―――高菜電――――
誕生日に何を想う、無力だった僕
―――高菜直哉―――
生まれた日にに何を想う、傷だらけだった私
―――高菜優衣―――
《注意》残酷な表現があります
盛夏も過ぎた、9月28日。直哉は朝早く、
「ちょっと出掛けて来るよ。夕方には帰って来るから、今日は外食しようか?」
そう電に告げると、
「行ってらっしゃいなのです」
という言葉に見送られながら、自分の車に乗って仙台駅に向かい、東京行きの新幹線に乗り込んだ。
普通の指定席の窓際の席で、窓から見える景色を眺めながらふと昔を思い出していた……
それは、「自衛官高菜直哉」誕生のきっかけとなる悲しいエピソード……
―――――――――――
「ねー直哉はさ、大人になったら何をしたい?」
学習院高等科三年の春ぐらいだった。
「んー、俺はまだ決まってないな。姉さんは?」
「私さあ、お見合いするんだ、今度。もし好きなことが出来たら、恋愛結婚したいな?」
名家の娘らしく、父親同士が決めた縁談。少し寂しそうに言うと直哉も、
「そっかぁ……」
少し寂しそうに答える。
小さい頃から、この双子は仲が良かった。
母親を早くに亡くし、小さい頃から共に笑い、共に泣いて……
初等科の頃に、高梨宮湊子という親友と出会い、そして三人は大の仲良しだった。
二人でお転婆な湊子の悪戯計画を練り上げて、時には宮内省のおじさんに叱られては、次の作戦を練り上げる。
三つ年上の直樹は優秀で、孤高な男だった為、我が道を行く兄とは少し疎遠で、同い年の双子はより仲良くなっていた。
そんなある日だった。
優衣は、学校の行き帰り、不審な人影を感じるようになっていた。
当時はストーカー規制法なんてない時代、本人も気のせいだろう、と思いながら登下校をしていた。
次第に、謎の手紙が家に投函されていたり、学校でも誰かの視線を感じていたり………
「ねえ、直哉……私、誰かに見られてる」
「えっ?」
不安に思った優衣は、直哉に相談していた。
それからと言うもの、直哉はいつも優衣の側にいる様になった。
それがいけなかった。ストーカーを却って刺激する結果になり、手紙の内容はエスカレートしていた。
心配した湊子も皇宮警察に相談して、一緒に帰るという名目で警備を手配してくれた。
その日は、直哉は先生に呼ばれて学校の手伝いをする日だった。
そこで、大きな思い違いが生じていた。
湊子は、優衣が直哉と一緒だと思って一人で高梨宮邸に帰ってしまい、直哉は優衣が湊子と一緒だ、と思っていた。
つまり、一人で優衣を帰らせることにしてしまった。
学校の手伝いが終わると、帰ろうかと言った時に、PHSのバイブレーションが響いた。
ポケットから取り出すと、湊子からだった。
「もしもし、湊子様?」
『直哉くん、優衣ちゃんどこに行ったか知りません?』
「えっ、家に帰ったけど……一緒じゃなかったの?」
『てっきり、直哉くんと一緒だと思って』
「………優衣が危ない!」
『皇宮警察に動いてもらいますわ!』
直ぐに電話を切ると、家に向かって走って行った。
その途中の裏路地を通りかかった時、何か第六感めいたものを感じて、足を止めた。
足元には、優衣の大事にしている鞄。
拾い上げて裏路地を見ると……
服をビリビリに破かれた、優衣の姿を目にしていた……
「姉さん!!」
走って駆け寄ると、虚ろになった目でぐったりしている優衣。
あちこち乱暴された跡……
「姉さん!!姉さぁぁぁぁぁん!!!!」
そんな優衣を抱き締めて、直哉は叫び声を上げた。
湊子の『お願い』で動いてくれた皇宮警察官が救急車を手配して、
病院に担ぎ込まれた。
犯人は、告白の手紙を無視したことでストーカー化した同級生だった。
もちろん、すぐに逮捕される事となった。
結局、その騒動が切っ掛けでお見合いは破談となった。
それからと言うもの、優衣は家から一歩も出ない生活を送るようになった。
直哉は自分を責め続けた。責めて責めて自暴自棄になっている時だった。
そんな直哉は、ある時直樹に殴られた。
「自棄になるな。そんなに自分の無力を責めるなら、強い男になれ」
その言葉を切っ掛けに、防衛大学校に進む決意をした。
「姉さん、俺、自衛官になる。そんで、姉さんを守れる強い男になる」
「………」
ベッドに潜ったままの姉に語り掛けるように宣言すると、直哉は防衛大学校を優秀な成績で卒業し、自衛官になった。
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ああ、また厭な事を思い出してしまった。
直哉は首を振る。ドリンクホルダーに入っている、ぬるくなったコーヒーを一気に流し込む。
『次は、東京、東京』
東京駅の改札を潜ると、聞き慣れた声がする。
「やっほー、直哉」
顔を上げると、三友優衣の姿だ。
今日はカジュアルな格好である。直哉もカジュアルスーツである。
「いっつも待たせて済まないね」
