「はあ……今日は雨なのです」
軒下に、てるてる坊主が吊り下がっている雨の空。
「うー、お早うだぴょん」
寝惚け眼を擦りながら、寝室から降りてきた卯月。パジャマのままである。
因みに電は、既にお着替え済みである。
「ああ、お早う」
こちらも陸自作業着に身を包んでいる直哉が、ダイニングテーブルに座っている。
「朝ごはんを食べたら、早く着替えるのです」
「ふぁーい」
卯月が着席すると、朝食が始まる。
何時もの、目玉焼きwithベーコンにトーストにスープである。
朝食を終え、それぞれ傘を差して庁舎に向かうと、
庁舎の入り口に、雨に濡れた神通が立っていた。
「「「えっ……?」」」
―――――――――――――
それは、何時もの些細な言い争いからだった。
慎重論を唱える神通と、後輩である直哉・奈々海や元事務方である廉に、階級に並ばれ焦っている桐山 崇二佐の言い争いである。
僚艦である金剛四姉妹と陸奥はまたか、というような顔をして、それを見ている。
「だから、無理な進軍は駄目なんです!また武藤提督のところにご迷惑を」
「いいや。彼奴等が功を横取りしてるだけだ!引き付けて倒せばいいだけではないか!?」
毎回無理な進撃を命令されて、戦艦に対して軽量の旗艦神通は大破し、撤退を余儀なくされている。
そして、撤退した時の交戦相手を引き連れて、という形になり、宮戸島や南三陸鎮守府に迷惑を掛けている、という訳なのだ。
「もういい!神通、私の采配に不満なら出て行け!」
いつも、そう言えば神通は折れて来た。我慢して来た。
だが、この日は違っていた。
「分かりました。今までお世話になりました!!」
「待てっ」
その勢いで、庁舎を飛び出して行ってしまった……
―――――――――――――
「……という訳で、昨日の夜からずっとここに……」
庁舎に神通を入れると、すぐに卯月に着替えのジャージを買って来させ、
今のところ使用用途のない、官舎改め艦娘寮兼休憩室で着替えてもらってから、
艦娘休憩室でコーヒーを出して話を聞いた。
そこで神通の口から出たのが、桐山二佐との言い争いの末に家出をした、という話なのである。
「やれやれ、とうとうキレた訳か?」
「………はい」
旧寝室の卓袱台に、四人で座って神通の話を聞いていた直哉は、溜め息混じりに神通に言うと、神通は俯いたまま答えた。
「しかし、あのおっさんも酷いのです」
「そうだぴょん。いっそ、うちの子になっちゃえば良いぴょん!」
「「えっ?」」
「……という訳なんです」
『それを、私に言われても困るぞ?』
困り果てた直哉は、足立一佐に電話を掛けていた。
「ですよねえ。全く」
「『困ったものだ』」
二人は同じ言葉を言い、大きな溜め息を吐いた。
「差し当たり、神通は研修出向という扱いで、哨戒をお願いしています」
執務室の窓から、雨の上がった昼下がりの空を見上げながらそう報告すると、足立一佐も、
『差し当たりはそれで良いが、いつまでもそんな勝手は許されん。自由裁量とは言え、自衛隊の秩序の問題だ。艦娘が勝手に所属を変えるなぞ前代未聞だ……いや、一例だけあったか?』
「あれは、皇族のパワープレイですから、例外ですよ」
『全く困ったものだ』
足立一佐の溜め息が、こちらも手に取るように判る。
「こちらから桐山先輩に言っても良いのですが」
『間違いなく言い争いになる、か。了解した。私から言っておこう』
「お願いします」
電話を切った数十分後、バタンと扉が開いた。
その前に立っていたのは、桐山 崇二佐だった。
「おや、先輩。どうかしましたか?」
「どうかしたかではない!足立一佐から話を聞いた、神通を出せ!」
