宮戸島の提督と仲間達のお気楽日記   作:SAMICO

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※本作の世界線では『東日本大震災』は発生していません。
 という前提で御覧ください。


真夏の夜の夢

それは、一つの可能性の形。

 

 

 

 

 

 

「直哉……」

「直哉さん」

 

直哉が目を覚ますと、知らないマンションの一室でソファーに座っていた。

そんな直哉を、湊子と優衣が覗き込んでいる。

 

「お疲れ?」

「副社長は大変ですものね」

 

優衣と湊子が、笑顔を浮かべている。

 

「副社長?」

 

直哉は疑問に思ったが、()()()自分は三高ホールディングスの副社長、

兄である高菜直樹を補佐する立場だ、ということを思い出す。

 

東日本大震災で、被災救助時に精神を病んでしまった直哉は、自衛隊を除隊。

兄の勧めで、高菜ホールディングスグループに専務として入社。

そしてその後、学友で、リハビリ中も献身的に尽くしてくれた、

高梨宮湊子に思いを告げて、目出度く高菜家へ降嫁して、結婚した。

同時に姉への思いも告げると、事実婚としてそばに居てくれる、と約束した。

 

兄と父だけが知っている秘密。

 

それから、八年の年月が経過していた。

その頃、大きな商社系である三友商事を買収して乗っ取る手腕を見せた高菜直樹は、

三高ホールディングスCEOとして、日本で一番有名な実業家となっていた。

兄から、アミューズメント関連の三高ワンダーランドの社長を任されるようになると同時に、

本社副社長へ昇進。

 

兄直樹は、秘密主義なところがあった為独身を貫き、後継者の期待は弟の直哉に向けられていた。

 

「直哉、夕飯できてるわよ。今日は湊子が作ったのよ?」

「ふふ、(わたくし)の手料理が口に合えばいいのですが」

 

二人に手を引かれて、食卓へと向かう。

食卓には、四~五歳くらいの女の子が座っている。

「パパ、お昼寝してたの?」

「パパはね、ちょっと疲れて眠ってたんですよ」

 

娘の海来(ミク)の頭を撫でながら語り掛けると、湊子と優衣が席に座る。

そして直哉も席に座ると、楽しい夕食の時間だ。

 

姉の優衣は、社長秘書として子会社化した三友HDに乗り込んでいる。

三友派と高菜派の接着剤・緩衝材として、日々社長の龍三郎を補佐している。

所謂、お目付け役でもある。

 

「今日も見合い持ってこられたんだけどさあ、断ってね」

 

なんて「無駄なのにね」と付け加えながら、直哉にウィンクする。

 

「まあ、そんなものだろう。二人がいてくれるおかげで、私は幸せだよ」

 

直哉の口からは、そんな言葉さえ出る。

家族四人幸せな生活。

 

娘が眠れば夫婦の時間。

 

そして翌朝は、また会社に出勤する毎日だ。

日本一のレジャーランドとなった、お台場三高ワンダーランド。日本復興の象徴となった、そのアミューズメント施設を統括して……

 

 

優衣と湊子……

 

 

初恋の相手と……

 

 

 

『直哉……』

 

――――――――

目を覚ますと、波の音が聞こえる、東北は宮戸島鎮守府だった。

真夜中で、月明かりが差し込んでいる。

 

「ん………?」

 

「直哉。風邪を引くのですよ」

電が、顔を覗き込んでいた。

 

そうか、直哉は思い出した。夜、何となく抜け出して、鎮守府の執務室で酒を飲んでいた。

そして、眠ってしまったのか、と……

甘くて切ない夢が、傷を抉る。

 

もし、深海棲艦が現れなかったら。

もし、提督になってなかったら。

抑々、自衛隊に入っていなかったら……

 

こんな幸せな結果になっていただろうか。

 

何も答えない直哉に、電は心配そうに覗き込む。

 

「直哉、お酒の飲み過ぎなのです。今日七原准将から頂いたコニャックを、もう空けてしまってるのです」

 

そう言えば、師匠から立ち去り際にコニャックのボトルを頂いたことを思い出した。

 

「もう、困ったお方なのです。お水を持ってくるのです」

 

そう言うと、執務室の隅に設置しているレンジシンクの水道から、コップに水を注ぐ電。

 

未練と言うやつか、今が幸せではないと考えているのか……

そんなことはない筈。電や卯月、薄雲と三人も素敵な嫁に巡り会えて、

気楽な生活を送っているではないか。

 

