―――労働基準法第二十四条―――――
あのパーティから、一月弱過ぎた。
梅雨の六月から、暑さ本番の七月になっていた。
その給料日前、高菜二佐は先に届く給与明細を見て、銀行へ赴いて支店長と何やら密談をしていた……
給料日。
電と卯月は定期哨戒が終わり、鎮守府に戻って来た。
執務室には会議用テーブルが設置されていて、
まず、そこに置いてあるジュラルミンケース二つに、電は嫌な予感を覚えた。
「おかえり。給料日だから現金支給をするね。まず明細から渡すよ」
明細を二人に渡していく。
「うっぴょおおおん!?」
卯月が明細を見て、驚愕の声を上げていた。
「どうしたのです?……!?」
覗き込んだ、電も固まっていた。
「ああ、今月と過去一年分の給与の支給が決定されてね。現金でって言うから、現金で持って来たよ」
「あわわ……」
「まずは、電からだね。お疲れ様でした」
ジュラルミンケースの片方を開けると、中身ギッシリのA4の封筒を手渡す。
そのずっしり感に、電は嫌な予感がして封を切ると、中を確認する。
中には千円札の
「わーい!って………嬉しくないのです」
一瞬だけバンザイしてから、ジト目で高菜二佐を見上げる電。
「札束なんてそうそう触れるもんじゃないよ。それより、卯月は大変だね?」
そう言うと、もう一つのジュラルミンケースを開ける。
そして、中身をテーブルに取り出す。
千円札の
「……こんなにどうするぴょん?お財布に入らないぴょん」
ジト目で、抗議の声を高菜二佐にぶつける卯月。
「労働基準法第二十四条。賃金は、通貨で、直接労働者に、その全額を支払わなければならない、以下略。きちんと満たしてるだろう?」
「「次回から、
悪戯好きの提督に、溜め息を吐いて降参を宣言すると、三人で銀行に行き、全額を銀行口座に入金するのだった。
――――――――
さて、銀行で高菜二佐と別れた二人は、
「今日は、夕飯も各自自由で。私は約束があるから、緊急時になったら呼ぶね」
とのお言葉に甘えて、キャッシュカードである程度のお金をおろすと、通帳も記帳する。
「はぁ。また優衣さんから、お小遣いが入ってるのです……」
「どうしたぴょん?」
「提督の双子のお姉さんで、電のことを何故か溺愛しまくってて、高菜二佐のことも大好きで、いつも出会うと……」
「電ちゃあああああああああああああああああああああああああああん!!!」
という、大きな声を上げて、フォーマルスーツでハイヒールの、茶色のショートボブの長身の女性が突進して来る。
「わわわ!!」
突然の状況に、卯月は電からぱっと離れると、そのまま電は突進してきた女性に抱き上げられて、クルクル回ってダンスするかのように抱き締められている。よくヒールが折れないものである。
しかも、公衆の面前である。
「こうやって抱き締めるのです」
「おー……凄いぴょん」
顔を真っ赤にして抱き締められる電に、キョトーンとしたままの卯月。
「お、新しい子?なんてなんて。優衣姉ちゃんに紹介してよ?」
卯月の存在に気づいた優衣が電に言うと、
「まずは、下ろして欲しいのです」
との抗議に、ごめんごめんと言いながら下ろす。
「優衣さん、新しく宮戸島に配属された、駆逐艦卯月一士」
「よろしくぴょん、ビシッ」
敬礼する卯月に、優衣もおどけて敬礼を返す。
「こちらの背の高い女の人が、高菜二佐の双子のお姉さんで、高菜優衣さん」
「まあ、もうそろそろ高菜じゃなくなるけどね」
「お見合いが決まったんですか?」
「うん、商社系グループ会長の長男とお見合い~。確定で結納済み。相手18だから、私となんかじゃもったいなさ過ぎるくらいのいい相手」
「ところで、何しに宮戸島に来たのですか?」
その問いに、しゃがんで二人に視線を合わせて、
「直哉に、お見合いの報告と、久々に顔も見せたいな、って。お店でもう一人と待ち合わせで車で拾うから、鎮守府で待ち合わせ?」
そう言うと、ちらっとハザードランプを点滅させて、路上駐車している車を見遣る。
赤い外車で、跳ね馬のエムブレムを付けている。
「おー、超高級車感があるっぴょん」
「高級車なのです」
実際、島の皆も珍しそうに見ている。
「それよりも行って、言ってあげないと、高菜二佐待ってるのですよ?」
