そっち観てる人はあまり面白くないかもしれません。
六月という月は、ドタバタの連続だった。
まず、大貫 悟大本営幕僚総監が暗殺された。
それは、突如行われた記者会見でのことである。
「諸君。本日の記者会見ですが、私は《重大な真実》を伝えねばなるまい」
その直後だった。自衛官の服を着た男が飛び込んで、大貫に銃を発砲した。
銃弾は胸を貫通して、大貫は《青い血》を吐いた。
記者達が騒然とするのを、大貫は手で制した。
銃撃犯はすぐに取り押さえられ、大貫は言葉を続ける。
口元から血が溢れているが、毅然としている。
「見ての通り、私は人間ではなく、深海棲艦である……まずは国民の皆さんに侘びねばならない。深海棲艦との戦争は、私と深海棲艦の提督とのマッチポンプだったのだ。それには理由がある。私は、人類が滅びた未来から来た未来人なのだ。深海棲艦と艦娘は表裏一体であり、何れかが滅びればもう片方が滅びる。私はその両者が滅びた世界からやって来た大垣守と言う人間だ。私達は、深海棲艦と艦娘が共に居なくなった時、ジレーネという海の魔物に世界を滅ぼされた。ジレーネとは……」
再び別の自衛隊員が飛び込んで、大貫に銃を撃ち込む。
左胸が貫かれて「うぐっ」と血を溢す。
すぐに銃撃犯は取り押さえられて、記者クラブの扉が閉じられる。
「ジレーネ……とは……日本軍の制服を着た艦娘……まさに、人類に罰を下さんとする……神………深海棲艦は敵ではない……知性のないものが害獣と化すのは仕方がないが……心も……感情も……ある……我々の仲間……だ……そしてもう一つの敵は……艦娘の身分を……遅々として……進ませない……この国の政治中枢そのものだ………どうか国民の皆さん……艦娘を受け入れ………共に歩んで欲しい………この国の政治家は………長寿不老の艦娘の社会進出を……恐れ………艦娘を社会から…… 排除……しようとしている………この国は……民主国家だ……皆さんが……考え……決めて」
その続きは放送されなかった。
爆弾を持った自衛官が、記者クラブの会見場に飛び込んで、部屋ごと自爆したからである。
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その大貫の言葉は、国民を目覚めさせた。
怒れる市民達は、次々と国会前へ集結した。
「政府は艦娘を国民として受け入れろー!」
「政権を明け渡せ―!」
「ジレーネと結託している政府を許すなー!!」
「大貫 悟暗殺の真相を話せ!!」
市民の数は、どんどん増えていった。
全国から集まった市民達は、数十万人にのぼっていた。
そしてその先頭には、高菜直樹・湊子夫妻や三友龍太郎・優衣夫妻も居た。
国会前デモ活動は連日続き、政府をどんどん圧迫していった。
マスコミはついに政府と決別し、今まで闇に葬って来たブラック鎮守府やその他不祥事を、どんどん取り上げるようになった。
更には、デモに進んで協力するようになった。
経済界も、戦後は艦娘を労働者として受け入れる声明を発表した。
そして政権は、市民からの圧迫、と言う憲政史上初めての理由で、解散総選挙に追い込まれた。
GHQ体制から脈々と受け継がれてきた日本という国に、新しい風が吹き込まれた瞬間だった。
自衛隊の足立幕僚総監代行兼警務本部長が、ジレーネの殲滅を発表したのは、その数日後の事だった。
国民は歓喜して、新たな時代の幕開けを祝福した。
英雄のいないその戦いでは、自衛隊全てが英雄だった。
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季節は流れ、七月になっていた。
総選挙が行われ、現職議員がバタバタと敗れて行く、前代未聞の選挙となっていた。
選挙公示後、立ち上がった市民派の議員候補が現職議員に勝利し、議席を奪い取ったのだ。
