宮戸島の提督と仲間達のお気楽日記   作:SAMICO

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珍しい薄雲メインのお話。




薄雲の奮闘記~海賊の脅威~

夏休み真っ只中の8月。

薄雲は、お台場鎮守府の司令官代理を務めていた。

妊娠した電が早々に産休を取ってしまい、家でぬくぬくしている代わりに

粛々と仕事をしている。

 

三高ワンダーランドの来場客に演習を見せたり、艦娘交流会等もお台場鎮守府の担当である。

そう言った企画立案や三高ワンダーランドとの折衝も行わなければいけない。

……とは言え、電は()()()()紅茶を飲んで昼寝ばかりしている為、通常の業務はほぼ全て薄雲がやっている。

国防軍に改組して、少佐の階級を持つ高級士官なのだが、“夫に似て”余り仕事をやりたがらない。

薄雲はそんな日々を過ごしていた。

 

 

今日も仕事を片付けると、待っていた僚艦の卯月と子日と共にお台場に在る三友地所のレジデンスに帰宅する。

「ただいま」

「お帰りなさいなのです」

「お帰りなさい、お疲れ様」

 

お腹の少し大きくなった電と直哉が出て来る。

 

「支度は出来てるからね、そろそろ夕飯にしようか?」

 

エプロン姿の直哉がそう言うと、皆でダイニングに移動する。

ダイニングのテーブルには直哉の手料理が並べられており、どれも美味しそうである。

産休とは言え、直哉が家事も卒無く(こな)す為、電は家でものんびり紅茶を飲んでいる。

 

夕飯が終わると、薄雲は書斎で直哉と打ち合わせをする。

広報の関係等は、直哉に決裁を貰わなければならない為である。

 

「うん、薄雲が良いならそれでいいよ」

「分かりました」

 

薄雲はこくりと頷く。

薄雲は、最近イメージチェンジをして髪を染め、ポニーテールにした。

電達は可愛いと言っているし、それには直哉も同意だった。

 

そんな毎日だった。

 

薄雲の艦隊運営は平和そのものだった。

 

「おいっすー!」

「今日からお世話になるわね」

 

と言う言葉と共に、レ級と暁が転属して来なければ…………。

これは“深海棲艦との交流もするべきだ”という防衛省上層部からの案件なのだが、

どうも人選が噛み合っていない。

 

(そもそ)も、軍に入っている深海棲艦の数が極々僅かに限られている上、土佐鎮守府の深海棲艦達は“土佐を離れたくない”と拒否したのだ。

土佐の地には戦艦水鬼が眠っている。

悲しくもあるこの“思い出の地”を離れるのを嫌がったのだ。

しかしレ級は、

「はいはい、東京行く!」

とあっさり承諾して、暁も()()()()()として承諾したのだ。

そして大塚中佐も、“そんな問題児が手を離れるなら”と、喜んで東京行きを認めたのだ。

 

そんな平和な毎日の中、一通のFax(ファックス)がお台場鎮守府に飛び込んできた。

曰く、『三高ワンダーランドを爆破する』と言うものだった。

Fax(ファックス)を見た、秘書艦代理の卯月が顔を真っ青にした。

 

「たたたたた大変だぴょん!爆破予告だぴょん!!」

「ふむ、爆破予告ですか…………」

 

こんな時でも、薄雲は冷静である。

直ぐに三高ワンダーランドに連絡を入れ、臨時休園にして貰った。

 

この夏の掻き入れ時に迷惑千万なのだが、三高ホールディングスCEOの髙菜直樹直々にこの決定を下し、警察や軍の爆発物検査を受け入れたのだった。

それと同時に、薄雲達お台場鎮守府には警務隊本部の副長中井大佐より捜査が命じられた。

 

「捜査と言っても、手掛かりはこのFax(ファックス)だけですが……」

 

お台場鎮守府では、会議が行われていた。

“如何にして犯人を捕らえるか?”と言うものだった。

幸いにも爆発物は発見されたが、()()()()()()と言う“艦娘由来”の爆弾だった為に、真っ先に疑われたのが“海賊化した艦娘”である。

 

