盛夏も過ぎた、9月28日。直哉は朝早く、
「ちょっと出掛けてくるよ。夕方には帰ってくるから、今日は外食しようか?」
と言い残し、電に司令官代行を任せて、出掛けて行った。
「という訳で、イッツサプライズなのです。毎年直哉は、この日お出かけなのですから、計画が立て易いのです」
「ぷっぷくぷー」
「ぱちぱちぱち」
サプライズ計画の、立ち上げを宣言する電。
そして、歓声を上げる卯月に、拍手をする神通。
因みに神通、これで四回目の家出中である。早速艦娘寮が稼働している。
今回は大喧嘩らしく、家出五日目を経過している。
副旗艦の金剛がやって来て、「帰っておいでヨ」という言葉も拒否しての、家出である。
「今日は直哉の誕生日なのです!」
「そこでだぴょん」
「サプライズで何かする、って訳ですね?」
神通の言葉に頷く。
「そこで、これを見るのです!」
と、メモ帳を取り出す。
「優衣さんから聞いた、直哉の好物なのです」
「ふむふむ、牛カツに、カレーに、ハンバーグ……意外と庶民的ですね?」
「あと、事前に優衣さんに協力して貰って、フルスペックノートパソコンを買ったぴょん。直哉が最近、パソコンの調子が悪いってぼやいてたぴょん」
「おー、さすがお金持ち。それじゃあ、私達はお料理担当ですね?」
ちゃんと、艦娘寮で自炊している神通。エプロンも三角巾も持って家出しているのだ。
「きちんとエプロンと………」
trrrr………
神通がエプロンを取り出したところで、電の胸ポケットに入っている業務用携帯が鳴り響く。イヤーな予感がしつつ、電話に出る。
「はいもしもし、高菜なのです」
『おう、電ちゃんか!?桐山の野郎、またイ級を放置して行きやがった!』
「りょぉ~かいなのです」
電話を切ると、電は闇のオーラを身に纏い、
「ちょっと、イ級をしばいて来るのです」
そう言って、出撃して行ってしまった。
「もう、崇……また……はっ……そう……私への当て付けね……」
「お、落ち着くぴょん!室内で艤装展開したら、駄目ぴょん!!」
桐山二佐の意図に気づいた、ブチ切れて般若のオーラを醸し出している神通を宥めるのに、必死になっているうーちゃんだった。
さて、イ級を始末した後、三人で商店街を練り歩く艦娘達。
イ級始末のお礼で、本マグロのトロの部分を分けてもらった。
「これは良い収穫だったのです」
一切れづつ味見した三人は、ほっぺたを落としそうになったのだ。きっと直哉も喜ぶだろう、と三人共ホッコリ顔である。
「牛カツは、お肉屋さんですね。挽き肉も、カレーの牛肉も買いましょうか?」
神通が材料を買いたメモを読み上げながら、お肉屋さんで買うものを確認する。
「「「こんにちは~」」」
元気良く挨拶をする三人。
「おお、電ちゃんにうーちゃんに、えと…神通ちゃん、また家出かい?」
「ええ。ちょっと今回は、当分帰りません」
もう四回も家出して、それぞれ数日間自炊してれば、お肉屋さんも名前は覚える。
「そうかいそうかい、それで今日は何を作るんだい?」
「牛カツと、ビーフカレーにハンバーグなのです」
自信満々に言う電に、
「それじゃあ、丁度良い仙台牛入ってるからさ、安くしたげるよ。かーちゃん、どんだけ安くしていい?」
奥の方に声を掛けると、お肉屋さんの奥さんが出て来る。
「あらあら、電ちゃんに卯月ちゃんに神通ちゃん、そうねえ、ある程度ならいいわ」
「「「やったー!!」」」
三人で万歳三唱をする。
その間にお肉屋さんのご主人が、挽き肉を用意する。もちろん、これもいいお肉だ。
そして最後に、カレー用のブロック肉を用意する。
「はい、このくらいおまけしてこのくらいね?」
電卓を見せると、代表で電がお金を払う。
「はい、いつもありがとうね」
神通が代わりに受け取って、電の持っているエコバッグにしまう。
次に向かうのは、八百屋さんだ。
「「「こんにちはー!」」」
「おっ、電ちゃんに卯月ちゃんに、確か……神通ちゃん!おじさん覚えたよ」
やっぱり商店街に買い物に来る神通は、八百屋さんにも名前を覚えられている。
「今日はじゃがいもと、玉ねぎと人参が欲しいのです。後レタスもなのです!」
「あいよ!そうそう、美味しいスイカが入ってるから半分分けてあげるよ!いつもご苦労さま」
そう言って、真ん丸なスイカを大きい包丁で半分に切り分けて、ビニール袋に入れてくれる。
そして、野菜を受け取って一旦高菜邸に戻る。
まだ昼下がりである。
冷蔵庫に食材を入れると一旦、お昼ご飯にお出掛けである。
お昼前なのでちょっとゲームセンターで遊んでから、エムドバーガーで、お昼を食べる。
「それで、お酒は何にしたらいいでしょう?」