「あ、そうだった。それじゃまたね?あ、卯月ちゃんにお小遣い」
そう言うと、お財布からむんずと20万ほど出して渡す。
「あ、ありがとぴょん」
「来月には、直哉から口座番号聞いて振り込むからね。じゃねー」
と、にこやかに去って行った。
「嵐のような人だったぴょん」
「なのです」
お金を、お財布に仕舞いながら電は、
「さて何をするのです?」
「うーちゃん、今までお金使ったこと無いから判らなくって……」
その言葉に、どんなに過酷な状況だったか察した電は、笑顔で卯月の頭を撫でる。
「じゃあ、ゲームをやりに行くのです」
「ゲーム?」
「心のオアシスなのです」
連れて行ったのは、島で唯一のゲームセンターだった。
若い人達が
男の子もいっぱいいるので、卯月はぎゅっと電の袖を?んで離れない。
「まずは、お手軽にUFOキャッチャーをやるのです」
「これはどういうゲームだぴょん?」
「クレーンを操作して、中の景品を取るゲームなのです」
「おー、おもしろそうだぴょん!」
二人は両替機にお金を入れて、100円玉を握り締めると、可愛い人形「ゆとりくま」のぬいぐるみの置いてある機械の前に立つ。
「戦闘開始なのです」
「せ……せんとう……かいし……ぴょん?」
いつになく真剣な表情になる電に、首を傾げる卯月。
数十分後、お揃いのゆとりくまの縫いぐるみを抱っこしながら、ゲームセンター内を見て回る。
カーレースやバイクレースのゲームがあったり、所謂音ゲー等もある。
「ちょっとやってみるのです」
音楽が流れて来るタイミングに合わせて、上下左右のフットボタンを押して、ステップして踊るゲーム。
二人まで同時に出来るゲームで、「ダンスステップ革命」と言うゲームだ。
二人用でゲームを始めると、曲を選び始める。
「うーちゃんは簡単のでいいぴょん」
というので、イージーモードにして、自分はハードモードにする。
そして曲を選ぶと、ステージが始まる。するとギャラリーが集まって来る。
「電ちゃん、やるらしいぞ?」
「おー」
なんて声を掛けてくる。
卯月が必死に矢印にステップをしている間、卯月よりも高密度の矢印を、画面に背を向けて振り付けしながら、まさにダンスしている電。
「おー、すごいぴょん……」
必死にステップをしながら見ている卯月も、踏みながらその姿に見惚れていた。
卯月がダンスステップ革命の常連女性ゲーマーに、隣のダンスステップ革命筐体で教えてもらってる間、電はダブルプレイと言う、左右八枚のフットタイルを使って遊ぶゲームをやり始めている。
結構盛り上がっていて、観客も手拍子を始めたり、歓声を上げている。
電も、途中でギャラリーに向いて、煽ったりもしている。
先月のナイトダンスも凄かったが、今日のダンスは凄い……
卯月はそう思いながら、初めての給料日の楽しみを、満喫しているのだった。
その後、一緒にカメラでモーションをキャプチャーしてダンスするゲームで、
二人可愛くダンスしたり、カードデッキ系ゲームの誘惑を電が止めたりしていた。
「デッキ系ゲームは際限が無くなるのです!地獄の一丁目なのです!」
「そうだぴょん?」
そして、渋い将棋の全国対戦ゲーム「将棋戦争」で、卯月が強かったりして電を驚かせていた。それもその筈、アマ八段の腕前を持つ、高梨宮湊子の指導を受けているのだ。
「飯島流引き角戦法だぴょん!」
「ひき、かく?」
将棋をさっぱりやらない電にとっては、未知の世界である。
ゲームは級から始まる為、どこかの対戦相手はきっと、「段級詐欺だ!」と思っているに違いない。
連勝を重ねて、サクサクと級を上げて行く。
そして最後に、二人でプリクラを撮って、お揃いのお財布の内側に貼り付ける。
「今日は楽しかったぴょん!」
「なのです!」
もう空が暗くなった
電はギガエムドといって、超大盛りバーガー、卯月はビッグエムド。
セットでドリンクを頼む。二人共コーラとポテトだ。
バーガーを頬張りつつ、ポテトを摘まみながら、いろんなゲームの感想を語り合う。
因みに、ゆとりぐま獲得に費やした金額は……二人の中の黒歴史である。
そんな
本日のお題「ゲームをする」
《前書きの解説》
条文通りです。解説もへったくれもありません。