私達の出番が無いのだが(のです)
―――高菜直哉&電―――
愛と健太が室戸で奮闘している中、宮戸島では四月中旬から下旬になっていた。
「おっす!師匠!電の姐御」
「こ……こんにちは」
お騒がせトリオの悪ガキ大将の原 圭一が、女の子を伴ってやって来た。
彼女の名前は
外見的には、ザ・地味子といった女の子に、坊主頭で学ランのボタンを止めず、Tシャツの圭一と言った対照的な二人。
「やあ、こんにちは。怪我の具合はどうだい?」
「オッスなのです。と言うか、姐御はやめるのです。今日は寛太と慎はどうしたのです?」
「怪我はもう大丈夫っすね。寛太と慎の奴は、優花とギャルズと合同デートしてる。今日は金曜だし、帰って来ねえんじゃね?」
そんな二人に、にこやかに挨拶をする直哉と電。
今日も、哨戒を卯月と薄雲にやらせて、電と直哉は執務中という名のサボりである。
「今日も………その………お邪魔します」
「自分の家だと思って、寛いでくれよな?」
恐縮して縮こまる史絵に、笑いながらソファを勧める圭一。
こう見えて、お付き合いを始めてまだ一月未満の、初々しいカップルなのだ。
出会ったのは、入学式を終えて数日経ったある日だった。
――――――――
お騒がせトリオマイナス1は、何時ものように昼飯を食べに、屋上に上がって行った。
マイナス1と言うのは、寛太が同じクラスになった優花に、入学式の日に爆死覚悟で告白して、即OKを貰った為である。
まさに、一言完結の告白である。
同じクラスになった嬉しさの勢い余って、寛太は公衆の面前で自爆上等の告白を宣ったのだ。
「優花ちゃん、付き合ってください!」
「うん?いいよぉ?」
「えっ?」
これが、後々まで語られることになる、『入学式告白即諾事件』である。
そんな訳で、お騒がせトリオは一人減ってコンビになったり、一人増えてカルテットになったりしていた。
公立にしては珍しく、給食ではなく弁当か購買がある学校の為、
おっとり天然な不思議ちゃんの優花が、毎日寛太の分も作って来る手作り弁当を一緒に食べるので、
圭一は、お昼ご飯を屋上で、慎と寂しく食べるのだ。
寛太と優花は、今頃甘い甘いラブラブなお昼ご飯を、教室で食べていることだろう。
さて。屋上では、瓶底眼鏡でザ・地味子の女の子が、隅っこでご飯を食べていた。
セーラー服のリボンと靴の色で、最上級生の三年生だと判る。
「地味だな」
「うん」
これが、二人の第一印象だった。
その後ろから上がって来た、ギャルっぽい数人が三年生のその地味子のところにやって来ると、食べている地味子の後ろから蹴りを入れた。
「どーん!」
「きゃあっ!」
女の子は派手に転び、お弁当の中身が散乱した。
「キャハハハ、陰キャが屋上で飯くってんじゃねーし。便所で食ってな」
「そうよ、地味なあんたには便所飯がお似合いだよ」
転んで手を衝いた地味子の眼鏡がずれた時、圭一はその地味子を「可愛い」と思ってしまったのだ。
その瞬間、圭一は頭より行動が先んじた。
「おい、先輩。寄って集って弱い者いじめして、あんた等のほうが陰キャじゃね?」
「ちょっと、圭一!相手は三年だよ!」
止めに入る慎に、憤る圭一。
「ばっか!三年だろうが、四年だろうがあんなの見過ごせっか!?」
「四年はいねえし!」
ツッコミ役が、今はラブラブ中の為、慎が堪らずツッコミを入れる。
陰キャ呼ばわりされた上に、放置されて漫才を見せられているギャル達はご機嫌斜めである。
「何?一年坊主のくせにナマ言って!ちょっとシメたほうが良くね!?」
「やっちゃう!?」
そんなことを言いながら、スマホを取り出してメッセージを送る。
すぐに、ヤンキーの三年生が三人上がって来た。
