Vivid Outlaw   作:勇忌煉

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第6話「敗走」

「まだ、終わってないから……!」

 

 傷だらけの顔で双剣を構え、脚を多少震わせながら啖呵を切るテスタロッサ。

 スピード特化の紙装甲であるにも関わらず、アタシの連撃をモロに食らってもなお立ち上がり、反撃までしてくるとは思わなかった。

 それに加えて今のも危なかったわ。お面を取ろうとするのがもう少し早かったら、確実に身バレして社会的に詰んでいたに違いない。

 

 一体どうやって反撃するだけの体力を残していたのか。

 気になったアタシがテスタロッサの全身を舐め回すように観察していると、彼女がそれを意図せずに教えてくれる形で、両手に持つ双剣――バルディッシュに話しかけた。

 

「――ありがとうバルディッシュ。さっきは助かった」

「クソ……!」

 

 自分の愛機に対する感謝の言葉。たったそれだけで、アタシは全てを察した。

 

 

 ――身体強化。

 

 

 己の肉体を魔力で強化する、この世界の魔法における基本の一つ。

 

 

 そして――アタシが最も嫌う魔法だ。

 

 

 テスタロッサがアタシのボディブローを食らった際、このままじゃやられると判断したであろうバルディッシュが、独断でカートリッジを四連続ロードして主人の肉体をありったけ強化した。

 アタシが抱いた疑問に対する答えとしてはこれで間違いないだろう。

 特別なギミックなんて何もない、シンプルな対処法。だが、それを豊富な魔力を持つテスタロッサがやると脅威でしかないのだ。

 

「はぁっ!」

「んなろ……っ!」

 

 と、こちらが考え込んでいる隙にテスタロッサは一気に間合いを詰め、今度は脳震盪でも起こす気なのか顔面目掛けて双剣を薙いでくる。

 咄嗟に上体を後方へ反らすことでそれを回避し、間髪入れずに両手を地面につけてブリッジの体勢となり、テスタロッサの下顎を蹴り上げようと右足を突き出す。

 

「っ――!」

 

 だが当たる寸前でかわされてしまい、彼女が掬い上げるように振るった双剣を避けられずに両腕でガードするも、威力を殺し切れずそのまま吹っ飛ばされてしまう。

 

「が、ァ……!?」

 

 そして壁に激突し、何かのタガが外れたかのように鈍い痛みや鋭い痛みなど、痛みを始めとするいろんな感覚に襲われた。

 

「い、ってえなァ……!」

 

 ここで止まるわけにはいかない。そう自分に言い聞かせて立ち上がり、呼吸を整える。

 次に斬られた両腕へと視線を向け、傷が付いていないことを確認する。まぁ残念ながら、斬り跡は袖に残ってしまったが。

 しかし、傷はなくとも痛みはあるので思わず顔を歪めてしまう。

 

「……そろそろ観念してくれると助かるんだけど」

「ほざけ……!」

 

 すかさず足に力を入れて地面を蹴り、テスタロッサの眼前まで肉薄したところでさらに加速し、彼女が振るった双剣を残像で凌ぐ。

 続いて背後に回り込み、あらかじめ構えていた左の拳をテスタロッサ目掛けて突き出し、さっきも使った凄まじい方の拳圧を飛ばす。

 

 拳圧を至近距離から飛ばされたことに驚きの表情を見せるも、飛行魔法と高速魔法を併用することで空中へと回避するテスタロッサ。

 さらに一瞬の間もなく自身の周囲に生成した複数のスフィアから、最初に見せた槍のような魔力弾を容赦なく連射してきた。

 

「こなくそッ……!?」

 

 迫り来る弾幕を両手で一つ一つ弾いていき、直後に飛ばされた円形状の刃――ハーケンセイバーを咄嗟にミドルキックで破壊する。

 さすがに一度食らった技を二度も通用させるほど、アタシはヤワな人間じゃねぇ。

 

 テスタロッサは大鎌へと変形させていたバルディッシュを双剣に戻し、それを連結して非常に重そうな大剣へと変形させた。

 いや……ちょっと待て。何だあの大剣は。ある意味さっきの砲撃よりもヤバそうなんだが。

 内心不安になりながらも構えようとした瞬間、テスタロッサが大剣の重量を感じさせないほどの凄まじいスピードで肉薄してきた。

 

「はあぁぁっ!」

「ざけんな……!!」

 

 すぐさま脳天目掛けて振り下ろされた大剣を、真剣白羽取りではなく普通に両手で受け止める。それでも若干白羽取りに近くなったが。

 加えてアタシが大剣を受け止めた瞬間、自分の立っている場所が陥没し、思わず体勢を崩しそうになってしまう。

 もちろん刃を素手で受け止めているため、両掌から血は出ていないものの鋭い痛みを覚え、腕の力が緩みそうになるも必死に耐える。

 

「う、ぐぅ……ッ!」

 

 というかヤバイ、掌に続いて腹部が痛い。ズキズキする。今にも傷口が開きそうだ。

 

「――おおぉぉぉっ!!」

「ぐ、ぁぁっ……!?」

 

 正面からは斬れないと判断したのか、今度は大剣を真横から薙ぎ払うように振るい、アタシの身体をボールのように吹っ飛ばした。

 きりもみ回転こそしなかったものの、音速に近しいかなりの速度で壁に叩きつけられ、息が詰まると共に血を吐いてしまう。

 

「このやろ……」

 

 息を整えてゆっくりと立ち上がり、お面を少しズラして血の混じった痰を吐き捨てる。

 何だコイツ。ホントにダメージ食らってるのか? 動きに何の支障も出てないんだけど。

 それに対してアタシは満身創痍。コイツを倒す力なんてとてもじゃねぇが残っていない。

 

