あのサプライズ結婚式の翌日、市役所に婚姻届を提出した、
卯月に関しては、電の意向で養子に貰うことになった。
卯月と電が、艦娘側二次会辺りで話し合って決めたらしい。
二人の結婚式は、電曰く「あれで十分楽しかった」ということで、やる予定はない。
「という訳で!」
婚姻・養子縁組届を提出し終わって、執務室に戻って腰掛けたところで、卯月が声を上げる。
「ん?」
「どうしたのです?」
首を傾げる電と直哉。
「艦娘寮を作った方が良いと思うぴょん!」
「「何で?」なのです?」
同時に言う二人に、大きな溜め息を吐く卯月。
「うーちゃんがいると、いろいろ問題があるかもぴょん」
「直哉、あるのです?」
「ないな、うーちゃんは何を言いたいんだい?」
みるみるうちに、顔を赤くしていく。
「だから、うーちゃんいると、よっ……夜の生活が……っ」
その言葉に、電の動きが止まる。お顔が耳まで真っ赤である。そしてあまり動じない直哉。
「ああ、そういうことかぁ。そうなると、上との相談が要るなあ?」
「そうなんだぴょん?」
首を傾げる卯月に、頷く直哉。
「ここは自衛隊の土地で自衛隊のものなんだ。クイーンベッドとか、収納とかは私のだが……」
「いっその事、近くに家を借りれば良いのです。ここは艦娘寮兼休憩所と言うことにすれば」
「ああ、艦娘が増えたら、あの無駄に広い14畳の部屋に二段ベッドを置けばいいか?増える予定はないけど」
「なのです」
実際今は、攻撃の意志が強い艦隊以外は、近海防衛任務で事足りる艦隊しか持っていない。
「それじゃあ、不動産屋に訊いてみるか?」
「お出かけなのですね?」
「わかったぴょん」
三人で仲良く手を繋いで、不動産屋さんに向かう。
小さな不動産屋さんのおばさんは、夫に先立たれ、一人で不動産屋さんを切り盛りしている。
もちろん、大衆食堂の常連さんである。
「やあ、高菜さん。今日はどうしたの?」
「こんにちは。ちょっと、鎮守府から近い家を探しててね」
その言葉に、おばちゃんが笑みを浮かべる。
「あらま。本当に結婚しちゃったんだね?電ちゃん」
「なのです」
「宮戸島全島避難の時に、戸数が半分に減っちゃったからねぇ……鎮守府沿いなら大体あるけど……」
そう言いながら、老眼鏡を掛けて大型タブレットを操作する。
今は、こんなところまで電子化時代なのだ。
幾つか候補をプリントアウトしてもらう。間取り図から何やらが載っているのだ。
古民家が多めだが、そこで見つけたのは、見た目新築に見える家だった。
「この家は、割と新しいね?おばちゃん」
「そうなんだよ。オーナーが全面改築を始めたところで、あの深海棲艦だろ?全面改築をし切ったものの、もうこの家には住みたくない、って賃貸に出しちゃったんだよ」
「それじゃあ、ほぼ改築したてってことか……」
腕を組んで考える。転勤の可能性を考えると購入はできない。
「この金額なら借りてもいいか。おばちゃん、中を見ることはできるかな?」
「あいよ、それじゃあ行こうかね?」
不動産屋のおばちゃんが立ち上がると、鍵箱を開けて、鍵を持ってくる。
「歩いてすぐだから、歩きでいいよね?」
そう言いながら、三人と共におばちゃんは家に向かって歩き始める。
鎮守府から歩いて三分位のところにあったその家は、古民家が多いこの島で、一際目立っていた。
「ほー、中もいいですかね?」
直哉が外観の良さと、駐車場がきちんとあるのを見ると、おばちゃんは既に鍵を開けている。
「スリッパ無いけどごめんね。掃除は、定期的に入れてるみたいだけど」
そう言うと、扉を開ける。
二畳くらいの玄関と靴箱、そしてすぐ右側の壁沿いに二階への階段があって、突き当りに洗面台がある。
「「「お邪魔します」ぴょん」なのです」
不動産屋のおばちゃんが先に上がって、その後に上がると左側にある扉を開ける。
「うわあ広いぴょん!」
かなり広いLDKになっていて、キッチンも新しくなっている。キッチン側から廊下に出ると、
洗面台の先にトイレとお風呂と家事室が、並んで設置されている。
お風呂もタイル張りで、リフォーム直後だ。トイレもウォシュレット付きの新しいものである。
「わぁ、綺麗だぴょん」
「お風呂も広くて、三人で入れるのです」
「「さ、三人?」」ぴょん?」
天然発言をかましている電に、唖然とする卯月と直哉。
その様子を見て、不動産屋さんのおばちゃんは、笑いを堪え切れない。
