一同が朝食を食べ終わると、優衣が再びやって来た。
今日もゆったりとした服に、帽子を被っている。
「おいっす!」
『おはようございます!』
朝食は、湊子お手製のシンプルなモーニングである。
皇族から専業主婦となった湊子は、最初から花嫁修業をしている為、お料理も得意なのだ。
「今日も外に出れない湊子に代わって、この三友優衣が皆さんのエスコート役を務めるからね」
「
サムズアップしてみせる優衣に、口元に手を当てて笑う湊子。
慎が、昨日言おうとしたことをふと思い出して口にする。
「そういえば、三友商事の新社長の龍太郎さんって、優衣さんの旦那さんなんですよね?」
「そうそう。お義父さんが楽隠居しちゃったから、三高HDの副社長兼任でね」
そんな慎と優衣の会話に、ギャルズも加わって来る。
「マジで?あのイケメン社長って19とかじゃなかった?優衣さんいくつ?」
「39ですが、何か?」
「アラフォーに見えないし!」
「だね」
遠慮なく年齢を聞く望に、普通に答える優衣。
そして、年より若く見える、と褒めちぎっておく奈緒子に櫻子。
「いやいや、おばちゃんを煽てても何も出ないよ?」
「煽ててないですよ。十分若く見えます」
「ありがと」
慎の言葉に素直に礼を言うと、
「それじゃあ、幹事さん。今日はどこに連れて行ったら良いんで?」
「今日は、三高ワンダーランドに行きたいと思います。最新鋭の大型遊園地で、お台場鎮守府の近くでスパもある総合リゾードですし」
「あ、三高ワンダーランドなら特別パスあるし。皆快適に過ごせるんじゃないかな?」
さすがは、三高ホールディングス総帥の妹である。
三高ワンダーランドとは、元々三友グループで計画・建設していた総合リゾートを、高菜直樹自らデザインしてリファインさせ、ゴールデンウィークに合わせてオープンさせた、総合型リゾート施設である。
千葉の某リゾートや、大阪の某テーマパークに並ぶ三大リゾートとして誕生した、お台場の新名所なのだ。
その為に大規模な埋め立てを行い、敷地面積を広げ、お台場鎮守府を移転させてまで誕生させた、高菜直樹CEO肝煎りの一大プロジェクトの結晶なのだ。
鎮守府とも提携を結んで、時折艦娘と触れ合うことの出来る、人と艦娘の融合の地でもある。
海沿いのテーマパークということで、鎮守府からの警備も強化され、基地航空隊も配備されており、今日本で一番安全な海、東京湾と呼ばれている。
余談だが、室戸鎮守府の基地航空隊が後回しにされた《遠因》でもある。
「それじゃあ、三高ワンダーランドの社長に電話しながら向かいますかね?」
『おー!』
――――――――
慌しく従業員が準備している、ワンダーランド構内。
まだオープン前である。
裏口の地下駐車場に車を停めると、裏口から事務所を通って中に入る。
入り口では大勢の人達が並んでいる中、オープン前に真っ先に入ることが出来たのだ。
皆の胸元には、特別優先パスが提げられている。
本来有料の、優先パス使い放題のスペシャル特典である。
本来は遊園地のアトラクションの提供企業に配布されるものだが、特別に頂いたのだ。
そんな訳で、何組か入っているお客さんは、提供企業のお偉方のご家族、という訳だ。
「という訳で、一番最初のアトラクションは、真っ先に行けるけど、どうする?」
優衣がパンフレットを開きながら、従業員が鋭意準備中の構内を歩き始める。
皆も、あとから従いて来る。
キャイキャイ言いながら、四人でパンフレットを見ながら従いて来るギャルズと慎に、
周囲も憚らずに腕を組んでいる天然ちゃんの優花に、羞恥心は入学式で捨て去った寛太。
そして、顔を赤らめて手を繋いでいる番長カップル。実に初々しい。
「まずは早速、ジェットコースターっしょ!?」
「それな!」
「だね!」
「ジェットコースター楽しいよねぇ?」
ギャルズの提案に、優花が賛同する。
「ジェットコースターも色々あるんだけど、お勧めはメテオストライクサンダーボルトかな?」
優衣が、天高く聳え立つ構造物を指差す。
日本一の高低差・速度を誇る、超絶叫ハイスピードジェットコースターである。
海まで張り出したそのジェットコースターは、総距離も日本一を目指して作られ、最新の技術をふんだんに盛り込み、
「それにしよう!」
「それいいな!」
「だね」
男子達が優衣の提案に乗っかると、一同メテオストライクサンダーボルトに向かう。
ワンダーランド中心地から出発し、構内をグルっと回って、ARエリアに突入、帰って来るルートなのだ。
