宮戸島の提督と仲間達のお気楽日記   作:SAMICO

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電の出番が無いのです(激怒)
―――――高菜電二尉―――――――



海沿いを歩く

「ちょっと出掛けてくるよ」

直哉は、財布も銃も持たず、小銭入れだけを持って作業帽を被り……

そしてミリタリーコートを羽織ると、秘書艦として残っている電にそう告げてから、鎮守府を後にする。

 

鎮守府から、海沿いに漁港へと向かう。

漁港に近づくと、海には大漁旗の掲げられた戻って来たり、これから漁に行く船が向かって行ったり、船のエンジン音や波の音、潮風が心地良い。

「直さん!こんちは!」

漁港までやって来ると、声を掛けて来るのが漁師のおっちゃんである。

「最近、漁の様子はどうだい?」

「おかげさまで好調だよ。最近は、深海棲艦も近海には現れないからねえ」

「そうか、それはいいことだね。今年のサンマは、美味しいんだろうね?」

「今丁度、サンマ焼いて食べてるんだ。直さんもどうだい?」

その言葉に、少しだけ頬が緩む。空腹中枢が刺激されて、空腹感が表層へと浮き上がって来る。

「いいねえ、ご相伴させていただこうかな?」

 

漁港では∪字溝で炭火を起こしており、網の上には焼きたてのサンマが並んでいて、漁師達やその奥さん達が美味しそうに頬張っている。

「やあ、皆さんこんにちは」

作業帽を取って挨拶すると、漁港の皆は次々と直哉の周りに集まる。

「直さん、サンマ焼けてるよ、食べて行きなよ」

「ええ、ちょうど頂こうと思っていたところです」

そう言うと、勧められるままにパイプ椅子に腰掛ける。

 

漁師達とは、海の様子について意見交換する。

艦娘が少ない東北戦線では、こうやって漁に出かける男達の情報が何よりも不可欠なのだ。

流石に酒は、やんわりと断ってからサンマを頬張る。

塩味がついていて、脂が乗っていて美味しい。

新鮮なサンマをすぐに焼いただけはある。海の人間だけに許された特権だ。

直哉が漁港に顔を出すと、宮戸島の皆がすぐに顔を出して来る。

「やあ!直さん」

「嫁さん達との生活はどうだい?」

等と誂われる。

「最近は、神通ちゃんも家出して来なくて安心だよ」

あまりにも夫婦喧嘩と家出の多い、女川の夫婦を心配する声も上がるが、

最近はまた神通は耐える時期に入ったのか、家出しなくなった。

一説には電が、

「ウチは実家じゃないのです」

と、はっきりと言ったからかもしれない。

 