地味子はメガネを掛け直し、散らばったお弁当を黙々と片付けている。
「何?こいつが生意気な一年坊か?」
「あ?先輩、何か用すか?」
神谷事件の後、お騒がせトリオも真面目に自衛隊格闘術と空手を習うようになっていた。
そんな自信が、先輩相手にも物怖じしない態度を取っていた。
「あ?生意気なガキだな!ちょっと教育してやるわ!」
三年のヤンキーが圭一に近づいた直後、圭一は胸へ掌底を放った。
「えっ?」
トクン……
心臓の拍動が一瞬止まり、体の動きが固まった直後、足を払って相手に尻餅を衝かせる。
転んだヤンキーは、何が起こったか判らなかっただろう。
「この!」
「野郎!病院送りにしてやるぜ!」
仲間がやられて激怒した三年のヤンキー達は、ジリジリと距離を詰める。
「慎!こいつ等勝った気でいるみたいだな!?」
「そうだな。師匠直伝の、自衛隊格闘術で教育してやるか!?」
圭一と慎は、それぞれ殴って来るヤンキーの腕を摑んで、ギリギリと後ろ手に回して締め上げる。
「いででででで!!!」
「いただだだだ!!!」
そのまま、ギャル達に向けて締め上げた腕を離すと、それぞれ背中に向かってショルダータックルをブチかます。
「うわわっ!!」
「きゃあっ!!」
ヤンキー達は、ギャル達に衝突して、押し倒す形になって転ぶ。
「ちょっと!?どこ触ってんのよ!?」
「す、すまん!!」
ギャル達はご立腹で、ヤンキー達にビンタを食らわせている。
「さ、先輩、手伝うよ」
圭一は、黙々とお弁当を片付けていた地味子を手伝う。
「お前等!覚えてろよ!」
「そうよ!覚えてなさい!!」
ヤンキー達とギャル達は、圭一達を睨み付けながら、屋上から出て行った。
「さあ、先輩、食え」
「……え?」
自分の弁当を差し出す圭一は、驚いた顔の地味子から、拾い集めた弁当を奪い取る。
「オレはこっちを食うわ」
「まあ、先輩、遠慮なくもらったげてください」
「……その……あの……ありがとう……ございます」
地味子はか細い声でお礼を言うと、圭一の弁当を受け取り、圭一は砂まみれの弁当を、
「うめえうめえ!」
と言いながら、砂をジャリジャリさせつつ平らげる。
そんな様子を見ながら、申し訳無さそうな顔で、少しずつ圭一の弁当を食べる地味子。
「そう言えば、俺は原 圭一だ。宜しくな、先輩」
「俺は齋藤 慎。先輩、よろしくお願いします」
「……その……草加……史絵……です」
「そうかそうか」
「………?」
自己紹介で、圭一が放った渾身のボケは史絵には伝わらず、史絵は首を傾げる。
「滑ったな?」
「うっさいわ」
「あの……その……わからなくて……すみません」
慎のツッコミに毒づく圭一、そしてそれに申し訳なさそうに謝る史絵。
それからというもの、圭一は昼の度に慎を引き連れ、三年生の教室まで押し掛けて、
史絵と連れ立って、屋上でお昼を食べるようになっていた。
そんなある日。
「ちわーっす!史絵先輩いますか?」
「さっき、横澤さん達が連れて行ったよ。体育館まで来い、って言ってた」
そのクラスメイトの言葉に、圭一はチリチリとした危機感を感じていた。
「慎!先生呼んで来い!」
「分かった!」
二人は頷き合うと、互いに反対方向に駆け出して行った。
圭一が体育館倉庫に踏み込んだ時、史絵はヤンキー達に押さえられ、付近の荒れていることで有名な高校の制服を来た金髪ヤンキー達が、史絵のセーラー服をバタフライナイフで切り裂いて、ブラを前から切っていたところだった。
「ひっ……ひっく……」
史絵の、純白の控え目のトップレスの下着姿を目にしたところで、圭一はブチッと何かが切れる音が聞こえた。
「てめぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!」
ダッと駆け寄ると、ナイフを持っているヤンキーの腕を摑んで、背負い投げの体勢を取ってから体を捻るように、脇腹に肘を叩き込んだ。
ボキッと鈍い音がして、悶絶しながらナイフを取り落とすも、そのまま身体を巻き込んでの背負い投げで、床に叩き付ける。
「ぐはぁっ!!!」
背中からやられた上に、肋骨が数本折れたヤンキーは、真っ青な顔で呼吸困難に陥っている。
その直後だった。
ガツンッ
「圭一くん!?!?」
圭一は、後頭部に衝撃を感じた。
悲鳴のような史絵の絶叫で、飛び掛けた意識を繋いだ。
頭から血がダラダラ流れている中、ギロリと後ろを向いた。
「な、何だコイツ!?」
不良高校生は、三段警棒を持っていた。
「おい、コラ。パイセンよぉ……武器使うってんなら、相応の覚悟持ってんだろうなぁ!?」
ギロリと不良高校生を睨んだ圭一は、渾身の力を込めて顔面に向かって拳を振り抜いた。
「ぐわぁっ!!」
不良高校生は壁に叩き付けられて、そのままズルズルと崩れ落ちた。
殴った拳は、赤黒く腫れ上がっている。
「圭一くん後ろ!!」
圭一が振り向く直前だった。ヤンキーの一人が体当りしていた。
ザクッ……
腰に激痛が走った。
「おぁ…?」
「きゃああああ!!!!圭一くん!!!!ナイフが!!!」
史絵の悲鳴が響き渡る。
そのまま、尻餅を衝いたヤンキーに振り向いた。
そして獰猛な笑みを浮かべる。
「よせよ、痛いじゃねえか……」
右腰にナイフが刺さったまま一歩、また一歩とヤンキーに近づくと、拳を顔面に振り下ろす。
「ギャッ!」
ヤンキーは、悲鳴を上げて崩れ落ちた。
「この野郎!!いい加減くたばれ!」
「くたばんのは手前ぇだ!!!」
襲い掛かってきたヤンキーを、右腕一発でノックアウトする。
「ぐわぁっ!!」
数分後、ガタガタ震えている史絵に、血だらけになりながらフラフラとしている圭一。
そして、地面に倒れ伏している不良高校生にヤンキー共。
ギャル達は、その死屍累々な状況に、三人身を寄せ合ってガタガタ震えている。
中には、スカートに染みを作ってしまう子もいた。
「け……けいいち……く……ん」
小動物のように震えている史絵に、圭一は自分の学ランの上着を脱ぐと、史絵に掛けて……
そのままバタリと、前のめりに倒れた。
「圭一くん!!圭一くぅぅん!!!」
――――――――
「う……ここは……?」
圭一が目を覚ますと、病室だった。
起き上がろうとすると、史絵が押し留める。
「まだ駄目っ……」
「っ、つぅ………」
激痛に顔を顰める圭一。周囲を見回すと、寛太や優花、慎に直哉、電や卯月、薄雲までいる。
「あの、師匠……途中までしか覚えてないんすけど……?」
直哉の方を見ると、腕を組んだまま大きな溜め息を吐いて答える。
「慎くんが体育館倉庫に着いた時に、大量出血で呼吸が弱まってショック症状を起こしている圭一を発見したそうだよ。直ぐに救急車で搬送されて、頭の緊急手術で一命は取り留めたよ。右拳も亀裂骨折だよ。どんな力で殴ったらああなるのか、訊きたいものだね。当然ながら、君がやっつけた不良共も全員仲良く病院送りだ。全く……『危ないことをしてはいけないよ』と、いつも言っているだろう。どうして宮戸島の名誉隊長は、
直哉は、苦々しい顔をしてそう言ってから、笑みを浮かべる。
「ただ、『男としては』よくやった。草加さんはレイプされかけてたそうだからね?」
「グッジョブなのです。いっその事、キンタマを踏み潰せば良かったのです」
「女の子に手を出す男は最低だぴょん」
「全くです」
