宮戸島の提督と仲間達のお気楽日記   作:村上浩助

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もう嫌!なんで私はあんな男の子供に生まれたの!子は親を選べないって言うけどあまりにひどすぎるじゃない!だから、愛ちゃんのもとで副官になるって話を喜んで引き受けたわ。私は生んでもらった恩は感じるが育ててもらった恩はない!

―――羽佐間花梨―――
『中学生提督日記』第7話より



岩沼鎮守府の騒動Ⅱ・幕間狂言

『高菜二佐、ちょっと困ったことが発生したんだが………』

 

陸准将補に昇進したばかりの羽佐間眞一郎が、直哉に連絡を入れたのは、それから数日後の事だった。

何時ものように、薄雲と卯月が哨戒をやって、電は新たに補職された副官の仕事をしながら、秘書官として支える……と言えば聞こえが良いが、

二人共、書類仕事は事務員妖精さんにアイスの賄賂で任せ、直哉は買い集めた歴史書を大型タブレットで眺め、電は五年ローンで買ったテレビで、お昼のワイドバラエティーを羊羹とお茶を楽しみながら見ている。

 

直哉のデスクには紅茶が置いてあり、おやつにはバタークッキーが置いてある。

この段階で査察が入ったら、足立陸将補からの大説教不可避である。

 

最近自衛隊は、将官階級の見直しを行い、将補の下に准将と准将補を新設した。

それぞれ、少将・准将に相当する職位で、NATOコードでは、OF-7と6に相当する。

足立陸将補は、一佐からの将補への最後の昇進組である。

彼の昇進を待ったかのように、彼の昇進直後に新制度が施行された。

 

そして羽佐間陸准将補は、一番最初の陸准将補への昇進である。

相対的に、現存の将は横並びで大将相当に昇進したことになり、将補は准将と将補へ職位に応じて振り直された。

 

各幕僚長たる将は、元帥(OF-10)相当と改められた。

何れにせよ、給与的には公務員の指定職号俸や各階級の号俸の為、結局は全員微増に留まる。

 

そんな、現在唯一の准将補である羽佐間眞一郎からの着信を受けた直哉は、また騒動か?と思いながら、スピーカーフォンに切り替えて、スマートフォンをデスクに置く。

 

「困った事とはどうしたんです?」

 

スピーカーフォンにすると、電が気を利かせてテレビの音量をミュートにする。

紅茶を飲みながら、彼の相談事に乗ろうと困りごととやらを聞き出すと、

 

『刃物を持った若い女が押し掛けて来た。付き合った覚えはないんだが、先日『別れます』と電話が来た……そうそう、西野紗花』

 

危うく、二人共飲み物を噴き掛けた。

先日の騒動の時に出て来た、仙台の銀行勤務で一人暮らしをしている、優花の姉の紗花である。

 

「紗花ちゃんなら、十数時間の説得の後に諦めます、って言ってたんですけど、押し掛けたんですか?刃物を持って」

「と言うか、羽佐間准将補は大丈夫だったのですか?」

 

がたっと立ち上がり、直哉のデスクに椅子を持って来て、電も会話に参加する。

 

『本来なら警察に引き渡しても良いんだが、妙高が妙に冷たくて『ご自分の仕出かした事ですので、ご自分で解決なさいませ』と言って、今面倒を見てもらっているところだ』

 

残当(ざんとう)(残念ながら当然ですね)」

同歩(どうふ)(同じくなのです)」

 

二人も、妙に冷たく突き放す。

 

『おいおい、残念ながら当然はないだろう。確かに種を実らせてしまったのは私の不覚だが……』

 

「「妊娠してるんですか!?」」

 

二人共ハモった。

 

「あのですね、羽佐間陸准将補。貴方、女子高生()妊娠させて堕胎させたのを、ちゃんと自覚してくださいよ。貴方の行いでどれだけ今まで花梨さんに、そして前回、私達に迷惑をかけたと思ってるんですか!?」

