宮戸島の提督と仲間達のお気楽日記   作:SAMICO

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私は主人公が高菜二佐『だけ』だと言った覚えはない

――高菜ニーサン談―――





キズアト

卯月は、某ブラック鎮守府で暴力を受けていた。

「これは酷いのです……」 

電は、湊子と高菜二佐が雑談をしながらもう一局始めたところで、

卯月を隣室に連れて行き、改めて上着を捲り上げた。

お腹に、何度も殴られた痣が残っており、自己修復力の高い艦娘にここまでの痣を残す、ということは、相当のボディブローを食らったのだろう、と推察され、苦い顔をする。

同じ体型の少女に見舞ったら、それこそ死んでしまう。

「卯月、話したくなかったら良いのですが、何をされたのですか?」

「……うーちゃんは悪くないぴょん」

涙ながらにそう訴える卯月に、優しく頭を撫でながら襟元の階級章を見せる。

「卯月は多分、悪くないのです。三尉の電が言うのだから、間違いないのです」

「三尉……すごいぴょん!」

涙を浮かべたまま、目を丸くする卯月に優しくソファーを勧めると、おずおずと腰掛ける。

電の隣に座ると、卯月はポツリポツリと話し始めた。

「うーちゃんは、止めただけだぴょん。重巡のお姉さん達が、無理やりエッチされたのを……うーちゃんは知らなかったぴょん、ずっと遠征にばかり行かされてたから………優しくしてくれたお姉さん達が……泣いてたぴょん」

 

卯月は、たまたま遠征が早く終わって戻って来た所に、その『提督』に陵辱されている重巡艦娘の姿を見つけてしまったのだ。慌てて止めに入るも、指揮命令システムで阻まれ、地下営倉に放り込まれたのだ。

「それからうーちゃん、ずっと殴られてたぴょん。許してって言っても提督は許してくれなかったぴょん……それで、気を失うまで殴られ続けられたぴょん。………ハンマーで」

「ハン……!?いくら何でも艦娘でも死ぬのです!やっぱり卯月は悪くないのです!」

ガタッと立ち上がって声を上げると、ビクッと震える卯月。

慌てて腰掛けると、ぎゅっと抱き締める。

「ごめんなさい。電がいけなかったのです」

 

ゆっくり抱き締める。

「泣きたいなら泣くと良いのです、いくらでも付き合ってあげるのです。どうせあの調子なら、あの二人は数時間は将棋に熱中しているのです」

「っ……う…ぁ……――――――っ!!!」

卯月は声を上げて泣き出した。重巡の娘達への助けられなかった謝罪の念を、殴られ続けた恐怖を、そして今助けられた安堵感を全て吐き出した。

卯月は何十分も泣き続けた。

電は、落ち着くまで抱き締めたまま、頭を優しく撫で続ける。

電の制服は、卯月の涙で濡れている。それでも優しく抱き締めたまま頭を撫で続けた。

漸く落ち着いた卯月が顔を上げると、またポツリポツリと話し始める。

「それで、目を覚ましたら重巡のお姉さんが、鍵を開けてくれたぴょん。でも、提督に見つかってハンマーで顔を殴られたぴょん………うーちゃんは必死で逃げたぴょん。逃げて逃げて、でも、提督の部下に捕まったぴょん……うーちゃんはまた地下室送りだったぴょん……そこで服を脱がされて……」

じわっと涙を浮かべた卯月に、電は、

「もういいのです、これ以上言わなくて良いのです」

そう遮ると、コクリと頷いた。 

「もう、ここで死ぬんだ。そう思った時だったぴょん……大本営(艦娘本部)の足立一佐が、定期査察にやって来たぴょん。でも『定期査察』って事前に連絡があるのに、連絡とか来なかったぴょん」

 

足立一等陸佐。警務隊一筋の男であり、大本営編成後には警務隊長として、各鎮守府に査察に入る。

彼の人となりは「ザ・常識人」。堅苦しく、常識が服を着て歩く男に皆、苦手意識を持つ。

だが、常に公平で中立な立場に立ち、規範とルールと言う枠を片手に、常に綱紀粛正を図っている男である。

 