「うーん……確かコンニャクはどうのとか言ってたぴょん」
「コンニャク……」
うーんと唸った電は、閃いた。
「こういう時は、大村二佐に聞いてみようなのです!」
業務用電話を取り出すと、大村奈々海と言う名前を検索して電話をする。
trrrrr
『はい、もしもし、先輩?』
「もしもし、電なのです」
『おっ、どうしたの?』
「業務用携帯でごめんなさいなのです。直哉の好きなコンニャクなるお酒を探していて」
『コニャックな、ブランデーの』
ははっと笑うと、電の顔がカアアッと赤くなる。直哉の後輩の前で、見事な赤っ恥である。
「そ、それなのです。それで、どういうお酒が好きか…直哉にサプライズでやりたくて」
『ははーん、面白そうだねえ。どーれ、私が買って持って来てあげようか?』
「お願いしますなのです」
直哉の後輩の申し出を、有り難く受け入れる。
『おーい!武蔵―、今から半休取っていい?』
その後電話口から、『いいぞ、高菜提督の誕生日だろ?なっちゃん、今学校出るってよ』と言う、武蔵の声が聞こえて来ると、
『そんじゃ、またあとでね。夏海も連れて行くから』
と言う声と共に、電話が切れる。
「それじゃあ、レッツクッキング!」
「おー!!」
電がご飯を研いでいるうちに、神通がジャガイモ人参玉葱お肉と炒めて、
「あっ、ルゥがない!」
との神通の言葉に、卯月が近くのコンビニにダッシュする。
その間に電は、玉ねぎを微塵切りにして、お肉をコネコネし始める。
ルゥを買って来た卯月がご飯をセットしていると、気仙沼からコニャックを持って、奈々海と夏海がやって来る。
「やっほー!おっ、頑張ってるね」
「私もお手伝いします。母さんは、お部屋の飾り付けをお願いします」
途中で買って来たデコレーショングッズを押し付けると、夏海もエプロンを付けて料理陣営に加わる。それと交代で、卯月が飾り付け班に回る。
日も暮れた頃、デコレーションされたリビング・ダイニングに、
ダイニングテーブルにレタスが添えてある仙台牛の牛カツ、それにデミグラスソースたっぷりのハンバーグ、更にお鍋一杯のカレーにポテトサラダ。そして、トロのお刺身に、夏海特製トロの炙り。そしてデザートにはスイカが待っている。
お皿は、途中で奈々海が車を出して、食器屋でお揃いのを買い揃えた。
そしてケーキは、流石に手作りのスキルが足りなかったので、街のケーキ屋さんで速攻で作ってもらった。
武藤提督は今、新婚旅行の真っ最中なのだ。
39というろうそくを差して、後は本人が来るだけ……そして車の音が聞こえて来て……
「ただいま」
リビングに入って来た直哉に向かって、
「お誕生日おめでとー!!」
パァンパァン!とクラッカーを発射する。
驚いた顔の直哉は、そこから笑みに変わって行く。
「いやあ、びっくりしたよ。それに、神通はまだ仲直りできてないんだねぇ?」
「サプライズなのです!」
「ところで、どこに行ってたぴょん?」
その言葉に、ふっと優しく笑う。
「この日は、私達にとって特別な日でね。優衣姉さんと、毎年ランチに行ってるんだ」
「ちょっと妬けるのです」
その電の言葉に、ふふっと笑みを浮かべる。
「同じ時を母さんのお腹の中で過ごした間柄だからね、誕生日ぐらい許してよ」
「ふふっ、許してあげるのです。それじゃあ楽しい誕生日会なのです!」
『おーっ!!』
と、楽しい誕生日会が始まるのだ。
「いやあ、愛する艦娘と、家出艦娘と、後輩とそのお嬢さんに祝ってもらえるとは。今年は幸せな誕生日だ」
その後、サプライズでパソコンのプレゼントをして喜ばれたり、
「母さん、今日は飲み過ぎOK」
と言う、夏海様のご許可でお酒も入って……
誕生日は大いに盛り上がった。
高菜家のクイーンサイズベッドに眠っている電と卯月と、夏海が眠っているのを見守りながら、改めてグラスを片手にしている先輩後輩。
因みに神通は、漸く桐山二佐が土下座と共に迎えに来て、帰って行った。
「先輩、今年もまた長い一年が始まりますね?」
「全くだ。でも今年は、いい年になりそうだよ?」
チンッとグラスを軽く当てると、コニャックを飲み干す。
「今年も艦娘達を守って行けるかどうか」
「そして、夏海達を守って行けるかどうか」
三人の寝顔を見ながら、先輩と後輩の飲み会は続くのだった。
お題「どちらかの誕生日に」
《9月28日》
ヤン・ウェンリーの誕生日だと味気ないので
ヤン・タイロンの誕生日に設定してみました。
《8月は?》
10話で7月18日(防衛省給料日は18日)
なので、とっくのとうに過ぎ去りました…。
《神通の家出》
もう4回で数日間家出してるって多すぎるよね。
神通ちゃん、宮戸島は実家じゃないネ(by金剛)