直哉は葛藤をしながら、残っているブランデーを喉に流し込んだ。

 

「あっ、直哉。本当にどうしてしまったのですか?」

「………夢を、見たんだ」

 

水の入ったグラスをそっと差し出す電は、首を傾げる。

 

「そう、何と言うか甘い夢だった。甘いけどほろ苦い……もしも、深海棲艦が現れなかった世界さ。私は三高ホールディングスの副社長になっていた。湊子と結婚して、優衣姉さんとも一緒に暮らして、娘の海来もいて………」

「………」

「日本に大きな地震があって、私はその救助活動で心をやられて、それで兄さんの勧めで高菜ホールディングスに入ってた。お台場に遊園地を兄弟で創り上げて、日本一のテーマパークになった。そして明日も仕事だから早く寝ないと。そう思った時に、誰かの声が聞こえて目を覚ました」

「………未練、なのですか?」

 

電ははっきりと口にした。女の勘で分かっていたのだ。湊子や優衣を好きだった、と言うことは。

 

「未練なのかなあ?でも歴史に、もしもはつきものであり、禁句のように、もしもあの時ああなっていたら、なんて考えないほうがいいのさ。そう思っていたんだけどね」

 

自嘲する直哉に、電はふふっと笑い直哉の手を引いて立たせる。

 

「歩けるのですか?」

「ああ、大丈夫だよ」

「お月さまを見に、外に行きましょう」

「そうだね」

 

二人は、軍港の埠頭の先に歩いて行き、腰を下ろした。

ふと、電が思い出したように口を開く。

 

「電も、夢を見たのです。それはもうおかしな夢。東京スカイツリーで女の人からケッコンカッコカリリングを渡される夢………その女の人は『不敗の女神様』なんて呼び名で呼ばれていた提督。可愛くて、真面目で、ちょっと天然なところもある、放ってはおけない小さな英雄さん」

「……………」

「その世界は、名古屋一円が深海棲艦の侵攻で焼け野原になってたのです。電達はその復興を見守りながら、名古屋でもう一人無二の親友とその女性提督と楽しく賑やかに暮らしていたのです。男勝りでかっこいい女の子や、可愛くて活発な女の子、それに暗い過去を背負っても明るく振る舞う提督の親友、賑やかで楽しい世界だったのです」

 

『もし、そんな世界だったら』

 

二人の言葉が重なると、フフッと二人で笑う。

 

「きっと、真夏の夜の夢だったのです。この世界はこの世界で幸せなのですよ。もしもとか、どっちが幸せだったか、なんて物差しが違うものを測れないのです」

「そうだな」

 

直哉は、それだけ言うと考え込む。

大貫 悟は『別の世界から来た』と言って死んで行った。

 

「いずれにせよ………電は、貴方のお側に居られて幸せなのです」

 

そう言うと、抱き付いて頬にキスをした。

 

「そうだね、そのとおりだ。その夢の先は、悲しい結末だったかもしれない。電は一番いい時に起こしてくれたよ。例えば、点検ミスで三高ワンダーランドで事故が起きていたり………」

 

何気なく、直哉はポケットからスマートフォンを無意識に取り出して、湊子に「点検はしっかり」と送っていた。

 

「電の夢の世界だってそうなのです。もしかしたら司令官が殺されて、不幸な悲しい物語に転落してしまったかもしれない。艦娘同士が、血で血を争う戦いになってたかもしれない」

 

『もし、そんな世界だったら』

 

再び二人の言葉が重なる。

 

「きっと、私は絶望していただろうね。兄さんを誰よりも尊敬している私が、兄さんの足を引っ張ってしまった等と……」

「電も、希望を失ってたのです。そして死に場所を求めて、戦場で散っていたかもしれないのです」

 

『もし、そんな世界だったら』

 

三度、二人の言葉が重なる。

そんな『二度あることは三度ある』のような事に、二人は顔を見合わせると、

二人でお腹を抱えて大笑いする。

 

笑い声が、静かな埠頭に木霊する。

 

「やっぱり……真夏の夜の夢だったのですよ。甘くてほろ苦い」

「そして、甘美な夢……か」

 

笑い終えた電がポツリと呟くように言うと、直哉も電の頭を撫でながら呟く。

そして、電は顔を見上げる。

 

「でもやっぱり、電は現実が一番なのです。直哉がいて、うーちゃんず(卯月&薄雲)がいて、圭一がいて、寛太がいて、慎がいて、四国で愛ちゃんと健太が頑張っていて………、ヘンテコリンな人達が、ヘンテコリンな騒動を巻き起こす、そんな現実が一番なのです」

