それから少しが経過した。
有紀は各地に飛び回り情報収集、浩助はビシバシと最上、三隈を鍛え上げていた。
そうやって数ヶ月が過ぎた頃、有紀がとある情報を持ってきた。
有紀は表の警務隊のネットワークを傍受して、全国の艦娘無線を傍受も出来る。
そこで発見したのは室戸鎮守府だった。
室戸鎮守府の所属人員はほぼ駆逐艦ばかり20名を超えていた。だが、調査してみると艦娘の数がそこまでいないことに気づいたのだ。
さらなる調査を行うと、驚愕の事実が判明した。
旗艦である重巡艦娘が室戸鎮守府の日下部提督と共謀して捨て艦戦法を行っているのだった。
しかも、計画的に。
日下部提督は戦死報告を上げずに、その給料を着服していた。それだけならまだしも、駆逐艦ばかり集めては無理やり性行為を行っていたのだ。そして、十分に蹂躙して壊したところで、重巡である旗艦が激戦地へ連れて行ってその駆逐艦を沈める。
本人もタダではすまないがすべての艦隊旗艦の保有する『旗艦の保護機能』という明石謹製の艤装能力で大破はしても沈まないのだ。
そうやって、私腹を肥やしながら、性欲を満たし、艦娘もその恩恵に預かっていたというのだ。
「室戸鎮守府の日下部提督ですが、捨て艦戦法を多用して、戦死報告を上げていません。今のままでは公金横領と性的暴行だけですが、足立一佐が動く気配があります」
「他には?」
「艦娘がグルになっています。重巡クラスの艦娘が汚職の手伝いをして、日下部提督は駆逐艦の子を辱めてはその艦娘は証拠隠滅のために夜中に捨て艦で殺している」
「そんな奴ボク許せない」
「三隈もです」
「よし、動こう。足立一佐が動く前に抑えてしまおう。すぐに支度をしてくれ」
艦娘達と村上兄妹は頷きあった。
「『仕事』だ」
村上兄弟と艦娘達は公共交通機関で四国まで移動して夜を待っていた。
「作戦はこうだ、夜中に捨て艦をして帰ってくる重巡を洋上で殺す。私達はその間に鎮守府官舎に侵入して日下部を殺す」
「2対1ならなんとかなりそうだね」
「油断は禁物よ、モガミン」
「私は付近で監視を行います。以後は専用無線連絡にて」
海沿いの廃倉庫で木箱を囲んで鎮守府見取り図を見ながら4人はそれぞれの持場に散っていった。
「ふう、今回はずいぶん粘ったわ、でも漸く沈んでくれたわね」
重巡の艦娘が意気揚々と室戸鎮守府に戻ろうとしていた時、二人の艦娘が立ちはだかった。
「待て!この悪魔め!」
最上だった。
「あなたは、何者?」
首を傾げる重巡艦娘に最上はニヤッと笑った。
「お前を殺しに来たものさ」
「なにっ!?」
その直後、砲撃音がして重巡艦娘の艤装が爆発を起こした。
「きゃあっ!!」
重巡艦娘の背後に静かに回り込んで三隈が砲撃したのだ。
それに振り向いたときにはもう遅かった。判断を誤ったのだ。
目前に突きつけられる主砲。そして、怒りに燃えた最上の瞳……。それがその重巡の最期の光景となった。
「沈め、この外道が」
「ギャッ!」
至近距離からの最上の砲撃は重巡艦娘の頭を吹き飛ばしていた。
頭を失った重巡艦娘の身体はブクブクと海へと沈んでいく。
深海棲艦には通用する旗艦保護機構は、艦娘同士の
「ボク達………」
「引き返せないところに来ちゃったわね」
血に染まっていく海面を見ながら二人呟いた。
その頃、室戸鎮守府の官舎では小さい悲鳴が聞こえていた。
「離せ!クソ提督!!」
埠頭から回り込んだ浩助は、有紀からの合図を待っていた。
すでに先に中に侵入している有紀は屋根に登って電線に向かってサイレンサーピストルを発射した。
バチッ
スパークが起こった直後、部屋の明かりが非常灯に変わった
「何だ!停電か!」
男の声が聞こえた時に有紀から通信が入った
『条件クリア、どうぞ』
「了解」
浩助が腰に帯びているアーミーナイフを手に取ると開いている窓から飛び込んだ。
「何者だ!」
一糸まとってない曙と下半身を露出させた日下部提督の姿が浩助には見えた。
「この……クズ野郎が!」
その直後、一回転して立ち上がると浩助はすぐに日下部提督の口を抑えると首筋にナイフを滑らせた。
「むぐーーーー!!!!」
「ひっ!!」
大量の血を出して息絶える日下部提督を見下ろす頃に、有紀はすでに眠っている副官をピストルで始末していた。
「………私も殺すの?」
怯えきった曙の言葉に浩助は頷いた
「ただし、私と一緒に地獄に堕ちるか、ここで天国に逝くか決めていい」
「………従いていくわ」
曙は決意の籠もった瞳で頷いた。
「いい子だ………」
浩助が曙の頭を撫でていると有紀が血まみれで入ってきた。
「うふふ、副官の処理、終わりましたわ」
「こっちも、切り刻むか……」
爪で引き裂かれたように刃物で日下部の死体を切り刻む。この刃物は、明石謹製の「デモンズクロー」と言う鉤爪グローブである。
それを曙はじっと見ていた。
「曙、君は死んだことにして新しく曙を浜松で建造したことにする。そっちの処理はやっておくから気にしないでいい」
「分かったわ、新しいクソ提督」
「うふふ、クソ提督、ね。道を違えた私達には相応しいですわね、うふふ」
「そうだね、悪を裁くクソだからね。……もう、後には引き返せなくなったな」
「でも、あなた達はいいクソ提督よ」
「いや、曙。人殺しに良いも悪いもないんだ。でも、こいつは今の法では裁けない。横領と暴行で数年で娑婆に帰ってくるだろう。そんなことを許してはいけないんだ、だから、死んでいった艦娘達の晴らせぬ恨みを晴らすために私達のような『より凶悪な悪』が裁く」
「………そうですわね」
「………」
曙は二人が苦悩しつつも道を外す決意を決めたことが痛いほど分かっていた。そして自分もそうなる覚悟も決めていた。
「………とにかく、最上と三隈と合流して帰ろう」
その後、有紀と浩助は最上と三隈に背負ってもらいながら、浜松まで戻った。
長距離移動用の明石謹製ブースターのお蔭で明け方には到着できた。
官舎のシャワーで血を二人で洗い流すと兄妹で激しく求め合った。
それが終わると新しい服に着替えて大貫に報告を上げる。もちろん曙加入の報告もだ。
「了解した、こちらで手を回しておく。今後も頼む」
大貫の返事により通信を切ると、二人は官舎に戻って再び求め合って眠るのだ。
もちろん艦娘達も今頃艦娘寮に戻って惰眠を貪っている。
数日後、定期連絡の途絶えた室戸鎮守府に警察が立ち入った。無論大貫空将の裏からの手配である。
そこで、鉤爪のようなもので切り裂かれている日下部と副官の死体を発見した。
深海棲艦による攻撃と断定され、警察の捜査と、足立率いる警務隊の合同捜査は終了した。
「生きるも地獄、死ぬも地獄か、同じ地獄なら前に進むしか無いな」
「ええ、私達のようなクズが必要としなくなるまで、やるしかありませんわ、兄様」
「そうだね」
曙を厳しくしごいている最上と三隈を窓から見下ろしながら後戻りできない道と決意を決める二人であった。