「そうだ、浜松に行こう」
そう直哉が言い出したのは、薄雲飛翔事件があってから数日後である。
「浜松なのですか?あぁ、大晦日に言っていた同期の?」
「私も気にはなっていました」
「ぴょん……」
「旅行ですか?いいなぁ」
「そうだね」
今日は哨戒を終えて、宮戸島メンバーに愛ちゃんと健太くんもいる執務室。
二人は宿題を終えて、三学期の勉強内容を予習している。
お騒がせトリオは今頃、直哉より宿題書き写し禁止令が発令され、家で缶詰になっていることだろう。
乗り気な皆に比べて、卯月の表情が暗い。
「卯月、どうしたのですか?」
電がそんな卯月の顔を見ると、卯月はポツリと話し出した。
「大晦日には知らないふりしてたけど、村上三佐と村上一尉、知ってるぴょん………」
「………もしかして、浜松鎮守府に居たのですか?」
「そうだぴょん…………」
「どうしてまたそんな……」
「大晦日のあの場で、二人のことを知ってるって言って、嫌なことを思い出したくなかったぴょん」
「そうなのですか………辛い思いをさせてしまったのです」
薄雲は何も言わずに、卯月の背中を擦っている。
愛ちゃんと健太君も心配そうに見つめている。
「村上三佐のこと、何も知らないのに怖い人、って決めつけてたぴょん……」
『…………』
「卯月はお留守番しているかい?もし何なら私一人だけ行って来るけど?」
直哉が気遣うように言うと、卯月は顔を上げる。
「村上三佐に、ごめんなさいって言いに行きたいぴょん」
「それじゃ、休暇を取って皆で行くか?」
『はーい!』
「二人も、ご両親の許可がもらえたら、連れて行ってあげるね?」
「「わーい!」」
という訳で翌日、大石家の3列シートのワンボックスカーを借りて、一路高速道路で浜松に向かう。
運転は勿論直哉。助手席には電が乗っており、二列目シートには薄雲と卯月、三列目には愛ちゃんと健太君が座っており、二人はイチャイチャしながら楽しく会話をしている。
笹野家と大石家から、あっさり許可が出る辺り、直哉への信頼が篤いことが判る。
「ところで。二人はもう、したんですか?」
薄雲が、何時も通りの抑揚のない声で訊くと、愛ちゃんと健太君は、
「「だから『してない』ってば!まだ小学生だよ!?」」
と、真っ赤な顔で否定する。
「いやあ、若いって良いなあ」
直哉はハンドルを握りながら、後ろの様子をチラ見しながら笑っている。
「直哉はもうおじさんなのです。そう言えば、初恋の人とか居たのですか?」
「もちろん居たよ」
懐かしそうに言う直哉に、電はふふっと笑いながら、
「今、どうしているのですか?」
「今かい?そうさなあ、婚礼の儀式の準備で大忙しだろうねえ?大変だよね、皇族の結婚は」
その言葉で、湊子だということが判った電は、
「あー……」
と答えるに留める。
「湊子様と初恋だったぴょん!?」
卯月が食い付いて来る。
「そうだよ、後は姉さんかな。二人が初恋だったなあ」
「電は湊子様には敵わないのです。良かったのです、直樹義兄さんが射止めてくれて」
「そうだぴょん」
「その、直樹さんというのはお会いしたことはありませんが、直哉のお兄さんと言うことは、かなりのイケメンみたいですね?」
そんな三人の、三者三様の言葉に、直哉は少し思案の後に口を開いた。
「そうさなあ、完璧超人。文武両道で、東大卒、エリート社長で資産家。今は日本を代表する大企業のトップに就いて、完璧さが更に磨きが掛かってる印象だね」
「さすがは三高ホールディングスのCEOなのです」
「直哉に負けず劣らずかっこいいぴょん。あ、でもうーちゃんは直哉が大好きだぴょん」
「私も直哉が大好きです」
「電も、直哉がだーいすきなのです!」
「あっはっは、ありがとう。私はこんないい嫁を、三人ももらえて幸せだよ」
笑っている直哉に釣られて、皆も笑い出す。
そんな三人に、今まで誂われた反撃とばかりに、お年頃の愛ちゃんが、