「で、どうするのですか?ヤリ○ン」

 

今回、電は過激である。たかだか二尉の艦娘が、陸准将補を捕まえての大暴言である。

 

『返せる言葉が思いつかないのは残念だが、産ませてくれないなら自殺するか私を殺す、と言って聞かなくてな。妙高は『ご自分でお考えください』と言って相談に乗ってくれないし、那智には叱られたし、足柄には殴られ、羽黒には泣かれ、扶桑は現実逃避して外で空を見上げに行ったし、山城は『不幸だわ……』と嘆いていてな……』

 

「「…………」」

 

岩沼鎮守府の《大惨事》に、二人共何と言っていいか、判らなかった。

 

『頼む。前回の迷惑ついでと言う訳ではないが、来てはくれないか?』

 

羽佐間准将補の懇願に近い言葉に、大きな溜め息を吐いた直哉は立ち上がりながら、

 

「はぁ……分かりました。これから岩沼にお伺いします。電、卯月達を呼び戻してくれ」

 

と電に指示をすると、電も大きな溜め息を吐いてから、

 

「はぁ……了解なのです」

 

と答えて、卯月に「緊急帰還命令なのです」と、指示を出した。

 

 

――――――――

「またハザマ騒動だぴょん?」

「呆れてものが言えませんね」

 

帰ってきた二人の反応である。残念ながら当然である。

 

「そういう訳で、ちょっと行って来るから、お留守番を頼むよ」

「優花ちゃんが帰って来たら、連絡を欲しいのです。今日は、宮戸島少年カルテットでお勉強会の筈なのです」

 

慌しくお出掛けの準備をしながら、二人に指示をすると、返事を聞く間もなく、二人は業務車三号に乗って、岩沼鎮守府に向かった。

 

――――――――

「嫌ですっ……堕胎なんてしませんっ……眞一郎さんとの子供が欲しいんですっ……無理なら今ここで死にますぅ……」

 

岩沼鎮守府に到着した二人は、応接室に入った途端に、泣いている紗花から開口一番にそう言われた。

今までの天然っぷりが、完全に影を潜めた取り乱しぶりである。

 

「いや、紗花ちゃん。最悪一人で育てないといけないよ。それでも良いのかい?」

「今なら傷は浅いのです。よーく考え直すのです!」

 

二人の説得にも、耳を貸そうとしない。

イヤイヤと言って、隣で宥めている妙高を困らせる。

 

「高菜二佐、電。本当にうち(岩沼)の眞一郎のせいで申し訳ない」

 

那智が、物凄く申し訳なさそうに恐縮している。

 

「い、いや、私は良いんだが、羽黒は大丈夫なのかい?」

「今、足柄が一緒に着いている。山城も、扶桑と一緒にいるから大丈夫だろう。私と眞一郎が出先から帰って来た時に、鎮守府内に潜んでいて、このようなもので襲い掛かられてな」

 

応接室に置いてある収納から、匕首を取り出す。

 

「「あ、匕首!? どこのヤクザだ!?」なのです!?」

「本当に申し訳ない。私達も放任していたのがいけなかったが……」

「いいえ、眞一郎が悪いんです。今回は反省していただかなければ」

 

直哉と電が、匕首という凶器に愕然としている中、那智は申し訳なさそうにして、それをピシャリと遮って厳しい態度で臨む妙高。

 

「ふぅ……それで、妙高四姉妹と扶桑姉妹の意見はどうなんだい?」

「私は何も申し上げません。眞一郎が決めることです」

「私は迎え入れてもいいと思っている。足柄も同意見で、羽黒は眞一郎に従うと。これは、扶桑姉妹も同意見だ」

 

直哉が嫁達の見解を確認すると、再び紗花に向き直る。

 

「……という訳だが、紗花ちゃん。後は君の気持ち次第だよ?」

「あぅ……」

 

紗花は、涙をポロポロ零しながら、一生懸命考える。

 

