背後に回り込むことで回避。すかさず首元へハイキックを叩き込む。

 茶髪が沈んだことを確認し、間合いを詰めてくるマスクの男を、沈めた茶髪を片手でタオルのように振り回し、マスクの顔面にぶつける。

 さらに間髪入れず茶髪をぶん投げ、右から迫っていた三人の男をまとめて仕留めると同時に、彼らの武器であろう拳銃を踏み潰した。

 

「っ……最近のゴロツキはこれがデフォなんかねぇ?」

 

 いつものように痰を吐こうとするも、お面を被っていたことを思い出し、口内に痰を溜めたところでそれを飲み込んだ。

 ……てかコイツら、ただのゴロツキにしちゃあ物騒すぎねぇかこれ。得物持ってる奴の大半が拳銃持ち何だけど。素手の奴がいないんだけど。

 リーダー格だけが持っているのを見たことはあるが、リーダー格のみならず下っ端までもが当たり前のように所持しているのは今回が初めてだ。

 

 ――また厄介事に首を突っ込んだか?

 

 だとしたらちょっとマズイな。こういうのは大体、警邏隊や管理局の連中が出しゃばってくる。いや、それだけならまだ大丈夫。

 問題なのは、ここがベルカ自治領だということ。領内には管理局とも繋がりのある、聖王教会の本部が存在している。

 古代ベルカの聖王とかいう訳のわからんものを崇める、次元世界で最大規模の宗教団体。それだけなら大丈夫、まだノープロブレム。

 マズいのは教会と繋がりのある管理局と、団体の一部である教会騎士団なる戦闘集団だ。

 管理局だけでもめんどくさいのに、それなりに強いであろう騎士団が加わると万全の状態でも手に負えない可能性がある。

 ……違った、手に負えないのは管理局の方だ。騎士団は人数次第でどうとでもなるわ。数が多いと増援を呼ばれてしまうからな。

 

 まぁ、とりあえず――

 

「――さっさとくたばりな!」

「ごはァ!」

 

 いつものドスを利かせた低い声ではなく、大人の女性っぽい高めの声を出しながら、目の前に迫っていた男へ頭突きをかます。

 お面で充分だから別に隠さなくてもいい――と思っていたが、よく考えたらアタシは失踪中の身だ。できるだけ隠しておくべきだろう。

 

「このアマっ!?」

 

 復活した茶髪が背後から刺そうとしてきたので、かわしながらナイフを持つ右腕を脇に抱え込み、左の肘を裏拳のように振るってこめかみへ叩き込み、最後に頭部を蹴りつける。

 今度は念のために気絶した男からナイフを奪い取り、それを銃弾の時と同じように、連中に見せつける形で粉々になるまで握り潰す。

 ここで一旦距離を取り、一息ついて状況を確認する。最初は十五人もいた男達も、気づけば半分の七人にまで減っていた。

 

「どうすんだよ! このままじゃ全滅するぞ!?」

「せっかく盗むもん盗んだってのに……っ!」

「バカッ! 口に出すな!」

 

 こちらに聞かれるとマズイのか、リーダー格が下っ端を黙らせる。

 しかし残念、耳の良いアタシには嫌でも会話の内容が聞こえていた。

 

 盗むもん、ねぇ……。

 

 どうやらこの連中、強盗の類っぽいな。さっきから隠すように置いてある大きな袋を見る限り、結構なものを盗んだようで。

 この手の連中が盗むものと言えば、大体が売れば金になるものだ。

 

 ――アタシが頂戴するのもアリだな。

 

「ごちゃごちゃと喋ってんじゃないよ。来ないならこっちから行くぞっ!」

 

 ちょっとだけ口調を変え、一人一人が適当に魔力を練りながらも、なかなか攻撃してこない連中に向かって足を進めていく。

 ……どうか奴らの盗んだものが、金になるものでありますように。

 

 

 

「く、クソが……ッ」

「はい終了~」

 

 最後の一人をクレーターが生じるほどのパワーボムでブチのめし、ソイツが腰に付けていたラジオのような小型の機械を奪い取る。

 あれから全員仕留めるのに五分も掛かったが、腹部に拳を二発ほど叩き込まれただけで苦戦はしなかったよ。ダメージも大したことなかったし。

 さっそく強奪したラジオのスイッチを入れ、連中が守っていた大きな袋の中を確認する。さーて、何が入っているのやら。

 

「これ……宝石か?」

 

 袋に入っていたのは宝石のように綺麗な、地球でいうところの鉱石みたいな石だった。というか間違いなくこの世界の宝石だな。

 ルビー、サファイア、エメラルド、プラチナ、その他諸々。見かけだけならそれらの宝石と何ら変わりないが、表面の質が微妙に違う。

 一息つこうとタバコを取り出し、オイルライターで火をつけて一口吸ったところで、ラジオからアナウンサーの綺麗な声が流れてきた。

 

『次のニュースです。本日の午後六時頃、ミッドチルダ中央区の宝石店で強盗事件が発生しました。犯人グループは今もなお逃走中と見られ、警邏隊による捜索が進められていますが、発見には至っていないとのこと――――』

 

 アタシがボコった連中、マジで強盗だったらしい。グループだし、宝石店で盗みを働いてるし、実際に盗んでいたものは宝石だったし。

 どうもニュースの内容からして、まだ他の地域には捜索の手が伸びていないようだ。

 まっ、それでも見つかるのは時間の問題だろう。さっきまでちゃんと魔法使ってたからな。それを管理局辺りにサーチされた可能性はある。

 ……となればアタシも危ないな。さっさと宝石とお面をもらってズラかるとしますか。宝石はその手の連中にでも売り飛ばせばいい。

 

「ひぃーふぅーみぃー……これで全部だな。時間もないし、さっさと行くか――!?」

 

 袋に入った宝石を数え終えた途端、神経という神経に寒気が走った。

 今まで感じてきた寒気とは別の意味で比較にならない。まるで大鎌を持つ死神が、命の終わりを告げに来たかのような寒気。

 それが現在進行形で、しかもかなりのスピードでこちらへと近づいてきている。

 完全にしくじった。宝石のせいで周囲への警戒を怠っていた……!

 よし、一旦落ち着け。アタシがこうして考えている間にも、敵はどんどん距離を縮めている。走って逃げるのは不可能に等しいだろう。

 

「あー、あー!」

 

 こうなったら素性がバレないよう適当に相手しつつ、上手く逃げるしかない。

 急いで地声を隠すべく再び高い声を出し、近くにあったマンホールのふたを開け、宝石の入った袋をやや強引に押し込む。

 

「――動かないで」

 

 マンホールのふたを閉め、廃墟の屋上へ上ったところで制止の声を掛けられ、同時に金色のバインドで拘束されてしまう。

 バインドを引き千切りたい衝動を抑えつつ、ゆっくりと声がした方へ振り向く。

 そこにいたのは黒を基調としたバリアジャケットを纏い、月をバックに綺麗な金髪をなびかせる一人の美女だった。

 大鎌みたいなデバイスを構え、周りの状況を確認した彼女は紅い瞳を細めると、凛とした声でアタシにはっきりと告げる。

 

 

「時空管理局執務官、フェイト・T・ハラオウンです。速やかに投降してください」

 

 

 さぁ、ここからが本当の地獄だ――。

 

 

 

 

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