―――東北警務隊員・坊主頭―――
なっちゃんのお話その2
今回はいつも以上に過激です。まだR-15の範囲内に収まってるはず…
「何だ、紗花。夏海には懐くのか?お前さん、女にモテたりしてないだろうなあ?」
誂う眞一郎に、少し考えると、
「一人だけいますよ、何度振っても根気強くアタックする子が。運動神経バツグンでかわいい、所謂『僕っ娘』が」
「そうなのか?ともかく、球磨の異動話だったなあ?」
答える夏海に、あまり興味が沸かなかったようで、話を戻す眞一郎。
その答えの続きを、夏海と加賀は持っていた。
――――――――
それは、夏休みに入る前の七月頃。
「ねえ、僕と付き合ってよ?」
にへらっと笑った、ショートカットで背の高い女の子。
大村夏海は、そんな彼女から求愛を受けること295回。
毎朝の挨拶のようになっていた。
「はいはい、おはようございます。先輩」
「ちぇ、今日も駄目かぁ………」
カバンを持ちながら、両手を頭に回すそんな彼女――各務原結有は溜め息を吐いた。
そんな彼女の姿を、ちらっと見ながら校舎へと向かう。
結有は、所謂寮生で毎日、学校敷地に隣接している、白百合寮から通学している。
男性の立ち入りは厳禁、教師や職員も全員女性の女子学園である。
初等部から中等部、高等部まである由緒正しい『東北百合根女子学園』と言う女子学園の中等部。
相手は高等部の一年生。二つ年上である。同じ中等部の頃から声を掛けられている。
「もういい加減、諦めたらどうです?何度言ったら気が済むんですか?」
夏海が、もううんざりだと言わんばかりの態度を取ると、
「僕は、諦めの悪いのが取り柄なの」
と、アハハッと笑う。
「私には、ちゃんとした人がいるんです」
いつものダメ押しの言葉にも、へこたれない。
「知ってるよ、艦娘達なんだろう?その指輪、ケッコンカッコカリリングだよね?」
「あっ……」
いつもは学校に行っている時は、外してチェーン・ネックレスにして、服の中にしまっていたのに、
今日はうっかりしていた。
ケラケラと明るく笑う先輩に、顔を見上げながら、
「変だと言いたいなら、仰ってください。どうせ私は異常……」
「そうかなあ?いろいろな愛の形があっていいと思うよ。僕だって、君のことを好きになりたいし」
「ですから、私には艦娘達が居るんです。六人も!先輩の入る余地なんて、ないんです!」
今日は夏海も、自分で何か苛立ちを感じていた。
前日の、査察の一件もあったかもしれない。査察の落ち度を指摘しただけなのに、舌打ちされた。
それに対して食って掛かったら、こう言われたのだ。
「お前さんは可愛くないねえ」
と来たもんだ。宥める加賀のおかげで、それ以上の衝突は避けられたものの、夏海の心には苛立ちが残っていたのだ。
宮本一佐に苦情の電話を入れたものの、子供を宥める態度で申し訳ないねと一言、それも癪に障っていた。
「それにどうせ、私みたいな理詰めな女かわいくないですよ。先輩だってそう思ってるしょう!?」
言われた結有は、目をまん丸くして驚いた。
そして両手で宥める仕草をしながら、
「全然。かわいいよ。そうやって理詰めなところも、理詰めで納得出来ない所に苛ついてるのも、かわいいよ」
「なっ……もう良いです!失礼します!」
彼女にとっては「そうだね」と言って欲しかっただけなのに、軽薄な感じの言葉に余計苛立って足を進める速度を早めて、中等部校舎へと歩いて行く。
そんな彼女を、結有は頭を掻きながら見送っていた。
そんなこんなで、夏休みがやって来た。
夏休みと言っても、夏海の在籍する進学コースは、補習や有名講師を招いての講習があり、
登校することの多い彼女は、学校にやって来る。
「おはよう、なっちゃん」