「……子供が欲しいですぅ……例えお嫁さんになれなくても……」

「よし、解った。決戦に行こう」

「なのです」

二人は立ち上がると、紗花の両手を引いて執務室に向かった。

妙高と那智も、従いて来る。

 

「……という訳で、羽佐間陸准将補。年貢の納め時だ」

「大人しく、紗花ちゃんを迎え入れるのです」

「お願いしますぅ……」

「むぅ………」

 

暫し逡巡している眞一郎だったが、バタンと扉を開いて入って来た残りの嫁艦達の、

『紗花ちゃんの気持ちも考えてあげてください』

と言う後押しに、眞一郎は大きな溜め息を吐いた。

「わかった。お前達がそこまで言うなら、この子の両親に土下座して、娘さんを頂くことにしよう」

 

その瞬間、紗花の顔がぱぁぁっと明るくなった。

「有難うございますぅ!!」

「良かったですね、紗花ちゃん」

後ろから、紗花をぎゅっと抱き締める羽黒に、那智が懐かしそうに口にした。

 

「そう言えば何年か前、花梨が岩沼にやって来たのを思い出すな」

「そう言えば、花梨はどういう経緯で認知することになったんです?」

 

直哉は、そんな那智の方を向くと、那智はふっと笑みを浮かべる。

「ティータイムでもしながら、スイーツバイキングでお茶をしつつゆっくり話そう」

 

それは、那智から眞一郎への『スイーツ食べたい』と云う脅迫である。

眞一郎は、大きな溜め息を吐いて両手を上げた。

 

「わかったわかった。仙台のスイーツバイキングの店だな。仕方がない、ティータイムとするか?」

『はーい!』

「いっその事、卯月と薄雲も連れて来るのです」

「だな」

 

これに便乗して、卯月と薄雲も呼び寄せようとするがめつい直哉に、眞一郎は苦笑いを浮かべる他なかった。

 

――――――――

一旦宮戸島に戻った直哉は、番長と愉快な仲間達(フルメンバー)を連れて、仙台で合流した。

『ゴチになりまーす!』

「あ……あのっ……すみません」

 

全員ノリノリでごちそうされる気満々の中、史絵だけは申し訳無さいっぱいである。

 

「ちょっと待て、高菜二佐。ここまで膨れ上がるとは聞いてないぞ!?」

「いや、おっさん。優花のお姉さん孕ませといて、そんな細かいことでグダグダ抜かすなんて小せえな。と言うか、俺の史絵をナンパしたこと覚えてねえのかよ?」

「け……圭一……年上の人に……」

 

数倍に膨れ上がった人数に流石に抗議するも、義侠心豊かな番長が真っ向からピシャリと言い放つ。

それを諌める史絵だったが、

 

「眞一郎、そこの番長っぽい子の言うとおりだ。諦めろ」

 

那智の、ちょっと苦笑いを浮かべた言葉に、眞一郎も苦笑いを浮かべた。

 

「まあ、これも迷惑料だと思って、潔く全員ご馳走しよう」

 

眞一郎は、自分の艦娘達と紗花の七人に加えて、直哉に電、卯月に薄雲。

更には圭一・寛太・慎・優花のカルテットに、ギャルズの三人・史絵のスイーツバイキング代金を負担する羽目になった。

 

皆が、思い思いにスイーツを取って各々のテーブルで食べている中、

岩沼鎮守府の艦娘達に直哉・電は、同じテーブルでデザートタイムに入る。

 

「さて、あれはもう何年にもなるか……花梨が高校三年生の時だったか……思い出すな。あの日は台風が直撃して大嵐だった……花梨が、母親の死によって天涯孤独の身になり、最期の言葉を手掛かりに眞一郎が父だ、と突き止め()()()()()()()()()()のは……」

 

 




今回のお題「羽佐間陸准将補が認知したのは花梨だけなのか?(前話感想より)」(まさかのお題未到達)

次回今シーズン初の回想編です。


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