「そっちは『そういうこと』してるんですか?」
と訊くと、普通に、
「うん、してるよ」
「毎日してもらってるのです」
「昨日は、今日があるからちょっと物足りなかったぴょん」
「激しい時は朝方まで……」
とさらっと答えられて、愛ちゃんと健太君は顔が真っ赤になる。
「あぅ……」
「愛ちゃん、普通に答えられちゃったね」
「うん………」
途中のパーキングエリアでご飯を食べてから、
浜名湖の辺りにある、予約した温泉旅館に着く頃には、夕方になっていた。
直哉は、全員一緒の部屋で泊まろうとしたが、そのまま夜の営みに発展したら愛ちゃん達が可愛そう、という嫁達の強硬な反対で、隣接する二部屋で泊まる形に落ち着いた。
三人共に、夜の営みをしないという発想がないのが、酷いところである。
健太君以外誰一人、男女別に泊まろう、と言う発想がないところが、これまた酷い。
健太君は、一応ダメ元で提案したが、賛同者が直哉しか居なかった為、民主主義の原理という名の多数決の暴力で押し通されてしまったのだ。
という訳で、食事は皆一緒の部屋で摂って、寝るのは直哉+嫁―ズと健太君と愛ちゃんで別、と言う事になった。
早速チェックインすると、仲居さんに案内されてお部屋へ。
艦娘達を「お嬢さんですか?子沢山ですね」と、間違えられるハプニングがあったものの、食事も大人と一緒にしてもらう関係で、全員大人料金での宿泊である。
その辺は、事前にきちんと旅館と交渉している。
部屋に到着すると、早速夕食が運ばれて来る。
六人揃ってのお食事である。
直哉の両隣に卯月と電が座り、対面に健太君、愛ちゃん、薄雲といった感じで座って、お食事タイムである。
海の幸とお肉の豪華絢爛なお食事に、皆舌鼓を打つ。
「提督、良かったんですか?旅館まで出してもらって、こんな美味しいご飯まで」
心配する愛ちゃんに、直哉はははっと笑って、心配ないよと答える。
その隣で、健太君は美味しそうにご馳走を堪能している。
「もぅ、健太君」
そんな、まだまだ子供で色気より食い気の健太君を見ながら、ふふっと笑う愛ちゃん。
そんな二人を微笑ましく眺めながら、お食事を摂る一同だった。
お食事が終わると、女子達はお風呂に行く。
そんな女子ーズを見送ると、直哉は持って来た将棋盤を取り出して、
「今日もやろうかね?」
「はい!」
脇室で浜名湖を眺めながら、将棋を指して男同士の語らいを深めるのだった。
女湯に入り、体を洗った一同は、露天風呂へと向かった。
「露天風呂なのです!」
「いっちばーんだぴょん!」
「卯月、飛び込んだら危ないです」
「景色も良いねー」
駆逐艦の、まだまだ子供な体型の三人と、大人への過渡期で丸みを帯びている愛ちゃん。
女風呂でも、きちんとタオルで前を隠している。
タオルを湯船に漬けるのはマナー違反なので、入る直前に取ると、三人の艦娘は愛ちゃんを見て、
「おー」
「大人だぴょん」
「大人ですね」
と感想を漏らす。当の愛ちゃんは顔を真っ赤にしている。
四人並んで湯船に浸かる女子達。
「ふー、いいお湯なのです」
「浜松に、こんな良いところがあるなんて思わなかったぴょん。ご飯も美味しかったし」
「何でも、キャンセル待ちに割り込んで捩じ込んだ、とか直哉が言ってました」
「そうなんですね。でも良いのかなあ?お母さんも、一応ってお小遣い持たせてくれたけど」
心配する愛ちゃんに、電は笑顔を見せる。
「良いのです、電達のボーナスからも出してるのです。うちは四人共働きだし、任務であまり遊んでる暇もないので、安心してお言葉に甘えちゃって良いのです」
「そうだぴょん、せっかくの健太君との旅行なんだから、楽しむと良いぴょん」
「ところで、今夜は一緒のお部屋ですよね。健太君に襲われたらどうしますか?」
「健太君はそういう事しないよ!私のナイトだから!」
自信満々に言う愛ちゃんに、薄雲が耳打ちすると、みるみるうちに真っ赤になる愛ちゃん。
「薄雲ちゃん、何を吹き込んだのですか?」
