Vivid Outlaw   作:勇忌煉

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第4話「やるしかない」

 ――マズイなこれは。

 

 

 時空管理局の執務官であるフェイト・T・ハラオウンにバインドで拘束され、迂闊に動けなくなったアタシは、顔を隠すために被ったお面の下で非常に険しい表情をしていた。

 アタシを拘束したのがその辺のチンピラやマフィア、無法者なら問題にすらならない。いつも通り殴り飛ばせばいいのだから。

 だが、今回は相手が悪すぎる。目の前にいるのは警邏隊同様、法の下に犯罪者を討てる管理局員。それも実績のある執務官ときた。

 入院先の病院から脱走してまだ二日。失踪中で身バレを避けるアタシにとって、コイツが最悪の敵であることは間違いないだろう。

 

「――被疑者らしき人物を拘束しました」

 

 この場をどう切り抜けようか。アタシがそう考えている間にも、テスタロッサは誰かと連絡を取り合っていた。連絡先は警邏隊か本部ら辺か。

 まぁどちらにせよ、状況がさらに悪くなった。このままじゃ魔力サーチか、お面に隠した素顔を見られるかで身元がバレてしまう。

 それに先ほどのテスタロッサの会話内容を聞く限り、増援を呼ばれた可能性もある。

 

 

 ――やるしかない。

 

 

「何をやって――!?」

 

 アタシはすぐさま行動に移った。自分を拘束していたバインドをあっさりと振りほどき、テスタロッサが動く前に全力でその場から離脱を図る。

 その際、アタシが通過した直後に衝撃波――ソニックブームが発生し、不意を突かれたテスタロッサが足止めを食らっていた。

 

 ――さてどう撒こうか。

 

 相手はまだ一人なので真正面から戦ってもいいが、後のことを考えるとこれが妥当な選択である。情けないと本気で思うが。

 そして今回に限るが、戦うのはあくまで最後の手段だ。地球じゃヤンチャが過ぎて、この手の選択で何度も痛い目見たからな。

 全力疾走しつつ、周囲の廃墟を忍者の如く跳び跳ねながら、廃墟都市区画の外にある川を目指す。水に入りさえすればこっちの勝ちだ。

 

「止まりなさいっ!」

 

 声がした方……上の方へ振り向くと、お怒りのテスタロッサが驚異的なスピードで、飛行魔法で飛びながら追い上げてくるのが見えた。

 ふざけろ。こちとら失踪中の身なんだぞ。捕まったらこれまでの苦労が水の泡だってのに、止まるわけねぇだろうが。

 少しずつ距離を詰めてくるテスタロッサを振り切るべく、妨害目的で廃墟の一部を破壊しつつ、廃墟と廃墟の間をジグザグに進む。

 

「この……!」

 

 効果はあったようで鬱陶しそうに端正な顔を歪め、アタシが通った跡を丁寧に飛びながら追いかけてくるテスタロッサ。

 すかさず近くにあった柱を蹴りで破壊し、その破片を彼女目掛けて蹴り飛ばす。

 ちょっとだけ当たればいいと思っていたが、凛とした顔になったテスタロッサはそれを最低限の動きでかわしていた。

 

 ならばこれはどうか。

 

「ッ、ラァ……!」

「岩塊……!?」

 

 一旦立ち止まって右腕に力を込め、建物の壁を引き剥がし、そのまま持ち上げ間髪入れずに、これもテスタロッサ目掛けてぶん投げる。

 

 瓦礫となった建物の壁を今度は細めていた目を見開き、身体を螺旋のように回転させながらスレスレで回避するテスタロッサ。

 その隙にアタシは全力で走り出し、再びソニックブームを発生させる。

 これが破片みたいに小さかったら何の問題もなかったろうが、アタシが投げたのは十メートル以上もある巨大な瓦礫。

 そんなものが唸りを上げ、高速で迫ってくるのだから堪ったもんじゃねぇ。

 

「クソ……ッ」

 

 が、それでも全然振り切れない。やっぱり飛んでいるってのが大きいか。

 隠れようにも向こうは広範囲をサーチできるから簡単にはいかないし、隠れても逃走経路を確保していないと手間が掛かってしまう。ていうか、それでどうにかなるなら最初にそうしてる。

 しかもサーチのせいで砂埃や雑音を使った攪乱は迂闊にできねぇし、気配を消そうにも姿が丸見えの状態じゃ意味がない。

 チッ、魔法の使用による差がこんなところで明確になるとはな。今だけは身バレを気にせず魔法を使用できる連中が羨ましいぜ。

 

「ッ……」

「追いついたッ!」

 

 ほんの一瞬、腹部に痛みを覚えると同時に回り込まれてしまう。おい誰だ戦うのが最後の手段つったバカは。このままじゃマジでそれしかやることなくなっちまうじゃねぇか。

 

 もう一度テスタロッサを振り切るため、脱力した自然体で左、右、左、左、後ろ、前、右の順に動いて揺さぶりを掛ける。

 これはガキの頃、テレビで見たバスケ選手の動きをそのまま再現してみたものだ。

 さすがに思い付きだけのものじゃダメかと思ったが、テスタロッサはこの動きを目で追っていた。意外と効果あるのね。

 

 ――ここだっ。

 

「あっ……!?」

 

 テスタロッサの身体が右に傾いたところを狙い、左側から彼女を抜き去る。

 全力で動いたので三度ソニックブームが発生するも、三度も同じ手が通用するかと言わんばかりに平然と追ってくるテスタロッサ。

 にしても廃墟都市の外までそう遠くはないはずだが……それともアタシの感覚がおかしいだけで結構な距離だったりするのか?