丁度、校門で走り込みを終えて休憩している結有が、夏海に声を掛ける。
「おはようございます。今日も走り込みですか?」
「うん」
「ところでさ………」
夏海は、ほら来たと言わんばかりの顔をする。
これで、丁度365回である。
「ちょっと気になった事があって、気仙沼の提督に相談すべきかどうか、悩んでたことがあるんだ」
そう、今回は僕と付き合わない?ではなかったのだ。
少し残念そうに思いながら……そんな思いを自分の中で必死に否定しながら、
「どうしたんですか?先輩」
「それがね……昨日仙台に遊びに行ったら……艦娘らしき子がビルの中に連れ込まれていたんだ……」
「えっ……?」
大本営警務隊の管轄対象は鎮守府であって、それ以外に権限は及ばない。
こういうケースでは、幸田二佐ではどうにもならない。
「どこですか?」
「案内するよ」
今日の自由参加の補習をパスして、夏海と結有は仙台のそのビルへと向かった。
そこは、繁華街からちょっと離れたところで、人気の少ない場所だった。
ビルの前には、黒服の男が二人立っている。
「どうする?二人くらいだったらノせるけど?」
結有は、とんでもないことを言い出す。
「い、いえ……様子を見ましょう」
二人共、電柱の影に隠れて様子を見ている。
暫くすると、車が停車して中から人が出て来る。
「あっ、この人……市会議員の……」
「うん、黒沢……とか言ったね。艦娘を、社会に進出させるのに反対してる活動してる人だ。昨日も駅前で演説してた」
反艦娘派、つまりは現政権に批判的な態度を取っている人なのだ。
彼曰く軍国化の第一歩であり、艦娘は鎮守府にいればいい、と言った具合らしいのだ。
その黒沢議員はニヤニヤと笑いながら、黒服に案内されて中へと入って行く。
「何だろうね………?」
「判りませんね………」
結有は、スマホのマナーカメラでその様子を撮影すると、
「反艦娘派の黒沢議員が入って来て、艦娘が連れ込まれた可能性のある場所………」
「一旦離れようか?」
二人連れで、仙台の中心街に向かった。
一旦トイレに立ち寄って、出て来た時には人だかりが出来ていた。
「なんだろう。先輩もいない……し」
人だかりを掻き分け、一番前まで出ると、結有と学ランを来た男子中学生……原 圭一が喧嘩をしていた。
「えっ?」
事の発端は、こんな感じだった――
――――――――
史絵が、圭一のトイレを待っている所に、結有が冗談半分で声を掛けたのだ。
「ねえ、君。今一人?」
「えっ、あの……その……」
軽い感じの『男』に見えた史絵は、しどろもどろになる。
そんな時に現れたのが圭一だった。
圭一は
「おいこら!
と、いきなり殴り掛かったのだ。
「圭一!」
止める史絵を、結有が腕で制するとすぐ構えて、そのパンチを難なく躱して距離を取った。
「その構え、ジークンドーか!?」
「あはは。よく知ってるね、坊や」
そのまま、殴り合いと言うか圭一の攻撃を躱す結有、と言う図式が出来上がっていたのだ。
そんな二人に、つかつかと近付くと、
「何やってるんですか、二人共?」
「あっ、夏海先輩」
「あっ、なっちゃん」
「こんにちは、夏海さん」
と、言うことになる。
差し当たって入った、ハンバーガーショップで圭一に、結有は女だと告げると、「マジか!?」と驚くことになる。
――――――――
「と言う訳なんです」
圭一と史絵にも、艦娘連れ込み事件カッコカリを話すと、圭一の表情も深刻なものになる。
「ああ、そう言えば族の間で噂になってたんだけどよ……」
圭一は、二度の『やるかじじい事件』の後、大番長としての名を挙げて、暴走族からも一目置かれている。
その彼女の史絵も、そういう連中から「姐さん」呼ばわりされている。
「この仙台に、艦娘のフーゾクがあるって噂で……」