オープン時間まで待っていると、オープンと同時に押し寄せる人の波を、スタート地点に待機している一同は上から見下ろす形になる。
「うわ、すげえ人だな」
「そりゃあゴールデンウィークで、オープン数日の新遊園地だからでしょ?」
慎が番長に言う。
優衣はコースターの反対側、つまり出口に移動すると、
「行っといで。私はさぁ、ちょっとパス~。妊婦だからさぁ」
そう笑顔を向ける。
「そんな時にすみません」
史絵が申し訳なさそうにすると、
「気にすんない、君達は遊ぶのに専念すること。せっかくの特権濫用なんだから」
そう言うと、史絵にも笑顔が戻った。
そしてじゃん負けで、史絵と圭一が先頭になった。
提供特権で事前入場している人達や、一番最初にたどり着けた人達が乗り込むと、コースターがガタンガタン……と上がって行く。
「ね、ねえ……高過ぎない?」
「お……おう……」
途中から、史絵の顔色がだんだん青くなって行く。
周囲を見渡すと、どんどん地面が遠くなって行く。
ここが第一の地獄、超高低差である。
そして頂点が見えると、降りたところでガタン、と停止する。
先頭は、垂直落下状態での一旦停止である。
「ひっ」
史絵が、小さく悲鳴を上げる。
そしてコースターは、超スピードで急降下して行く。
「ぎゃああああああああああああ!!!!!!!」
「うわああああああああああああ!!!!!!!」
史絵が、今までにない大きな声で大絶叫を上げた。
そして圭一も、ギュッと二人手を握り合っての大絶叫である。
「「「あっはっはっはっは!!!!」」」
「っ………くくっ!!!」
ギャルズ達は、今まで聞いたことのない大音量での史絵の絶叫に、大爆笑している。横では、慎が笑いを堪えている。
「わあぁ~い!」
「おわぁっ!」
寛太と優花は、それなりに楽しんでいる。
上下左右とブンブン振り回され、海面スレスレに走って行く。
遠くで演習中の艦娘達も、手を振っている。
「ぎゃあああああああああ!!!!!!」
史絵は大絶叫である。
そのまま、コースターは速度を落としながらARエリアに突入する。
ここからはコースターは微速だが、風のお蔭でぐんぐん加速しているように感じる。
そのままコースターの映像は、大気圏を突破して宇宙に登って行く。
サンダーボルトの名の通り、雷がピシャーンピシャーンとコースターに襲い掛かって、風と音響のお陰で一瞬ふわっとなった瞬間、隕石がコースターにぶつかる演出が為され、一気に急落下する演出と、大気圏突入の温風で絶叫が響き渡る。
「きゃああああああああああああああああ!!!!!」
史絵は、再び大絶叫をしている。
圭一が、痛いくらい手をぎゅうっと握り締めている。
そして、ARとの切れ目で再び加速したコースターは、最後のループを迎えてスタート地点に戻って来る。
――――――――
「あっはっは、大丈夫?これ、制作にかなりの費用を投入した自信作らしいけど?」
優衣が、大笑いでお出迎えする。
史絵は、完全に腰を抜かしてしまっていた。
圭一がお姫様抱っこで抱き抱えて、近くのベンチに座らせる。
「フミちゃんマジうける」
「それな」
「だね」
まだ笑ってるギャルズに、涙目で抗議する史絵。
「ジェットコースターなんて、初めて乗ったんですもん……こんなに速い、だなんて思わなくて……」
「そうだぞ。史絵は絶叫マシーン苦手なのが、何か問題か?」
そこへ番長も史絵を庇うように言うと、史絵も漸く立てるようになって、後ろから抱き付く。
「圭一、ありがとう……」
「お、おう……」
照れまくっている圭一を、暖かく見守る愉快な仲間達。
降りて来ると、構内は人だかりである。
お上りさんたちにとっては、おどろ木ももの木さんしょの木である。
「そんで、次どこに行く?」
エスコート&ガイド役の優衣は、そんな一同に振り向いて問い掛ける。
「お化け屋敷行きましょう。怨霊ハウス」
次にどこ行くか考えようとすると、史絵が主張する。
「よっしゃ!皆行くぞー!」
優先パスを使って、怨霊ハウスに次々入って行く。
今度は、ギャルズ達の悲鳴が響く。
この怨霊ハウスも最新鋭のAR・
技術監修に、明石が参加していることは、関係者のみが知る事実である。
「「「きゃああああああああ!!!」」」
慎にギュッと抱き付く。三人で。
「ちょっと!密着し過ぎ!」
慎は、左右後ろにギャルズにくっ付かれた状態で進む羽目になった。
そして優花は、あまりのマイペースと天然が過ぎて、
出て来た幽霊に、
「こんにちはぁ?」
って、挨拶するくらいホラー耐性がある。
「ひえええっ!?」
