ピピピッ………ピピピッ………
枕元の目覚まし時計が寝室に鳴り響く。
この夜は、何事も無く過ぎ去ったようだ。
電は、隣で司令官である高菜二佐が眠っているベッドからモソモソと起き上がり、目を擦る。
パジャマ姿で、枕元の仕事用携帯の着信を確認する。
着信はなく、メールも特に来ていないようだ。
「ああ、良かった」
――面倒事が起きてなくて。
そう心から思った電は、夜の安眠を守ってくれた艦娘の神に感謝を捧げる。いるかどうかはわからないが。
まだ寝息を立てて眠っている司令官を放っておいて、官舎にあるバスルームでシャワーを浴びるのだ。
官舎と言っても、鎮守府庁舎という名の執務室と応接室の二部屋しかない建物の隣に、取って付けたような1LDKの平屋である。
艦娘を増やす為には、まずこの、官舎と言えるかわからない建物を拡張するか、艦娘寮を新設する必要がある。
二人揃っての結論は、
「「今の所、そんな資材も予算も無駄」なのです」」
である。
高菜二佐自身増やす気はなく、電も僚艦を迎える気はさらっさらないのだ。
いつも、熱めのシャワーを浴びて身体を覚醒させる。
残っていた眠気も、これで完全に消し飛んで行く。
そして、脱衣場に用意しておいたバスタオルで、身体を隅々まで拭っていく。
それから、何時もの暁型制服に着替え、髪をドライヤーで乾かして寝室に戻ると、高菜二佐が起き上がる。
「おはようございます」
「うん、おはよう」
高菜二佐の格好はジャージである。ジャージを寝間着代わりにしており、眠そうにバスルームへと消えて行く。
電は、高菜二佐がバスルームに入っているのを見計らって、着替えとバスタオルを用意して脱衣場にそっと置く。
それからすぐに、
コーヒーメイカーのミルが、コーヒー豆を挽く音がLDKに響く。
そして自動的にお湯を沸かしてドリップしている間に、トースターにパンを二枚セットする。
セットしてから、ダイニングテーブルの椅子に掛けてあるエプロンを着けてキッチンへ向かい、ビールばっかり入っている冷蔵庫の中から、隅っこに置いてある卵とベーコンを取り出し、
熱したフライパンにベーコンを敷いて、二つ卵を割り落とす。
そしてフライパンに蓋をすると、マグカップにインスタント卵スープを入れて、ウォーター・サーバーでお湯を注ぎ、ダイニングテーブルに持って行く。
すぐにキッチンに引き返すと、完成した目玉焼きを一つ目ずつに分離して、お皿に盛り付ける。
それをダイニングテーブルに置いて、焼けたトーストを一枚ずつお皿に乗せ、最後にサイフォンにドリップされたコーヒーを淹れるのだ。
高菜二佐が制服でやって来る頃には、トーストと目玉焼き、インスタントの卵スープとコーヒーが食卓に並べられている。
「いつも有難う。では頂こうか?」
「なのです」
その言葉と共に、食事が始まる。
高菜二佐はテレビのリモコンを操作して、テレビを点けると、スポーツニュースを見る。
「昨日も楽楽コンドルズは負けたか……相手がタイタンズなら致し方ないが……最下位にめり込んどるなぁ」
「まだ五月末だと言うのに、自力優勝が危ういのです」
高菜二佐は、2004年のプロ野球再編問題で、新規参入した楽楽コンドルズを、創設時から応援しているのだ。
何年か前まではAクラス入りを果たしていたが、最近はてんで勝てていない。
野球をリアルタイムで見る時間があまり無く、あったとしても緊急出動等できちんと見れない為、
朝のスポーツニュースが、最初の情報源なのだ。
スポーツニュースが終わると、チャンネルを公共放送に切り替える。
深海棲艦の出現情報を、政府提供の番組でやる時間が、丁度スポーツニュースの後なのだ。
どこどこの海岸で出た等、避難指示や避難勧告等、各地の情報が提示される。
もちろん、司令官執務室に行けば見られる情報ではあるが、
朝食中に把握して行くのも日課なのだ。
「東北は割と平和だね。こっから先海水浴が出来るか、は艦娘部隊の頑張り次第、ということだね?」
「なのです」
食事が終わると、二人仲良く出勤する。
ここからが、高菜二佐のお仕事時間である。
司令官コンピュータを確認し、周囲のレーダー情報を確認して、戦術案を立案するのだ。
そして宮戸島海域の艦隊の状況を確認しながら、どこの敵艦隊から対処するか、を考えるのだ。
「では朝礼を開始しようか?」
「はい!」
こうして朝礼を行うのだ。
と言っても、現在の状況をプロジェクター画面に、宮戸島周辺の敵情報を表示させながらだが。
「桐山艦隊は連合を組んでいるから、今日も進軍しそうだね。まあ、また近くの漁場を荒らしてるイ級を退治しながら、桐山艦隊の様子を見ようか?」
「今日は、きちんと普通に撤退して来てくれれば、言うことはないのです」
そう皮肉を言いながら、電は近海エリアの敵のレーダー反応や、漁師達からの情報を元にした敵マップを、頭に叩き込む。
「そうだね。まあ、給料分だけの働きで十分だ。予期せぬことがあったら、きちんと連絡すること。慢心は禁物だ、わかったね?」
「了解なのです」
朝礼が終わると電は出撃して、高菜二佐はアイスを買いに出掛ける。
既にこれが、午前中の日課となっている。
そうしてアイスを冷凍庫にしまい終わると、埠頭倉庫に設置してある私物の筋トレセットで、筋トレを始める。
事務妖精さんは今日もアイスを糧に忙しそうに仕事をしているが、妖精さん達からの信頼も篤いので、きちんと鎮守府運営が回っている。
工廠妖精さんも、殆ど無傷で帰って来る電のおかげで暇を持て余して、最近は筋トレセットのメンテナンスばかりやっている。
その頃電は、桐山艦隊が引き連れて撤退して来て、宮戸島海域に紛れ込んで来た戦艦ル級をボコボコにしている。
「面倒事を押し付けてもらいたくないのです」
等とぼやきながら。
そんな中、呑気な高菜二佐は筋トレを終えると、昼食をコンビニに買いに行ってから執務室で食べ終えて、お昼寝タイムに入る。
「てーとく、しょるいおわりました!」
事務妖精さんの声でアイスを振る舞うと、妖精さん達が集まり喜んで小さな小さな自前スプーンで、アイスを分け合って食べ始める。
それを見守りながら、エグゼクティブチェアに凭れ掛かって微睡んで行く。
「高菜二佐!起きるのです!」
と砲口を向けられるまで。
本日のお題「寝起き・朝の支度」