「今日は電ちゃんたちに、何て言って来たの?」
「所用―――とだけね」
そう言う直哉に、ふうんと答える優衣。
「何時ものイタリアンのお店予約したけど、時間あるよね?カフェでも寄らない?」
「いいねぇ」
カフェに向かうと、優衣のいつもの呪文が始まる。
「ホワイトモカフラペチーノのグランデで追加で、キャラメルソース、ヘーゼルナッツシロップ、チョコレートチップ、エキストラホイップの、エスプレッソショット一杯」
「かしこまりました」
「私はラテのヴェンティで」
「かしこまりました」
出来上がった飲み物を受け取ると、窓際のカウンター席に並ぶ。
行き交う人々を眺めながらふっと口を開く。
「龍太郎くんはどうだい?」
「うん、お義母さん共々良くしてくれるよ。こんな私でも良いって言ってくれたんだから。……もう21年経っちゃったね?」
「それで………?」
「……うん、初めてはあげられなかったけど、ちゃんと出来たよ。跡継ぎ頑張って産まないとね、高齢出産だから」
少し照れながら言う、双子の姉の頭をぽふっと撫でた。
「……頑張ったね」
「……ありがと、そういう直哉はどうなのさ?」
「東京の夜、電と、卯月と」
その言葉に、脇腹をツンツンさせる優衣。
「いやあ、リア充は良いですねえ」
「何だよそれ?」
「このお誕生日にランチも、最初は私を引き摺り出す為だったんだよね?外に」
ふふっと懐かしそうに語る。結局、それ以後登校できずに中退し、後々通信制学校を卒業している。
「姉さんがあまりにも外に出ない、部屋からも出ない、と親父からも言われていたからな」
「そうだったね、あの頃は怖かったんだよ。人が」
「……判るよ」
その後、沈黙が流れる。
「直哉は、大人になったらやりたいこと、覚えてる?」
「ああ。結局、姉さんを守れる強い男になる為に自衛官になったね。今は、のんびりやってるよ」
「私も、お見合いだけど、恋愛結婚みたいなものだから、やりたい事できたね」
「あのお見合いが破談になってなかったら、なんて考えてもしょうがないけど、奔放に生きられたのは、アレが切っ掛けかもしれない。もしかしたら、嫁ぎ先で苦しんでたかもしれないし」
「たらればの話は、きりがないからな」
「………そうね」
「でも、今はやりたい事変わったんじゃない?」
「そうかもしれないね。電と卯月を守っていかなくちゃならないからね」
コーヒーを飲みながら答えると、
「それじゃあ、この誕生日のランチも、今年で最後だね?」
「ん?電には帰ったら説明するし、龍太郎くんは知ってるんだろう?」
そうは言うものの、優衣がこの話をするのは想像できていた。
「だけど、最初に言ったこと覚えてる?」
「……ああ、『お互い次の一歩に進むまでやろう』か」
その言葉を思い返すと、コーヒーを飲み干す直哉。
「それでね、誕生日プレゼント。龍太郎からは許可済み。ペアネックレス」
そう言うと、ネックレスケースを取り出す。
「あとで、電に許可はもらうよ。なに、許してくれるよ、そこに通すペアリング。霊子結晶製」
お互いに顔を見合わせると、ふふっと笑い出す。
以心伝心、似た者同士なのだ。
ロングピローを取り出すと、お互いリングをネックレスに通して相手に付ける
リングは光り輝いている。
「そろそろランチじゃない?」
「あっそうだった、行こう!」
飲んでいたカップをゴミ箱に捨てると、ネックレスケースをお互い鞄にしまい、優衣が直哉の手を取って歩き出す。
そしてイタリアンレストランで、思い思いのパスタを注文して、
白ワインで乾杯をする。
「誕生日おめでとう直哉」
「お互いに、優衣」
この時だけは、名前で呼ぶことにしているのだ。
生まれる前からずっと一緒だった、一番近い姉弟。
―――――――
「慌ただしくてゴメンね」
「わざわざ宮戸島から来てもらってありがとうね。お互い、頑張ろうね」
東京駅でがしっと、握手をして別れる。
「それじゃあね、来年の誕生日は皆でやろうね!」
「そうだね、電と卯月、それに龍太郎くんも一緒に」
そして夕方、家に帰り着くとクラッカーが飛んで来る。
「お誕生日おめでとー!!」
この時、自分はやりたい事が十分できているんだ、と実感していた。
こんな幸せな誕生日は、何年ぶりだろうか……?
ふっと、直哉は笑みが零れているのを自覚していた。
あのペアネックレスリングは、電にお許しを貰った。
「姉弟なら許すのです。いちばん大事な場所には、ちゃんと電達のリングを付けているのです」
もちろん、ケッコンリングは卯月にも付けている。東京からの帰り、大本営に立ち寄って申請したのだ。
卯月と二人で、自慢気に見せる姿が愛おしくて、頭を撫でてあげる。
その様子を笑顔で見守っている後輩と、神通と夏海。
今日は楽しいパーテイである。
お題「
湊子が無理を押し通して卯月を引き取った理由
そして、直哉が湊子からバトンタッチした理由
そして、サプライズバースデーより先に作っておいて、
あとにリリースする難産さ。