「……足立一佐達は、連絡不行き届きで、定期査察の連絡を忘れた、と言っていたぴょん……でも、丁度うーちゃんが……その……の時で、激おこの足立一佐はその提督の部下を捕まえて、艦娘の皆にも話を聞いたぴょん。それで原隊に送り返す、って皆連れて行ったんだぴょん……」

その後、原隊に於いてそれぞれ逮捕された、と言うことなのだろう。

「重巡のお姉さん達は、新しい提督がやって来て復帰したけど、うーちゃんはその提督も怖くて怖くて、海に出れなくなったぴょん。そんなうーちゃんを、視察にやって来た殿下がお話を聞いてくださり、『こんなに可愛い娘なら、差し当たり(わたくし)の傍に置きます』って言い出して………」

その型破りな湊子の言葉を聞いた電は、率直な感想として(ああ、類は友を呼ぶんだ)と思った。

「そうだったのですね……それで、今度は高菜二佐のところへ……なるほど」

「電三尉、あの高菜二佐って人はどんな人ぴょん?怖い人ぴょん?」

そう問われると、暫し間を置いてからふふっと笑い始める電。

キョトンとする卯月に笑みを向けると、電は、

「あっちの音が聞こえない、ということは防音室なのです。なら、こっちの言葉も聞こえないから、余すところ無くお伝えするのです」

そう前置きしてから、今度は背中をポンポンと叩いて離れて、電が語り出す。

「まずは、怠惰の人なのです。書類は妖精さんに丸投げする、午前はお買い物をして、筋トレをして。午後は、電が帰って来るまでお昼寝三昧の人。或いは、気に入った書物を読み漁っている。今は電子書籍が多くて、タブレット一枚で読めるから場所を取らなくて便利だ、と言っている電子書籍派の旗印を自称している人」

「ダメ人間だぴょん…」

その言葉に、ポカーンとした顔になる卯月。

「次に、英雄に見えない英雄。宮戸島の人の命を救った英雄だけど、皆英雄とは思わない。親しみ易い街の人気者。ただの人気者のおっさんなのです」

「………」

その言葉を聞いている卯月に、愛おし気に更に語る。

「最後に、真摯で誠実な紳士。高圧的な力を最も忌み嫌って、指揮命令システムを最初から使わないどころか、勝手に自分の司令官端末から削除までしてしまうほど。一度だけ電が大ピンチに陥った時に、84㎜無反動砲(B)を持ってミニガン付きのモーターボートで助けに来てくれた、電にとっても英雄(ヒーロー)

「でも、人間に深海棲艦は……」

「攻撃は効かないのです。……原因は、電の慢心なのです。姫を連れ帰った桐山艦隊の対処に向かった時、周囲の艦隊に助けを呼ばなかったのです。提督に周囲の艦隊と連携して対処しなさい、って言われてたのに……さすがの電もピンチになって、慌てて助けに来てくれたのです。ロケットランチャーと機関砲で注意を逸らして、アシストしてくれたのです。そして時間を稼いで、周囲の艦隊と連携して、姫を沈めることが出来たのです」

その言葉に、卯月は嬉しそうに語る電に問い掛けてみた。

「電三尉は、提督のことが………」

「うふふ、ひ・み・つなのです。ただ、あの時高菜二佐は、電に絶対的な信頼感を植え付けることになったのです」

「やっぱり提督が大好きだぴょん」

漸く、卯月にも少しだけ笑顔が浮かんだ。

「うふふ。ただ、そういうことに鈍感な高菜二佐は絶対気づかないのです。だから、高菜二佐には秘密なのです。本人が気づくまで」

「了解だぴょん!」

びしっと擬音の付くような敬礼をする卯月に、電は笑みを返すのだった。

 




というわけで、電と高菜二佐のダブル主人公です。
なので、二佐が全然・あるいは殆ど出てこない時もあります。

本日のお題は「抱きしめる」。
注:お題のない日もあります。


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