宮戸島の提督と仲間達のお気楽日記   作:SAMICO

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武とは、戈を止めると書いて武となる。武は無用な争いを防ぐもの、武は避けられぬ戦いでは負けぬこと



季節外れのアイス出張販売

駆逐艦薄雲の朝は早い。

クイーンベッドの一番端っこに眠っている彼女は、起きると衣服を身に着ける。

吹雪型の制服を身に纏うと、階段を降りてリビングにある家の鍵を手に取り、

玄関を出て、鍵を掛けて、早朝哨戒という名目で朝の散歩に出かける。

朝の涼しい空気の中、朝焼け空を眺めながら、漁港の方へと歩いて行く。

いつもどおり漁港に差し掛かる。

「おっ、薄雲ちゃんおはよう!」

「おはようございます。今朝の漁の様子はどうですか?」

漁師の元気な挨拶とは対照的に、抑揚のあまりない声で挨拶する。

「今日は大漁だったぜ!今、サンマの刺し身食ってるけどさ、薄雲ちゃんもどうよ!?」

その言葉に一瞬、猫耳と尻尾が現れたかもしれない。

「是非ご馳走になります」

朝食前の、このおやつ的な食事が楽しみで、来ているのだ。

漁港広場にやって来ると、漁師達やその奥さん達が、簡易テーブルで酒盛りをしている。

「薄雲ちゃん、おはよう!」

「おはようございます」

次々に挨拶されるのを、ペコリと頭を下げて挨拶をする。

 

ふと、漁港掲示板に似合わないポップなチラシが目に止まる。

アイスクリームの移動販売車が、この町にやって来るのだ。

「アイスの移動販売ですか?」

「そうなのよ。今日この漁港広場でやるから、皆連れて買いにおいでよ?」

「哨戒任務を終えたら、電とうーちゃんと行きましょう」

そしてそのまま、酒盛りをしている集団に合流するのだ。

 

少し海の幸を味見させてもらってから、漁師達に別れを告げて、商店街を歩いて鎮守府に向かう。

鎮守府には、神通さんが立っていた。

「またですか?」

「はい、崇ったら酷いんです」

彼女が鎮守府に着任してからでも二回目、通算六回目の家出である。

 

鎮守府の艦娘寮の鍵を開けると、神通は中に入って行く。

それを見送りながら、鎮守府庁舎の執務室の掃除に入る。

そして簡単な掃除を終えてから、再び鎮守府庁舎の鍵を締めて高菜邸に戻る。

これが、彼女のいつものルーティーンワークなのだ。

 

家に戻って来ると、美味しそうな匂いがして来る。

「ただいま」

そう言いながらリビングに入ると、トーストとスクランブルエッグにソーセージ、スープがダイニングテーブルに並んでいる。

「お待たせしました。早朝哨戒で報告事項がありますから、食べながらでも」

そう言って着席すると四人で、

『いただきます』

と、食事が始まるのだ。

「今日、アイスの移動販売車が来るみたいです。あと、神通三尉がまた家出をしました」

「アイス!」

喜ぶ卯月に、

「またなのですか?」

神通の家出に呆れる電。

「やれやれ。彼女は、うちを実家だと思っているようだ」

肩を竦める直哉に、卯月がパンで直哉をビシッと指す。お行儀が悪い。

「直哉が、『実家だと思って寛いで良いからね』って言ったのが悪いぴょん」

「いや。だからって、額面通り受け取る奴がいるか?」

直哉は苦笑いなのだ。

「卯月、お行儀が悪いですよ」

冷静に指摘する薄雲に、

「はぁーい、ごめんなさいだぴょん」

ぺろっと舌を出して謝る。

食事が終わったら、パジャマのままの卯月は着替えに上がって、

薄雲と電で洗い物をしている間に――と言っても、食器洗浄乾燥機付きなので、

予洗いしてセットすれば終わりであるが――

卯月が戻って来たところで、全員出勤である。

 

神通を交え朝礼を行い、非常勤旗艦の神通の指導の下、哨戒に向かうのである。

直哉はそれを見送ると、読書に耽る。

 

 

哨戒任務を終えて帰って来ると、四人で漁港に向かう。

学校帰りの子ども達が、列を作ってアイスを買い求めている。

「何にしようかなぁ♪」

「うーちゃんはトリプルが良いぴょん」

「チョコミン党党員としては、チョコミント以外は認めません」

「抹茶が良いですね」

等と口にしていると、男の子がトリプルのアイスを貰って喜んでいるところに、

別の男の子三人が、その子の背中を押す。

「わぁっ!!」

その男の子は、躓いて転んでしまう。

べしゃっ

「あ……あ……」

「大丈夫なのですか!?」

「大丈夫ぴょん!?」

電と卯月が駆け寄るなか、薄雲と神通は突き飛ばした子達に詰め寄る。

「何してるんですか!?」

「冗談だよ、じ・ょ・う・だ・ん。お姉さん達、遊びもわかんねえのか?」

リーダー格の男の子が、ヘラッと笑いながら答える。

「冗談って……怪我するかもしれないじゃないですか!?」

「何ムキになってんだよ、おばさん?」

「何ですって!?」

もう一人が、言ってはならないことを言った直後、薄雲が神通を制す。

「冗談ですか、よく分かりました」

冷静にその三人を見回すと、両目が赤くなっていた。

「そ、そうだよ」

その鋭い殺気に、いじめっ子達はたじろいだ。

「……艤装展開」

薄雲の背中に、艤装が展開される。

「これで、あなた方を砲撃して、木っ端微塵にしても冗談で済みますよね?」

「えっ……うわああああああああああ!!!!」

その薄雲の冷徹な笑みと、砲塔が向けられた三人の男の子達は、真っ青になって逃げて行った。

それを見た薄雲は艤装を収納して、再び左目が青く戻る。

 