その言葉に、艦娘達も同調する。
「圭一くん。『圭一くんが死んじゃうかも』って、慎が取り乱した時はどうなるか、と思ったよ」
「けーちゃん、危ないことはだめだよぉ?」
「寿命が縮まったよ、圭一のせいで」
同級生達は、圭一に心配という名の叱責を送る。
「す、すんません……」
圭一は、そんな周囲に謝ることしか出来なかった。
「数日間入院だ。後その期間、出席停止処分になった。どうも、草加さんは圭一くんとお話がしたいそうだから、邪魔者は御暇させてもらうよ?」
その直哉の言葉を合図に、皆ぞろぞろと病室を出て行く。
最後に電が、「ごゆっくりなのです」とバタンと扉を閉めると、二人っきりになる。
「圭一くん……その………ごめんなさい……」
泣きそうな史絵の眼鏡を、圭一はそっと取った。
瓶底眼鏡のない史絵の顔は、とても可愛いものだった。
「か、可愛い………」
「えっ……?」
史絵の顔は、みるみるうちに真っ赤になる。それを見て圭一の顔も赤くなる。
「その、先輩。……俺、先輩のオッパイとか見ちまったし、責任取って……その、付き合ってくんないか?」
「えっ……責任は……感じなくても……」
「いや、違う!俺は先輩がいいんだ。可愛い先輩が!」
「………はいっ、喜んで……っ」
そして、夕日に照らされた二人の影が重なった。
――――――――
ソファーに二人並んで、史絵に勉強を教えてもらう圭一の姿を見て、直哉と電はお互いを見て肩を竦めて笑う。
「純愛カップルだな」
「なのです」
「圭一くん、ここは、こうして………」
「ふむふむ、なるほど。さすが史絵先輩」
二人は、仲睦まじく勉強をしている。
因みに、中学の番長のヤンキーどころか高校の裏番までノシてしまった圭一は、中学の新しい番長として勇名を馳せてしまった。
今回の一件に関わったヤンキー達はもちろんの事、他の不良からも一目も二目も置かれる存在になってしまったのだ。
当然ながら、圭一もヤンキー達も、学校からの処分の対象になった。
圭一は入院中の出席停止、ヤンキー達や不良高校生は停学に加え、少年鑑別所送りとなった。
ギャル達も出席停止となったが、それ以上に圭一の恐ろしさを目の当たりにして、学校に『行けなく』なってしまった。
こうして、史絵をいじめる者もいなくなってしまい、クラスにも平和が訪れたのだ。
そんな中、慎は自業自得とは言え、不登校になってしまったギャル達を不憫に思い、学校からの配布物を届ける役を後輩ながら買って出ていた。
いつしか、本来のマイペースな優しさがギャル達の心を惹いてしまい、横澤望、平岩奈緒子、田中櫻子と言う三人のギャル達の彼氏となっていた。
こうしてお騒がせトリオは、《番長と愉快な仲間達》に格上げとなった。
ゴールデンウィーク突入前には、学校にも出られるようになって、慎と圭一の仲介でギャルズと史絵の間で、謝罪と関係修復が行われた。
こうして宮戸島の、濃厚なドタバタが詰まった四月が過ぎて行った。
――――――――
ゴールデンウィークは、皆で東京に泊り掛けで遊びに行くことになった。
東京での世話役は、湊子が買って出てくれた。
ゴールデンウィーク初日、番長と愉快な仲間達は仙台までやって来ていた。
お騒がせトリオは、服を買いに行く彼女´ズの荷物持ちとして、だ。
「全く。女ども達で仲良くなりやがって」
「いいじゃん。こうやって、皆彼女出来た訳だし」
「俺なんか、三人もいて大変だよ。師匠の大変さがよく分かるよ」
キャイキャイと服を選んでいる彼女´ズを眺めながら、お騒がせトリオはショッピングセンターのベンチで佇んでいた。
本日のお題「お騒がせトリオの恋愛話(toshi-tomiyamaさん提供)」