あの『大貫の告白』…………大垣 守の命を賭した演説により、“嘗ての自衛隊の在り方”を見限って脱柵した艦娘達は少なからず存在していた。

多くは、ソマリア沖等で商船を襲う()()()海賊をやっているが、こうして海外からテロリスト紛いの行動をする連中も無くは無かった。

そう言った、国防軍や浜松警備保障乃至はデスペランに所属しない艦娘・深海棲艦達は、今だに日本の国防や海運を(おびや)かしている。

そんな中、横須賀鎮守府の叢雲から通信が入った。

 

「こちら、横須賀第十三艦隊旗艦叢雲!た……大変よ!どうぞ!?」

「何が『大変』なのですか?どうぞ?」

「く、クラーリン級が大量に暴れてる、お台場に向かっているわ!!どうぞ!?」

「なっ!?」

 

まさかデスペランでは?と思ったが、そんな筈は無い。

薄雲は絶句したが、直ぐに冷静さを取り戻した。

 

「兎も角出撃します。どうぞ?」

「ええ!頼んだわ、どうぞ!?」

 

 

「…………と言う訳で、緊急出撃です」

「クラーリン級とか、良い思い出が無いぴょん」

「全くだよ」

「“無敵モード”じゃ無いと良いけどね、まぁ~()るだけだけど」

「そうね」

 

五隻の艦娘達が、そう言いながらお台場の埠頭に降り立った。

そのまま海上にて艤装を展開すると、沖へ向かって走り出した。

 

お台場沖東京湾内では、第13艦隊の叢雲改二と量産型いなづまちゃん改二5人がクラーリン級深海棲艦と激闘を繰り広げていた。

相手は沈むものの、数が多過ぎて止め切れない。必死に応戦しているが、既に何匹かは突破されてしまっている。

 

「くっ、数が多過ぎるのDEATH!」

「弾薬が足りないのDEATH!」

「一旦撤収よ!! 艦隊解散、各自のルートで横須賀に撤退するわよ!」

「了解なのDEATH!」

 

丁度、蜘蛛の子を散らすように撤退した第13艦隊と入れ替わりに戦場にやって来たお台場鎮守府艦隊。

 

『うわぁ』

 

全員が、同時にこう漏らした。

暁は、先の艦娘大戦を思い出して身震いしていた。

海上は、大量のクラーリンと沈めたクラーリンの残骸が漂うカオスな状況になっていたのだった。

 

「兎も角、各自クラーリンを各個撃破します、急いで!」

 

薄雲の指示により、各艦がそれぞれの戦場へと向かって行く。

最近は、一隻一隻が実戦から遠離(とおざか)ったとは言え、百戦錬磨の猛者(もさ)である。

薄雲は、直哉とシミュレーションをして5回に1回は勝利できるようになっていた。

直掩に就いた子日と共に、突破してきたクラーリンを処理する。

 

当初は優勢だった戦況も、次第に劣勢になって行く。

無限に湧き出るのと、今までの決め手だったアイキャンフライ(80㎝三連装)砲を持ち込んでいないのも一因である。

アイキャンフライ砲は、“威力が高過ぎる”のと“高コスト過ぎる”と言う理由で統幕ルートから装備禁止が言い渡されていたのだった。

 

――――

 

その頃、お台場沖合では真愛と拓がイチャイチャしていた。

バナナボートに乗って救命胴衣を身に着けた拓と牽引している真愛は、三高ワンダーランドから沖合に出ていたのだった。

 

「海綺麗だね!」

「おう、綺麗だな」

「ここまできたらパパやママ達の“邪魔”じゃないよね?」

「おう、そうだな」

 

夏休みに、両親(愛&健太)が三高ワンダーランドで娯楽部の面々と落ち合って遊んでいるのを遠慮して、二人で遊んでいるのだ。

 

「拓、ちゅーしれ」

「おう」

 

くるりと振り向いてキスをしようとした瞬間、目の前にドボーンと水柱が立った。

 

「うわぁっ!!」

「きゃぁっ!!」

 

吹き飛ぶバナナボート。

海に投げ出される拓に悲鳴を上げる真愛。

 

真愛が振り向いた先には、駆逐艦東雲がいた。

 

「な、何するんですか!?」

「女の子がこんなところで、確か…………大石真愛。人質にすれば、大本営から身代金がふんだくれるわね。テロよりは効率的ね」

「海賊…………!?何故こんな所に!それより拓!?」

 

