Vivid Outlaw   作:勇忌煉

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第8話「死んでも折れない」

 

 

 

 

 死 ね な い ん だ よ !

 

 

 

 ――まだだ――

 

 

(……たかが心臓が止まったくらいで、寝てんじゃねぇぞアタシ(バカヤロー)……!)

 

 

 確かに心臓は止まった。アシンの正拳突きで貫かれ、心停止に陥った。

 だがな――脳はまだ、生きてるんだよ。完全に死ぬまでの、僅かな時間を生きてるんだよ。

 そんな最期の瞬間でも、アタシの魂は諦めていない。心臓は――肉体は死んだも同然なのに、諦めていない。生きろ生きろと叫んでいる。

 

 

 アタシの(ヤンキー)は、死んでも折れない――!

 

 

「……ッ……!」

 

 この世に対する未練か、それとも生に対する執着か。意識が覚醒してきた。

 多分、動ける。いや、絶対に動いてみせる。動かなきゃ今度こそ終わりだ。

 でも、動けたところでどうする? 時間を掛けて心肺蘇生でもするか?

 

 

 ――アホか。今のアタシにそんな時間はねぇんだよ。

 

 

 だが、何かしないといけない。何もしないなんてそれこそ論外だ。

 だったら――もう迷う必要はないし、迷っている暇もない。

 だから――

 

 

 緒方サツキよ。

 

 

 この魂が尽きるまで――働いてもらうぜ。アタシが不甲斐ないばっかりに休ませちまったが、もう二度とそんなヘマはしない。今を以ってお前の休息は、おしまいだ。一生無休だから覚悟しろ。

 

 

 ――行くぞ。

 

 

 ずっと空を見上げていた上半身が、()()()()()()()()()()()()起こされる。

 本当なら使いたくはなかったが、この際だ。四の五の言ってられない。

 しかも今からやることは賭け。それも正真正銘、命懸けの大博打。

 

 アタシは右手を胸に、左手を背中に、

 

 

 ――バツンッッッッッッ――!

 

 

 それらを全く同じタイミングでブチ当て――亜音速並み二発、合計およそマッハの二倍の衝撃を心臓のド真ん中で衝突させる。

 

 すると肋骨の内側で、役目を終えたと勘違いして休んでいた心臓が跳ね回り、かつてないほど強引に鼓動が取り戻され、再び心臓から全身へ勢いよく血流が流れ込んできた。

 続いて心拍が再開し、死んでいた筋肉が甦り、固く閉ざされていたアタシの瞼が開かれる。そして激しく咳き込みながらも、大きく息を吸い込む。体は……どこも破損してない。

 

「はぁ……はぁ……空気、うめぇ……」

 

 今やったのはとある小説の主人公が行った、起死回生の自己蘇生技――その模倣版だ。

 しかし、その主人公はこれを特殊な状態で行っているため、やり方がわかったところでそう簡単に再現できる代物じゃない。

 

 

 ――()()()使()()()

 

 

 五体を外部から完全操作できる、身体自動操作魔法を。

 

 今回使った蘇生技、大雑把に見えて実はとてつもなく繊細なものだったりする。

 両手から放った、合計マッハニクラスの衝撃。これを内臓や骨をすり抜けさせて、ピンポイントで心臓にだけ伝える必要があるのだ。

 

 こんな神業、仮に万全の状態だったとしても自力じゃできそうにない。だからこそ、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()、身体自動操作に全てを賭けた。

 ……魔力を使うという性質上、マジで使いたくはなかったんだけどな。

 

「…………おふっ」

 

 無事に生き返ったことに安堵した途端、起こしていた上半身がバタリと倒れた。

 あぁ、そうだった――もう戦う力も、逃げる力も残ってなかったの、完全に忘れてたわ。よくこんな状態であの蘇生技を再現できたなぁ……。今回ばかりは身体自動操作様様だな。

 

「ねみぃ……」

 

 これも安心しきったせいなのか、さっきとは違う形で意識が遠退いてきた。

 そりゃそうだ。体力を文字通り使い切っているんだからな。まぁ、身体自動操作を使えば動けるが、これ以上身体に負担を掛けたくないし、何よりもう使いたくない。だからなしだ。

 だがそれは、死に掛けのアタシが、もうすぐ警邏隊に確保されることを意味している。さすがに今回は万事休すかもしれない。

 

 

 その証拠に――さっきからずっと聞こえていたサイレンの音が、だんだん大きくなっている。もう、すぐそこまで来てやがるんだ。

 

 

「…………さん……!」

 

 

 クソが……ここでアタシは終わりってか。笑えねぇよ。せっかく使いたくもない魔法を使ってまで生き返ったのに、このままじゃ地球で言うムショ――刑務所ヘ連行されるんだからな。

 

 

「…………緒……さん……!」

 

 

 ……さっきから誰だよ鬱陶しいな。人の苗字を、まるでこれから死んでゆく人間に対して連呼するように何度も呼びやがって。

 

 

「緒方さんっ!!」

 

 

 誰かがバッと勢いよく覗き込んできたと思ったら、バイト探しをしているはずのレヴェントンだった。なんでここにいるのコイツ。

 ていうか顔近い、顔近い。アタシに力が残っていれば問答無用で殴り飛ばすくらいには顔が近い。頼むから、離れてくれ……。

 

「な……なしてこんなことに――っ!? 緒方さん、しっかりしてくださいっ!」

 

 レヴェントンの顔を見て、安心でもしたのだろうか。さっきよりも視界が暗くなってきた。でも、呼吸は安定しているし、心臓もちゃんと動いている。……これなら大丈夫だな。

 

