あなたの知っている人に似ていたとしてもそれは歴史の偶然であり必然である
何時も通りの朝、司令官執務室に二人で入って来ると、
司令官コンピューターに、新着メールが入っていた。
入っているメールの内容を確認しつつ、コーヒーを飲みながら苦い顔をする高菜二佐。
「コーヒーが濃すぎたのですか?」
慌てて、申し訳なさそうにする電の頭を撫でて首を振る。
「コーヒーは美味しかったよ、有難う。東京への出頭命令が出たよ」
「東京………ですか?」
首を傾げる電に、軽く肩を竦める高菜二佐。
「君も出頭せよ、とのご命令だ。常装の準備をしてくれ。なあに、数日間なら優秀な桐山先輩が、カバーしてくれるだろう」
「余計なことをしなければ、なのですが」
電が皮肉たっぷりに言うと、高菜二佐は司令官コンピューターで『出頭命令に付き、宮戸島に兵力増援を求む』と、桐山二佐にメールを送り付け、
自らも常装に着替える為、官舎へと戻って行く。
数時間後、業務車三号を運転する高菜二佐に、助手席の電。
高菜二佐の制帽の帽章は、桜が象られた陸上自衛隊の帽章。
右胸に、錨に桜のデザインの部隊章。艦娘本部、即ち大本営の部隊章である。
陸海空と、それぞれ別の艦娘本部用の部隊章が用意されている。
襟には普通科職種徽章、肩には二等陸佐の階級章がそれぞれ付けられており、
左胸には、幾つかの防衛記念章と格闘・冬季レンジャー・空挺・レンジャー・体力一級徽章が付けられており、胸ポケットには射撃徽章が付けられている。
複数もらった防衛記念章には、金銀の桜花が付けられている。
普段は、オリーブドラブの作業服に作業制帽、と言った出で立ちだが、ネクタイを締めて収まりの悪い髪を制帽に収めると、真面目な自衛官に見える。
助手席に座っている電も、暁型の制服に金色に輝く優秀艦娘徽章、防衛記念章を幾つか付けている。
戦闘中の制服とはまた違う正装である。普段は階級章と優秀艦娘徽章を襟に縫い付けているタイプなのである。
艦娘にもランクというものがあり、彼女は襟に三等海尉の階級章を付けている。
他の艦娘達が殆ど曹士階級なのもあるが、彼女以上というのは、横須賀鎮守府所属の総秘書艦大和ニ等海佐以下十数名だけである。
二等海士からスタートして曹を通過し、今や幹部と呼ばれる艦娘の一員である。
それだけの功績もあげて来ているのである。他の艦隊の尻拭いで。
そんな彼女等が向かうのは、東京にある統合幕僚監部である。
東京の幕僚監部に到着した高菜二佐達は、とある応接室に通される。
ノックをして、
「どうぞ」
と言う女性の声が聞こえると、扉を開ける。
「高菜直哉二等陸佐、入ります」
「駆逐艦電三等海尉、はいるので…入ります」
一歩部屋に入ると、スーツ姿の女性が応接室のソファに座っている。
隣には駆逐艦卯月が座っている。階級は一士である。彼女はあまり表情が無かった。
「
「な……内親王殿下!?し、失礼しました」
高菜二佐が、背筋を伸ばして敬礼すると、電は目の前の相手に絶句し、慌ててビシッと最敬礼を行う。
そんな電を見て、高梨宮湊子はコロコロと喉を鳴らして笑う。
「余人は居ません。今日は、直哉君にお願いがあって来て貰ったんですよ。学友らしく気楽にしてください」
「高菜二佐と内親王殿下は、ご学友であらせられるのですか?」
電の物言いに、湊子は笑いながら、
「余人はいませんよ、湊子で良いです。ともあれ、お掛けください」
「わかったのです、湊子様」
そう席を勧める、湊子の前には将棋盤が置いてあり、既に駒が並べられている。
