「さあ、ここが浜松鎮守府だよ」
鎮守府前の市営駐車場に車を停めると、一同が降り立つ。
直哉は自衛隊常装。艦娘達はそれぞれの制服の常装、子供達は作業服で、胸に入構許可証を提げている。
これは宮本一佐の計らいで、「どの鎮守府にも入構出来るように」と、取り計らってくれたのだ。
元々の意図は、武藤レストランこと南三陸鎮守府にお邪魔する為に、そのような許可証を大本営の許可の下、用意していたのだが、まさか宮本一佐も浜松まで行くとは予想してはいまい。
名目上は表敬訪問と言う形になっており、村上浩助三佐にも事前に確認済みである。
そこからは、歩いて移動になる。浜松鎮守府にはきちんと門や壁ができており、
コンテナハウスの宮戸島鎮守府より大きい敷地と建物に、全員は感嘆の声を漏らす。
「ここが浜松鎮守府か。いやあ、急拵えの宮戸島鎮守府より大きいねえ」
「うちの鎮守府より広いのです」
「………」
「基礎の構造から、地下もありそうですね」
「………」
「………」
リラックスしている直哉と電と薄雲に比して、卯月と子供達は黙っている。
卯月は、またこの地に戻って来たことで、
子供達は、知らない自衛官と会うのが緊張なのだ。
庁舎建物から、二人の男女と最上、三隈。それに曙が出て来る。
「最上、三隈お姉ちゃん!」
卯月の言葉に、二人共笑顔を浮かべる。
「うーちゃん、君は高菜二佐の鎮守府に居るんだね!?」
「高菜提督は良い提督?」
門を開けながら問い掛けると、卯月は嬉しそうに頷く。
「卯月、久しぶりだね」
男性の方、浜松鎮守府司令官の村上浩助三佐が声を掛けると、
「村上三佐、うーちゃん三佐に酷いことしてごめんなさい。勝手に怖い提督って決め付けて……」
申し訳無さそうに頭を下げると、女性の方、妹の村上有紀一尉が卯月の頭を優しく撫でる。
「そんな謝らなくて良いんですのに」
「でも……」
「村上兄妹も、久しぶりだね?」
直哉の言葉に、浩助も懐かしそうな顔をする。
「高菜君も直接会うのは防大以来だね?『宮戸島の英雄』」
「高菜先輩、ご無沙汰しておりますわ」
それぞれの知己と挨拶を交わすと、改めて自己紹介が始まる。
「私は、宮戸島鎮守府司令官の高菜直哉二佐だ」
「同秘書艦・艦隊旗艦の、駆逐艦電二尉なのです」
「同艦隊副旗艦の、駆逐艦薄雲三曹です」
「私は笹野愛『名誉士長』です!」
「僕は大石健太『名誉一士』です!」
小さな未来の自衛官達に、村上兄妹も笑顔を浮かべる。
「ようこそ浜松鎮守府へ。私が司令官の村上浩助三佐だ」
「同副官、村上有紀一尉です」
「同艦隊旗艦、重巡最上二曹だよ」
「同艦隊副旗艦、重巡三隈三曹よ」
「同艦隊隊員、駆逐艦曙二士よ」
お互い敬礼すると、庁舎の応接室に案内される。
応接室への道すがら、卯月は他の艦娘達のことが気懸かりだった。
「他の皆はどうしちゃったぴょん……?」
「皆、他の鎮守府で頑張ってるみたいだよ?」
最上がそう答えると、ほっと胸を撫で下ろす。
応接室に入ると、広い豪華な造りに一同驚く。
「これも、前司令官の趣味だったらしいんだけど、捨てるのにもお金が掛かるだろ?悪びれもなく、使わせてもらっているんだよ」
そう言いながら浩助と有紀は腰掛け、艦娘達は後ろに控える。
こちらも、直哉と尉官である電がソファに腰掛け、卯月、薄雲、子供達は後ろに控える。
「曙、コーヒーをお出ししなさい」
有紀の指示に、曙は敬礼をすると部屋の外に出て行く。
「しかし、突然どうしたんだ?宮戸島から遠かっただろ?」
浩助が切り出すと、直哉がふっと笑みを零す。
「浜松旅行ついでに、久しぶりにあけおめメールを送ったくれた同期に会いたい、と思ったんだよ。それに少し訊きたいこともあるしね?」
その言葉に察した最上が、
「それじゃあ、子供達には寮の方を案内するよ。卯月も一緒においで」
『はーい!』
と、三隈と子供達と卯月と共に部屋を出て行く。
コーヒーを淹れて来た曙も、部屋を出て艦娘寮に出て行った。
「できた娘達だね」
「自慢の艦娘さ」
直哉の言葉にふふっと笑うと、薄雲も電の隣に腰掛ける。
「積もる話もあるが、まずは二人に訊いておきたい。深海棲艦のスパイが居るというのは、本当なんだね?」
その言葉に、二人の顔色が変わった。
「事実、なんだね?そして、大貫空将も知っている?」
直哉が確信を持った表情で二人を見比べると、有紀が銃を抜こうとするのを浩助が止める。
「過剰に反応しなくていい。高菜君、君の言うとおりだよ」
「そうか………私なんぞが出張らなくても、神谷の作戦は握り潰されてたのか、やれやれ」
大きな溜め息を吐くと、制帽を取った。
「しかし、何でそれを知っているんだ?
