羽佐間眞一郎と愉快な仲間達と、花梨等三人はスイーツバイキングの店の前でバッタリ遭遇した。
「先生、こんなところでどうしたんですか?」
「愛ちゃんこそ、室戸鎮守府はどうしたんだい?」
バッタリ出会った、師弟の最初の会話である。
「私の方は野暮用です。先生はどうしたんですか?」
「いやあね、聞くも涙語るも涙の物語があってね……」
苦笑いを浮かべる直哉が、どう話せばいいか迷っているうちに、番長と愉快な仲間達が直哉を押し退けて出て来る。
「おっす!愛」
「元気そうだね」
「こっちは、色々大騒動だったんだよ?」
三者三様の声を掛けると、大自己紹介が始まる。
「ええと、こちらが圭一くんの彼女の史絵さんで、寛太くんは優花ちゃんと付き合ってて、慎くんはそっちのギャル三人とハーレムを築いた、と………」
「そんで健太はどうしたんだよ。留守番か?」
「うん、お留守番だよ」
圭一の問い掛けに、愛は答える。
「なんだ、残念だな。また夏休みにでも遊びに行くわ」
「うん、楽しみにしてるね」
押し退けられた直哉が、
「どれ、愛ちゃんに三尉に、郷里三佐。立ち話も何だ。羽佐間陸准将補閣下の奢りで、バイキングディナーでも食べながら話を聞こうかね?」
「ちょっと待て、高菜二佐、私はまだ奢るとは言っていない」
「奢る奢らないはいいんですが、まずこれを見てください」
愛が、お財布からとある紙を取り出して、眞一郎に見せる。
「何だ? 鮨政の領収書……21万9800円……これは?」
「おたくの娘さんが、私の財布で飲食した料金です。慰謝料ついでに返してください」
「な、何を言って……」
愛もここぞとばかりに、過日の寿司代金を眞一郎に払わせよう、と言う魂胆である。
「まあまあ、ここじゃあゆっくり話も出来ないでしょうし。ほら、三尉の継母と叔母と妹が出来ることも話さなくてはいけないでしょう?」
愛に援護射撃をするように、直哉がニヤニヤと笑いながら眞一郎に迫ると、花梨は首を傾げる。
花梨は、宮戸島のハザマ騒動を知らないのだ。
「継母?叔母?妹?どう言うことですか?」
「それはだな……解った。迷惑料が足りないというのだろう。そこの三人も序にご馳走するから、従いて来なさい」
一同は、ディナーバイキングのレストランに、場所を移動した。
――――――――
「………ということで、宮戸島で大騒動が起こった訳だ」
「呆れました。私は陸准将補が無節操だと思っていましたが、そこまで無節操だと思いませんでした。最低です」
バイキングディナーの席で、直哉の口から過日のハザマ騒動と、年下の継母と叔母が出来ることを知らされた花梨は、今までにないジト目で父である眞一郎を睨んだ。
「まあ、花梨。紗花ちゃんの一件は、准将補殿がきちんと責任を取って正式に結婚する運びなのだし、いいだろう?」
そんな花梨を、隣でオロオロと宥めているのは、野獣こと郷里 剛である。
「花梨さん、私が継母になる紗花ですぅ。よろしくお願いしますねぇ」
「同じく、叔母ってことになるのかな、優花です~」
「よ、宜しくお願いします……」
18の継母に12の叔母である。花梨はもう訳が判らなくなる思いである。
「ええと、紗花さんが羽佐間陸准将補のお嫁さんになるから、花梨さんにとっての継母。で、私と同い年の優花がその妹で、叔母ってことになるんだね……本当にどう言うことなんですか?」
愛は、大きな溜め息を吐いた。
「それで、皆さんは納得なのですか?」
花梨は、艦娘達の方を見回す。
「花梨ちゃん、私達は紗花さんを正妻として受け入れることを決めました。ただし、紗花さんを含めて私達を皆平等に扱う、と言う条件で。ですから、赤ちゃんも皆で育てます」
妙高が代表して答えると、花梨はわざとらしく、大きな溜め息を吐いた。
そんな花梨に、愛は口には出さないが、ほら、似たもの親子でしょ?と考えていた。
「ところで、寿司の代金なんだが……」