一頻り海の幸を味わうと、そのまま内陸部に歩いて行く。

商店街を通り掛かると、四人連れの小学生男子に出会う。

健太君と、元いじめっ子達である。

「高菜二佐!」

「お、健坊、空手の練習はやってるか?」

「はい!」

最近は神通が家出をして来ないので、一応空手有段者の直哉が、健太の指導を引き継いだ。

土日の艦娘が哨戒している時間を利用して、この少年四人にまずは武道の精神を説いてから、

ちょっとずつ空手を手解きしている。もちろん自分の練習も兼ねてである。

直哉が指導できない平日は、宮戸島の空手道場に通うようになった。

今は健太が七級、元いじめっ子達は九級でそれぞれ緑帯・黄帯を身に着けている。

もちろん直哉は二段の腕前を持っていて、稽古の時は長年使い込まれた黒帯を締める。

「お前達、いじめなんてくだらない事やってないだろうね?」

後ろの三人組に声を掛けると、

「もちろん、先生の教えを守ってるよ」

「学校の先生からも褒められたし」

「一度健太と勝負したけど負けちゃったし」

そう。健太は、一番練習と稽古を積んでいる為、本気で怒らせたら敵わないのだ。

もちろん、平和を愛する健太は暴力を嫌っている。

でも一度、島に変質者が現れた時には、女の子を身を挺して守って、急所蹴りで動けなくしたところを一緒に逃げたのだ。

その女の子愛ちゃんとは、それが縁でガールフレンドになったらしい。

その変質者は、急行した駐在さんと直哉に逮捕され、警察署に送られて行った。

「愛ちゃんとはどうだい?」

誂うように言うと、顔を真赤にする健太君。

「けーんちゃーん!!」

可愛い声が聞こえてくると、やって来た噂の人物愛ちゃんである。

「あ、愛ちゃん」

「こんにちは、高菜二佐。びしっ」

戯けて敬礼をすると、直哉も答礼する。

愛ちゃんも空手を習いはじめて、八級の腕前になった。

「今日も熱々たぜ」

ひゃー、熱い熱いと三人組が囃し立てると、二人共顔が赤くなる。

「もー!誂わないでよ!」

そう言いながら、ギュッと手を繋いでいる。

愛ちゃんは最近、自衛隊に興味を持っているらしく、土日の練習には健太君のお弁当を作っては持って来て、艦娘達とも交流を深めている。

「仲が良くてよろしい。それじゃあ、君達も寄り道をしないように帰ること。おじさんはお散歩を続けるから、またね」

『はいっ!』

皆の元気な声を聞くと、満足そうに再び散歩を再開する。

 

ポケットに手を突っ込んで鼻歌を歌いながら、商店街を歩いて行く。

ふと顔を上げると、夕焼け空。

太陽が沈んでゆく。

 

「最近どんどん日が短くなったなあ」

一人呟く。

「全くじゃのう」

声を掛けられた方を振り向くと、杖をついた御老人。

いつも散歩中に出会う、この時間の散歩をしている島の長老大五郎さん。

元漁師で引退してからというもの、こうやって散歩をしている。

「最近はどうじゃね?」

「平穏そのものですね。海も静かだし、駆逐級しか出て来ませんからね」

「それはいいことじゃ」

「ドタバタした日常もいいですけど、こうやって静かな日常も良い」

「そうじゃの」

二人フフッと笑うと、

「コーヒーでも飲まないか?」

と誘われ、近くの珈琲店に立ち寄る。

そこで数十分将棋を指すのが、二人の間の無言の約束となっているのだ。

時には一時間位将棋を指して、嫁達に帰りが遅い、と叱られるのだ。

パチ パチ

アマチュア段位は申請していないが、この爺さんもなかなか将棋が強い。

年の功とは、こういったことだろう。

喫茶店のマスターも、この爺さんの為に将棋盤を買って置いている。

普段は、詰将棋をやっているそうだ。

本人曰く、頭を使うとボケ防止になるそうなのだ。

実際、老人ホームで麻雀が流行っている事もある。健康麻雀と呼ばれ、お年寄りには人気らしいのだ。

「やはり、藤井システムには飯島流引き角戦法かのう?」

「そうですね」

最近の年寄りにしては、ニッコリ動画の生放送で将棋の対局を行っていると見ているのだ。いわゆる観る将でもある。

その為に、パソコンを買って、インターネットを引いている。

出張パソコン教室を受けては、インターネットでお買い物まで出来るスーパー老人なのだ。

将棋こそ人生、と言わんばかりのおじいちゃんと対局するのが、直哉にとっても楽しみであるのだ。

因みに、スマートフォンもこの年で持っており、散歩中はイヤホンで将棋の中継を聞いている。

今も、横置きになっているスマートフォンで将棋の生中継が流れている。

 

大五郎さんと別れると、日も落ちて空は青紫になっている。

反対側から夕闇が迫っている。

「電達は帰ってしまったかな……?」

鎮守府に施錠確認をしに向かうと、消灯されており、《本日の業務は終了しました》という看板が掛けられている。

スマートフォンを取り出すと電から、

『夕飯はカレーなのです。さっさと戻って来るのです』

と言うメッセージが、数分前に着信している。

「今日は金曜日だもんなぁ」

曜日を思い出しながら、家に向かって歩き出す直哉。

明日は、やって来るであろう少年達の空手を見ようか?等と考えながら、

その直後、何者かの気配を感じた。

直哉は振り向いたが、そこには誰もいなかった。

ふう、と溜め息を吐いて、帰りを待つ可愛い三人のいる家に再び向かうのだった。

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