高菜直哉二佐は、東京の大本営に呼び出されていた。
「やれやれ、東京に行くこと多いんだよなあ」
そうぼやきながら業務車三号で、東京の統合幕僚監部内の大本営に向かうのだった。
「高菜二佐入ります」
幕僚監部に到着すると、何時もの会議室で足立一佐が待っていた。
その横には、おかっぱ前髪ぱっつんでツインテール三つ編みにしている、特Ⅰ型の制服を着た女の子。肌が白く、そして右目が赤で左目が青の
表情は無く、明らかに愛想がなさそうな感じの娘だ、と言う印象を受けた。
「うむ、掛け給え」
「御用とは何でしょう?」
「とある艦娘を引き取ってもらいたい。薄雲、自己紹介をしなさい」
その言葉に、その少女―駆逐艦薄雲が起立して敬礼する。
「駆逐艦薄雲三曹です」
「高菜直哉二佐だ。よろしく頼むよ」
座ったまま敬礼を返すと、足立一佐に向き直る。
「そこで、この娘を引き取ってもらいたい、という理由をお聞かせ願えますか?」
「うむ。この娘は、数ヶ月前の作戦によりMIAとなっていたのだが、つい最近自力で帰還したのだ。その鎮守府というのが、捨て艦を多用するブラック鎮守府で提督は原隊に送り返されており、居場所が無くなった、という訳だ」
「そこで、日頃迷惑を掛ける私達にと?」
半分は冗談で半分は皮肉を言う直哉に、オッホンと咳払いをする。
「そういう訳ではないが、高性能の艦娘の下に配属しておけば安全だろう、という判断だ」
「……了解しました」
この言葉には、裏の意味があった。深海棲艦ではないか?という疑念なのだ。
そこで、電のような艦娘の下に試しに配置してみる、という方針のようだ。
それに気づいた直哉は、足立一佐に顔を向けて頷いた。
「了解しました」
「よろしく頼む」
薄雲を連れて庁舎を出て、車に乗った時だった。
「二佐、大本営は私を、深海棲艦だと疑っているようですね?」
その言葉に、直哉は腰の銃を手に取ろうとする。
横を見ると、彼女の右の瞳が赤く光っている。
「…………大丈夫ですよ、今のところは。まだ艦娘です。『宮戸島の英雄』」
その言葉で、直哉はやっとこの娘のことを思い出した。大きな溜め息を吐いて、
「……………ああ、思い出した。何で忘れてしまっていたんだろうね?宮戸島脱出の時に手伝ってくれた娘か、艦娘だったとは思わなかったよ?」
「私は、所謂『
そう。宮戸島全島脱出は、この少女の「深海棲艦に襲われる」と云う言葉と、情勢を敏感に見抜いた高菜直哉による二人の功績だったのだ。
その後のドサクサで、少女が行方を晦ましていたので、お礼が言うことができなかったのだ。
「深海棲艦のことを感覚で感じられる。そして、今は半深半娘のような状態になった、ということか?」
「………はい。高菜二佐の仰る通りです。私は轟沈し、深海棲艦化するところでした。ですが気づいたら、私は、私という意識を持ったまま再生していました」
「それが赤い瞳という訳か……」
車は発進させずに、車内で大きな溜め息を吐く。
「はい。私の方から高菜二佐の鎮守府を希望したのもあります。きっと大本営は、私を深海棲艦側だと疑っている」
「だろうね………」
「ですが私は、本質的には艦娘です。再び高菜二佐の下で働けるなら、悪いようにはならないと思います。貴方にとっても悪い話ではない」
「……私を脅しているのかい?薄雲」
鋭い目で薄雲を睨むも、薄雲は表情一つ変えない。
「いいえ、期待しています。高菜二佐の下でなら、絶望しなくて済む、と」
「買い被り過ぎだねえ、その根拠は?」
「あるといえばありますが、ないといえばありません。ですが、確信はしています」
その言葉に、車のエンジンを掛ける。その行動で信頼してくれた、と察した薄雲は、笑みを浮かべる。