眞一郎が切り出すも、妙高はニコっと笑って、
「払ってあげたら良いじゃないですか。元を正せば、眞一郎の日頃の行いなのですから」
そう援護射撃をすると、眞一郎も大きな溜め息を吐いて、
「解った、近日中に送ろう」
「助かります。いやあ、12で借金をすると思いませんでしたから。それでは」
そう約束した眞一郎に笑みを見せて、愛は用件は済んだとばかりに、番長達のテーブルへと行ってしまう。
「羽佐間准将補殿、小官は花梨さんと結婚を前提にお付き合いさせていただくことになった、郷里 剛三佐であります」
剛が立ち上がると、ビシッと敬礼し自己紹介をする。
「うむ、まあ座りなさい。初夜は随分激しかった、と聞いている」
「ぬううう………」
「やっぱり、あの顛末書……」
剛が唸りつつ顔を赤らめながら座ると、肩をわなわな震わせて顔を真っ赤にする花梨。
「宮城の提督は、皆知っているのです。随分激しかったのですね。超特大の」
「やめて!!それ以上は言わないでください!!」
ニヤニヤと、顛末書の内容を語ろうとする電に、悲鳴に近い声で止めようとする顔が真っ赤な花梨。
急激な勢いで、正気度が削られて行く。
「で、あの顛末書はどうなったんだね?大村が持って行ったが」
眞一郎が直哉に問い質すと、直哉は苦笑いを浮かべて、
「いやあ、あの後武藤提督のところに渡って、最終的には足立将補が発見して、シュレッダー処理されました。後で、足立将補にこってり叱られましたよ」
そう答えた。
「…………」
皆知ってる。しかも、足立や世話になった武藤にまで知れ渡っていると言う事実に、とうとう花梨の思考は停止した。
「すまない。私達も、読ませてもらった……」
「ごめんなさい、花梨ちゃん……」
那智と羽黒が、フリーズ状態の花梨に謝る。
「しかし、猛獣ねえ。私も飢えた狼と言われるけど、まさに飢えた野獣ね」
足柄は、剛の方を誂う。
「むうう、ワシもその、加減がわからなくてな……」
顔を赤くしている剛は、誂われて正直なことを口走ってしまう。
「もしかしたら、10代でお祖母ちゃんになるかもしれませんねぇ~?」
ど天然な紗花は、ある意味大爆弾発言を投下する。
因みに、顛末書の内容は足柄から全部聞いている。
「ぬうう、その、ワシに合うのがなくて、全て破れてしまってな……」
「いや、おっさん。そんな事は、誰も聞いてないのです」
堪りかねて、電がツッコミを入れる。
「ところで、花梨ちゃんがずっとフリーズ状態なんだが、大丈夫なのか?」
「………」
直哉の指摘どおり、花梨はショックのあまり、考えるのをやめていた。
――――――――
「……漸く分かりました。あの日の質問の答が」
「そうか、なら良い」
皆解散した後、愛は宮戸島の実家に一泊。花梨と剛は岩沼鎮守府に泊まることになり、岩沼の近くのバーに三人連れ立って飲みに来ていた。
花梨だけは、なぜかノンアルコールカクテルを頼んでいた。お酒は先日で懲りました……と言って。
「あの日の質問……とは?」
「母を愛していたか?と言う質問です」
剛が判らず尋ねると、花梨が剛には笑みを見せて答える。
「貴方も随分深い愛を求めていたんですね。………愛は満たされましたか?父さん」
花梨が転がり込んでから……正確には、真花から出産したと知らされてからの二十数年間、待ち続けていた回答を持って来たことに、眞一郎は満足していた。
「………全く、いい嫁達を貰ったものだ。妙高、那智、足柄、羽黒、扶桑、山城、それに紗花。そして、お前さんのような強い子が娘でよかった」
「……有難うございます。私に命を下さって」
「……お前もいい娘で感謝している。養育費が掛からなかったからな」
照れ隠しに、敢えて露悪的に答える眞一郎に、ふふっと笑う花梨。
「養育費は、慰謝料とセットで孫の養育費として頂きますから。精々溜め込んでおいてくださいね、