「愛ちゃん顔真っ赤だぴょん」
「子供でも大丈夫なイチャイチャの仕方を伝授しました。今夜、早速実践すればいいと思います」
真顔で答える薄雲に、二人は嫌な予感しかしなかった。
そんな中愛ちゃんは、顔を真っ赤にしながら、何やらブツブツ言っている。
部屋に戻ると、お布団が敷かれていて、健太君は隣の和室で愛ちゃんの帰りを待っていて、愛ちゃんとは部屋の前で別れた。
皆浴衣姿である。
野郎共の風呂は、短いのである。
そんな刹那、薄雲の瞳が真紅に染まった。
「……呼んでます」
そう言うと、外に向かって歩いて行った。
「おいおい、湯冷めするぞ」
「どうしたのです?」
「ぴょん」
浜名湖に向かうと、浜名湖畔に浴衣姿の一人の女性が佇んでいた。深海提督だった。
「深海提督、お久しぶりなのです」
電が声を掛けると、深海提督が振り向いて笑みを浮かべた。
「お久しぶりですね、電、薄雲。はじめまして、高菜二佐、卯月」
「お前が、深海棲艦の親玉か……?」
直哉は、銃を携帯していないことに舌打ちしながら、声を掛ける。
「そう言うことになります。神谷二佐の件、上手くやりましたね」
「…………知ってるのか。それで何の用だ?」
「室戸鎮守府で、提督が深海棲艦に殺された一件、ご存知ですか?」
試すように深海提督が問うと、直哉はコクリと頷いてから答える。
「以前、足立一佐から聞いたことがある。卯月が宮戸島に着任する前のことだったか。お前等の仕業か?」
「さぁ?村上三佐なら、何かご存知ではないでしょうか?」
「浩助達が何か知っているのか?腹の探り合いも時には良いが、今は食傷だ。用件は何だ?」
「ただ、貴方に逢いに来ただけです。そうそう、我々のスパイの存在は、人間側でも把握しているようです」
「情報保全隊か……と言うことは、大貫空将も知るところか……ったく、食えない爺さんだ。神谷は、元々潰される運命の作戦を立案して、ただ世間を混乱させただけ、と言うことか……」
「ご明答、うふふ」
苦々しい顔をしている直哉に対して、楽しそうな笑みを浮かべる深海提督。
「それを、敵である俺達に教えてどうするんだ?」
「再三申し上げました、私と貴方は敵ではないと。深海棲艦が人類への咎なら、咎を生み出し続けるものが敵なのです」
「………大貫空将と浩助達は何かを隠している、と言うことか。分かった、十分に注意しよう」
「では
「ああ、次会う時は戦場でないことを」
「はい……」
深海提督は、霧に包まれて消えて行った。
「しかし何だな。深海提督……不思議なやつだ……深海棲艦との共存の道が出来る、と言うことはこの際無視できない話だな」
「なのです」
旅館への戻り道すがら、直哉は思案に耽っていた。
「深海棲艦との共存の道が開けるなら……か。ずいぶんと迂遠な道のりだな」
そして、大きく溜め息を吐く。
「大貫空将はどういうスタンスなんだろう?徹底抗戦派かそうでないか、それによっては私の命も危うくなる。これを黙っておくべきか、報告すべきか……差し当たり明日次第だな」
「村上三佐が、何か知っているぴょん?」
「やつの口ぶりからはそうだな。だがそれは、ブラフという事もある。せっかくの旅行なのになぁ、そういう事は屋根裏にしまいこんで、今日は考えるのをやめるか?」
「なのです」
体が冷えてしまった四人は、丁度空いてた家族風呂に入って十分にイチャイチャしながらお風呂を楽しんで、
部屋に戻ると、早速夜の営みが始まる。
翌朝。
「ゆうべはお楽しみでしたね?」
そう、顔を赤くした愛ちゃんに言われて、端の部屋で隣の部屋が愛ちゃん達だと油断していた四人は、流石に苦笑いを浮かべたのだった。
その間も、愛ちゃんと健太君はギュッと腕を組んでいる。ラブラブさが増している。
昨晩、二人に何があったかは、本人達だけしか知らない。
ハイシーズンなので普通は旅館は一杯なのですが
そこはそれ、色々とコネとかを駆使して(ご都合主義)