「信頼してくださって、有難うございます」
「まあ、私も変人だからね?」
そう言いながら、車を走らせる。
高速道路に乗っても、会話は続けられていた。
「今、私の艦娘達は全員、家族に迎え入れている。それでやり辛くなるかもしれないが、良いのかい?」
「はい……」
その瞳は、少し残念そうだ、と言った色合いを帯びていたが、彼は気づかない。
「なら良い。よろしく頼む」
車は一路、宮戸島に向かって行った。
「おかえりだぴょん!」
「お帰りなさいなのです!」
鎮守府の駐車場に止めると、嫁二人がお出迎えする。
「その娘は誰なのですか?」
首を傾げながら電が問うと、再び抑揚のない声で、
「愛人」
そう薄雲が答える。直哉は、
「は?」
と唖然になるも、目の前の二人は涙を浮かべ始めている。
「冗談です」
薄雲の言葉に、ほっと胸を撫で下ろす二人。
「冗談になってないじゃないか?冗談は、もっとマシなことを言いなさい」
「分かりました」
無表情のまま答える。
「駆逐艦薄雲三曹です、よろしく」
「電なのです、お目々が綺麗なのです」
「青と赤だぴょん。きれいな目だぴょん」
じーっと見つめる二人を、じーっと見つめ返す薄雲。
「まあ、取り敢えず中に入ろうか?」
そう促すと、四人で庁舎の方に入る。
「旗艦の電三尉なのです」
「卯月士長だぴょん」
「改めまして、薄雲です。宜しくお願いします」
「この二人は信頼していいと思うが、話していいか?」
「ご随意に」
直哉の言葉に、薄雲は頷いた。
「実はこの娘、半分深海棲艦なんだ。捨て艦戦法で轟沈しても、生き残っていた。本人曰く『
「電と一緒なのです」
その言葉に、薄雲が小さく頷く。
「でも、直哉が連れて帰って来たってことは、いい子だぴょん。うーちゃん信じる」
「なのです」
その言葉に、少し驚きを浮かべた薄雲は、ふふっと笑った。
「笑ったのです」
「そうだぴょん」
「高菜二佐は、相変わらず信頼されているのだな、って安心したところです」
「相変わらず?」
「知り合いなのですか?」
二人の言葉に、宮戸島の一件を語り始める薄雲。
「その時、私の言葉を信じてくれたこの人に、絶対的な信頼感を感じました。そして避難の時も、宮戸島の人々から信頼されて、纏め上げて避難できた。私は仕えるなら、高菜二佐の下で仕えたかったのですが。結局ブラック鎮守府に着任して、捨て駒のように働かされました。『
再び無表情になり、語り始める薄雲に、二人は悲しそうな顔になる。
「高菜二佐の下でお仕えする為に生きて帰る。その願いが、私を艦娘に留めてくれたのではないか?と私は考えます」
「一ついいのですか?」
「はい」
電が口を開くと、薄雲は電の方を向く。
「直哉のことが好き、なのですか?」
「Likeで言えば、『はい』となります。ですがLoveでという意味であれば、分かりません」
「少し顔が赤いぴょん」
それを指摘されると、ハッとする薄雲。
「訂正します。少しだけ。一目惚れ、その程度です」
その回答に、困った顔をする直哉に、ひそひそ話をする電と卯月。
「決めたのです!うちの子になればいいのです」
「そうだぴょん!一緒に養子になるぴょん」
その言葉に、驚きの表情を隠せない薄雲。
「……よろしいのですか?」
「いいのです!」
「もちろんだぴょん!」
その嫁の暴走に、
「ちょっと待って。薄雲は、それで良いのかい?」
そう訊いてみるも、薄雲は小さくコクリと頷いた。
「それじゃ決まりなのです!」
「よろしくだぴょん!!」
「不束者ですが………」
「どうしてこうなった……?」
直哉は、頭を抱える他なかった。
こうして、三人目の「嫁」が加わった。