宮戸島の提督と仲間達のお気楽日記   作:SAMICO

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宮戸島大騒動~逆襲の神谷~

「やめろ!神谷!俺が目的ならその子を放せ!」

「提督!!助けて!」

小学校の校庭で、神谷二佐が愛に拳銃を突き付けて、人質に取っている。

直哉が、必死に叫んでいる。

周囲を見回すと、薄雲も卯月も血溜まりを作って倒れている。

お騒がせトリオも同様だ。

「ウヒヒヒ!!お前も十分に苦しめてやる!」

「愛ちゃん!!」

健太が、必死で愛の名前を呼ぶ。

「何だ?こいつ等デキてるのか?なら……」

「えっ……?」

タァン!

愛がドンッと押されると、神谷は愛の後頭部を撃ち抜いた。

「あっ……」

「愛ちゃぁぁぁん!!」

そのまま、倒れた愛に駆け寄る健太。

タァン!

「えっ……?」

健太は自分の胸に手を当てて……赤くなった手を見ながら崩れ落ちていった。

「貴様ぁぁぁ!!」

タァン!

激昂して拳銃を抜いた、直哉の眉間も撃ち抜いた。

スローモーションのように倒れていく直哉……

「な、直哉ぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」

眼の前が真っ赤に染まり……

「うわあああああああ!!!!!」

電は叫んで艤装を展開した。

 

気がついたら、辺りは砲撃で穴だらけ、校舎は焼け落ち、遺体が燃えている。

「直哉………卯月……薄雲……愛ちゃん……健太君……皆……」

がくっと、膝をついた電は叫んだ。

「嫌ぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!」

 

 

――――――――

はっと電は目を覚ました。体中が汗びっしょりになっている。

「はぁ……はぁ……」

起き上がると、周囲を見回す。

クイーンサイズベッドで卯月、薄雲と直哉が眠っている。

ベッドを抜け出すと服を身に着けて卯月の部屋に向かう。

卯月が使っていたシングルベッドで、愛と健太が抱き締め合って眠っている。

昨日、浜松からの帰りが夜遅く、両親の許可を得てお泊りとなったのだ。

「………」

階段を降りると、リビングに入る。

「何だったのです、あの夢は………?」

月明かりが差し込むキッチンに置いてあるコップに水を汲んで、一気に飲み干す。

「………神谷………」

ぐぐっと、コップを持った手に力が入る。

パリィン

コップを握り割ると、破片が手に刺さり、シンクにポタ……ポタ……と血が滴り落ちる。

「神谷ぁぁぁぁぁぁ!!!」

ガシャァン

コップを床に叩き付けると、キッチンの電気が点いた。

「電、どうしたんですか?」

服を身に着けて、褞袍を羽織った薄雲だった。眠そうに目を擦って、電の手から血が滴り落ちているのを見ると、

「電、何をしているんです!?」

慌てて手を開かせると、薬箱に入っているピンセットで、刺さっていたコップの破片を取り除くと、携帯用高速修復材を手に掛ける。

みるみるうちに血は止まり、傷口が塞がって行く。

「片付けますので、リビングで座っていてください」

「ごめんなさいなのです、薄雲ちゃん」

 

暫く、茫然自失状態でリビングのソファにぽつんと座っていると、薄雲がやって来た。

「落ち着かれましたか?」

目の前に紅茶を差し出す。ブランデーの香りが漂う……ブランデー入り紅茶だ。

「はい、落ち着いたのです」

「何があったのか、話していただけますか?」

薄雲は、自分の紅茶にもトポトポとブランデーを注ぐと、切り出した。

「はい……っ」

紅茶を一口飲むと、アルコールの刺激で噎せそうになる。喉が少し熱くなる。

そして、蜂蜜のまろやかな甘さが、心を安らげる。

薄雲は、マグカップに半分ほど入れた紅茶入りブランデーを、平然と飲んでいる。

「皆が、神谷に殺される夢を見たのです」

「……神谷二佐が脱柵したのは心配事ですが、宮戸島に来ているとは限りません」

静かに、落ち着かせるように語る薄雲。

薄雲は感情が薄いように見えて、一番皆のことを想っている。

「もし万が一、今宮戸島にいると仮定して、警備を強化するのは大事ですね」

「はい……」

「懸念事項は、宮戸島の人々を人質に取ったらどうするか?………或いは銃乱射事件でも起こしたら?ということですね?」

「………なのです」

「今頃、原隊の人達は血眼になって神谷二佐を追っているでしょう。そうそう遠くまでは逃げられないと思います」

薄雲は電を安心させるような語り口で、静かに続ける

「………」

少し冷めた、ブランデー入り紅茶を一気に飲み干す電。

「蜂蜜とブランデーを入れた紅茶です。落ち着きましたか?」

「薄雲ちゃん、ありがとうなのです」

「いえ。私はただ、貴方に助言しただけです」

その言葉に、笑みを浮かべる電。

「さあ、休みましょう」

「はい」

二人仲良く手を繋いで、再び寝室に戻って行った。

 