そのトップには、艦娘と人間の融合の象徴だった高菜湊子が自ら立ち上がり、東京1区で大勝利を収めた。
そして東京2区には、妊産婦ながら立候補した三友優衣が大勝利を収めたのを皮切りに、
『日本国民艦娘会議』と言う政党が立ち上がり、党首に高菜湊子、幹事長に三友優衣を据えて、追加公認を含め八割の議席を占める、と言う大勝利を齎した。
高菜湊子は、史上初の女性且つ元皇族の総理大臣である。
高菜湊子政権最初の大仕事は、艦娘・深海棲艦基本法の制定である。湊子がこの七年間ずっと温めていたものである。
お付きの法学者を招いて、せっせと法案を作り、手許で温めていたのだ。
いつか、この法案を託せる人に渡せる日まで。
これが、彼女の所信表明演説である。
「さあ、皆さん。艦娘や深海棲艦と手を取り合って歩いて行ける時代がやって来ました。人間にもいい人や悪い人が居るように、艦娘にも深海棲艦にもいい人と悪い人が居ます。深海棲艦の一部は動物と同じものですから、迷惑を掛けたら退治しなくてはなりませんが、人間と同じ心を持った個体には人間と同じように接するような社会がやって来ます。これから、私達国民の手で。さあ、戦後は終わりました。これからは――」
―――明るい未来です。
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ここ宮戸島では、何も変わらないいつもの暮らしがあった。
変わったのは、親戚に総理大臣と政治家が増えただけ。
「当分の間は、ねじれ国会に苦しむだろうね」
その所信演説を見ながら、高菜直哉《一佐》は呟いた。
高菜一佐は、デスペラン要塞でジレーネを殲滅した一人として、昇進辞令を受けていた。
とは言え、相も変わらず宮戸島鎮守府で、のんべんだらりんと暮らしている。
東北でもう一つ、大きな出来事があった。
宮本一佐が、総選挙に出馬したのだ。自動的に自衛官は失職となり、
見事当選し衆議院議員になった。
もちろん日本国民艦娘会議の幹部・国対委員長である。宮本一佐から宮本議員となった。
その、空席になった東北警務隊長には、羽佐間陸准将補が兼任となった。
まさかの査察する方とされる方の兼任である。
そんな訳で、実務は三佐をバイパスして二佐に昇進した、警務隊副長幸田美紅が指揮を執ることとなった。
彼女曰く「給料以上の責任を押し付けられた」である。
「ねじれ国会なのですか?」
秘書艦の電が首を傾げる。
「そう、衆議院の八割は日本国民艦娘会議だろう?でも参議院は、今までどおりなのさ。今月末参議院の選挙があって、半数が改選される。まあ、日本国民艦娘会議の圧勝だろう。でもまだ、半数は居るからね。厳しい政権運営の船出になるだろうね」
「ところで、艦娘・深海基本法というのはどういう物になりそうなのですか?」
「そうだね、艦娘の実態に合わせた法律適用法になるらしいよ。例えば電は見た目小中学生だろう?」
「なのです」
「それでは年齢で適用できないだろう?年齢適用に関する法律は艦娘には適用しない、なんてことになるだろう。或いは被選挙権がどうなるか。それによって、国会議員の常識も大きく変わるだろうね。ずっと若く、老化のない艦娘が議席を占めるかも知れない。或いは、艦娘には選挙権を与えても、被選挙権は与えないかもしれない。何れにせよ、選挙に出た時点で艦娘としては失職さ」
「なるほど……電は政治家にはなる気はないのです」
お茶をズズズッと飲みながら答える電。
「結局の所、海賊化した深海棲艦や艦娘、そして害獣化した深海棲艦。そういう連中の対処に、艦娘の必要性は変わらない訳さ」
「全く、困ったものなのです」
「まあ、東北は平和でいいものさ。さあ、今日も子供達が来る。その前に精々、給料分の働きをしようではないか」
「なのです」
そう言いながらも、仕事をサボっているのはいつもの彼等である。