―――東北警務隊員・坊主頭―――
なっちゃんVS羽佐間提督。
女好きと男嫌いの一戦。
七月の後半、また熊谷で日本最高気温記録が更新された時期だった。
まだまだ、熊谷や多治見よりは涼しい、ここ気仙沼鎮守府には、
定期的に持ち回りで行われる艦娘大演習に、各鎮守府の提督達が集結していた。
岩沼鎮守府からは、羽佐間眞一郎陸准将補と妙高四姉妹、扶桑と山城。紗花を連れて来ると危険が危ない、と言う判断で、宮戸島の妹・優花のところで預かってもらっている。
南三陸鎮守府からは、武藤 廉二佐と長門に夕立、木曾が参加して、宮戸島のお気楽トリオと艦隊連結して、連合艦隊として演習に参加する。
女川鎮守府からは、神通がデスペラン要塞に家出してしまった為、代わりにハーフェンが寄越したのが軽巡棲姫。それと金剛四姉妹に陸奥、と言う艦隊である。勿論指揮官は、桐山 崇二佐である。
そして、主催する気仙沼鎮守府からは三笠に武蔵、大鳳に加賀、瑞鶴に翔鶴で、ロリ大村奈々海が指揮することに……なっていた。
筈だったのだが……
「大丈夫かね?大村二佐」
「ゲホッゲホッ……あー、大丈夫ぅ」
大村奈々海は、風邪をひいていた。
「全く。暑いからって、スッポンポンで寝てるからこうなるんですよ」
夏休み突入の大村夏海が、腰に手を当てて片手で眼鏡をくいっと上げながら咎める。
「いやあ、最近暑くて……ゲホッゲホッ……」
「ああ、わかったわかった。今日の演習、気仙沼鎮守府は見学と言うことに……」
「なっちゃん、代わりやって……ゲホッ…ゲホッ」
奈々海の言い訳に、今日の演習は三艦隊総当たりでやろう、と考えている眞一郎に、奈々海はとんでもないことを言い出す。
「大村二佐、何を言ってるのかね?」
「いやあ……ゲホッ……たまにやってもらっ……ゲホッ」
「ああもう。母さんは黙って、そこで横になっててください」
呆れた顔をしている眞一郎に、奈々海がゲホゲホ言いながら説明するのを遮って、夏海が奈々海を抱き抱えてソファーに寝かせる。
「で、夏海ちゃん、どういうことかね?」
「母さんがたまにドバイに行ってる間、鎮守府運営は実は私がやっていまして。妖精も見えるので、艦隊指揮も可能なんです。ああ、お気遣いなく。母には負けない自負がありますので」
眼鏡をくいっと上げて、挑戦的な目で見上げる夏海に、眞一郎はニヤッと笑う。
「では、元祖中学生提督の実力見せていただこうかね?気が強くて冷静沈着な娘とは、私の好みでね」
「宜しくお願いします」
夏海は、深々と頭を下げた。
「ところで、先輩。それ、神通じゃないですよね?」
然も当然のように並んでいる軽巡棲姫に、直哉がツッコミを入れる。
神通の制服を着せてはいるが、軽巡棲姫である。
「実はな、高菜……神通が家出してな………帰って来ないんだ」
神通と言い争いの末に、デスペランに家出したことを桐山が語る。
「で、デスペラン要塞に家出したと。全く、先輩のところは……今度は何で家出したんですか?」
しょんぼりしている桐山に、直哉が呆れ返って居ると、眞一郎が顎に手を当てて考える。
「これはアレかな?先日の岩沼での会議の折に、一緒に風俗に行ったのが不味かったかね?」
「そうなんですよ……」
『風俗!?』
それに反応したのが、嫁達である。その日は紗花担当日だったが、紗花が夏風邪をひいて寝込んでいたので、担当無しデーだったのだ。
「眞一郎、それはどういう事ですか?」
「眞一郎、紗花が熱を出していたのに風俗とはどう言うことだ?居酒屋に行って来ただけではなかったのか?」
「場合によっては、怒りますわよ?」
「……酷いです」
「山城は、一晩中看病してたんですよ?」
「ああ……不幸だわ……」
ざっと並び立って、二人に迫る嫁達。
「い、いや、あのその……」
「風俗ぐらい、男たるもの誰でも行くから、良いだろう?」
しどろもどろになる桐山に、悪びれない眞一郎。
女川鎮守府の、偽神通こと軽巡棲姫と金剛四姉妹と陸奥は、生暖かい目で見ている。
「まあまあ。その辺で許してやってくれないか?羽佐間さんも、多分心の中では反省しているし、何より紗花ちゃんに露見したら、風俗嬢の死体が発生しかねない。これは皆の胸のうちに仕舞っておこう」