「神通なら、今哨戒に行かせてますよ?どこにでも出て行け、って言ったのは先輩なんでしょう?」
「うるさい!神通を出せ!勝手なことをして私に恥をかかせてくれおって!」
「先輩」
その言葉は、氷の刃を帯びたものだった。いつも軽い笑いを帯びている顔が、真顔になった。
「な、何だ……?」
「この際だから言わせてもらいましょう。先輩は、いつもいつも私達に迷惑を掛け、夜中も勝手に出撃させては、尻拭いをさせる」
その、静かな紳士の怒りに、桐山もたじろぐ。
「そ、それは、引き付けて撃滅させているだけで、お前等が勝手に……」
「ならば、イ級を放置している理由を、お聞かせ願おうか?」
「あんな戦果のない魚なぞ」
「ふざけるな!」
立ち上がると、直哉は桐山の胸倉を?んで、壁に押し付けた。
「あんな魚でも、漁民は迷惑するんだ!私達もいい迷惑だ。先輩、私も今まで給料のうちだと思って来ましたが、忍耐にも限度が!」
そのまま殴ろうと拳を振り上げた時、誰かがその手をぐっと?んだ。
神通だった。
「止めてください、高菜二佐」
入り口を見ると、電が心配そうに見ている。卯月も、電の身体に捕まって見ている。
「……」
乱暴に振り払うと、桐山は崩れ落ちる。
それに駆け寄る神通。
「提督、大丈夫ですか?」
「………」
ドスッと、乱暴にエグゼクティブチェアに座ると、溜め息を吐く直哉。
そして、神通に支えられて起き上がる桐山に、静かに口を開く。
「先輩、もう一度考え直すべきだ。貴方が一佐に昇進できない理由を、麾下の艦娘が尉官に昇進できない理由を」
「…………」
「帰りましょう、提督」
「あ…………あぁ………」
桐山に肩を貸しながら帰る神通は、直哉に軽く一礼して、庁舎を去って行った。
「何で、あんな乱暴なことをしたのです!?」
「うーちゃん怖かったぴょん!」
嫁達のお説教の始まりである。
「いやあ。三人がレーダーで帰還してた、とは知ってたからね。一芝居打ったのさ。まあ本音だし、一発くらい殴ってもバチは当たらないだろう?」
肩を竦めると、呆れてものが言えず、ジト目で見上げる嫁達。
「わ、解った。解ったから、今日は好きなものにしようか?夕飯は」
「唐揚げ山盛りが良いのです」
「うーちゃんは、ステーキが良いぴょん」
「それじゃあ、武藤レストランに行こうか?」
ご機嫌斜めで夕飯を要求する嫁達に、肩を竦めながら武藤提督に電話を掛けるのであった。
その日は、武藤ファミリーと直哉で、電と卯月の斜めになったご機嫌を取ることに苦心するのであった。
今回の一番の貧乏くじは、間違いなく武藤ファミリーである。
――――――――――――
それから、桐山二佐の無茶な突出は数を減らすようになった。
その代わり……
「また家出なの?」
「はい。崇の物言いには、ほとほと愛想が尽き果てました!」
そう言って、やって来た神通。
彼女の左薬指には、白銀色の指輪が輝いている。そして襟には、三尉の階級章が付けられている。
「全く……」
「困ったものだぴょん」
仕方無しに、桐山二佐が折れてお迎えに来るまで、一時的に宮戸島鎮守府に非常勤旗艦の神通が、度々やって来るのだった。
「「全く。夫婦共々、面倒事を押し付けてもらいたくないものだ」なのです」
優しく厳しく楽しく、卯月の訓練をしている神通を見ながら、
埠頭でその様子を見ている直哉と電は、大きな溜め息を吐いたのだった。
そして、遠くから車の音が聞こえて来て、
「神通!私が悪かった!帰ってきてくれぇ」
と言う、桐山二佐の声が聞こえてくるまで神通の家出は続くのだった。
今日のお題「言い争い&仲直り」
新しいカップリング桐山二佐×神通が出来上がりました。
神通は準レギュラーでよく家出します。