そう声を落として言ってから、ポテトを頬張る圭一に、夏海と結有は顔を見合わせる。
「まさか……!?」
「今すぐ踏み込もう!」
「おう!」
「あ、あの、危ないと思います」
その可能性に渋い顔をし、結有と圭一は立ち上がり、それを止めようとする史絵。
「史絵は師匠に連絡してくれ!先輩、行くぞ!」
「うん!」
「分かりました!」
「は、はい!」
立ち上がると、急いで向かう三人。史絵はすぐに、スマートフォンで師匠である直哉を呼び出す。
――――――――
「鎮守府関係者です。中を改めさせてください」
完全にハッタリであるが、ビルの前の黒服が無線で連絡をしようとした直後、後ろの二人が同時に顎先に蹴りを叩き込んで、黒服を失神させる。
圭一を先頭にビルの中に入ると、幾つかの小部屋があって、中から女の子の喘ぎ声が聞こえて来る。
「やろう」
「おう」
結有と圭一がドアを蹴破ると、そこにはベッドの上で真っ最中の黒沢議員と駆逐艦子日がいた……
その光景を目撃した夏海は、嘗て自分が受けた暴力を思い出して、過呼吸を起こしていた。
「い……いや……あぁ……」
「なっちゃん!?」
「おいおっさん!何してやがんだ!?」
圭一が飛び込んで黒沢議員をボコボコにしている間に、結有は過呼吸を起こして、虚ろな目で泡を噴いている夏海を抱き抱える。
「夏海!!しっかりして!!夏海!!!」
バタン!
「全員動くな!……って夏海ちゃん!?」
「卯月、薄雲、すぐに制圧するのです!」
「わかったぴょん!」
「了解です」
結局、偶々仙台市内で買い物をしていた直哉達により、裏風俗店は制圧され、黒沢議員も逮捕された。
夏海は意識を失っていた為、一旦はということで、直哉の車で宮戸島鎮守府に担ぎ込まれた。
「ここは………?」
夏海が目を覚ましたのは、宮戸島鎮守府の艦娘寮のベッドの上だった。
「ここは、宮戸島鎮守府だって。彼奴等は、高菜一佐が全員逮捕したよ。四国のブラック鎮守府から売られて来た子達だって……」
「そう……ですか……先輩、みっともないところを見せてすみませんでした……」
「ううん、いいよ。高菜一佐から聞いたから」
「そう……ですか」
「ねえ。なっちゃん、僕と付き合わない?ほら、軽い感じの浮気程度でいいからさ?」
365回目のそれである。
「……先輩。私はご存知の通り、男性嫌悪症で同性愛者です。そんな私でも良いんですか?」
「それがどうした?」
そんな結有の物言いに、夏海は目をまん丸くすると、うふふっと笑い出す。
「………ふっ……うふふふ……」
そんな夏海に、結有が何と言って良いのか考えあぐねていると、
「分かりました。ガールフレンドから始めましょう」
「あはは、ありがとう」
その日は、鎮守府で泊まって行きなさい、と言う直哉の配慮に甘えて、二人で色んな話をした。
勿論、学園の寮にも直哉が連絡を入れてくれた。
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「なっちゃん!両親から下宿の許可貰ってきた!女性しかいない鎮守府ならOKだって!」
「ええっ!?」
その数日後だった。荷物を持って結有がやって来たのは。
くるっと後ろを振り返ると、加賀が笑いを堪えながら、学園の下宿許可証を見せる。
わざわざドバイにファックスして、下宿先の奈々海のサイン捺印と、父親の裕二のサイン捺印まで入っている許可証が……
そして、夏休みながら学校も、ドバイと親元と鎮守府に確認を取っての、異例の許可である。
「宜しくね、なっちゃん!」
「ふふ、賑やかになりそうね」
「そうですね……」
こうして、気仙沼鎮守府に新しい仲間が加わった。
ただ単に結有を出したかっただけです。
相変わらず親は男から結有を遠ざけたいようです。