こっちは逆に、寛太が優花に抱き付いて怖がっている。
さて、番長カップルだが、史絵の狙い通り、
「キャッ!」
と、お化けが出る都度、圭一に抱き付く。
史絵の、大き目の胸がむにゅっと当たるたんびに、顔を真っ赤にする圭一。
「だ、大丈夫だからな」
史絵を勇気づけようとする圭一だが、実は史絵はホラー大好きなのだ。
本当は怖いのは少しだが、大袈裟に怖がって、わざと圭一に抱き付いている。
優衣はホラー苦手なので、またまた敵前逃亡している。
三組三様の楽しみ方をしながら、怨霊ハウスを抜ける。
――――――――
「いやあ、怖かったな」
「う、うん……」
「ちびりそうだった」
「…だね」
爽快な顔をしている慎に、まだ恐怖が抜け切ってないギャルズ。
「楽しかったねぇ?」
「うん」
二人共満足している、寛太と優花。
「怖かったです……」
「む、胸が……」
まだ圭一に抱きついている史絵に、顔が真っ赤の圭一。
「あっはっは。皆楽しそうだねえ?」
大笑いしてるのは、敵前逃亡した優衣。
「さあ、ちょっと早いけどお昼にするべ」
皆で優衣プロデュースのイタリアンレストランで――ここは株主・提供先専用レストランである――美味しい食事に舌鼓を打ってから、
ここからは、カップルで別行動にしよう、と言う提案で、皆それぞれ散らばって行く。
「圭一、観覧車乗りましょう?」
「おう、そうだな」
二人腕を組んで、観覧車に向かって行く……
観覧車に乗り込むと、ゆっくり回って行く。
東京の海の景色が一望できる観覧車、
観覧車の中はふたりだけである。
「圭一………」
「ん?」
「私、圭一に会えて幸せです……」
そっと寄り添うと、頬に長い間キスをする史絵。
「………ダイスキです」
そう耳元で囁く史絵に、圭一は理性が崩壊した。
抱き寄せると、濃厚なキスを今度は唇同士で行う。
「んぅ……」
「んぅっ…」
唇が離れると、再び寄り添い合って東京の景色を眺める二人だった。
そして、圭一と史絵は仲良く、大人しめのアトラクションをのんびりと楽しむのだった。
――――――――
夕方、それぞれのカップルズとお一人様優衣が思い思いに満喫したところで、スパに移動する。
野郎三人がサウナでガマン大会をしている間、女子達は並んでお風呂に浸かっている。
「ふぃー、生き返るわぁ」
優衣が足を伸ばして入ると、望が優衣の身体を覗き込む。
「優衣さんて、ちょープロポーションいい感じ?」
「うん」
「私も欲しいなあ、もっと……」
その言葉に、奈緒子と櫻子も続く。
因みに胸部は、史絵・望・奈緒子・櫻子で、大・中・中の下・小である。
「もうすぐ40代だからね、いろいろ気を使ってるんだよ。40になるといろいろ崩れるからね?」
「そういえば妊婦だけど、ここまで綺麗な人、なかなかいないよ?」
「あはっ、ありがと。高齢出産だから大丈夫かなあ?って心配になるけどね?」
望の疑問に、優衣があははっと笑う。
「30代半ばでも高齢出産になりますからね……」
史絵が、しみじみと言うと優衣が、
「そうなんだよね。特に、あたし初産だから大変よ。だからアトラクションは遠慮したんだけどね?」
「良い赤ちゃんが生まれると良いねぇ?」
ぽやーんとしている優花が、結衣の下腹部をナデナデすると、優衣はあははっと笑う。
それからは、それぞれのカップルのデート報告会に移る。
ギャルズ達は、とにかくアトラクションに乗り捲ってボルタリングもやって、パルクールエリアで汗も流して、アクティブに過ごしていた。
一番、優先パスを使い捲ったのが、この四人である。
「とにかく、慎君運動神経いいから、楽しかったよね?」
「うん、かっこよかった」
「惚れ直したね」
優花と寛太は、寛太の希望で艦娘ショーを観ていた。
そして、艦娘体験ARライドや、VR系の乗り物に乗っていた。
個々のテーマの一つが、艦娘との共存なのだ。
「大迫力で艦娘達が躍動して面白かったよぉ?」
そして、史絵が観覧車でキスをしたことを報告すると、
報告会は盛り上がり、今度はどんなキスをするかをギャルズ達がけしかけて、史絵は顔が真っ赤になっていた。
「ど、どんなキスって……その……恥ずかしぃ……」
その間も、野郎共はサウナでガマン大会をしている。
――――――――
翌日は宮戸島に帰る。
番長と愉快な仲間達は、初の東京旅行を充実したものとして過ごして行った。
余談だが、室戸からの帰り途中の直哉ご一行様も、家族特権で同じ方法で遊び捲っているのを、番長と愉快な仲間達は知らない。
次回から通常営業です。