Vivid Outlaw   作:勇忌煉

9 / 26
第9話「渇望と先生」

「無理せんでくださいよ。まだ傷も癒えてませんし」

「朝っぱらからうるせぇなお前は。そんなに言うならお前が行けよ」

 

 何だコイツ。死ぬほどウゼェぞこのクソガキ。この身体が全快していたら最低でも顔面を二、三発ぶん殴るくらいにはウゼェぞ。

 

 あれから満面の笑みを浮かべるレヴェントンに話を聞いたところ、生き返ったあの日から一週間しか経過していないことがわかった。どうりで目覚めるのが早すぎると感じたわけだ。

 だって全身から血が噴き出して、肉体のキャパシティを軽々と凌いで動いた挙げ句、一度死んだのにたったの一週間しか経っていないんだぞ? 本当なら一ヶ月以上は寝ているはずなのに。

 今更だが、どうもアタシの身体はこの世界に来てから変わってしまったようだ。地球人はおろか、魔法が常識のミッド人やサイボーグの戦闘機人ですら比較にならないレベルで進化している。

 

 ……いや、進化していると決めるのは早計か。だが、実際そう言われても違和感がないほど強くなっている。正直言って認めたくはないが。

 しかも以前、黒のエレミアには『自分より強い敵と戦うことで強くなっている』と言われたが、皮肉なことにその通りかもしれない。

 まぁ、だからどうしたって話だけどな。アイツの言うことが正しいからと言って、自分から望んで強さを手に入れる必要はない。

 

 

 

 アタシが欲しいのは力じゃない。自由だ。

 

 

 

 誰の手も借りず、自分の手で掴み取る自由だ。それに比べれば、力や強さなんてクソ食らえだ。強くなりたいから拳を振るうんじゃない。自由を手にしたいから拳を振るうんだ。

 

「い、いや、未成年のわしじゃタバコとビールは買えませんし……」

「だからアタシが行くつってんだよ」

 

 まぁそれは一旦置いといて、問題はこの現状だ。レヴェントンが外出許可を出してくれない。タバコ買いたいのに。ビール買いたいのに。

 

「やっぱりその身体じゃダメです! もし不良なんかに絡まれたら……」

「アタシもその不良なんだが?」

 

 確かに身体はボロボロだが、お前ごときに心配されるほどヤワじゃねぇよ。

 

「まぁいい。わかったらさっさと上着を寄越せ。何が何でもタバコとビールは買うからよ」

「わしの話を聞いとったか!? その身体で行くなぁ無茶じゃって!」

「ぐぅっ――!?」

 

 クソガキの制止を振り切って強引に起き上がるも、後ろからしがみ付かれた。しかもそのせいで、治まっていた全身の痛みがぶり返してしまった。何てことしてくれるんだコノヤロー……!

 

「痛えなテメェコノヤロー!」

「ぶふっ!?」

 

 しがみ付くレヴェントンの下顎に膝蹴りをかまし、知らないうちに洗濯され、ご丁寧にハンガーに掛けてあるお手製のパーカーを羽織る。

 そして玄関前まで来たところで振り返り、目を回して気絶しているレヴェントンを一瞥する。ホントに弱いなコイツ……。

 

「さーて、とりあえず行くか」

 

 まずはタバコとビールを調達、ついでに現状を把握するとしよう。

 

 

 

 

 

 

「う~む……」

 

 路地裏で四、五人のゴロツキをストレス発散も兼ねてボコりまくり、タバコとライターをありったけ奪い取ったアタシは、ビールや焼酎ばっかりが売ってある自動販売機で迷っていた。

 シンプルに生が良いか? それともハイボールか? 焼酎か? ワインか? どれも値段は一緒だ。何なら全部買ってやろうか?

 

「それにしても、よく見つからなかったもんだ……」

 

 あれから現状の調査をしたところ、ここがミッドチルダ北部と東部の境目であることがわかった。レヴェントンの奴、妙なところに拠点を構えたな。今のところ支障はないから良いけどさ。

 加えて周囲が落ち着いているのを見る限り、まだ管理局や警邏隊による調査の手は伸びていないようだ。アタシとしても助かるぜ。

 ……とはいえ、こうしていられるのも今のうちだ。長くは居られない。もしもの時はレヴェントンを置き去りにしてでも逃げないと。

 っと、そんなことよりも、今は酒だ酒。どれにしようかな……。

 

「よし、決めた」

 

 やっぱりここは生ビールだろ常識的に考えて。酒を飲むこと自体、約二ヵ月ぶりだし。

 周囲を警戒しつつ硬貨を自販機に入れ、売り切れでないことを確認してボタンを押す。

 取り出し口からガタンという音と共に出てきた缶ビールを素早く手に取り、再び硬貨を入れて缶ビールを二、三個ほど買い、自販機を後にする。とりあえずは目的達成だ。

 

「……あー、我慢できねぇ。飲んじゃえ」

 

 レヴェントンの家に戻ってから飲む予定だったが、もう限界だ。一個は今すぐ飲んでやる。そんでタバコも吸ってやる。待てるかクソが。さっそく缶ビールの蓋を開け、グイっと飲む。

 

「かーっ! 久々のビールはたまんねぇな!」

 

 続いて取り出した一本のタバコを口に咥え、使い捨ての安物ライターで火をつける。やっぱり我慢するなんてアタシらしくねぇや。

 

 

 ……我慢と言えば。

 

 

「借りは返さねぇとな……」

 

