――――宮戸島電三尉―――――
※ちょっと長いです。すみません。
大きなニュースが、世間を駆け巡っていた。
一つは、高菜ホールディングスと三友ホールディングスの経営統合だった。
貿易商船の高菜HDと、商社系の三友HDのまさかの合併である。新社名は
同族系大企業の筆頭格が、まさかの合併である。両社は新規設立される三高HD傘下になり、全ての子会社がグループ化するのだった。
高菜直樹代表取締役社長が、新会社の代表取締役
事実上、高菜HDによる三友HDの吸収合併である。
三友龍三郎は、息子夫婦を深海棲艦の攻撃で亡くし、後継者不在となっていた。唯一残された孫龍太郎が、高菜家の長女優衣と正式に婚約したのを切っ掛けに、若き経営者に委ねようと、高菜HD会長の高菜源一郎との直接会談で決断したのだ。
娘が三友家に嫁に行き、代わりに会社が高菜家にやって来たのだ。
その高菜CEOに関連して、もう一つ大きなニュースが飛び込んで来た。高梨宮湊子内親王が婚約を発表したのだ。こちらのお相手が今、世間を賑わしているやり手の経営者高菜直樹だ、と発表されると、マスコミは一躍超有名人になった高菜直樹の弟であり、且つ御学友だった『宮戸島の英雄』高菜直哉から、何が何でも情報を引き出そうと、宮戸島に集結していた。
そんな取材過熱状態で、高菜二佐はおろか、艦娘達さえも外出出来ない状態が続いていた。特に、卯月が怯えているのだ。
「全く。周辺住民の迷惑を考えて欲しいものだよ」
いつも愛用している食堂のおばちゃんが、夕飯を出前に来てくれる。
「確かに、こんな田舎の島にお金を落としてってくれるのは良いけど、一過性でトラブルもあるって言うからねぇ」
ダイニングに並べられる、日替わり定食と唐揚げ定食二つ。
「ゲームが出来ないのが痛いのです。今度、威嚇砲撃して良いのですか?」
「男の人達が怖いぴょん……」
結局の所、卯月はまだ知らない男性が苦手なのだ。
ここ数回の交流で、武藤提督や高菜二佐に対しては懐いているが、それ以外の男性となると、大衆食堂やゲームセンターなど行きつけの場所の常連の一部に留まっているのだ。
だが、そのゲームセンターにも行けない状態で、二人のストレスが限界にまで高まっているのだ。
「砲撃をぶち当ててくるのです」
「いやあ、駆逐艦の艦砲だよ?そんな危ないもの向けたら駄目じゃないか?死人が出るよ。いくら何でも、それは殺人罪で刑務所に放り込まれるよ?」
そんな電を宥めながら、ふむと考える。
「まあ、食事でも取ってから、マスコミ対策は考えよう」
夕食を食べながら、テレビを点けると、宮戸島鎮守府の様子が映し出されている。
生放送である。おばちゃんが、報道陣を掻き分けて出て行く姿も見える。
電は無言で食べ続けていたが、がたっと立ち上がって、外に走って行った。
「お、おい、電!」
慌てて追い掛けようとすると、同じく追い掛ける卯月と高菜二佐が正面衝突する。
「うわっ!!」
「いたいぴょん!」
「ああ、すまない」
その時には遅かった。
沢山の報道陣の前で、電はこう叫んだのだ。
「電も結婚したいのです!!!!」
「「えっ?」」
『えっ?』
高菜二佐も卯月も記者達も、唖然とする。
電の暴走が、全国のお茶の間に放送された瞬間だった……
――――――――――
その頃、南三陸鎮守府隣の官舎では、夕飯を四人で食べ終わったところだった。
テレビを点けていて、宮戸島の様子が映し出されていた。
「しかし、高菜二佐のところも大変だな。広報官とか、出してやれないのか?」
その報道過熱で、出て来られないのを、艦娘拠点通信でぼやいているのを聞いている長門が憤ると、
デザートのりんごパイを持ってきた武藤提督は、困った顔をしながら均等に切り分ける。
「自衛隊の出来事じゃないからねえ。私の方でも警備だけはお願いしているんだけど」
そう言っていると、電が決意を秘めた表情で、画面に現れた。
「あれ、電ちゃん出てきたっぽい」
「何する気だ?まさか、砲撃で追っ払うとか?」
「いくら何でもそれはないだろう?」
画面を指差す夕立に、まさかと顔を固くしながら、りんごパイを取ろうとする木曾、