直哉が、そう仲裁に入る。
「しっかし、風俗のどこが良いんじゃ?わしなぞ艦娘達の相手で、もうヘトヘトじゃよ」
「武藤提督は、もうお年ですからね?」
「はっはっは。最近腰の調子が悪くてのう。艦娘達からは痩せてください、と言われてのう」
「お腹も出てますからねえ」
仲裁そっちのけで世間話に入る二人に代わって、夏海が仲裁に入る。
「皆さん、その辺にしましょう。所詮男は、そういう生き物なんですから」
そう艦娘達を宥めるが、眞一郎がカチンと来て噛み付く。
「そう言う夏海ちゃんは、《そういうこと》をする彼氏なんて居ないだろうから、そんな事が言えるんだろうけど……」
「恋人なら居ますが、何か?」
「…………え?」
そう誂った直後にスパッと切り返され、さすがの眞一郎も絶句している。
「私だって中二ですから、恋人の一人くらい居ます。何かおかしい事でも言いましたか?」
「い、いや、意外だな……と思っただけで……どこまで行ったんだね?」
「何で、そこまで言わないといけないんですか?」
眞一郎がニヤニヤと誂うのを、冷静沈着に切り返す夏海。
「いやあね。処女に、女の道を説かれたくないだけさ」
「少なくとも節操なしの貴方と違って、プライベートはあまり公にしたくありませんので」
バチバチッと火花が飛び散る。
「ほう、言ってくれるね。では提督の腕を見せてもらおうか?もし負けたら、一夜を相手してもらおう」
「眞一郎!」
その挑発的な物言いに那智が咎めるが、ばっと夏海が手で制す。
「良いですよ。では、羽佐間陸准将補が負けたら……何をしてもらいましょうか………?」
「ふむ。負けたら、
「分かりました。では一回戦は岩沼と気仙沼、南三陸宮戸島連合と女川でよろしいですか?」
意地の張り合いは、こんな賭けへと発展する。
「だ、大丈夫なのかね?」
心配性の武藤が、不安そうに直哉に問うが、直哉はニヤリと笑う。
「ああ、あの子は紛れもない天才です」
「そうなのか?」
「攻守のバランスの良さは、大村以上ですよ」
そんなひそひそ話をしている中、夏海は一旦部屋に引っ込むと制服に着替え、海自の母親の帽子を被って戻って来る。
制服は元々セーラー服なので、そのままで水兵さんっぽく見える。
「では、三笠。行きましょうか?」
「うむ、我々の全力を見せてくれよう」
そう言いながら指揮艦に乗り込む夏海。勝手知ったるかのように指揮艦を操縦しているが、勿論無免許運転である。
「さて、お前達。手加減するんじゃあないぞ?」
そう言いながら、指揮艦に乗り込む眞一郎。
戸惑いながら、海に降りる妙高に直哉が、
「舐めて掛かると、手酷い目に遭うよ?」
と、警告して来る。
航空戦力の居ない岩沼鎮守府としては、一気に加速して距離を詰めるのが作戦で、
航空戦力中心の気仙沼としては、距離を取ってと言うことになる。
「まあ、インファイトには定評のある岩沼だ。大村の娘が天才とは言え、敗北は必至だろう」
アイスティを飲みながら自身の分析を語る桐山に、直哉は桐山の耳にヒソヒソっと何かを告げる、
「何だと!?まさか空母をそのように運用するとは……!?それでは……」
「はい、ですから天才と言ったんです。それに羽佐間さんは陸戦の専門家であって、戦略の専門家ではない、と言うことです。一緒に前線に出るくらいですから」
「大貫前総監も、彼女を室戸に行かせていれば良かったものを……」
「まあ、大貫さんの真意は、最早誰にも判りませんからね」
そう言うと、直哉も椅子に腰掛けてアイスティを飲む。
その隣で武藤が、双方の艦を演習モードにする。
3
2
1
「全艦突撃!」
眞一郎が、0になる前に密集突撃命令を出すが、相手の陣形の違和感に気づいた。
間を広く取った複縦陣である。
武蔵と三笠が先頭で、右側が瑞鶴・翔鶴。左側は大鳳・加賀が続いている。
そして、一気に加速して行く……
お互いが交差した時、気づいたら羽黒が陸に戻されていた。
「バカな!?空母が副砲だと!?」
そう。すれ違いざまに、空母を含めた六隻が副砲で、羽黒にクロスファイアを放っていたのだ。