翌朝、愛と健太が二人仲良く、家に帰って行った。

電は一抹の不安を覚えていたが、二人腕を組んで帰って行く二人を見送って、

朝食の準備を始める。

その直後、健太が慌てて戻って来た。右腕を抑えて脂汗をダラダラ流している。抑えている手からは、血が流れ出ている。

「高菜二佐っ!愛ちゃんが……!!目付きの……悪いおじさんに……捕まって連れて行かれ……」

そう言うと、ガクッと膝を付いた。

「健太!何が起こった!?その怪我は!?」

「私が看ます。健太君、男の子だから少し我慢してくださいね」

薄雲が、すぐに救急箱を持って駆け寄ると、健太の上着を脱がせて、三角巾でぎゅっと肩を締め付け、止血する。

弾丸が骨で止まっていることを確認すると、タオルを健太の口に押し込んでから、ピンセットで銃弾を摘出する。

「むぐうううううっ!!!」

「薄雲は、お医者さんみたいだぴょん」

「ブラック鎮守府に転属する前は、医務官提督の下で秘書艦をしていました。提督が戦死するまで医療の手解きを受けていましたので、このくらいは」

「銃創か……相手は、銃を持ってるってことか……まさか!?」

直哉には、思い当たる人物が一人しか思い浮かばなかった。

「一応、焼け石に水ですが高速修復材を掛けましょう。人間でも緊急止血程度にはなるでしょう、滲みますが我慢してください」

「くううっ!」

そう言うと、高速修復材を傷口に振り掛ける。出血は完全に止まり、傷口も少しだけ塞がった。

「はぁ……はぁ……そのおじさんが、高菜二佐を連れて来い、と……」

健太が、脂汗をダラダラ流した状態で言うと、全員は神谷だと言うことに気ついた。

「それで、愛ちゃんはどこにいるのです!?」

「わかんない……でも、鎮守府の方に向かっていったよ……」

「了解した!卯月!医者に連れて行ってくれ」

「分かったぴょん!」

健太に肩を貸しながら診療所に向かって行くのを確認すると、直哉達はすぐに鎮守府へと向かった。

 

鎮守府に着くと、警察の機動隊が鎮守府を包囲している。

「高菜直哉を出せぇ!!」

愛に銃を突き付けて、神谷 徹が鎮守府に立て籠もっている。

愛に預けていた、鎮守府の鍵が仇となったのだ。

中には艦娘達の拳銃の他、89式小銃も仕舞ってある。もちろんガンロッカーは施錠してあり、その鍵は渡していないが、こじ開けられればその限りではない。

神谷は89式小銃を肩に掛け、ニューナンブ拳銃を愛に向け、身体を抑えている。

パトカーを防御壁代わりに何台も止めてあり、警官達はパトカーの後ろに隠れている。

その中には、有紀と駐在さんもいる。

神谷は直哉達の姿を確認すると、そちらに向かって89式小銃を乱射する。

「高菜、死ねェェェェ!!!!」

パラタタタタタタタタタ!!

「ちいっ!!!」

直哉達は、有紀の隠れているパトカーで遮蔽を取る。

駐在さんは腕を負傷していた。有紀の迷彩服も右足が血に染まっていて、拘束用インシュロックで応急止血されている。

「申し訳ありません、すぐにここに向かったのですが、警察官の銃を強奪する挙に出るとは思わなくて……私も撃たれました」

有紀は申し訳なさそうに詫びると、直哉に腰に帯びていた拳銃を渡す。

駐在さんも申し訳なさそうに、

「殺されるところを、この一尉さんに庇ってもらったんだ。ただ拳銃は奪われて……高菜二佐、済まない……」

「いえ。駐在さんが気に病む必要はありません、あの野郎が悪辣なんです」

直哉は、パトカーの窓越しに神谷を見遣りながら駐在さんを慰める。

「すぐに宮城駐屯地の警務隊が到着します。ですが……人質がいる以上は……」

「手も足も出ないか……くそっ!!!」

直哉が覗き込もうとすると、神谷は89式小銃を乱射する。

パラタタタタタタタタタタ!!!!

直哉は慌てて頭を引っ込める。

「神谷二佐、その娘は無関係です。私が人質になります。その娘を解放してください」

薄雲がパトカーの陰から出ると、まっすぐ神谷に正対した。

「………なら、手錠を持ってこっちに来い!」

「薄雲!」

「薄雲ちゃん!」

「私はお二人の為なら、何でも出来ます。ですから、心配しないでください」

直哉と電の声に、薄雲は笑みを浮かべて、負傷した駐在さんから手錠を借り受けると、手錠を片手に鎮守府の中へと入って行った。

「おい!娘!その艦娘に手錠を掛けろ!」

「……」

涙も枯れ果てた愛は、申し訳なさそうに薄雲の後ろ手に手錠を掛ける。

「よし、娘は出て行け」

「………薄雲さん、ごめんなさい」

「いえ。怖い思いをさせて、申し訳ありませんでした」

愛は鎮守府を出て行き、警官隊に保護された。

女性警官がギュッと抱き締めながら、

「お家に帰りましょう」

と言う言葉に首を振って、

「ここにいます。私は、宮戸島鎮守府の名誉士長です!薄雲さんが人質になったのに、逃げたくないです!」

「でも………」

困惑する女性警察官に、警部補が諭すように言う。

「君は十分に頑張った、休みなさい」

その言葉に直哉も、

「愛ちゃん、診療所に健太君がいるから、卯月と一緒に健太君の傍に居てやってくれ」

と言葉を添えると、愛も頷いた。

「……はい」

女性警察官は「行きましょう」と愛を伴って、診療所に向かった。

 

