やるかじじい!
―――三遊亭圓楽(6代目)―――
山田くん!あいつの全部持っていきなさい!
―――桂歌丸―――
お盆真っ盛りの八月。
番長と愉快な仲間達は、夏休みの宿題をやっていた。
クーラー完備で涼しい中の勉強である。
特に史絵とギャルズ達は、高校受験を控えて勉強中である。
史絵は進学校に、ギャルズ達は偏差値低めの高校に進学予定であり、
史絵が猛勉強なのに対し、ギャルズ達はサボリアボリ休み休みの勉強で、慎にプラバットでポカポカ殴られている。
因みに、プラバットは二代目で、初代は敢え無く折れてしまった。
今日、秘書艦はうーちゃんの番で「それいけ!ワンパンマン!」と言うお子様向けアニメを、オレンジジュースとお菓子を食べながら見ている。
司令官の直哉は、ブランデーをたっぷり入れた
それこそ幸田二佐が来たら、お説教モノの状態である。
そんな昼下がりだった。
ガシャーン!窓ガラスが割れて、何かが放り込まれた。
「!! 皆目を閉じて、耳を塞げ!」
そう叫ぶと、直哉は机の下に避難した
カッ
キュイーンバリバリ!!
激しい閃光と共に、大音響が宮戸島鎮守府司令官執務室を襲った。
「皆、大丈夫か!?」
すぐに執務机下から這い出て皆を見ると、爆心地至近の卯月は秘書艦席で気絶している。
対応の遅れた史絵も、白目を剥いて気を失っている。
素早く対処した男子トリオと、最初からイヤホンガンガンで勉強していた優花は、よろよろと立ち上がる。
ギャルズ達は、逃げようとして爆心地に向かいぶっ倒れている。
「な、何が起きたんだ……?」
「ふむ。相変わらず対応力はさすがだな、直哉」
扉が開かれると、陸上自衛隊の制服を着た、スキンヘッドで厳ついおじさんが入ってきた。
その姿に、直哉は驚きで目が見開かれる。
「し、師匠!?」
「こんにちは、来ちゃいました」
そして、足立の娘こと七原秋奈も入って来る。
この直哉の師匠とは、現警務本部長の七原春人陸准将である。
「七原夫妻揃って、どうしたんだよ?」
「漸く時間が取れたので、宮本議員のプロデュースした東北旅行をと思って、春人さんが練度確認で愛弟子の元に立ち寄りたいからって、春人さんのリクエストで
「投げ込んでみました、じゃねーっすよ!うちの史絵に何しやがるんだい!?」
「う……ううん……耳が痛い……頭も痛い……目がチカチカする……」
圭一は、倒れた史絵を抱き抱えながら春人に抗議する。
史絵は、真っ先に意識を取り戻す。
「バカモン!男たるもの常在戦場と思え!」
「は、はい!」
春人の怒声に、圭一も思わず怯んでしまう。
そんな様子を、優花は気にせず勉強をしていて、寛太もそれに寄り添って勉強している。
慎はと言うと、気絶しているギャルズ達のお尻を、プラバットでペシペシ叩いている。
「うーん……何が起きたぴょん………?」
漸く、気絶状態から目覚める卯月。
――――――――
皆が気絶から目覚めたところで、勉強デスクに皆座り、お茶会が始まる。
卯月が、皆に緑茶を配っている。
「という訳で、私の師匠の七原陸准将。今は、足立さんの後任の警務本部長を務めておられる。それで、先日来たと思うけど、こっちがその奥さんで、足立さんの娘」
「うむ。よろしく頼む」
「また来ちゃいました。宜しくね」
直哉の紹介を受けると、腕を組んだま渋い声で挨拶し、秋奈が軽いノリで挨拶する。
「あの、オジさんさー」
望が、遠慮なく声を掛けるのを慎が、
「こら!師匠の師匠の方なんだから、ちゃんとした言葉遣いしろ」
とぽかっとプラバットで叩くも、春人はハッハッハと笑い、
「今時のギャル達はそう言うもんだろう。構わん、何だね?」
「おじさん、トシいくつぅ?」
「うむ、今年で59になる。来年定年になるからなあ。そうなると、62歳定年である足立に苦労を掛けてしまうなあ」
しみじみと言う春人に、望は首を傾げる。