「それでは失礼します、湊子様。……お話は一局をしながらと言うことですか?」
「そうなりますね」
コロコロと喉を鳴らしながら笑う、学友である相手に(ああ、面倒事だ)、と思う高菜二佐なのであった。
パチン
将棋は一手一手進んで行く。
「隣の『卯月』ですが、とあるブラック鎮守府から引き上げてきました。直哉くんにお任せしたいのですが?」
「そうは言ってもですね、官舎をどうにかしないことには……差し当たり、ベッドを増やせばなんとかなりますか?」
その言葉を聞いて、電は卯月に近づいて手を握り、その手を擦っている。
パチン
将棋の一手を指しながら、高菜二佐が口を開いた。
「その鎮守府は、非道かったのですか?」
「えぇ、とても。重巡の子達は性的な対象と看做して、駆逐艦の子達にも暴力を振るっていたそうです。捨て艦戦法の常習で『定期査察』に引っ掛かり、原隊に送り返された後、強制性交と暴行傷害で、警務隊に逮捕されました」
電は、手を擦っていると腕にも痣があることに気付いて、
「失礼するのです」
と言って、制服を捲ってお腹を見る。卯月はすぐに隠すが、痣があるのを確認した。
「………」
電は、優しく卯月の頭を撫でると、
「電なのです。よろしくなのです」
そう視線を合わせて笑顔を見せる。
「……卯月だぴょん」
暗い声で応える卯月。
パチン
「ところで、何だって私のところに?女性提督なら、他の鎮守府にいるでしょうに?」
「確かにそれも考えたのですが、練度も高い直哉くんのところの電ちゃんにお任せするのもいいかな?と思いまして。東北戦線なら、まだそこまで苛烈ではない、と聞きますよ?」
「まあ確かに。桐山先輩がボーンヘッドを犯して敵を連れて帰って来る事以外は」
その皮肉に、再び駒を動かしながらクスクスと笑う湊子。
「貴方なら、この子を沈めないだろうと確信しています」
「確信なさるのは湊子様のご自由ですが…微力を尽くします」
苦々しい顔をして、卯月を引き受ける返答をすると、湊子は真面目な顔になって二人を見回す。
「今までは、
そう頭を下げると、電が慌てる。
「お、お顔を上げてください。卯月ちゃんは電がきちんと守るのです!」
「まあ、今まで散々『お転婆な貴女』に困らされたことですし、面倒なお願いをされてももう慣れましたよ」
慌てて真面目に答える電と、軽い毒を吐く高菜二佐に、湊子はさも可笑しそうに笑う。
「あら、
「優秀な参謀………」
その言葉に、お転婆な内親王殿下の『悪戯の数々』を支えた参謀が
「ところで、高菜二佐がおやつやアイスを振る舞ったり、毎日外食しても平気な理由が判ったのです」
「ええ、直哉くんの家は貿易会社で、直哉くんは直樹さん、
電の言葉に、あっさり出自をばらす湊子に、大きな溜め息を吐く高菜二佐。
「その親父に、兄貴は会社を継ぐ、姉さんはどこか良家との縁談が約束されている、だったらお前は自由に生きてみろ、と言われて入ったのが防衛大学校でね」
「漸く、口調も戻りましたね?」
楽しそうに笑う湊子に、苦笑いの高菜二佐。将棋盤はいよいよ終局に向かいつつある。
「実家の力は、あまり借りるつもりはないんだけど、姉さんが過保護でね。毎月小遣い銭を送って来る」
「優衣さんは、直哉くん大好きっ子ですからね?」
双子の姉である優衣もまた、湊子の学友なのである。
お題は「正装」
やる気なさそうにしても実績は残してる高菜二佐。
艦娘の「正装」として、艦娘用徽章・階級章を設定しました。
《前書きの意訳》
前作に似た名前の人が出てきますが、
それは意図したものであり、似て非なるものです。
この世界は、