そして、余裕綽々でお茶を飲む長門に、その対面に座る武藤提督。
『電も結婚したいのです!!!!』
その言葉に、夕立は固まり、木曾は持っていたりんごパイを取り落とし、そして長門は盛大にお茶を噴いて、武藤提督には熱いお茶が直撃した。
――――――――――
「なんて馬鹿なことをしたんだ!?」
急いで飛び出して、二人掛かりで引き摺って電を連れ戻すと、
すぐに、足立一佐から業務用携帯電話に、電話が掛かって来た。
嫌そーな顔をしながら、電話に出る。
「はいもしもし、こちら葬儀屋」
『高菜二佐、今のは何だね?』
声の後ろで、大爆笑している女性の声が二人ほど聞こえる。おそらくは夫人とご令嬢だろう。
「ウケましたかね?」
『妻と娘には大ウケしている。まあ明日、広報官と警備をやるから、頼むからもう何もしてくれるな。私の寿命が縮まる』
「そうしてくれることを、私も願ってますよ。テレビのキャスターにも大受けして、何か『艦娘の可愛い悪戯!湊子様ブームに乗っかった結婚宣言!』とかテロップ出てますよ。いろいろな意味でどうしてくれるんですか?と言いたいですよ」
『まあ確かに、君に言ってもしょうがないな。駆逐艦電三尉に代わりたまえ』
「了解しました」
そう言うと、高菜二佐はにこやかな顔をして、
「電、こわーいこわーい足立のおじさんから電話だよ」
と、業務用携帯を手渡す。
さぁぁっと青くなった電は、電話に出る。
「も、もしもし、電なのです」
『足立一佐である。駆逐艦電三尉、今のはどういうことだ?説明してもらおう』
「あの、ついカッとなって……」
小さくなりながら、部屋の隅で正座をして、電話を受けている。
テレビでは、何故か『艦娘と提督の結婚』にテーマがすり替わり、そういう提督も認められている例もある、と専門家が解説している。
重婚は出来ないが、旗艦と結婚して残りを養子に迎える例もある、と紹介していた。
取り敢えず、マスコミ攻勢を逸らすことは出来たようだ。一瞬だけだが。
『カッとなって、ではない。君達艦娘に、提督を通した自由裁量を持たせている意味を考えたのか?まあ、砲撃を加えるなぞしないだけマシだし。君達も不自由な思いをしているだろう、その点はこちらの落ち度だから、今回は不問に付すが……』
「威嚇砲撃は、少しは考えたのです」
『何を馬鹿なことを言っている!?だいたい君はだな……」
説教は、二時間続いた。
そんな電を、卯月と高菜二佐はやれやれ、と言った感じの顔をしながら見守っているのだった。
――――――――
そして南三陸鎮守府では、武藤提督が壁際に追い詰められていた。
「お、おい、お前達、落ち着くんだ」
「結婚できる例がある、と言っていたな?」
「もう年貢の納め時だぜ?」
「長門さんと結婚して、私達を養子にするっぽーい!」
武藤提督は、壁に背を預けていた。もう逃げられない……
そこに長門がドンっと手を付く。
「さあ、結婚するかしないか、はっきりしてもらおう」
「な、長門……」
武藤提督は進退窮まった。後に言う、南三陸壁ドン事件である。
―――――――――
翌日、地方協力本部の本部長が派遣され、鎮守府近くの島民会館で、記者会見を執り行うことになった。
高菜二佐と、宮城地本本部長の宮本一佐と足立一佐が並ぶ、物々しい記者会見である。
冒頭に宮本一佐が起立して、
「宮城地本の宮本一等海佐であります。この記者会見は自衛隊の件ではないのですが、マスコミ取材過熱が激しく、周辺住民に迷惑を及ぼし、また部隊の作戦行動にも支障が出る、と判断したので、開催しました。本日は、高菜直樹氏と湊子内親王殿下の婚約発表及び、高菜・三友合併の件のみ、高菜直哉二等陸佐の湊子内親王殿下の御学友として、また高菜直樹氏の弟としての談話の後、質疑応答を行いますが、答えられない点、わからない点が多いですがどうかご容赦ください。そして、これ以降の宮戸島全域での取材を自粛していただきたく思います」
そう言って着席すると、足立一佐と高菜二佐が起立する。
「大本営警務隊長足立一佐であります。昨晩の駆逐艦電三尉による不適切発言の件では、世間に迷惑をお掛けしたことを、お詫び申し上げます」