「いやあ、簡単なことだよ。スパイを放った張本人から教えてもらった」
「!?」
愕然としている二人に、直哉は、
「これは、大貫空将にもまだ報告していないことだが、私は深海提督なる存在に出会った。とても可愛い女の子だったよ」
「深海棲艦には、やはり指揮する存在が居る、と言う大貫空将の仮定は正しかったのか?」
真剣に考え込む浩助に、電も口を開く。
「捨て艦戦法で沢山の駆逐艦が死んで、その魂が深海棲艦に変わった、と言う例も見せてもらったのです」
その言葉に、村上兄妹は思い当たる点があったが、敢えて口にしなかった。
眼の前の僚友には、表の世界で生きてもらいたいのだ。
「理論上、轟沈艦娘がいなくなれば深海棲艦の脅威は遠のく、と言うことだろうか?」
「そう言うことです」
その浩助の問いには、薄雲が答える。
「……これは、大貫空将に報告してもいいかな?」
「そうだねえ、村上君がそうすべきと考えるなら、それもいいと思うな?」
その言葉で二人共、この話題を切り上げる。
「しかし、相変わらず仲が良いねえ。君達兄妹は」
その直哉の言葉に、有紀は浩助に寄り添う。
「うふふ、地獄までご一緒するつもりです。ねえ、兄様?」
「そうだね。有紀とずっと一緒だよ」
「地獄だなんて、大袈裟だねえ。有紀は」
「それで、高菜くんは嫁を三人も娶ったと。卯月は恐怖症も克服したんだって?」
「なのです。うーちゃんも電も、そして薄雲ちゃんも、直哉の嫁なのです」
「あらあら、それは皆も羨むハーレムですわね」
その言葉に、皆がどっと笑った。
――――――――
昼過ぎ、鎮守府前。
そろそろ帰ろうか、と庁舎を出てきた直哉達に、浩助達もお見送りに出る。
「それじゃあ、私達は失礼するよ」
「長々と居座って、申し訳なかったのです」
「それじゃあ、最上お姉ちゃん、三隈お姉ちゃん、まただぴょん」
「また、今度は宮戸島までいらしてください」
「「色々案内してくれて、ありがとうございました!」」
直哉達の別れの言葉に、浩助達も笑顔を浮かべる。
「そうだね、時間ができたら宮戸島にも行こうかね?」
「そうですわね」
「卯月、幸せになるんだよ」
「高菜二佐、卯月のことをお願いしますね?」
特に艦娘達は、卯月のことを気に掛けている。直哉は卯月を優しく抱き寄せると、
「もちろん、大事にするよ。なあ、卯月?」
「ぴょん!」
卯月も、嬉しそうに抱き付く。
そんな卯月を、浩助達四人は笑って見ている。
帰ろうかと言ったところで、有紀がはっと思い出して口にした。
「高菜先輩、神谷二佐なんですが、戻された原隊で脱柵したそうです。お気をつけください」
「えっ?」
「脱柵、なのですか?」
電と直哉は、とても嫌な予感を覚えていた。
そしてそれが、宮戸島を巻き込む大騒動に発展するとは、今の直哉達には予想だにできなかった。
帰りの車の中で、直哉がポツリと呟いた。
卯月と薄雲、それに子供達は、途中で寄った遊園地で遊び疲れて眠っている。
「しかしあいつ等、随分と血腥くなったなあ」
「どう言うことなのです?」
助手席で起きている電には聞こえていたので、聞き返した。
「ん?理論的な話ではないんだけど、目つきが何か大事なものを失った目をしていてね。まさかとは思うが、ヒトゴロシなんてやってないだろうな?なんて思ってしまったのさ」
「ヒトゴロシ、なのですか?」
「それに、深海提督が思わせぶりな発言をしていただろう?それも気になっていたから余計に……ね」
苦笑いを浮かべる直哉に、電は真面目な表情をする。
「確かに、電も重巡姉妹の目が気になっていたのです。鋭いと言うか、殺し屋の目……」
「殺し屋の目…か。それを含めて、大貫空将は何かを隠している、と見るべきだろう。私もまだ30代で死にたくないからね。十分気をつけることにしよう」
「大丈夫なのです、直哉は電が守るのです」
自信満々な電の頭を片手で撫でてから、再び運転に集中すべく、前に意識を向ける。
――――――――
深夜の浜松鎮守府。浩助達はことのあらましを大貫空将に電話で報告した。
「………と言うことがありまして」
『なるほど、深海提督か。私の判断は間違っていないようだな』
「大貫空将、高菜先輩を消しますか?消すならすぐに動きますが」
「おそらく、我々が手を汚していることに気づいている、或いは何か違和感を持たれている、と思います」
『いや、その必要はない。高菜二佐は私と同じ志を持っているだろう。どうにか深海棲艦と共存の道を持てないものか?とね。今はそのままでいい。それに、あのような男を死なせるには惜しい』
「もし、他人に漏らした場合は………やはり消しておくべきでしょう?」
『半分深海棲艦の薄雲を、知っていながら側に置いている男だ、そのくらいの分別は弁えているだろう』
「分かりました。どっちにせよ、小官も無辜の同期を殺したくはありません」
「お二人がそうおっしゃるなら、私は従います」
『分かってはいると思うが、村上一尉、先走るなよ?』
「……はい」
『それより。神谷二佐が脱柵した件、そっちの方が重大事だ。村上一尉、済まないが宮戸島に飛んでくれ』
「どう言うことでしょうか?」
『神谷二佐が、高菜君に復讐を企図しているかもしれん。あのような気持ちのいい男を死なせたくはない。高菜君一行を監視して、影から護衛せよ』
「かしこまりました」
その言葉と共に、有紀は闇へと消えて行く。
――――――――
宮戸島。
「ククク……高菜め、今に見ておれ」
宮戸島の森の中に、神谷二佐が復讐の為に潜伏している。
そして、宮戸島で大騒動が起こることになるとは、この時点では誰も知りようもなかった。
今回は宮戸島のお気楽提督と電・異譚~裏の警務隊~の登場人物をゲストで出してみました。
次回神谷二佐vs直哉軍団 最終決戦