国内最強と謳われた第13艦隊。室戸鎮守府に移籍した今でも、その『第13艦隊』の名前は外されていない。
そんな第13艦隊が、四国立て直しを終えて落ち着いた頃だった。
「いやあ、お疲れ様だねえ」
直哉は早速、室戸鎮守府の執務室にいる大和に連絡を取った。
『高菜一佐は、また休憩中ですか?まあ、平穏なのが一番ですが』
「そうそう。平穏なのが一番だよ」
『結局、
宮戸島の
その時に起こったのが、硫黄島の悲劇である。
その後、大和に一切の功績を
「いやあ。私は、貴女に
その物言いに、話を聞いていた秘書艦の電は白々しいものだ、と肩を竦める。
『その御蔭で私の人生……艦娘生活設計がオジャンになりましたよ。艦娘が、艦娘を指揮する生活の始まりです』
「そういう貴女はどうなんだい?」
『悪くは無かったです。いろんな艦娘が出たり入ったりしましたが、漸く今の形に落ち着きましたし……鳳翔さんは、今は土佐で頑張ってましたよ?』
「そうか……そう言えば、こっちでも中学生提督が頑張ってるよ」
『ああ、大村二佐の娘さんでしたっけ?夏海さん』
「そう、司令官のカリスマと参謀の緻密さを持つ有望株だね。前に、羽佐間准将補との賭けマッチにも勝ったしね?」
『まあ、あのお方は戦術家ではありますが、前線指揮官タイプですからね?』
長話になると、電は決まって冷めた紅茶を下げて、紅茶を淹れ直す。
ブランデー入りの紅茶だ。
紅茶抜きのブランデーでもいいのに、とは直哉の率直な意見だが、
抑々、昼間の勤務中である。
薄雲が自動車免許を取得してから、更に飲酒に拍車が掛かっている。
急な外出時には、薄雲を呼び戻して、自分は助手席に……呑気なものである。
『それで、
「それはねえ…………」
直哉は懐かしそうに、数年前の出来事を思い出していた。
――――――――
四年ほど前の話だった。
第13艦隊が、まだ電と二人っきりの宮戸島鎮守府にやって来たのは。
「第13艦隊が雁首揃えて、どうしたんだい?」
大和率いる第13艦隊がやって来た、と哨戒中の電の連絡によって、高菜三佐は埠頭にやって来た。
大和に大淀、時雨に鈴谷、熊野に鳳翔、それに明石である。
当時明石は、第13艦隊に所属していた。
大和が、指揮を執るようになった時の数合わせ程度で、実際は大和以下六名の艦隊である。
「高菜三佐、真剣勝負を申し込みに来ました」
大和は、高菜三佐をまっすぐ見据えてそう切り出した。
「ふむ……真剣勝負ねぇ?…………艦隊戦の勝負、つまりはあの時
「そういう訳ではありません。あの戦術案を、私に託して下さった
真剣な表情の大和に、ふっと笑みを零す高菜三佐。
「良いだろう。私も、同数の艦隊で勝負したいからねえ。気仙沼に場所を移そうか?」
「分かりました」
気仙沼では、先年着任したばかりの大村奈々海一尉が、空母攻撃艦隊を編成していた。
三笠と武蔵以外は数少ない、空母を任される艦隊。
モーターボートで気仙沼までやって来ると、大村奈々海と娘の夏海が出迎える。
夏海は先年、暴行事件の被害に遭い引き籠もっていた頃だった。
高菜三佐はあまり恐怖の対象ではないが、率先して接触する訳でもなく、
母の後ろに隠れている。
「先輩、突然どうしたんです?」
奈々海が、訝し気に声を掛けると、高菜三佐はにぃっと笑った。
「ちょっと、君のところの艦隊を貸して欲しいんだ」
「はぁ」
夏海の相手を電に任せると、高菜三佐は気仙沼鎮守府の艦娘達と作戦方針を立てる。
「相手が大戦艦大和で、こちらは練度が低い艦娘達です。どう対処しましょう?」