「アイスが……」

「アイスなら買ってあげるのです」

「いいの?あ、僕は健太」

「電なのです」

「うーちゃんだぴょん」

男の子達を蹴散らした薄雲と神通も、健太の方にやって来る。

薄雲は、地面に落ちたアイスにチョコミントが入っていることを確認して、

「チョコミン党の同志を傷つける輩は成敗しました」

そう言って、健太の頭を撫でる。

「ちょっと、やり過ぎでしたけどね」

苦笑いの神通。

「お姉さん達は?僕、健太」

「薄雲です、同志」

「神通といいます」

 

電が健太君のアイスを買い直すと、埠頭で仲良く並んで食べる五人。

卯月は、シャーベット系のトリプルで、

電は、バニラ系のトリプル、

神通は、抹茶と小豆のダブルで、

健太君はチョコミント、ポップ系、チョコレートのトリプル。

薄雲は、チョコミント、チョコミント、チョコミントのトリプルである。

「あいつ等、いつもいじめるんだ。僕のこと」

「三人掛かりは酷いですね」

神通が憤る。

「チョコミントを愚弄する行為は、万死に値します。次に会ったら処刑ですね」

薄雲は時折、訳の判らないことを言う。

「でも、いじめられてばかりでいいぴょん?」

「よ、良くはないよ……でも怖くて………」

「でも、何もしなかったらこのままなのです」

その言葉に、神通が静かに語り出す。

「武とは、戈を止めると書いて武となる。武は無用な争いを防ぐもの、武は避けられぬ戦いでは負けぬこと……とあります」

「でも………」

「チョコミン党の同志なら、大丈夫」

「勇気を出して頑張るぴょん!」

「健太君なら、きっと大丈夫なのです」

「…………」

「その為には特訓なのです!」

その電の号令で、秘密特訓は開始された。

健太君は、放課後に鎮守府にやって来ては、鎮守府前の駐車場で、

空手有段者の神通の指導により、空手の練習に明け暮れる。

神通が、桐山の土下座で女川に帰っても、哨戒ついでに金剛四姉妹と立ち寄って、

トレーニングを指導していってくれる。

健太君も、運動神経はあるようで、メキメキと腕を伸ばして行った。

そんな寒くなった11月。

薄雲が空き地に通り掛かると、健太がいじめっ子に立ち向かっていた。

でも、殴り返したりはせず、殴られるだけ。

でも、ぐっと歯を食い縛って立ち上がる。

「僕はお前達なんかに負けないぞ!暴力なんか使わない!」

薄雲は、すぐに助けに行こうか考えたが、様子を見ている。

「やめだやめだ。つまんね」

そう言うと、リーダー格の子は二人を従えて去って行ってしまった。

すぐに薄雲が駆け寄る。

「健太君、大丈夫ですか?」

「……薄雲ねーちゃん……僕、負けなかったよ……空手も使わなかったよ……」

健太をギュッと抱き締めて、涙を流す薄雲。

「君は馬鹿です。大馬鹿です……殴り返したってよかったのに……」

「薄雲ねーちゃん……」

「すぐにお医者さんに行きましょう」

薄雲は健太を背負うと、病院に歩いて行った……

 

 

「何てことですか!」

「うーちゃんがぶっ飛ばしてやる!」

「いいえ、砲撃を食らわせましょう」

「私がお仕置きをしましょう」

治療後、健太の家に送って、健太の母に感謝をされて戻って来た薄雲は、事の経緯を三人にも話した。

聞いた艦娘達は怒りの声を上げる。因みに神通、七度目の家出である。

「よさないか。艦娘が民間人に危害を加えるのはいけない」

「でも……許せないのです」

代表して電が不満を口にするも、直哉は、

「いや、大丈夫だよ。きっといい方に向かって行くよ」

と笑みを浮かべる。

 

数日後だった。

健太と、いじめっ子達三人が楽しそうに歩いている姿を、お買い物中の電が目撃した。

「あ、電ねーちゃん!」

「珍しい組み合わせなのです」

その言葉に、いじめっ子達はバツが悪そうだ。

「いじめられなくなって、今は三人共遊べるようになったよ!」

「あの空手の型とか言うのを見せられたらな……」

「うん……」

「やられちゃいそう」

「それは良かったのです。いいのですか?君達、今度健太君や他の子をいじめたら、この電が許さないのです」

ビシッと指を立てて、腰に手を当てると、

『はーい!』

と元気よく答える四人組。

「よろしいのです!」

そう答えて、「うちでゲームやろうよ」と言う、健太と歩いて行く三人組の姿を、満足そうに眺める電だった。

そのことを報告したら、真っ先に納得したのは神通だった。

「なるほど………」

そして、直哉も納得した表情で、

「武は無用な争いを防ぐもの、下手に手を出したら後の禍根になる、ってことか。健太君は強い子だったね」

そう言うと、首を傾げる嫁達三人を尻目に、読書を開始するのだった。




お題「アイスを食べよう」
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