宮戸島の提督と仲間達のお気楽日記   作:SAMICO

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実家へ~LabyrinthLibrary~

「実家に帰ろうか?」

 

直哉が思い立って三人に告げたのは、あの夏の夜の夢の翌日だった。

 

「実家……なのですか?」

 

突然の言葉に、電は首を傾げる。

 

「何となく、親父の顔も見たくなったのさ」

「なるほど………」

 

今日は、愉快な仲間達は遊びに出掛けて不在。

薄雲と卯月もソファーで寛いで、久々に四人でいられる空間である。

 

「親父さんってどんな人ぴょん?」

「そうだなあ、読書狂い(ビブリオマニア)って印象だね。世界中からどんどん書物を集めて、毎日家で読んでいるよ。その御蔭でマルチリンガル。ヘブライ語まで読み書き出来るよ」

「面白そうな人ですね」

「そうだね。行ったら、きっと驚くと思うよ。何せ……」

 

―――本の()だからね。

 

翌日。直哉達は一路、高速道路を飛ばして東京へと向かった。

東京の閑静な住宅街の一角に、その城は存在していた。

まさに、ファンタジー映画に出て来そうな要塞そのものである。

「おお……大きいのです」

「お庭が殆どないぴょん」

「まさに、建物ありきの設計ですね」

 

三者三様に驚いていると、直哉は門を、持っている電子キーで開けると、開いた大きな門を車が通り、高級車の横に空いているスペースに車を停める。

 

「さて。ようこそ、高菜図書館へ」

 

 

ギィ……入り口の大きい扉の中に付けられた小さい扉を、電子キーで解錠すると中へと入って行く。

中のホールは螺旋階段となっており、至るところに本棚が設置されている。

廊下ですら、本棚が据え付けられており、左右に見える書架の列は、三人を唖然とさせるようなものだった。

 

「何だ、直哉。来ておったのか?」

 

上から降りて来たのは、本を片手に螺旋階段を降りて来る、ヒゲも髪も伸ばしっぱなしの白髪の男。

 

「この、浮浪者みたいなオッサンが、うちの親父だ」

「浮浪者とは何か?毎日、ヴィダルサスーンを使って洗っておる」

 

早速、再会の毒舌の応酬である。

 

「初めまして。直哉の第一嫁の電なのです」

「第二嫁の卯月だぴょん」

「第三嫁の薄雲です」

 

そんな自己紹介に、ハッハッハと笑い、

 

 

「何だ、直哉も艦娘を嫁にもらったのか?しかも三人も」

「ん?」

 

直哉には、「も」という言葉が引っ掛かった。

 

「まあ、立ち話も何だから、ちょっと待ちなさい。本を戻すのでな……」

 

螺旋階段を降りると書架に消えて行き、新しい本を片手に戻って来る。

 

「青葉、青葉ー!」

「はぁい、お呼びですか?館長」

 

地下室の階段から、ひょっこり青葉が顔を出した。

 

「も、ってことは……?」

「まあ、それも含めて、自己紹介と行こうではないか。私が、この高菜図書館の館長の、高菜源一郎だ」

「ども、恐縮です、青葉ですぅ!源一郎さんと、先日入籍しました」

 

その言葉に直哉は、

 

「き…聞いてないぞ、親父!」

「誰にも話しとらんからな。自衛隊のやりように嫌気が差して除隊した青葉が、ワシがお手伝いさんを探していた所へ面接に来てくれてな。そしたら、本好きで意気投合して、そのまま結婚することになってな」

「交際期間0日の結婚でしたよぉ」

 

自信満々にいう二人に、唖然とする四人。

 

「まじか……?」

「すごいのです………」

「そうだぴょん………」

「ところで、夜の営みの方は?」

 

そんな、薄雲のキラーパスは、

 

「は?私達は、本で結ばれているから、その必要はない」

「その通り。本に対して、失礼ですよ」

 

等と、しれっとクリアーされてしまう。

 

「ともかく。お茶を出すから、上がって来なさい」

 

そう言うと、螺旋階段を登って行く。その間に、青葉が図書館の解説をしてくれる。

地上四階、地下二階の建物で、地下と一~三階は全て書架。四階は生活エリアで、リビングと食堂とベッドルームと書斎。

左右のタワーにも小部屋があり、籠もって読書するのに丁度良いらしい。

 

青葉の案内でリビングに通されると、座れるタイプのリビングにローテーブルが置いてある、シンプルな部屋である。

 

「さて、コーヒーでも淹れてもらえないかね?」

「はい、館長」

 

青葉が、一礼して出て行くのを見計らって、源一郎が口を開く。

 

「最近は、新しい本がいっぱい入荷して、忙しい限りだよ」

 

リビングのローテーブルには、大貫 悟の著書や防衛白書が多数積み上げられている。

 

「親父、大貫さんの著書なんてどうしたんだ?」

「そうさなあ、彼は何故暗殺されたか、その真実を知りたくてな。差し当たり、彼の艦娘論に関する本や防衛白書を取り寄せて、今インプットしているところだ。彼は何を思い異世界人等と名乗ったのか?本当にそうだったら、どのようなテクノロジーを用いたのか?そして、大貫 悟の過去を救う、という事は達成されたのか?私はこう思ってる。大貫 悟のやったことは無駄だった、と」