 一度はアタシを殺した男、アシン。二メートル越えのガタイを持つ、ステゴロの殺し屋。

 アタシはアタシの道を行く。そのためにはまず、アイツをブチのめす必要がある。

 後はアタシとアシンを妨害した、狙撃手っぽい別の殺し屋。一瞬だったから素性は何一つとしてわかっていないが、ソイツもいずれ見つけ出してやる。この手でブチのめすために。

 

「まぁ、今はまだ隠れているとしますか」

 

 あれからまだ一週間だしな。

 

 

 

 

 

 

「お、緒方さん。ちぃと飲み過ぎじゃ……」

「あァ? まだ五個目だぞ。これのどこが飲み過ぎなんだよ」

 

 レヴェントンの家に戻り、小さなテーブルの前に座り込んだアタシは、帰宅途中に追加で買った五個の缶ビールを飲み干していた。

 さっき膝蹴りで気絶させたレヴェントンはピンピンしているが、まだ痛むのか時々下顎を擦っている。手は抜いたはずだが……。

 右手のタバコに取り出したライターで火を付け、すぐそばにいるレヴェントンにお構いなく紫煙を吐く。タバコの煙が嫌なら換気扇を回せばいいだけの話だ。アルコールの臭いは知らん。

 

「そういえばお前、どうやってアタシをここまで運んできたんだ?」

 

 答えはもう出ているようなもんだが、それでも知っておく必要はある。警邏隊がすぐそこまで来ていたにも関わらず、それに見つかることなくどうやってアタシを運び出したのか。

 

「おぶってきたに決まっとるでしょう。……すごい重かったんですよ?」

「やかましいわ殺すぞ」

 

 悔しいことに、こればっかりは自覚があるだけに言い返せない。何せ本来なら肥満体型ってぐらいの体重だからな。アタシのそれは。

 ……待てよ? コイツの言い分が正しいのなら、あそこからここまでアタシをおぶったってことになるんだよな? もしかすると……

 

「おい、逃げる途中で変な奴見なかったか?」

 

 アタシとアシンを狙撃した奴、もしくはその関係者を目撃した可能性がある。まぁ、基本単独の殺し屋に同行者がいるとは思えんが。

 

「すみません……逃げるのに必死で、誰がどこにおるのかすら見とらんかったので……」

「チッ……だろうな」

 

 そんなホイホイと事は進んじゃくんねぇか。進んでくれたら今後の方針も結構楽に決められたんだがな……。まっ、仕方ないか。

 ここは気を取り直して飲むとしよう。今日は地球で言うところの大晦日だしな。確かこっちの世界でも初詣ぐらいはやっていた気がする。……こっちの初詣はまだ行ったことなかったな。

 

「おいレヴェントン。明日は初詣に行くぞ」

「は、ハツモーデ……ですか?」

「おう、初詣だ。せっかくだし説明してやる」

 

 この様子からして、やはり初詣を知らないようだ。まぁ元は孤児だったわけだし、知らないことが多いのは当然だろう。

 レヴェントンに『初詣とは何か』と聞かれるよりも先に、簡単かつ若干早口で彼女に説明する。小学生でもわかるように説明したつもりだが、わかってくれるだろうか?

 

「――というわけだ。覚えたか?」

「えーっと、つまりハツモーデというなぁ年が明けてから初めて神社や寺院やらに参拝して、一年の感謝を捧げたり、新年の無事と平安を祈願したりする行事……じゃろか?」

「よく覚えられたな。偉いぞクソガキ」

「ガキ扱いせんでください……」

 

 よしよしと頭を撫でると、レヴェントンは恥ずかしいのか顔を赤くし、俯いた。どうもこういうのには慣れていないようだ。

 

「まぁ、そういうことだから飲むぞ」

「わ、わしは飲めませんよ……?」

「誰が飲ませるかバカ。こいつを飲むのはアタシだけで充分なんだよ」

 

 レヴェントンは自分が飲まされると思ったようで困惑していたが、アタシはそれを即行で却下した。お前にビールはもったいない。

 右手に持っていたタバコを一口吸い、懐かしむように紫煙を吐き出す。やっと、やっとアタシの元にタバコとビールが戻ってきた。

 ぶっちゃけ帰宅途中ですでに飲んだり吸ったりはしていたが、落ち着いてそれができる今だからこそ、そう実感せずにはいられない。

 

「……お前も何か飲めよ。今日は大晦日だぞ?」

「そう言われましても、今は水しかないけえ…………オオミソカってなんじゃろか?」

「嘘だろお前……」

 

 また説明しなきゃなんねぇのかよ。義務教育の経験がないからってこんなに知らないもんかね? 孤児院の連中は何を教えているんだ。

 いや、多分コイツがいた頃はまだ大晦日や初詣といった習慣が世間に浸透していなかったのかもしれない。あくまで可能性だけど……。

 

「もう頭痛ぇわ……」

「飲み過ぎはいかんって言うたじゃろう!? ええ加減横になりましょうよ!」

「頭が痛ぇのはお前のせいだクソヤロー!」

「ごふっ!?」

 

 結構な量を飲んでいたこともあり、あっさりとレヴェントンをぶん殴ってしまった。だって寝ろ寝ろしつこいんだもんコイツ。

 もちろん、酒のせいで頭が痛いわけじゃない。先が思いやられるから頭が痛かったのだ。アタシはお前の先生じゃねぇんだぞ……。

 右の頬を押さえて悶絶するレヴェントンをよそに、七個目の缶ビールを一気飲みする。

 

 

「…………先生、か……」

 

 

 そういうのも、アリなのか……?

 

 

 

 




 凄く今更ですが、よろしければ感想お願いします。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。