――宮戸島電三尉―――
宮戸島鎮守府の前で、ポケットに両手を突っ込んで、待ち合わせ相手を待っている直哉。
数日前に、折角ならと最新機種を一括で購入したスマートフォンに、メッセージが入って来たのだ。
差出人は高菜優衣。
「今度の給料日、夕飯一緒に食べるから空けといて。ああ、ドレスコードがあるからスーツ着用で」
とのお達しが入って来たのだ。
それには、「了解」と返事を送っておき、南三陸の武藤二佐―――この度昇進したのだ―――と、
それに桐山二佐に連絡を入れて、その日は数時間不在になる、と連絡する。
その時は、桐山二佐もきちんと進撃を控えてくれる分、ありがたいのだ。
前回も、わざわざ南三陸に逃げてくれる分、有情である。……被害者の会としては自力で倒せよ、と言いたいだろうが。
そして、一張羅のスーツを身に着ける。紺色のスリーピーススーツに白いワイシャツ、紺色のネクタイ、それに革靴である。
スマホを弄りながら待ち合わせ相手を待っていると、
左側の窓が開き、優衣が顔を覗かせる。優衣もフォーマルスーツ姿である。
「お待たせ。早速だけど、うーちゃんの口座教えて」
「何だ?姉さん、もう卯月に出会ったのか?」
そう言いながらスマホを操作して、メッセンジャーに口座番号を転送すると、反対側に回って助手席のドアを開け、腰掛けてシートベルトを締めて扉を閉める。
「それじゃあ、目的地に行くわね」
との言葉と共に、優衣はアクセルを踏んで車を走らせて行く。
車は一路仙台市街地を抜けて、高台にある洋食レストランに到着する。
何故か、黒塗りの車が多数停まっており、スーツ姿の男達が多数、周囲を警戒している。
皇宮警察官も確認できる為、待っている相手は想像に難くなかった。
「湊子様か?」
「ええ、半年前から約束して、漸くお店を貸切にして、お夕食会を開けることになったのよ。それに、直哉と湊子様に報告しないといけないこともあってね?」
「何だ?アラフォー女を貰ってくれるところでもできたのか?」
「……うん」
その言葉に、そうかとだけ言ってから、先に降りる。
それを見ながら、優衣もエンジンを切って、車から降りる。
宮内庁の侍従が店先で待っており、
「高菜優衣様、直哉様、湊子内親王殿下がお待ちです。どうぞこちらへ」
と案内すると、店内はこの日の為だけに飾られた花や、飾りに囲まれた席に湊子が座って待っている。
彼女は綺麗なドレス姿である。
「内親王殿下、ご無沙汰しております」
「内親王殿下、二等陸佐高菜直哉、参りました」
優衣は頭を下げ、直哉は最敬礼を行う。
侍従は周囲の宮内庁の職員を下がらせると、二人に、
「余人は、店員の者以外下がらせますので、普段どおりで結構でございます」
そう告げてから、案内を店員に引き継いで、他の職員は下がり、侍従のみ残る。
店員が椅子を引くと、二人共席に着く。
既に食前酒――優衣の前にはノンアルコール――と前菜が並べられていて、
フルコースだな、と解った。
「今日はお招きいただきましてありがとうございます、優衣ちゃん」
「漸く、こうやって学友三人の同窓会ができるね?」
湊子のお礼に、優衣がにこりと笑顔を浮かべる。
「卯月はちゃんとやってますか?」
「ん。今では、電と海に出られるようになった。壁を一つ、自分で乗り越えたよ」
「何で、湊子様とうーちゃん知り合いなの?」
その話に首を傾げる優衣に、湊子は少し困ったような顔をしながら、事のいきさつを触りだけ話す。
「ブラック鎮守府か………そういう悪いのがいるから、提督皆のイメージが下がっちゃうのよ」
ぐっと拳を握り、憤る優衣に直哉も頷く。
「全く、そのとおりだね。艦娘だって心ある人間だ。捨て艦戦法や酷い扱いにするとは―――全く度し難い」
「
「民間人としては、艦娘を頼りにするしか無いんだから。兄さんの貿易会社も、私の株投資も、全ては経済活動が成り立たないと意味を成さないもの。頼むわね、直哉、湊子様」
その言葉に、二人が頷く。
歓談と共に食事は進んで行き、この場を用意した優衣がベルを鳴らす度に、店員が次の料理を持って来る。
チリーン
デザートのソルベが出された頃、
「私、湊子様と直哉に報告しないといけないことがあるの。直樹兄さんやお父さんはもう知ってることなんだけど……私、お見合い結婚することになったよ」