真面目一徹の加賀が、高菜三佐に問い質す。
「まず、装備を変えよう。全艦副砲を積む。残った艦載機は艦爆を揃える。ただし、距離を取っての航空戦はやらない」
高菜三佐はそう言うと、艦娘達を呼び寄せてひそひそ声になる。
「…………つまり、我々は戦闘開始と同時に突っ込む訳さ」
「……正気ですか?」
加賀は「本気ですか?」等とは言わなかった。
「正気も正気さ。どうせ、距離を取った撃ち合いじゃ、君達は勝てないよ。ただ、鈴谷も熊野も航巡じゃあない。だから乱戦に持ち込んで、とにかく鳳翔を黙らせよう。副砲によるクロスファイアでね」
「……そういう事。続けて」
三笠が、高菜三佐の意図を朧気に摑むと、続きを促す。
「戦闘開始と同時に、足の遅い艦隊が突っ込むとは思わないだろう。それで相手の調子を狂わせる。失敗したら、頭を掻いて誤魔化すさ」
「そうだな。我々は、低速艦隊だからな」
武蔵が、うんうんと頷くように答える。
「逆に、相手は機動艦隊だ。時雨辺りが突出して来るから、それは無視して鳳翔に副砲でクロスファイアを仕掛ける。その後、急速反転……いや、そのまま前進して艦載機を発進。艦載機にはアクロバティックな動きを要求するけど、そのまま背後の敵艦を爆撃する」
「……大丈夫かしら……?」
「やってみなきゃわからないって、翔鶴姉ぇ」
心配する翔鶴と、それを元気付ける瑞鶴を見て、高菜三佐は続きを語る。
「戦艦はその場で回頭。距離を取りながら砲撃戦を仕掛ける。突出した時雨は一番後方になるから、撹乱される心配はないし、後背から砲弾をお見舞いしてやればいい」
「……………分かりました。やりましょう」
加賀も、その作戦案に同意した。
こうして、高菜三佐は無線通信で、大和は陣頭指揮で、明石を陸に残して相対する。
「戦闘開始!」
奈々海の号令の下、時雨が駆逐艦らしく突出して撹乱しようとする。
その前を、次々と気仙沼の艦娘達が通り越して行く。
「えっ!?」
時雨だけではなく、大和も唖然としていた。
そのまま突っ込んで来る艦娘達に、一瞬の唖然から立ち直った大和の号令により、第13艦隊は散開する。
「衝突回避!」
『よし、プランA実行。サーカス開始!クロスファイア!』
「了解、副砲、てーっ!」
三笠が、前進しながら手を上げ振り下ろした直後、
衝突回避で弓を引き絞るのを止めた鳳翔は、次の瞬間陸地に戻されていた。
「えっ……?」
副砲の集中砲火を浴びた、雷装満載の鳳翔は撃沈判定を受けていた。
『何とか、付け焼き刃のクロスファイアで仕留められたか、偉いよ。加賀、やってくれ』
「了解です。全艦発艦、急速反転して後方で回頭している艦隊を爆撃!」
加賀達は弓を引き絞ると、まっすぐ前方に矢を放った。
放たれた矢は艦載機に変化して、一気にアクロバティックな転回で後方の大和達に爆撃を行う。
この爆撃で、鈴谷と熊野は陸地行きになった。
その直後、空母艦娘を守るように、武蔵と三笠が回頭を終える。
『次のターゲット、大淀』
「了解、てーっ!」
三笠は号令を放つと、武蔵と共に大淀に集中砲火を叩き込む。
大淀も、陸地行きになる。
『さて、まだやるかね?』
「いいえ、完敗です。まだまだ提督初心者でした」
艦娘達が戻ると、大和は一同を見回してこう言う。
「ありがとうございました。長距離哨戒に託けて、東北まで来た甲斐がありました。おかげで私の慢心癖も治りそうです。『不敗の女神の黒幕』さん?」
「そうか。役に立てることがあったら、また何でも言ってくれよ。勿論、コニャックを提げて来てもらうけどね?」
