『羽黒さんとデートさせてください』
夏海は、羽佐間眞一郎陸准将補との賭けマッチに勝った時、そう告げた。
そして、演習が終わった翌日である。
「あ、あの……夏海さんをお預かりします」
「母さん、行って来ます」
羽黒は、ロングのスカートに若草色の薄手のカーディガンにブラウスにつばの広い帽子。
夏海は、ノースリーブの白いワンピースで麦わら帽子を被っている。眼鏡ではなく、ブラウンの度付きカラコンを付けて、お化粧もバッチリである。
賭けに負けたからと、眞一郎が全部旅費を出してくれた。
「『東京に日帰り』は、可哀そうだろう」
と高菜直哉二佐が、三高ワンダーランドの敷地内にあるホテルのスイートルームを、タダで提供させた。
兄直樹によると、最上階に四部屋あるエグゼクティブスイートルームは、お得意先からの急な依頼で提供することが多く、一般客には提供していない、とのことだ。
「丁度、空いてたから使っていいらしいよ。大村夏海の名前で予約取ってあるからね」
「そんなに……有難うございます」
丁寧に、ペコリと頭を下げる夏海。
「しっかし、羽佐間さんも君達も、浮気旅行はいいのかい?」
直哉が意地悪そうに問うと、眞一郎はふふっと笑って、
「女の子同士はノーカウントだろう」
と、余裕の発言をすれば三笠は、
「たまの浮気くらい大目に見るわ。家には六人の嫁が待っているんだからな」
と、夏海を撫でながら直哉に答える。
「夏海さん、お財布は持ちましたか?忘れ物はありませんか?お荷物はホテルに発送しておきましたよ」
「はい、大丈夫です」
心配そうに、荷物を確認したりしているのは、加賀である。
母親があんな感じなので、恋人兼母親代理なのである。
その母親は、未だに風邪が治らないので、艦娘六人が付きっきりで看病の予定らしい。
「それよりも、母さんをよろしくお願いしますね?」
「分かってるわ。ちゃんと、パジャマ着せて寝かせてるから、大丈夫だと思うけど」
瑞鶴が、未だに寝込んでる奈々海の部屋を見上げながら答える。
「それじゃあ羽黒さん、行きましょうか?」
「はっ……はい……」
――――――――
「わぁ、グランクラスってこんなに広いんですね」
「お弁当が出るらしいですね」
初めて乗るグランクラスに、興味津々の二人。
「手を繋ぎませんか?」
「は……はい……」
女の子と、こういう感じで手を繋いだのが初めてで、ちょっと顔を赤らめる羽黒に、ふふっと笑う夏海だった。
お昼を過ぎた頃に、夏休みで人がごった返す東京駅からりんかい線に乗って、三高ワンダーランド駅に到着する。
「早速、楽しみましょう!」
「は、はいっ」
パンフレットを見ながら、片手をギュッと握って、人がごった返す三高ワンダーランドのメイン広場に居る二人。
つい最近、プールエリアが解禁となって、一段と広くなった三高ワンダーランド。
二人のリュックの中には、キチンと水着も入っている。
「夏海さん、早速どこに行きますか?」
「そうですね、メテオストライクサンダーボルトに行きましょう」
「ふぇっ、あのキングオブ絶叫マシンですよね?」
「はいっ」
メテオストライクサンダーボルト。日本一の高低差・速度を誇る、超絶叫ハイスピードジェットコースターである。
海まで張り出したそのジェットコースターは、総距離も日本一を目指して作られ、最新の技術をふんだんに盛り込み、
優先パスであまり並ばずに乗り込む二人。運良く先頭に乗り込むことが出来た二人は、ちょっと怯えている羽黒とニコニコしている夏海が、仲良く手を握っている。
皆乗り込むと、コースターがガタンガタン……と上がって行く。
「た、高過ぎませんか……?」
「そ………そうですね……」
ぎゅうっと、二人で手を握り合って顔を見合わせる。
周囲を見渡すと、どんどん地面が遠くなって行く。
ここが第一の地獄、超高低差である。
そして頂点が見えると、降りたところでガタン、と停止する。
先頭は、垂直落下状態での一旦停止である。
「ひぇっ」
「ひっ」
そしてコースターは、超スピードで急降下して行く。
『きゃああああああああああああああああああああああああ!!!!』
――――――――
「だ、大丈夫ですか?夏海さん」
「足腰抜けるかと思いました………AR舐めちゃいけなかったですね」
二人肩寄せ合って、ベンチに腰掛ける。
「もうちょっと、大人しい乗り物に乗りましょうよぉ」
「そうですね……」
暫く遊ぶと、水着に着替えてプールエリアに突入する。
羽黒が、大胆な黒いビキニなのに対して……夏海は、地味なセパレートタイプ。