「そう……ですか……それでお相手は……」
「うん、三友グループの会長のお孫さん。今年18歳……その、20も年下の男の子。もちろん政略結婚だけど、お見合いで二人共意気投合しちゃって……」
照れながら言うとスマホの写真を送信する。若く誠実そうな男の子の写真を、二人も自分のスマホで見る。
「株もやってるらしくて、指導してくださいって言われちゃった。後将棋も……やってるから、私の作った詰将棋喜んでやってくれるの。だから………」
「あらあら。小さい頃は直哉と結婚するんだ、と言って、ご両親と直樹さんを困らせておりましたものね?」
ふふっと笑う湊子に、真面目な顔になる優衣。
「今も変わってないよ。でも、家柄もあるし、私は生まれながらに政略結婚が運命付けられていたから、今まで好きなことをさせてもらったけど……これが最後のデート、そう思ってここを選んだんだ」
ふっと寂しそうな笑みを浮かべる優衣に、二人は顔を見合わせて何を言って声を掛けようか?置きどころを無くしていると、優衣が、
「大好きな湊子様と直哉に祝福されてお嫁に行けるんだから、私は幸せよ。だから……直哉」
真っ直ぐ見つめると、
「電ちゃんと結婚しなさいよ。あの娘は、ずっと待ってるのよ」
「…………」
「しかし、私は……」
「良いじゃないですか?貿易会社の三男坊が艦娘と結婚しても。
「お父さん、言った筈よね?直樹兄さんは会社を継いで、私はお見合いをすることが決定付けられる、だから貴方は好きなことをしなさい、と」
その言葉に、言葉に詰まる直哉。
「………」
「直哉くん、
その援護射撃に、大きな溜め息を吐く。
「いやあ……怖いんだよ」
その吐露に、キョトンとする優衣と湊子。
「私だって電に好意を寄せているさ。もちろん電の気持ちも。それが上官としてなのか、男としてなのか、判らない時がある」
「「………鈍感」ですね」
ジト目で見る二人に、直哉は困った顔をする。
「そう、鈍感でいるべきだと思った。もちろん向こうから言い出したら、受け入れるつもりだったけど」
「もう、焦れったいですね」
先に口を開いたのは湊子だった。
「お互い待っていたら、何も変わりはしませんよ?」
「そうよ。私だって前に進んだんだから、貴方も進みなさい」
二人の言葉に、ふぅ、と息を吐いて、
「やれやれ。二人共、私に重過ぎる課題をお与えになる。私としては、一生独身でも良かったんだけどねえ?」
その言葉に、二人は口を閉ざす。
「こうやって三人集まれる機会も少なくなるだろうから言わせてもらうけど、好きだったよ、二人が初恋だった」
「そうね、私もよ」
「
「解った、私も前に進む決意を決めたよ。今すぐにではないけど。少し心の準備の時間をくれ」
その言葉に、ふふっと笑う二人。
「では、
にこにこと笑みを浮かべる湊子の顔をばっと見る二人、そして侍従の姿を探す。
侍従は苦い顔をしながら、
「公式発表までご他言なさらないように」
と、きつく釘を刺す。
「「えっ………えええええっ!?」」
山荘のレストランに、高菜姉弟の驚き声が響き渡ることになった……
その様子に、長年仕えてきた年老いた侍従は、大きな溜め息を吐いた。
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官舎に帰ると、電と卯月は既に寝静まっていた。お揃いのゆとりくまを抱っこして。
それを見て、ふっと笑みを零すと、ブランデーを片手に庁舎に舞い戻る。
庁舎の司令官デスクのエグゼクティブチェアに腰を下ろすと、デスクに隠してあるグラスと青い箱を取り出してから、グラスに半分ほどブランデーを注ぐ。
そして箱を開ける。そこには
艦娘の潜在能力を大幅に伸ばす、ケッコンカッコカリリングである。
「…………」
一気にそれを飲み干す、強いアルコールが喉を灼く。
「とは言ったものの……私はいったいどうしたら良い……?」
その夜は、ボトルのブランデーを空けるまで、自問自答し続けた……
その答えは未だ見つからず、苦悩する男を月明かりが照らし出している。
お題「デートする」
ちょっとお題から外れたかもしれませんが
《高菜二佐と直哉の表記ゆれ》
意図しているもので演出上デス。
ヒント:本日の前書き
《次回予告》
電が暴走します。カオス注意。
月曜日0時ごろ投入予定。