 

 

 ――お休み、レヴェントン。

 

 

 

 

 

 

『あなたは――』

 

 

 あぁ、またか。またこの夢か。

 

 

『あなたは一体、どこへ進もうとしているのかしら?』

 

 

 うるさい。アタシはアタシのやりたいようにやる。どんな時でも突っ張り通し、頭はぜってーに下げず、ムカつく奴、アタシの行く道を邪魔する奴は誰であろうとぶん殴る。

 

 

『――あんたには護るものとかないわけ?』

 

 

 あってたまるかそんなもん。アタシはアタシのために生きているんだ。なんで自分の人生を他人のために削らなきゃなんねぇんだよ。

 

 

『クソはお前だ。今さら善人気取りとか笑わせんじゃねえよ』

 

 

 わかってる。お前らに言われなくとも、このアタシが誰よりもわかってんだよ。これが世間では、現実逃避として扱われていることも。

 

「――なぁ、もういいだろ?」

 

 何がもういいんだよ。今度はアタシと同じ声で話しかけやがって。まるで善人の自分と会話してるみたいで気持ち悪いんだよ。

 

「本当は戻りたいんだろ? アイツらのいる世界へ」

 

 違う。アタシは今いる世界が好きなんだ。この世界の方が、向こうの世界よりも居心地が良いんだよ。あんな善意に満ち溢れた世界、アタシには無理だ。居心地が悪すぎる。

 

「大丈夫だ。今ならまだ間に合う。さすがに相応の罰は受けるはめになるがな」

 

 知ったことか。大方、これ以上取り返しのつかないことになる前に、あの甘ちゃんばっかいる世界へ戻れって言いたいんだろ。

 ……ふざけんのも大概にしろ。どんなに大きな見返りがあろうと、あそこにだけは死んでも、心がバッキバキに折れても戻らねぇよ。

 

「じゃあ、お前はこのままで良いのか?」

 

 だから、お前は何が言いたいんだよ。

 

「このまま一生、半端者で良いのかって聞いてるんだよ。今はお前がガキだからそうしていられるが、それもいずれは卒業しなきゃならないんだぞ」

 

 ……ここに来て笑わせんじゃねぇよ。何かと思えばそんなことでアタシを、善意に満ち溢れた世界へ連れ戻そうとしていたのか。

 確かに、お前の言うことは正しい。世間的に見れば間違いなく正論だろう。だけどな――

 

 

 

 

 ――それでもアタシはヤンキーなんだよ。

 

 

 

 

 ここだけは、どれだけ多くの災いが降りかかろうと譲らない。お前らの言葉がどんなに正論であろうと、そんなもん関係ねぇんだよ。

 例えこの選択が、最悪の結果をもたらすことになろうとも、アタシはこの意志を曲げるつもりはない。そもそも、テメェらに決められる筋合いはねぇんだよ。だから――

 

 

 

 

 ――もう、二度と出てくるな。

 

 

 

 

 

 

 

「――ん……」

 

 一筋の光もない深い闇を気合いでブチ破るように、目が覚めた。

 瞼を開ける前に、いつものように五感をフル活用して周囲の状況を確認する。

 

 まずは聴覚。……何も聞こえないな。強いて言うなら、一人分の足音と息遣いの音がこっちに近づいている。心当たりがあるとすれば……レヴェントンだな。というかアイツ一択だわ。

 次に嗅覚。薬品の臭いがせず、嗅ぎ慣れた生活臭がするってことは、少なくともここは病院じゃない。だとすれば、アタシは身バレせずに済んだってことか。正直ありがたい。

 そして感覚。窓は閉まっているのか風はなく、人の気配を感じる。この気配は……おそらく最初に聞こえた足音と息遣いの主だろう。

 

「……大丈夫そうだな」

 

 最後に目を開け、何回か瞬きをして視界が良好か確認する。……知らない天井だ。マジで。

 病院の天井じゃない、どこかの住宅の天井を視認したところで、さっそく視点を室内全体を脳内で上から見たものに切り替える。

 えーっと……多少散らかってはいるが、触れたら危ないって感じの道具はなさそうだ。ただ、内装自体はまだ新しい。建物が新しいのか、部屋の主が引っ越してきたばかりなのか……。

 まぁ何にせよ、危険はなさそうだ。視点を元に戻し、上半身だけを起こす。

 

「タバコは…………クソがっ」

 

 もしかしたらと思ってズボンのポケットを弄ってみたものの、やっぱりタバコはなかった。早く吸いたい。吸いながら一杯飲みたい。

 ……それにしても、ここはどこだろうか。誰かにここまで運ばれたのは間違いないだろうが、あそこからはそんなに離れていないはず。だとすると、アタシはまだミッド北部にいるのか……。

 

「とりあえず起き――ッ!?」

 

 身体を動かした瞬間、全身から激痛が走り、思わずぶっ倒れてしまう。

 どうやらあの時のダメージがまだ残っているらしい。しかも痛みの具合から察するに、今回も目覚めるのが早すぎたようだ。

 ただ、やっぱり骨は折れていない。どっちかというと筋肉痛を悪化させたものか。後、フラフラするから貧血かもしれない。

 よし、こうなったらもう一度寝る――

 

 

「――あっ、緒方さん! 目を覚ましたんですね!」

 

 

 一体どうやってアタシが目覚めたことに気づいたのか、足音と息遣い、そしてこの部屋の主であるレヴェントンが、めちゃくちゃ嬉しそうに入ってきた。それはもう、嬉しそうに。

 

 

 

 

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