「そうだね」

 

直哉が電を抱き寄せると、電はふふっと笑う。

そんな電の頭を、優しく撫でていると、

 

「あー!ここにいたぴょん」

「探しましたよ」

 

うーちゃんずが、埠頭にやって来た。

 

「卯月、薄雲、どうしたんだい?」

 

二人で振り向くと、卯月はおこである。

 

「どうしたもこうしたもないぴょん。突然二人が居なくなったから、探しに来たぴょん」

「どうせ鎮守府だろう、と思っていましたが」

 

腰に手を当てておこのポーズをしている卯月の隣で、表情の薄い薄雲がさほど探してないと補足する。

 

「いやね、真夏の夜の夢を見ていたのさ」

『真夏の夜の夢?』

 

首を傾げる二人に、立ち上がりながら二人がもしもの世界を語り始める。

 

「うーちゃんもそんな夢を見たぴょん。レジェンドとか言うお姉さんが強かったぴょん」

「私は、世界を敵に回した大悪党でした」

 

『もし、そんな世界だったら』

 

四人の言葉が重なると、四人共ふふっと笑う。

 

「そんな世界より、現実がいいな。これから何があろうともね」

「またドタバタの連続なのです。おかしなのが来て、おかしな騒動を巻き起こす」

「楽しく賑やかでいいぴょん」

「そうですね」

 

帰りの道すがら、そんな会話をしながら誰もいない我が家へ帰って行く四人だった。

 

 

――――――――

 

「直哉、お手柄だ」

「はぁ?」

 

三高ホールディングス総帥・高菜直樹から電話があったのが、翌日の昼過ぎだった。

三高ワンダーランドの目玉アトラクション、メテオストライクサンダーボルトで点検の手抜きがあったのだ。

建設段階で危険な箇所があり、すぐに補強工事に取り掛かることを教えてくれた。

補強工事は一日掛けて行い、明日からは再開の見込みだ、と。

 

無意識で湊子に送っていた内容に、湊子が不安を覚えて直樹に伝えていたのだ。

直樹は、即座に開園前に業者を手配して、総点検をさせたのだ。夏休みのハイシーズンにも関わらず、開園を遅らせてまで……

 

「何で、点検の瑕疵なんて解ったんだ?」

「さあ。何ででしょうね?真夏の夜の夢……としか言えないですね」

「まあ、とにかく助かった。私も日本一の経営者と持て囃されて、鼻が高くなっていたのかもしれない。これを機に、襟を正すとしよう」

「兄さん」

「何だ?」

「兄さんを支えられなくて、ごめんなさい」

「フン、やっぱりお前は、自衛隊に入らない、と言う選択に未練を感じていたんだな。だが、お前達自衛隊のおかげで、日本と言う貿易に頼らなくては生きて行けないこの国が、干からびずに済んだ。それでよかったんだ―――」

 

―――『もし、そんな世界だったら』

 

「なんて、考えても無駄なことだ。私には、益体もないことを考えている暇はない」

 

直樹は、ピシャリと言い放った。

 

「そうですね。兄さんも無理しないでくださいね」

「分かっている。そうそう、親父が蔵書が足りない、とかぬかして全国を旅してるそうだ」

「あの人は変わりませんねえ。大屋敷を図書館に改築してしまうくらいの読書狂いですからね。電子書籍の良さもわかろうとしない『時代遅れ』ですよ」

「まあ、私に海外の書籍の捜索を頼むくらいだから、今ある本では飽きたのだろう?」

「それじゃあ、兄さんも忙しそうだしこれで」

「ああ」

 

電話を切った直哉は、大きな溜め息を吐いた。

「これも『真夏の夜の夢』か……」

 




今日のお題「if もしもこうなっていたならば」

あくまで夢の世界です。なんの意味もメッセージ性もありません。

この話を第60話に持ってくると『なにか意味がある』のではないかと思われるので
59話に入れました。

高菜直哉という男が残した未練、そしてそれを断ち切ったご褒美にほんのささやかなプレゼントを贈られた。

そんな程度のささやかなお話です。


あとがきで長々と書くのは決まって最終話なのですが
このお話は、のんびり続いてゆきます。
ゴールラインは笹野愛が吹き飛ばしてしまいましたから、ね

ではではそんな感じで、失礼いたします。 作者でした。
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