「お、おい……まだ出来たと決まったわけでは……」
今度は、剛が狼狽している。
「うふふっ、あの日は危険日も危険日だったんですよ。それに、私には分るんです」
そんな剛に笑いかけながら、自らの下腹部を優しく擦る花梨。
「ぬうう……そうなっては、結婚の許可を陸准将補殿に頂かねばならないな」
どこまでも真面目一徹な剛に、堪え切れずに笑い出してしまう眞一郎。
「くくくっ………貴官のような男に、娘を渡すことには異存はない。花梨のことを頼む」
「はっ。命に代えても、花梨を守り、支えて行きます」
「剛………私も貴方をお慕いします。妻として……」
こうして、静かに父娘は雪解けを迎えた。人間的に成長した花梨によるものなのか、
艦娘達の深い愛に気付かされたから眞一郎によるものなのかは、定かではない。
――――――――
五月も、下旬になろうとしていた
『いやあ、優花ちゃんのお母さん、ビックリしてたみたいですねぇ?』
何時も通りの昼下がり。宮戸島鎮守府は、何時も通りの怠惰な時間が流れている。
今回の騒動で、電が仕事をサボってることが卯月・薄雲に露見して、秘書艦は輪番制になった。
今日は、薄雲が秘書艦として座って、お茶を飲みながらヤクザ映画のDVDを見ている。
そんな中、直哉は室戸鎮守府の笹野 愛と電話をしている。
羽佐間眞一郎は、西野紗花と入籍した。
結婚式は、艦娘達と紗花の協議の結果行わず、小さなお披露目会を行うに留めた。
宮城の提督達と親族だけが集まる、ほんの小さな。
年下の義理の母になった紗花・優花姉妹の母
母子家庭で育った紗花は或いは、眞一郎の中に父性を求めていたのかもしれない、と眞一郎自身は考えていた。
何れにせよ、羽佐間紗花は岩沼鎮守府に引っ越しをし、銀行も岩沼支店に異動を勝ち取り、今日も働きに出掛けている。
「そりゃあそうだろう、年上の男が娘さんをくださいってものだ。しかも、もう既に孫が宿ってると来たもんだ。私が父親でも戸惑うよ」
『おまけに、年上の義娘がいる、なんて聞かされればそうなりますよね。下手すると、30代で《義理の》とは言え、曾孫ですよ』
「ところで、花梨の方はどうだったんだ?」
『そうですね、予定では来る筈の生理が来てない、と言ってましたがまだ何とも……少なくとも入籍はするそうですよ』
「そうかそうか。まあ、この大騒動もようやくめでたしめでたし、かな?」
『ですね』
こうして、岩沼鎮守府を巡る大騒動は終結した。
――――――――
その頃の岩沼鎮守府。
「このシフト表は何だ?」
岩沼鎮守府の司令官執務室に張り出されたシフト表に、眞一郎は疑問の声を漏らした。
「うふふ。那智、説明してあげてくださいな?」
「丁度、正妻含め七人になったので、毎晩輪番で提督の相手をしようということになった。もう絶対に、他の女遊びはさせないから、覚悟してもらおう」
うふふっと笑い、説明を妹に任せる秘書艦・妙高に、まっすぐ見て有無を言わせない勢いで迫る那智。
「そうですよぉ?もし、そんなことしたら、相手の女の心臓を匕首でぶすりっ、ですよぉ」
「紗花ちゃん、怖いですよぉ」
ニコニコしながら物騒な事を言う紗花に、少し怯えながらツッコミを入れる羽黒。
「提督が十分満足した、って言うくらいに満たしてあげるから、覚悟なさい」
「そうです。姉さまと同じだけ、提督にも愛を注ぎます」
「ですから、女遊びはご卒業なさいませ」
足柄がそれに続いて、山城と扶桑が最後にそう告げると、眞一郎は笑みを浮かべて両手を上げる。
「わかった、わかった。お前達の愛は、十分に満たされているよ。私もそろそろ年貢の納め時のようだ。これからはお前達を愛すので精一杯になりそうだな、お手柔らかに頼む」
『はいっ!』
岩沼鎮守府は、今日も平和である。
まさか岩沼鎮守府騒動が4話も引きずるとは思いませんでした。
次話は別のリクエストネタに入ります。
中学生提督日記も進めないと。