「秋奈さん、いくつぅ?」
「私は今年37かな、もうおばさんよ。あっはは」
秋奈が笑いながら答えると、望は指折り数えて………
「22も違うの!?」
「うむ。足立くんの同郷の同期でな。前の妻に先立たれて落ち込んでいたところを、小さい頃から知っている秋奈に慰められていた所に、秋奈が妊娠してしまってな。それで男としては、やはり責任を取らない訳には行かないだろう?」
朗らかに笑うと、秋奈は少し照れながらふふっと笑う。
秋奈は、よく見るとああ、妊婦だ、と解るくらいの妊娠五ヶ月目である。
「漸く安定期になったから、新婚旅行に行こう、って事になってね。ああ、式はやんないことにしたの」
「そう言えば、写真撮っただけだもんなぁ」
秋奈の言葉に直哉は立ち上がり、デスクからハガキファイルを取り出して結婚しました、と言うハガキを取り出して皆に見せる。
和装の紋付袴を着ている春人に、白無垢綿帽子の秋奈の姿が写されている、写真付きはがきである。
「わぁ……綺麗です……」
史絵がそう感嘆の声を漏らすと、
「そうだねぇ~、春人さんもかっこいいよぉ?」
優花が頷く。
「わあ、チョー綺麗」
「それな」
「うん」
ギャルズ達も、目をキラキラさせている。
「さて、直哉。いつものアレをやるか?」
そう言うと立ち上がり、上着を脱ぎ始める。突然のことで、史絵は顔を赤らめるが上半身裸になると、
還暦前とは思えない、超ムキムキな筋肉が顕になる。
「さて、やりますかね?」
直哉も立ち上がると、そのままで軍港の埠頭に向かう。
皆も、そこへ従いて行く。
二人は距離を取ると、正面に向かって構える。
「でやっ!!」
直哉が一気に距離を詰めて、上段回し蹴りをすると肘で受け止めようとするので、そのまま軌道を無理やり中段に変えて、振り下ろすように蹴りを叩き込む。
攻撃的受けが失敗したと気づいた春人は、膝を上げてケリを受け止め、そのままコメカミに向かってフックを放つ。
それを足を戻して上段払いで躱すと、更に春人は鳩尾に向かいボディブローを叩き込む。
それを直哉は、バックステップで躱すと再び回し蹴りをするも、それを素手で摑まれてしまう。
そのまま持ち上げて、地面に叩き付ける。
「ぐぁっ!!」
「ふんっ!」
直哉は受け身を取るも、背中に激痛が走る。
更に追い打ちで、鳩尾を踏み付けに掛かる春人を、転がりながら躱し立ち上がる。
「準備運動は、この辺だな?」
「ええ」
二人は一気に距離を詰めると、素早く拳を繰り出し合う。
春人は全部避けて躱しているが、直哉は五発に一発は貰ってしまう。
「ぐふっ」
「まだまだ修練が足らんのではないか?」
「くっ……これならどうだ!?」
フェイントを掛けてのリバーブローを、春人に叩き込む。
「ぬおっ!」
「倒れねえか……!?」
春人の顔が歪むも、まだ戦いは終わっていない。
更に蹴りも混ざり、戦いもクライマックス…と言ったところで、バイクの音が聞こえて来る。
『原 圭一を出せー!!』
と、口々に声が聞こえてくる。
二人は、一旦距離を取る。
「何だね、あれは?」
せっかくの楽しみを邪魔されて、少し気に触った顔をすると圭一が、
「ああ、すんません大師匠。多分、この間女の子に暴力を振るおうとしたのを見つけて、シメた暴走族っすね。ちょっと潰して来ますんで、待っててください」
「待てい!私が説得して来てやろう。武という物は、争いを避ける為にあるものだ」
そう言うと、皆を引き連れて出て行く。
「諸君。私は、自衛隊統合幕僚監部直轄大本営警務本部が本部長、七原春人陸准将である。ここは自衛隊の敷地内である。速やかに退去せよ!これは警告である。退去せよ!」
数台のバイクに跨って、鎮守府の門を囲んでいる暴走族に向かって、七原准将が毅然と警告を与える。
「うるせえ!!やるかじじい!?」
イキがった暴走族の言葉に、春人の動きが止まって、体が震え出す。