 

「ハァ、ハァ…………」

 

 確かにさっき、一瞬だけ腹部に痛みを覚えた。二日前よりはマシなものだったが、この場合は無理をすると悪化のパターンだな。

 しかも久々に全力で逃げ回ったせいか、戦う気力は残っていてもスタミナ的にはもう限界と言っていい。喫煙者の宿命ってやつか。

 

「…………」

 

 完全に足を止め、追いついたテスタロッサと真正面から対峙する形になる。悲しいが、これ以上の逃走は厳しいと見た。

 ホントに誰だよ戦うのが最後の手段つったバカは。その手段を今使うはめになっちまったぞ。

 ひとまず体力回復に専念するべく、少し乱れた息を整え、

 

「――ぃ、行くぞ」

「っ!?」

 

 鎌型のデバイス――バルディッシュを構えるテスタロッサとの間合いを一瞬で詰め、渾身のハイキックを繰り出した。

 一気に距離を縮められたことに驚愕の色を見せるも、冷静に迫り来る右脚を屈んで回避し、バックステップで距離を取るテスタロッサ。

 思わず素の声で喋りそうになったが、咄嗟に声色を一般女性のそれに変えたから問題はない。

 

「プラズマランサー……」

 

 テスタロッサが周囲に発射体――スフィアを八個ほど生成し、その一つ一つに環状の形をしたものが取り巻かれていく。アレも魔法陣かな。

 アタシもすぐさま一瞬の隙も与えないよう、五感が最も研ぎ澄まされる脱力した自然体で構える。ここまで集中するのは二年前のインターミドル以来か。もちろん例外を除いてだが。

 

「ファイア!」

 

 という掛け声と共に、スフィアから槍のような魔力弾が発射される。

 スフィアが八個なので弾幕の数はキッチリ八発だと思っていたが、その倍の十六発くらいは発射されている。しかも連射で。

 

 スタミナが切れかかっている今、あの弾幕を動いてかわすのは難しい。なので両手の甲を使い、一つ一つ受け流すように弾いていく。

 ……思ったより体力使うなこの動き。普通に弾いた方が良かったかもしれない。

 

「――ッ!?」

 

 気づかれないように一息ついたところで、背後からテスタロッサとは別の、今までのものとは比較にならない寒気を感じた。これは……。

 

「無駄だよ……ターン」

 

 テスタロッサの言葉を聞いてハッとなり、後ろを振り向くとついさっき弾いたはずの弾幕全てがこちらに向かっていた。こりゃ誘導弾か。

 Uターンして戻ってきた弾幕を今度は壊さずに受け止め、一つに纏めて握り潰す。

 いつもなら螺旋の回転というおまけ付きで弾き返すのだが、相手は顔見知り。それをやるだけで正体がバレてしまう可能性も拒めない。

 

「はあぁぁぁっ!」

 

 握り込んだ右手を開いた直後、背後から気合いの入った掛け声と共に、テスタロッサがバルディッシュを振り下ろしてきた。

 アタシはその攻撃をバックステップで回避し、助走からの鋭い蹴りを彼女の顔面に放つ。

 が、それを直撃する寸前でかわされ、再び背後を取られてしまう。

 今までいろんな奴と戦ってきたが、コイツはその中でもかなり速い。迷彩幻術(ミラージュハイド)で小細工していたバカと違って、単純に速い。

 

「ふっ!」

「ッ!」

 

 アタシは水平に振るわれたバルディッシュの魔力刃を屈んでかわし、テスタロッサは上体を少しだけ後ろへ反らすことで、アタシが屈んだ状態から右手を地面について身体を支え、斜めに跳ね上げる感じで繰り出した左脚をかわす。

 

「はぁっ!」

「ッ!!」

 

 続いて立ち上がったところを魔力弾で狙撃され、回避した直後に振り下ろされたバルディッシュの魔力刃を片手真剣白羽取りで受け止め、空いている左手を拳に変え、それを本気で突き出すことで矢のような拳圧を飛ばした。

 

 テスタロッサはこれをバルディッシュでガードするも、威力は殺せなかったようで数メートルほど後ろへ引き摺られてしまう。

 もちろんその機会を逃すわけがなく、両脚に力を入れ、彼女が体勢を整えるよりも先に間合いを詰めて後ろ回し蹴りを放った。

 

「ぐぁ――っ!?」

 

 体勢を崩していたこともあり、咄嗟に魔法陣を展開して蹴り自体は防いだものの、やはり威力を殺しきれずに吹っ飛んでしまい、踏ん張ることなく廃墟の壁に激突するテスタロッサ。

 

 それにしても、管理局の執務官を相手にここまでやれるとは思いもしなかったな。

 向こうはまだまだ本気じゃねぇだろうが、これならヴォルケンリッターの騎士が相手でも、ある程度は大丈夫かもしれない。

 

「いたた……」

 

 瓦礫の中から姿を現し、呑気な声を出しながら立ち上がるテスタロッサ。その際、一瞬だけ顔を歪めているのが見えた。

 バリアジャケットの構造を見るに機動力でも重視しているのか、どうやら装甲は薄いらしく相応のダメージを受けているようだ。

 

「……まさか君のような子供に、ここまで手こずらされるとは思わなかった。だから――」

 

 ガシャンッ、というロードらしき音が二回ほど聞こえ、テスタロッサの身体が光り出す。音源はバルディッシュか。

 ……待てコラ。コイツ今アタシを子供扱いしやがったぞ。どこをどう見たら190近くはあるガタイの女を、顔も見ずに子供認定できるんだよ。

 

 

 

「――ちょっと本気でいくよ」

 

 

 

 そう言って光の中から現れたのは、装甲が薄くなったテスタロッサだった。

 

 

 

 

 

 

 

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