そう言って、足立一佐と高菜二佐が頭を下げる。
因みに世間での評価は、九割近くが『可愛らしい』と取ってくれたのが救いである。
取材陣からも、ここでドッと笑いが上がる。
ただ、高菜二佐の退路も絶たれたことは間違いない。
数十秒頭を下げてから、椅子に腰掛ける。
「では、高菜二佐、談話をどうぞ」
宮本一佐に促されると、頭を掻いてから口を開く。
「いやぁ…そうですね、今回の件は大変喜ばしいと思っております。兄・直樹もまだまだ未熟なところも多々あると思いますが、私は兄のことを尊敬しております。父が早々隠居をし若くして会社を継承し、この度は日本を代表する大企業のトップに就任して、今まで以上に身が引き締まる思いでしょう。それに加えてこの度の婚約発表、兄はこれからも今まで以上に精進しなくてはなりません。高梨宮道仁親王殿下、天皇・皇后両陛下のご期待に背くことなく、日々励むことを私も信じています。また、湊子内親王殿下に於かせられましては、我が高菜家に降嫁賜りますことは、高菜家を代表いたしまして、大変光栄に思います。弟として、また殿下の御学友としては、兄と湊子内親王殿下が末永く、仲良く幸せに暮らして行ってもらうことを願うばかりです」
その後、質疑応答が続いて、記者会見が終了し、漸くマスコミは宮戸島を後にした。
因みに、電の結婚したいの一件は、ノーコメントを貫いた。
残された三人は、漸く解放されたのだ。
「いやあ、参りましたよ。何でもっと早く、広報を寄越してくれなかったんですか?」
「まさかここまで、とは思っていなかったよ」
宮本一佐が、申し訳なさそうにする。
「しかし、彼女のあれは本心ではないのかね?」
足立一佐は鋭く切り込む。
「……分かってはいるんですけどね。本当に本心か、どのタイミングで言えばいいか、判らなくてですね」
「何だ、だらしのない」
「足立一佐はどちらからでしたか?」
高菜二佐が意地悪そうな笑みを浮かべると、コホンと咳払いして応える。
「私も君に似て、そういうことが鈍い方でな。妻の方から言われたよ」
「私の場合は、私の方からでしたな」
宮本一佐も加わる。
その時に電話が鳴った。武藤二佐からだった。
「出て構わんぞ」
その足立一佐の言葉に、スピーカーフォンで出ると、
「今すまないけど、立て込んでいて……」
『いやあ、高菜二佐。今日長門と結婚して、木曾・夕立を養子に迎える手続きをしてきたよ』
「「「はい!?」」」
「いや、足立だが武藤、それはどういうことだ!?」
たまらず、足立一佐が会話に加わる。
『これは足立君、昨日の放送で長門達に追い詰められて、世間で言う壁ドンをされて結婚を迫られてしまってな』
「「「……」」」
三人共、顔を見合わせて絶句だ。
『それで、小ぢんまりと結婚式をやるんだが……私には身寄りや親戚も少ないし』
「いやいやいや。地本の宮本だが、そういうことは地本と相談してくれ!艦娘のPRに関わることだ!」
今度は、宮本一佐が慌てて会話に入る。
『分かりました、それでは相談させてもらいます』
「わかった。わかったからすぐ行く、待っていてくれ」
そう言うと、宮本一佐は急いで会見場の島民会館を後にした。
「今、宮本一佐が向かった。取り敢えずおめでとう、と言っておこう」
「私からも、おめでとうと言っておくよ。こっちは大変だったよ」
『でしょうな。生中継してましたから』
「全く、宮戸島の駆逐艦電三尉は、世間の艦娘人気を上げ、一旦は取材の矛先を逸らし、そして同期の結婚もアシストするとは、たまげたな」
『ですな。これで、高菜二佐も逃げられなくなりましたな。はっはっは』
「いや、どうしたものかと思ってね。取り敢えず、結論は武藤二佐の結婚式まで先送りしますよ?」
『ふむ、まあしっかり考えると良い』
その直後、『提督、早く出かけるぞ』と言う長門の声に電話が切れる。
「全く……困ったものだ」
静かな大会議室に、足立一佐のボヤキが響き渡った。
本日のお題『馬鹿らしいことをする』
馬鹿らしいと言うか、馬鹿なことでしたね。
ちょっとテーマからずれてますけどお許しください。