宮戸島の提督と仲間達のお気楽日記   作:SAMICO

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今回は2500~3500文字程度の短編で気楽に書いていきます。
ほのぼのあり、シリアスあり。

だがこの提督やる気はない。


Season1/2018年編
はじまり


2011年3月11日、人々から『悪夢の日(ナイトメア・デイ)』と呼ばれるその日がやって来た。

 

突如世界中の海に、『深海棲艦』と呼ばれる化物(バケモノ)が現れたのだ。

その化物は、何故か日本を集中的に襲い、次々と護衛艦が沈んで行った。

 

日本はもう終わりか?そう誰もが思ったその時、

艦娘と呼ばれる存在が次々に現れて、深海棲艦と戦い始めた。

海上自衛隊は、その艦娘(かんむす)達に協力を約束し、全国に鎮守府(ちんじゅふ)と呼ばれる拠点を作り、

陸海空三自衛隊自衛官の中から、艦娘と親和性のある人材。

つまりは、艦娘と共に顕れた妖精さんたちが見える存在を選抜し、「提督(ていとく)」として送り込んだ。

 

その戦争が始まって、もう七年が経過していた。

 

高菜直哉(たかななおや)二等陸佐は、この時38歳。防衛大学校を優秀な成績で卒業し、

普通科に配属され、イラク派兵等も経験している自衛官である。

だがこの男、普段のやる気の無さと必要に迫られた時の勤勉さに非常に落差のある男で、上官としても扱い辛い男だった。

 

たまたま着任していた宮戸島の島民避難計画を策定し、一人の犠牲者も出すことなく宮戸島脱出計画を実行し、

「宮戸島の英雄」と、呼ばれることになってしまった。

二等陸尉から、一等陸尉をそのままスルーして三等陸佐への昇進となった。

そんな英雄だが、この男、普段はやる気が全くなかった。

そんな彼にも、当然ながら適性試験の通達がやって来た。

試験と言っても簡単である。妖精が見えるか見えないか、だけである。 

 

要は簡単である。見えてしまったのだ。

彼の上官は大喜びで、提督として秘書艦・電をパートナーに付け、奪還を果たした嘗ての活躍の地・宮戸島へと送り込んだのである。

傍から聞けばそうなるが、要は厄介払いである。そうして送り込まれて、数年が経っていた。

宮戸島では大歓迎で迎えられた。だが、英雄としてではなく、『街の人気者』としてである。

そう、英雄っぽさが一切皆無だったのだ。

 

「高菜二佐、今日も出撃して来たのです」

宮戸島鎮守府……といえば聞こえはいいが、艦娘一人に、提督一人、あとは妖精さんという、寂しい施設。

その司令官執務室の、エグゼクティブチェアに凭れ掛かって眠っているのが、高菜二佐である。

「高菜二佐、起きるのです!」

ちゃきっと主砲を向けると、危険を感じはっと目を覚ます高菜二佐。

「はっはっは、おかえり」

朗らかに笑う高菜二佐に、電は大きな溜め息を吐いた。

この電、着任時から最強練度の艤装を持って生まれた、所謂バグやチートの類なのである。

あまりにも優秀過ぎるこの秘書艦・電に、一切合財をお任せして居るのである。

そして、優秀過ぎるが故に、彼女に最高の装備を回しているが為に、増員の必要性を感じなくて、今の所艦娘は電一人である。

「うん、今日も無傷で元気で何よりだねぇ」

「なのです!」

にこやかに褒めると、電は笑顔に戻る。

周囲を見回すと、妖精さんが報告書を書いたり、大本営に連絡を取ったり、雑務を全てやっている。

高菜二佐がやることは………

 

電の出撃までで、彼女が出撃してしまうと特に無いのである。他の提督は、部隊指揮やら資材運用やらで頭を悩ませているが、

そんなものはすべて妖精さんや電にお任せ、暇を見つければ筋トレをやって昼寝をする毎日、なのである。

制服には一応、レンジャーやら冬季遊撃レンジャーやら空挺やらの徽章をつけている為、優秀な男の筈なのだが、

必要に迫られないと、特にやることも無いのである。

 