「どうしてだい?」

「過去を変えて未来が変わるなら、そのタイムパラドックスはどう整合するんだね?それよりも、私はマルチバース論の方に興味があってねえ」

「多元宇宙論……世の中には、並行した宇宙が複数存在している」

「世界は、生まれ続けているのかもしれんよ。例えば大貫某の世界がαワールドとする。その世界は、彼の言うように滅びたのだろう。だが、大貫のやって来た時点で、この世界はαワールドⅡ、という分岐点を迎えたかもしれない。何れにせよ、仮説の話だがね。私は、大貫 悟の考えて来たことを、著書を通じて彼の為人を知って、周辺の人間の著書で真相に近づけると良い、と思っているよ」

 

そんな高菜源一郎が、後に『大貫 悟伝』を著し、反艦娘派の息の根を止めることになろうとは、今の誰にも予想すらできないことだった。

 

『………』

 

そんな源一郎の話を黙って傾聴していると、青葉がコーヒーを持って来る。

 

「お待たせしました。よかったら、皆さんも自由に本を読んでください。こうなったら、お二人ともお時間掛かりそうですし。返す場所に困ったら、中央のコンピュータに裏表紙に貼り付けてあるバーコードを読み取って頂ければ、対象の書架がランプが光りますので……ああ、地下には危険な禁書が眠っているので、お気を付けください」

 

そう言われると艦娘トリオが立ち上がり、大貫 悟論を語り合ってる直哉達を尻目に、三人で階段を降りて行く。

高菜図書館には、日本語の本から外国語の本まで、多数に亘って収められている。天井まで衝く書架に、各書架の横には脚立が立て掛けられている。

古典から最近のライトノベルまで、多種多様な本は電達を楽しませていた。

 

「ファンタジーにも、古典から新しいものまでいろいろあるのですね?」

「うーちゃん『指輪物語』読んだよ」

「私は『ナルニア国物語』を読みました」

「電は『銀河英雄伝説』を読んでいたのです。ヤンとかいうやつが死んでしまって、悲しいのです。まだ読み途中なのです」

「うーちゃん、地下室に行ってみたいぴょん」

「でも、気を付けてって言われたのです」

「私が同行します」

 

卯月と薄雲が、地下室へと消えて行った。

「くたばれ!カイザーラインハルト!」

電は、未だに『銀河英雄伝説』を読み続けていた。

 

 

地下書庫は、薄暗い電球が点いているだけのもので、しっかり装丁されている本から、そうでない本まで転がっている。

卯月が古ぼけた本を取り出した。

表紙には、『腹腹時計』と書かれていた。

 

「腹腹……時計ぴょん?」

「どんな時計なんでしょうね……?」

二人は、置いてある椅子に腰掛けて、読み進めて行く。

「どれどれ、今日、日帝本国に於いて、日帝を打倒せんと既に戦闘を開始しつつある………」

 

読み進めて行くうちに、二人共顔がサーッと青くなって来る。

 

「これ、ゲリラの教科書だぴょん!」

「そのようですね……ここまで詳細に書かれていると言うことは、実際の反日ゲリラが用いた読本ですね」

「もっと、マシな本はないのかぴょん」

「取り敢えず、戻しておきましょう」

 

二人は『腹腹時計』を戻すと、更にその隣の本も読んでみる。

過激思想やゲリラの本、或いは有害な本ばっかりが収められている。

 

「下の本のほうがマシっぽい。ここの本は、血腥い本ばっかりだぴょん」

「そうですね……」

 

奥の階段を降りて行った。

地下二階は、更に怪しい本がずらりと並んでいる。

 

「この『エイボンの書』とかはどうだぴょん?」

「嫌な予感しかしませんが……次元を超越した混沌の中心に存在する、盲目にして無知なる無限の神アザトースを地球に招来する儀式……」

 

薄雲はそれを読んだ瞬間、無形の恐怖に背筋が凍り付いた。

それでも、途中までは読んで、パタンと本を閉じた。

 

「や、やめよう。これは駄目です」

「どうしたぴょん?」

「この本は危険過ぎます」

「………」

 

真っ青な顔で本を戻し、二人は隣の本を取り出した。

その本は、ルーン魔法の一例の本だった。

力の言葉を唱えて、秘薬を掲げれば使える……と書かれている。

「面白そうだぴょん」

「そうですね……」

 

そう言いながら読み進めて行くと、薄雲があることに気づく。

 

「抑々必要な秘薬が、『黒真珠』『ニンニク』『マンドレイクの根っこ』『蜘蛛の巣』『血の根っこ』『朝鮮人参』『ベラドンナ』『硫黄』の時点で、収集困難なんですが……『Armageddon』だけは『ブラックロック』だけでいいらしいですね?」

「Armageddonって言うからには、恐ろしそうだぴょん……」

「戻りましょうか?ここの本は危険過ぎます」

「ぴょん」

 

二人は、トボトボと地上へと戻って行った。

その様子を、丁度青葉が見つけた。

「お二人とも地下に行ったんですか?まさか、地下二階に行ってないですよね?あそこの本は、読むだけで正気をなくすほどの危険な本ばかりで……」

『………イッテナイデスヨー』

 

その様子に、青葉が大きな溜め息を吐くと、上から高菜親子が降りて来る。

 

「皆、満足したかね?」

『はーい!』

 

三人の艦娘が、揃って笑顔で答える。

 

「では、外で夕飯にしよう。今日は奮発して、焼き肉にでも行こうか?」

『はーい!』

 

直哉の言葉に、嬉しそうに艦娘達が答える。

 

皆が次々と図書館から出て行く中、薄雲は何かの気配を察知して、振り向いた。

「……?」

 

振り返ると、誰もいない。

 

「おーい、早く行くぞ」

そんな直哉の言葉に、後ろ髪惹かれる思いで、薄雲は図書館を出て行った。

 




ああ、窓に、窓に
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