宮城駐屯地の警務隊がフル武装でやって来たが、状況は変わらなかった。

穴だらけのパトカーに代わり、装輪装甲車がバリケードになったが、薄雲は無表情で銃を突き付けられている。

駐在さんも診療所に運ばれた。他負傷した警察官も数人に及んでいる。

情報が漏れたのか、マスコミのヘリが上空を飛んでいる。

有紀にも、応急処置で高速修復材を掛ける。

有紀は太ももを撃ち抜かれており、そこまで深い傷ではないのと妖精が見える人間には多少効きが良い為、立ち上がれるようになっていた。

そして睨み合いが続いて、夕方になった。

神谷二佐の要求は高菜直哉の命であり、到底呑むことはできない要求だった。

そして暗くなると、直哉と有紀は頷き合った。

暗くなった死角を衝いて、有紀と直哉は埠頭に回り込んだ。

直哉は、埠頭側から執務室の窓を拳銃の銃床で叩き割ると、一気に飛び込んだ。

神谷はそれに気づいてはいたが、銃を向けられている以上スキを見せられない。薄雲に銃を突き付け、威嚇を続ける。

その直後だった。執務室のドアが開いて、直哉と有紀が体当たりを仕掛ける。

「きさまぁぁぁ!!!」

よろけた神谷は、自身から離れた人質の薄雲に向けて、腰に帯びていた艦娘用九ミリ拳銃を乱射する。

「「薄雲!危ない!」」

タァン!タァン!

「ぐうっ!!!」

「くうっ!!!」

咄嗟に、薄雲を押し倒して庇った直哉と有紀は、両足に弾丸を受け動けなくなっていた。

「電の本気を見るのです!」

電が、装甲車に積んであった89式小銃を構えて、セミオートモードで人質を失った神谷の右腕を狙撃した。

タァン!

「ぐぁぁっ!!」

神谷が持っていた拳銃を取り落とすと、電は小銃を投げ捨て、一気に走り寄って窓をぶち破り、神谷の顔面に飛び蹴りを放った!

「ごふぅっ!!」

壁と電の足のサンドウィッチになった神谷は、崩れ落ちた。

「確保なのです!!」

その言葉と共に、警務隊員が突入して神谷は取り押さえられた。

神谷は、奇声を上げながら連行されて行った。

「直哉!大丈夫ですか!?」

有紀よりも、直哉の出血が甚大だった。

電が抱き起こすと、直哉はうっすらと目を開けた。

「ごめん、電……ごめん……薄雲……ごめん……卯月……ごめん……皆……」

それだけ口にすると、直哉は意識を失った。

「直哉ぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」

 

 

 

 

 

――――――――

「いやあ、本当に死ぬかと思ったよ?」

その後、有紀と直哉は警務隊が同行させていた救急車で、東松島の病院に搬送された。

駐在さんと健太も、同じく救急車で、診療所から病院へ搬送されることになる。

結局、健太と直哉は入院することになった。比較的軽傷な駐在さんはすぐに退院して、有紀は浜松の病院に転院して行った。

お見舞いに来た電達に、苦笑いを浮かべながら直哉が言ったのが、先の言葉である。

「あまり、心配掛けさせないでほしいのです」

「全くだぴょん」

「まあ、死者が出なかっただけ良しとしましょう」

薄雲が、二人を宥めている。

 

その間、隣のベッドの健太は、愛が付きっきりでお世話をしている。

食事から何から、愛が全部やってくれている。

その別世界ぶりに、直哉達は肩を竦める。

 

結局、何だかんだで直哉が職務に復帰する頃には、二月になっていた。

その後、兄の婚礼行事やら何やらで多忙な日々を過ごし、漸く三月末になった頃、神谷二佐が拘置所で自ら命を絶ったことを知らされた。

その知らせを、足立一佐から聞かされた直哉は、複雑な思いだった。

「結局、理想と現実の折り合いが付けられない男だったんだろうな?」

卒業証書を片手に、卒業の報告にやって来た愛と健太を前に、そう零した。

「あの人は、ずっと提督が憎いって言ってました。怖かったけど、何か可哀想な人だったな、って」

「うん……」

愛の言葉に、健太も同意する。

「才能のある士官だったんだろうけどな。惜しいやつだった。ちょっと野心が強過ぎたんだ」

「なのです」

「そうですね……」

「ぴょん……」

三人の艦娘も同意する。

こうして、宮戸島を震撼させた大騒動は終焉を迎えた。

 

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