「まあまあ、上も見てって頂戴」
そう言うと、階段を登って行く。
階段下は、全て収納となっていていろいろ入りそうだ。
階段を登って左側、リビングの上にある部屋は十畳ずつで、間に共有ウォークインクローゼットが付いていて、お風呂やら家事室の上部分の場所には、八畳の和室がある。
「ふむ、3LDKか?収納も十分だし、ここで良いか?」
「「はいっ!!」」
こうして、すぐに不動産屋に戻って契約となる。
家賃はそれなりだが、三人のお給料と合わせれば、生活できるほどのものだ。
結婚と養子縁組により電、卯月にも高菜姓が付けられることになり、同居人欄のサインも高菜 電・高菜卯月で署名する。
「これで、この金額だけ…「振り込みましたよ」」
おばちゃんが、敷金礼金込みで前家賃等を記した金額を指差す時には、直哉はネットバンキングで振込を終わらせていた。
「早いわね。ちょっと記帳するから、待ってて頂戴」
そう言うと、慌てて通帳を持って銀行へ走って行った。
「お部屋はどういう分け方にするのです?」
「うーん、10畳の一つは寝室だろ?もう一つは卯月の部屋にして……」
「電は多分リビングにいると思うから、直哉の書斎で良いのです」
「それで良いぴょん。早速テレビゲームも買えるぴょん」
「なのです!」
「それじゃあ、これが終わったら、次は家電屋に行こうかね?」
「「はーい!」」
元気良く返事をする頃には、おばちゃんが戻って来る。
「大丈夫。銀行行きながら大家さんに訊いたら、即入居していい、ってさ。契約書は後でうちに送るわね」
「分かりました」
そう言うと、おばちゃんから鍵を三つ受け取る。
それぞれが大事に持つと、次は家電屋に向かう。官舎の物は貸与品なので、持ち出しは出来ないのだ。
「冷蔵庫と洗濯機と、テレビと、あとはオーブンレンジに、炊飯器か……」
家電量販店で呟いていると、電は卯月の手を引いてゲーム機のコーナーに走って行く。
それを見送ると、やれやれと笑いながらポケットに手を突っ込んで、冷蔵庫から見て行く……
直哉が、従業員に言われるがままに、ホイホイ即決している間に、電と卯月はゲーム機を見ていた。
「うーちゃんがどーんと出すから、安心するぴょん」
一年分の給料を、纏め払いされた卯月は超強気である。
結局、最新家庭用ゲーム機とゲームソフト数本を、即決で買ってしまったのである。
そして翌日、引っ越しであるが、持ち出せる物がそう多くないので、業務用軽トラックで何往復かすれば事足りる。
電が、残す物と持って行く物を選別して、卯月が積み込んで、直哉が卯月と一緒にトラックで運ぶ、
直哉と卯月が引き返して来て、の繰り返しである。
三人共、溜まりに溜まった代休を取っての一日仕事である。
途中、リビングのソファやテレビ台等もホームセンターで購入して、昼過ぎには買っていた家電の数々が入って来て設置される。
そして、念願のテレビが入って来ると、電は唖然として、卯月はばんじゃーいと騒ぐ。
テレビは、80V型4Kテレビなのである。
「い、いくらしたのですか?」
「カードで買ったから覚えてないよ。ええと……129万……」
「そっ、そんなお金がうちには!」
と言ってから、へなへなっとソファーに座り込む。
目の前の男は、お金持ちのボンボンだったのだ。
「大丈夫だよ。給料で払って行けるように分割でローン組んだし、そのくらいの蓄えもある」
「まあいいのです。早速ゲームをするのです」
数分後。
「さっきの言葉取り消し!画面が凄く綺麗なのです!」
「うん、きれいな画面だぴょん!」
仲良くゲームをしている二人を見ながら、この子達をずっと守って行こう、と思うのだった。
その時、電話が鳴る。電話を掛けて来たのは直樹、直哉の兄からだ。
「はい、もしもし」
『突然で済まない、今忙しいか?」
「いいえ?」
『まずは、結婚おめでとうと言っておく』
「お互い様にですね、おめでとうございます」
『それでだが、東京に来れるか?丁度湊子様と優衣、龍太郎君の都合が付きそうなんで、今週の日曜メシでもどうかと思ってな。無論、電と卯月も連れてだ』
「了解、二人に伝えておくよ」
『ああ、頼む』
と言って、速やかに電話が切られる。
「どうしたのですか?」
「どうしたぴょん?」
振り向いてた二人の頭を撫でて、
「新しい家族でメシでもどうか?って兄貴から。日曜日だけど、東京に行くぞ?」
「「はいっ!」」
三人の新生活は、始まったばかりである。