警戒しつつ後ろを向くと、拓は救命胴衣でプカプカ浮かんでいた。

 

 

「俺は大丈夫だ!それより海賊を追い払って!」

「うんっ!」

 

真愛がキッと睨むと、瘴気が纏わり付いて姿が駆逐新棲鬼に変わって行く。

 

「くっ、この圧倒的なプレッシャー…………私だって四国で生き抜いたんだから!」

「バナナボートとイチャイチャタイムを…………返せぇっ!!!」

 

後々何度も戦いを繰り広げる事になる、百戦錬磨の海賊・東雲改二と駆逐新棲鬼が初めて激突した瞬間だった。

 

――――

 

 

薄雲は、撤退か交戦継続か悩んでいた。

的確に指示を出しながら、ちょっとずつ後退して行く。

レ級改二FS(フラッグシップ)や暁は、日頃から訓練を怠っていない上にビーストハンターでもある為、クラーリン級を千切っては投げしているが、持ち場を離れられずにいた上に、卯月は明らかに日頃の訓練不足が目に見えていた。

 

「あうっ!!!」

「うーちゃん!今行くよ!」

 

集中力が切れた卯月は、中破まで追い込まれていた。

その瞬間、子日が勝手に直掩を離れて卯月を助けに行ってしまった。

 

「子日!!」

 

その直後、飛び出た子日に直撃弾が飛んで来なたことに気付いた。

薄雲は急加速すると、子日を突き飛ばした。

 

ズガァン!!

 

『薄雲!?』

「…………未だ大丈夫。それより子日、卯月を頼みます」

「で、でも…………」

「早く行って下さい!!」

「う、うん…………」

 

 

子日は、何度か振り向きながらも卯月の方へ向かって行く。

大破状態の薄雲は何とか立ち上がると、半壊のレーダーで敵の発生源を探っていた。

何体かクラーリンを沈めながら、意識を集中してレーダーの観測結果を辿る。

 

「…………ここだ」

 

その直後だった、複数の砲弾が薄雲に向かって来たのは。

 

「しまっ…………」

 

「薄雲ーーーーーっ!!」

 

「ごめんなさい、直哉」

 

ズガァン!!

 

 

 

薄雲は、沈んだと思い目を閉じた。

そこには、量産型いなづまちゃんズが立ちはだかっていた。

 

「間に合ったわね!大丈夫!?」

「叢雲さん…………」

 

第13艦隊が補給を終えて戻って来たのだった。

 

「しかし、早過ぎます」

「途中で浜警(浜松警備保障)の艦隊に弾薬を分けて貰ったのよ」

「成程…………叢雲さん、クラーリンの湧き出るポイントが見付かりました」

「分かったわ、そっちに向かうわね」

 

第13艦隊を見送ると、再び意識を戦場へと集中した。

数時間後、漸くクラーリンを片付け終わった。

 

「ふぅ…………」

「薄雲!?」

「大丈夫ぴょん!?」

 

緊張の糸が途切れてふらっと倒れ込む薄雲を、子日と卯月が抱き抱えた。

薄雲は薄目を開けて、

 

「訓練不足ですね…………」

「ごめんね、子日が遊び呆けてたから」

「卯月もワンダーランド通いがアダとなったぴょん」

「私も、もっと指揮の勉強をしないといけないですね」

 

暁とレ級に守られながら、両肩で子日と卯月に縋りつつ帰還すると、直ぐに入渠する事になった。

全員で入渠を終えると、薄雲は眼鏡を掛けて書類仕事に戻った。

 

「今日も生き残れました」

 

そう最後に日報に記載して、パタンと閉じる。

 

顔を上げると直哉と電、それに卯月に子日が待っていた。

 

「お疲れ様」

「お疲れ様なのです」

「お疲れだぴょん!」

「お疲れー!」

 

少しびっくりした顔をしてから、ふっと笑みを零すと立ち上がり、

 

「お待たせしました、帰りましょう?」

 

そう声を掛けて、皆の元に向かう。

そして直哉に抱き付くと、皆で薄雲を抱き返す。

 

「なんだ…………」

 

 

――皆()()()()()()じゃないか……

 

薄雲は、“欲しい物は全部手に入ってる”と実感していた。

 

 

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