そんなタッグが、ずっと続いていた。

周囲は、宮戸島鎮守府を弱小鎮守府と嘲笑っているが、要求される以上の戦果は収めている。

とにかく、この電はトチ狂った性能なのだ。

攻撃は避けるわ、砲撃は当てるわ、魚雷は当てるわ、戦艦ル級程度なら撃沈できるわ、敵艦載機の攻撃すら楽勝で避けてしまう。そして、目的を達成したら速やかに撤退する。

『宮戸島近海域の迎撃』を主任務としている、彼の任務から言えば上出来の部類なのだ。

本人曰く「給料分の働きさえしていればいい、功を焦ると碌な事はない」のである。

寧ろ、調子に乗った大艦隊を従えた提督の方が、功を焦り過ぎて前に出過ぎ、轟沈する艦娘を出してしまうのだ。

轟沈した艦娘を出した鎮守府は、艦娘からの信頼を失う。艦娘とて心のある存在なのだ。

他には、性的暴行を加えたりする輩も、時にはいる。戦果主義で、艦娘を人扱いしない連中もいる。

提督には命令強制権(指揮命令システム)がある為、艦娘は反抗できないのだ。

そういった連中は、定期的な査察で排除されるが、完全に取り除ける訳ではない。

そういう連中は、ブラック提督だのブラック鎮守府だのと言われている。

高菜二佐は、そういった指揮命令システムを忌み嫌い、電の裁量に任せつつ、楽に確実に勝たせる指示を出すのだ。

それが「楽そうに」出来るのが、彼の戦術・戦略的センスである。

 

 

高菜二佐に対する妖精さんの信頼が篤いのは、やるべきことをきちんとやってから、昼寝をするからである。

戦略を立てて、戦術に落とし込み、的確な攻撃指示と撤退条件を定める。

万一の場合は、いつでも連絡するように言い聞かせる。

そして、苦手な書類仕事や大本営の連絡は、事務妖精さんに全部丸投げする。

妖精さん達にはいつも、アイスを買って買収しているのである。

「いつも済まないね」

と謂いながら、アイスを購入しては振る舞っている。

常に、電に『楽に勝たせる』戦略を取り続ける彼を、周囲は給料泥棒と忌み嫌っている。

だが本人は、「これも給料分のうちさ」と、呑気に取り合わない。

 

「さて。無事帰ってきたご褒美に、アイスを用意してあるよ。今日は抹茶味だよ」

「わぁ、有難うなのです!」

そしてこの電も、アイスに釣ら(買収さ)れる一人である。

 

 

「戦況はどうだい?」

「毎度毎度、敵を引き連れて撤退して来る間抜け共の尻拭いなのです」

電は、アイスを食べながら溜め息を吐く。

「まったく。どいつもこいつも、面倒事を押し付けないでもらいたいな?」

電が淹れてくれたコーヒーを飲みながら、こちらも大袈裟なため息を吐く。

「提督だって寝てるのです」

「いやあ、やることはやってるさ。給料分のことはね。私は給料分以上のことをするのが大嫌いでね?」

「相変わらず、やる気のなさそうなお答えなのです」

「これでも、周囲の艦隊の動きをチェックしながら、作戦計画は立ててるんだよ?」

形だけジト目で見る電に、肩を竦めて自身を弁護する高菜二佐。

「まあ、楽して勝てれば言うこと無いのです」

電は理解している。楽に勝たせるために、情報分析や事前調査をキチンと整えているのは。

「逃げてくる艦隊の提督が『戦果の横取り』だの言っているが、まあ言わせたいやつには言わせておいてよろしい。だったら自分達の艦隊でどうにかすればいいだけ、の話さ」

「なのです」

 

二人共充分に毒を吐き終えたところで、時計を見ると1750(ヒトナナゴーマル)

「さあ、お夕飯(おゆはん)にしようか、いつもの大衆食堂(めしや)でいいかい?」

「はいっ」

 

二人して、宮戸島のいつもの食堂に向かうのだった。

 




一応高菜二佐のイメージは鈴村健一さんの声

ヤン(頭脳・やる気のなさ)+シェーンコップ(身体能力)+α(お気楽ご機嫌)÷3で
呑気な提督という、湊ちゃんとはちょっと違ったアプローチでやっていきたいと思います。

電ちゃんも若干プラズマさん入ってます。
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