そのまま、前方に向かって空母隊が航空機を発艦して、360度回転をしながら回頭する岩沼鎮守府艦隊を急襲する。
特に、翔鶴と瑞鶴は噴式爆撃機である。
「全艦広がれ!!」
「遅い!爆撃!」
眞一郎の命令虚しく、密集隊形のままで爆撃を受けると、先頭の妙高が撃沈判定で陸に戻され、回頭を終えた戦艦が前に出て撃ち合いになる。
夏海はジリジリと後退命令を出しつつ、距離を維持する。
眞一郎は、突撃するチャンスを狙っていた。
戦艦と空母の連携に、一瞬のスキが見えた時、
「全艦突撃!!」
その突撃は強烈だった。
「しまった!」
一気に距離を詰められた気仙沼艦隊は、加賀が撃沈判定で陸に戻された。
そのまま突破した岩沼艦隊が急速回頭を行った時、空に見えたのはすれ違いざまに発艦した爆撃機の群れだった。
これは、加賀をエサにしたトラップだった、と気づいた時には、岩沼の残りの艦娘も陸に戻されていた。
指揮艦から降りた眞一郎は、同じく指揮艦を降りて来た夏海に、ニヤッと笑って手を差し出すと、夏海は少し躊躇した後に握手に応じる。
「いやはや、空母に副砲を付けてのクロスファイアとは、恐れ入るね」
「上手く行ってよかったです。ところで先程のお約束、覚えていますか?」
「ふふ、何でも言い給え。男に二言はない」
「じゃあ、『羽黒さんとデートに行く』でも良いですか?」
『えっ?』
「ふぇぇ!?」
その言葉に全員が絶句し、当の羽黒が驚いている。
「まあ、私は構わんが、良いのか?左薬指に指輪……を…」
困惑した眞一郎は、その指輪がケッコンカッコカリリングだ、と言うことに気づいてしまった。
「まさか、夏海くん?」
「はい。私、恋人はいるとは言いましたよね?」
そう言うと、降りて来た艦娘達が夏海の元にやって来る。
「そういうことだな」
「私達は提督じゃなく、夏海とケッコンカッコカリをしてるんだ」
ニヤリと三笠が笑い、武蔵が夏海のポンと頭を撫でる。
「夏海さんは『男性嫌悪』で『同性愛者』なんです」
加賀が、そっと夏海を抱き寄せる。
「そ、そうだったのか……道理で、艦娘との息が合っていると思った。もう実質、君が提督のようなもんだな?」
「そんな事はありません。母とうちの艦娘は親友、私とは恋人です。実は私、小学生の時に変質者に乱暴された事があって。それから、男の人は家族以外表面上は接することは出来るんですけど、……正確にはそこから先は嫌悪感が出るようになって……そんな時に、母が艦娘達と同居するようになって……それで、先程のような失礼な態度になってしまいました。申し訳ありません」
眞一郎の言葉に、夏海は真面目に答えると、眞一郎も優しい笑みを浮かべて敢えて、
「そう言うことなら納得だ。喜んで羽黒をお貸ししよう。羽黒、いいな?」
「はっ、はいっ」
トンっと羽黒の背中を眞一郎が押すと、羽黒もびしっと敬礼する。
「
「この子、学校では友達居ないみたいでね……」
そう言うのは、翔鶴・瑞鶴姉妹である。
「ですから、女子中学校に通ってるんです。かと言って、学校ではそういう一面は見せたくないらしくて」
大鳳がそう続けると、夏海は少し頬を膨らませる。
「皆がプライベートを暴露して、どうするんですか?」
その夏海の言葉に、皆がどっと笑った。
「もぅ………」
皆の笑いに頬を膨らませながら、ふっと笑みを浮かべている夏海。
「しかし、男性嫌悪は少しは和らいでいるのではないかね?」
「判りませんし、女の人が好き、と自覚してしまったからには、もうどうでも良いことです。両親の血を残してやれない事は申し訳ないんで、母には第二子を妊娠してもらって、さっさと産休に入って貰いたいですね?」
眞一郎が、男性嫌悪の件について指摘すると、夏海は笑って答えた。
そんな会話を聞きながら、奈々海は笑みを浮かべていた。
翌朝、夏海と羽黒は東京へデートに旅立って行った。高菜家特権の、三高ワンダーランド優先パスポートを持って。
なっちゃんにこういう属性を付けてみました。
内気な羽黒とクーデレななっちゃんのデート、需要ありますかねえ……
本日のお題「気仙沼鎮守府の平和な(?)一日(toshi-tomiyamaさん提供)」