高菜三佐の冗談めかした言葉に、ふふっと笑うと、
「皆さん。この邂逅は、どうかご内密にお願いします。大貫総監や足立二佐辺りにバレると、恐ろしいので」
そう言うと、全員は頷いた。
――――――――
「……という訳さ。夏海ちゃんは賢いよねぇ、まさに天才と言っていい。よく、あの邂逅の戦術を覚えていて」
『まあ……それを知ったら、羽佐間准将補は怒ると思います。お人が悪いですよ』
直哉は、どう言う手品の種を明かしたか。あの時の邂逅と同じだよ、と告げると、ちょっと声色を低くして大和が言うと、直哉はふふっと笑った。
「まあ私としても、賭けマッチには夏海ちゃんにどうしても勝ってもらいたかったから、丸く収まってよかった、と言うべきだろう。そしてあの邂逅から、第13艦隊は不敗となった」
『本当に苦労しました。その節は、源一郎さんにお世話になりました』
「高菜図書館に籠もりっ切りで、第二次大戦の戦術書を読み漁った、と聞いているよ。あの爺様は、本だけは大量に持っているからねえ。何なら、戦術書の電子データをお裾分けしようか?」
『著作権法違反はいけませんよ?』
「ふふ。私的な使用という建前で、あれは愛ちゃんに譲ったものだよ。タブレットの外装を新品に変えてね」
『高菜一佐は、色んな所で黒幕でいらっしゃるんですね?』
ふふっと大和の笑い声が聞こえた直後、ノック音がしてから、
『大和さん!お迎えに来ました!』
と、元気のいい声が聞こえる。出産して、退院したばかりの笹野 愛である。
「何だ?愛ちゃんと、夕飯の約束でもしてたのかい?」
『ええ、可愛い赤ちゃんのお披露目会です。あとで写真を送りますね?』
「うん、それじゃあね」
電話を切ると、電が声を掛ける。
「あのクロスファイアサーカスは、色んな人に受け継がれて行くのですね?」
その言葉を、すっかり冷めてしまったブランデー入り紅茶を飲みながら肯定する直哉。
電は「すっかり冷めてしまったのです」と立ち上がり、直哉のそばに行く。
「まあ私は、いつも黒幕でいたいのさ。デスペランなんぞに乗り込んで、前線指揮なんてもうゴメンだね?」
「それが、なりたくて自衛官になったお方の言葉なのですか?」
「まあ、いろいろ人生設計が崩れたのも、宮戸島の茶番以降さ。皆、大貫 悟というやつのせいさ。尤も、おかげで電とも出会えることが出来たし……」
「なのです」
キョロキョロとあたりを見回して、寄り添った電にキスでもしようとした瞬間だった。
「ただいまー!!!」
元気良く帰って来た子日が、執務室に飛び込んで来たのは。
本日のお題「横須賀第十三艦隊、訪問」 toshi-tomiyamaさん提供
→「不敗の女神」こと、大和率いる横須賀鎮守府第十三艦隊が宮戸島に寄港。その目的は?
思い切って回想話にしました。
なっちゃんの戦術がうまく行った理由付けも兼ねて。
そして桐山先輩に「なっちゃんの戦術」とシラを切る黒幕っぷり
高菜直哉は主人公ですが「導き手」という役割も持たせてます。
Tips《高菜三佐》
お察しの通り 高菜直哉の呼称は当時の電の呼称を用いてます。
Tips《何故愛に言わなかったのか》
鳳翔は二度高菜直哉にやられてるわけですが、知らないふりをしていた理由は
この試合自体私的な秘密のものだからです
Q:次回は子日回じゃなかったのか?
A:かき氷食ってたらこっちが先に降りてきたんで……
Nintendo 64(話)達成。
次回は千早(72)目指してがんばります。