「ほう、お前達。若いのに、死にたいようだな?」
その言葉に、直哉が顔面蒼白になると、暴走族に警告する。
「おい、お前等、悪いことは言わないから、七原さんに謝るんだ!」
「どうしたんだ師匠?」
「師匠がキレたんだよ!」
そんな様子の直哉を、不思議そうに見ている圭一に、必死で言い返す。
「は?うっせえよ。てめえ等全員ぶっ殺して、女共は犯っ……」
先頭のバイクに跨っていた暴走族は、春人にガシッと頭を摑まれた。
「ぎゃああああああ!!!!!」
ミシミシっと、音を立てて頭を摑まれた暴走族は悲鳴を上げる。
そして、そのまま地面に叩き付けられた。
足立のような、
投げられた暴走族は、泡を噴いている。
春人は、そのまま大きく構える。背中には、鬼の顔が浮かび上がってるように見える。
「み、皆!師匠を止めるんだ!死傷者が出るぞ!!」
「待って!あの化物を、どうやって止めんだよ!?」
「と言うか、もう救急車呼んだほうがいいんじゃあ?」
「と言うか、何で自衛隊には、暴走老人しかいねえんだよ!?」
真っ青の直哉に、ツッコむ弟子一同。
そんな間に、もう一人はリバーブローを叩き込まれていた。
「うごぇえええええ!!!!!」
バイクから吹き飛ばされて、地面に叩き付けられた暴走族は、腹を抑えてのたうち回り、嘔吐と失禁をしている。
そんな惨事に、暴走族はバイクをUターンさせて逃げようとする。
「逃げられるとでも思っているのか!?」
哀れ、三人目の犠牲者はベルトを摑まれて、そのまま地面に投げ付けられた。
残りの暴走族は、あまりの恐怖に逃げ出すことを忘れてしまい、失禁するものも出る始末。
それも始末しようとした時だった。
「春人さん、そこまでですよ」
「む……」
動きが止まったところで、我に返った暴走族は、我先にと逃げ出した。
結局、置いて行かれた暴走族は、笹野診療所に担ぎ込むことにした。
――――――――
「で、一人目は頭蓋骨にヒビが入って、二人目は肋骨骨折。肝臓破裂まで行かなくてよかったわね。三人目は脳震盪。この子等、頑丈ねえ」
犠牲者の暴走族達を診察した笹野麻衣医師は、大きな溜め息を吐いた。
「いい運動になったな。ずっと観光観光で、体が鈍るところだった」
「師匠。《一応》警務本部長なんですから、鎮守府内での殺傷沙汰はやめてもらえませんかね?」
げんなりした直哉がツッコむと春人は、
「バカ言え。やるかジジイなぞと、戦争を仕掛けたのはあっちだ。男たるもの常在戦場、と言うではないか」
「それを体現してるのは、大師匠くらいっすよ!」
圭一も、堪らずにツッコミを入れる。
「しかし、圭一と言ったか。彼奴等高校や大人と見たが、中学生でそこまで出来るとは、お主も喧嘩が強いな。いい孫弟子を持った。是非自衛隊に来てもらいたい。陸上自衛隊 高等工科学校、と言うのがあってなあ。まだ早いが、進路の一つとして考えてもらいたい」
「はいっ」
師匠の師匠、つまりは大師匠に褒められた圭一は、嬉しそうな顔をして答える。
そんな横で、恋人の史絵は内心心配をしているので、複雑な顔をする。
「では、弟子の練度も確認できたし、いい孫弟子にも恵まれたことがわかった。暇を見つけては、稽古を付けてやろう」
「はいっ。宜しくお願いします」
こうして、嵐のように現れた七原陸准将の訪問は、終わりを告げた。
その後、七原春人は暴走族を病院送りにした件について、休暇中ながら始末書を書いたことは言うまでもない。
始末書を提出した脇で、秋奈によって足立自身も暴走族を返り討ちにしたことを暴露されると、
足立将補は、苦笑いを浮かべる他無かった。
そんな怪物も、後一年と少々で自衛隊を去る。
足立は、彼の後任人事をどうするか。今から頭を悩ませるのであった。
いつものやるかジジイネタですみません。
活動報告で言ってたマッチョマンジジイの回でした