 ――やっぱり逃げよう。

 

 最初からそのつもりだったし、今のところ力で勝ってもスタミナで完敗している。何度でも言うがアタシが先にくたばるだろう。

 

「チィッ……!」

 

 脱力した自然体の構えを取り、本来の目的である逃走を実行に移すべく、テスタロッサから少しずつ離れてバレないように周囲を見渡す。

 強引に変えていた声色もいつの間にか元に戻っているし、戦う分の体力も限界だ。これ以上戦うと身バレどころか、先にアタシがくたばっちまう。ここは逃げの一択が妥当なのだ。

 こちらの考えには気づいていないのか、テスタロッサは構えたまま動きを見せない。

 

「ん――あっ!?」

 

 そこで彼女の視線を中途半端に壊れた廃墟へと誘導し、その隙に全速力で逃走を開始する。

 もちろん、ただ逃げるだけじゃすぐに追いつかれてジ・エンドだ。だから今度はさっき以上にここの建造物を利用させてもらう。

 

 ソニックブームを発生させながら大きな廃墟の下へ潜り込み、それを支えている柱を拳で一本ずつ丁寧に、跡形もなく破壊していく。

 追いついたテスタロッサはアタシの行動を訝しげに見ていたが、こちらが全ての柱を破壊し終えると察したように空中へと離脱する。

 

 ――そしてその直後。

 柱という支えを失った廃墟が凄まじい轟音と共に崩れ始め、膨大な量の砂煙を舞い上げながら無数の瓦礫となった。

 

「っ、砂埃に紛れて逃げるつもりか……!」

 

 砂埃の中に立っているアタシにもはっきりと見えるほど眉を吊り上げ、首をキョロキョロさせながら忌々しそうに呟くテスタロッサ。

 アホかお前は。このまま逃げてもすぐに見つかるのがオチだっつの。

 

 煙幕代わりの砂埃を払ってしまわないよう、その中を慎重に移動し、すぐ近くにあったさらに大きな廃墟の元に辿り着き、分厚そうな壁の前で左の拳を溜めるように深く構える。

 今からやることは、一種の賭けだ。この一撃でアタシは戦う分の力を使い果たす。次にできることは尻尾を巻いて逃げることだけ――!

 

「オ……ラァ……!!」

 

 深く構え、文字通り持てる力の全てを乗せた左拳を、全身の筋肉を連動させて身体を捻るように放ち、廃墟の壁を思いっきりぶん殴る。

 

 

 ――次の瞬間、廃墟がさっきとは比べ物にならない轟音を立てて粉々になり、廃墟都市区画全域を吹き飛ばしかねないほどの拳圧が発生した。

 

 

「なんて風圧――!?」

 

 拳圧は生きているかのように渦を描いて空中にいたテスタロッサを、彼女が咄嗟に展開した魔法陣ごと飲み込んでしまい、そのままこちらが見えなくなるほど遥か上空へと連れ去っていった。

 

「ザマァ、みやがれ……!」

 

 いくら飛行魔法と高速魔法を併用できても、あの調子ならしばらくは降りてこれないはずだ。

 まっ、最初からこれが狙いだったんだけどな。あのままだとマジで勝ち目なかったし。ただ、結果的には期待以上だったし問題はない。

 

「ぐァァ……!? いっ……てぇなクソが……!」

 

 その光景を見届けた直後、いきなり全身から血が噴き出し、骨と筋肉に想像を絶するほどの痛みを覚え、目の前が一瞬だけ白黒になった。

 あれだけの一撃を疲労した状態で放ったんだ。それなりの反動は覚悟していたが、いざ味わってみると想像以上にヤバイな。

 

「でも……今しかねぇ……!」

 

 全身が悲鳴を上げる中、今がチャンスと見たアタシは最後の気力を振り絞って動き出す。

 目指すはさっき奪い取った宝石を隠す際に使った、瓦礫の下に埋もれるマンホールの蓋だ。

 おそらく、こいつは今のアタシに残された唯一の逃走経路だろう。失敗するわけにはいかない。己の人生も掛かってるしな。

 

「こん、のぉ……!」

 

 無数の瓦礫を力ずくで退かし、マンホールの蓋を強引に引っこ抜き、それを持ったまま力尽きるように下水道へ飛び込む。

 続いて痕跡を残さないよう、持っていた蓋でマンホールの出入口を閉じる。少し探られたら見つかるだろうが、時間は稼げるはずだ。

 

 

 

「チッ……」

 

 それにしても……こういうところに来るのは久しぶりだな。下水道でケンカしたことは何度かあるが、長時間ここにいたことは一度もない。

 

 最初に落とした宝石を回収し、付けていたお面を乱暴に外してその場に投げ捨て、強がりもせず壁にもたれながら、ダメージと反動で非常に重くなった身体を引き摺っていく。

 途中で血を吐き、腹部を始め全身から激痛が走っても足を止めなかったが、ある実感が湧いてきたところで一旦立ち止まる。

 

「ッ、クソ……!」

 

 ここに来てテスタロッサから逃げられたことに安堵し、不甲斐ない自分に対する怒りと悔しさが込み上がってきたのだ。

 逃走に成功したからといって、勝ったわけじゃない。少なくとも、今回は完敗だ。

 しかも相手が相手だったため、仕方ないといえばその通りなのかもしれないが、アタシとしてはこれっぽっちも納得していない。

 だから次は――

 

 

「――次はぜってぇぶっ殺す……!!」

 

 

 いつになるかはわからねぇが、次にやるときはアタシが勝つ。絶対にな……。

 

 

 

 

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