大きな浮き輪に二人乗っかって、楽しくプカプカ浮かんで流れて行ったり、そのまま急流下りで羽黒がポロリをして、悲鳴を上げたり……
二人は、ナイトタイムの観覧車に乗っていた。
「夏海さん、どうして私……だったんですか?」
羽黒は、意を決して訊いてみた。
「そうですね、一番私に近いから……かもしれません。私は、ずっと内気で気弱でした。それを変えてくれたのが艦娘達と、この戦争です。後は、ちょっと悪い子になりたかっただけです」
「悪い子………」
「学校でも鎮守府でも、私はいい子であろうとしましたし、実際いい子である自負はあります。最近では、鎮守府運営に携わることにもなって、実権は私が握っているようなものです。でも、私だって羽佐間さんみたいに悪いことをしたいんです。火遊びだってしてみたいんです。……羽佐間さんが、あっさり了承するとは思いませんでしたが」
その言葉に、羽黒は驚いてから、うふふっと笑った。
「やっぱり、夏海さんはいい子なんですよ。いろいろ苦悩して、苦悩して、それでレズビアンであることを受け入れて。でも、学校でもいい子で居なくちゃいけない、って考えてるんでしょう?」
「……そうですね。カミングアウトすることの難しさを、身を以て感じてます」
「……そんないい子に、プレゼントです」
羽黒は妖艶に笑うと、夏海を抱き寄せて唇を重ね、ディープなディープなキスをした。
「んぅ………」
「んっ………」
そして、長い時間を感じさせるキスを解くと、羽黒が耳元で囁いた。
「私、実はあの鎮守府で……一番エッチなコなんですよ……」
少し顔が赤く、トロンとした夏海は、
「……意外でした……」
と答えた。
――――――――
チェックインした部屋は、豪華なエグゼクティブスイートだった。
部屋には、宅配便で送られたキャリーバッグが置いてあり、ベッドもクイーンサイズのベッドである。
「ふかふかですよ」
真っ先に飛び込んだ夏海は、両手を広げて羽黒を誘う。
羽黒は、遠慮がちに飛び込むと、
「すごくふかふかで……」
そこから先が言えなかった。
唇を夏海に奪われたのだ。
ねっとりと長いキス、舌を絡め合って………
一旦離れると、今度は羽黒が蕩けた顔になる。
「うふふ、お返しです……」
二人の影が一つになって……
――――――――
数日後、眞一郎のベッド。
羽黒と眞一郎が、ダブルのベッドに横たわっている。
「で、どうだったね?夏海嬢とのデートは」
「……あ、危うく落とされるところでした………夏海さんが自分を受け入れた時、どうなってしまうのか」
冷や汗を浮かべた羽黒の報告に、それを受けた眞一郎は、ニヤッと笑った。
「その時、真実の愛はどこにあるのか、分るだろうよ。彼女は、夏の海の大輪の向日葵だったんだろうさ」
「向日葵……?」
「花言葉は、偽りの愛」
「なるほど………夏海ちゃんは、敢えて偽りの愛を私に投げ掛けて、真実の愛の深さを測ろうとしたんですかね?」
「さぁてね、これは私の予測にしか過ぎんよ。或いは本気にさせてしまったのかもしれないが、いずれにせよ、向日葵さ。今頃、小さな向日葵が待っていることだろうさ……彼女達を愛慕している艦娘達が」
そう続ける眞一郎に、羽黒も頷いた。
その頃、気仙沼の官舎では……
夏海の部屋のキングサイズベッドに、加賀と夏海が横たわっている。
「どうでしたか?浮気体験は………」
「私は、浮気には向かない、と思います」
困ったように、加賀に顔を向ける。加賀は意図が分からず、首を傾げる。
「浮気ではなく、本気で落としてしまいます。さすがに羽黒さんでしたから、落とすことは出来ませんでしたが……だから加賀さん、そうなる前に、私を繋ぎ止めておいてください」
冗談でもなく、本気のその表情に優しく頭を撫でる加賀。
「夏海さんには、三笠さんに、武蔵さん、それに、大鳳さん、瑞鶴さん、翔鶴さんも居るわけでしょう?皆夏海さんに愛を注いでくれます。貴女は、その愛を信じて私達と共に居てくだされば良いんです。ムリに浮気をしなくてもいいですし、カミングアウトもしなくていいです。悩んだら七人で考えましょう。皆夏海さんの為に悩み、考えてくれます」
「そうよ!」
「あたり前のことだろう」
「そうですよ」
「一緒に泣いて」
「一緒に笑いましょう!夏海」
やって来たのは、三笠に武蔵、大鳳に翔鶴、瑞鶴である。
遠慮なく、そのまま布団に潜り込もうとする。
「わわっ……」
ギシッと、軋むベッド。
「夏海さん、皆浮気されて寂しかったです。今日は……」
――寝かせませんよ。
こうして夏海は、艦娘に愛される日々を過ごしているのだった。