九月半ばに入って、漸く新しい鎮守府が完成した。
地上二階建て、それぞれ一階20畳・二階10畳の二間である。
二階の10畳は、応接室となる。
流石に、ちゃんとした来客対応はしないと拙い、と言うことになり、
ちゃんとした応接室が、強制的に確保された。
下20畳は、今までどおりの執務室兼多目的室である。
天井には7.1chホームシアターシステムが取り付けられ、副官デスクの真正面には、
60V型4Kプラズマテレビが取り付けられている。
今度の執務室はエアコン完備で、だるまストーブは廃止された。
他、シャワー室・給湯室・トイレが、執務室から出入りできるようになった。
執務机も幅広になり、司令官コンピュータシステム用端末に加えて、
私物のiMacPro(フルスペック)を、明石に買わせて机に設置した。
偶々難を逃れたMacBookProは、お下がりとして秘書艦の電に譲った。
そして、大きな目玉が大テーブルである。
特注で、番長と愉快な仲間達が全員座れる様になっていて、
壁には、カバンロッカーも用意した。
そんな鎮守府の初来客者は、明石であった。
「いやあ。その節は、多大なるご迷惑をお掛けしました」
「多大なるご迷惑過ぎるよ」
直哉の目の前には、茶菓子のレインボー最中が置いてある。
「明石には、いろいろ酷い目に遭って来たからね。応接行くかね?」
「あ、はい」
二人して応接室に上がると、今日の秘書官薄雲が立ち上がり、紅茶の用意を始める。
意図して二人共、ブランデー入り紅茶を淹れる。
「お茶です、どうぞ」
無表情でお茶を出すと、明石は口を付けてから、その芳醇なブランデーの香りに気づく。
「まあ、積もる話もあるから、今日はゆっくりして行きなさい。民宿には話をして置くから」
「謀られた……まあ、そうでしょうねえ。と言うか、高菜家じゃないんですねぇ?」
「夜の営みを聞く趣味があれば、別に構わないけどねえ」
「いえ、民宿でいいです」
明石は苦笑いを浮かべると、直哉の提案に従った。
「最近の私のライフワークなんだが、『大貫 悟』とは一体何者なんだ?」
「質問の意図が解りかねます。元大本営幕僚総監で暗殺された方としか……」
直哉の質問に困惑している明石は、紅茶を啜ると、
「では、
と言う直哉の質問に、紅茶を噴き出しかけた。
「……………」
「私の仮説を述べようか。深海提督や大垣 守等のグループは、密かに自衛隊幹部に潜り込んで行った。そうやって、当時の
明石は、何も反論できなかった。
「そして宮戸島に、ジレーネを倒す要素のピース・リーヴェが居ることに気づいた君達は、偶々
「…………」
「薄雲は、何か知っていたのかい?」
「提督のおっしゃりたいことは大体。私は元々、深海と艦娘のハーフで、以前説明したお話はだいたい嘘です」
「やっぱりか………」
「私への監視も、全て茶番だった、と言うことです。本気で監視をしている
その言葉に、明石はほぅ……と溜め息を吐いた。
そして薄雲は、真っ直ぐ直哉を見て続ける。
「ですが、直哉を愛していると言う気持ちには嘘偽りはありません。改めて申し上げます。直哉を愛しています」
「はいはい、それは知ってたよ。ありがとうね」
薄雲を優しく抱き寄せるとソファーに座らせて、明石の目の前だと言うのに濃厚なキスを交わす。
「んんん……」
「んんぅ……」
「わぁ、大胆ですねぇ」
いつもは冷静な薄雲が、顔が真っ赤になっている。明石は苦笑いを浮かべている。
「その……直哉……人が見てます」
「今まで、私を謀ってくれたお礼さ。明石にもね」
直哉はそう言って、わざとらしく溜め息を吐いた。
「結局……私の人生設計をメチャメチャにしてくれたのは、大貫 悟というやつさ。私は彼を恨んでるし、感謝もしている。何せ、合計四名もの艦娘を嫁に貰えるんだからな」
「それは、大貫前総監も申し訳なく思っていらっしゃいました。彼には重責を担わせる、と」
「それが『導き手』だったんだろう?」
「…………はい」
直哉は、再び大きな溜め息を吐いた。自身の身に、これほどの不条理な運命を押し付けておいて、さっさと退場してしまった大貫 悟と言うやつが、笑っている姿しか想像できなかった。
「ところで、本物の『大貫 悟』はどうしている?」
「………と言いますと?」
「惚けないでもらおうかな?大垣 守が大貫 悟と入れ替わった先だ。まさか、死んだ訳じゃないだろうな?」
「はい。大貫 悟さんは、我等の同志です。彼は
「とある人物とねえ。どうせ、そのとある人物もお前さん達の同志だったんだろう?」
「はい」
「大貫 悟とは一体何者だったのか? 生きていれば生きていればで、死んだら死んだで我々を困らせる」
「ふふ……そうかもしれないですね」
「もう一つ確認事項なんだが、薄雲、生理は来ているか?」
「はい、子日、卯月、電にも」
「艦娘が、妊娠しない理由を教えてもらおうか?明石」
「っ……!」
最早明石は、言い逃れはできない、と悟っていた。
「そこまで辿り着いていたとは、予想外でした」
「『
「……仰る通りです」
直哉の、真っ直ぐ見る視線に耐え切れず、明石は目を逸らしながら答えた。
直哉は足を組み直して、薄雲に哨戒緊急中止を命じると、薄雲は立ち上がり一礼して応接室を出て行った。
「それはどうしてか?まずは、反艦娘派への配慮。提督と子供が為せるとしたら、それは彼等の警戒を招き、艦娘の立場を『兵器』として、一気に人権を与えない方向に傾いてしまう恐れがあった。それに伴い、子供をモルモット化される危険もあった。考え得るとしたら、その二つかな?」
「追加するなら、『子供はジレーネとの戦争が終わった後、ハーフェンの管理下で第一号を産む』のが望ましい」
「………神通の家出癖は……」
「桐山二佐の原因が七割なら、演技は三割と言ったところでしょう。桐山二佐には、既にその事は話しています」
その言葉に、直哉は予想が当たってホッとしたのと、大貫 悟というやつの掌の上にあった、自分達のバカさ加減に呆れるのと、複雑な思いでいた。
「これも予想していいかな?ロックを破るには、ケッコンカッコカリリングを
その予想に、明石は大きな溜め息を吐いて両手を上げた。
「参りました、そのとおりです。能力の向上は副次的効果で、ケッコンカッコカリリングの真の目的は……」
その時、バタンと扉が開かれた。
三人の艦娘が入って来た。それぞれ、慎愛用のプラバットの予備を片手に……
「話は聞かせてもらったのです!」
「明石さん、酷過ぎるぴょん」
「艦娘が子供が出来ないって、仕組まれてたんだね!酷いっ!」
「ひっ、ひえええええええ!!!!」
その殴打は、薄雲がゆっくり上がって来るまで続いた。
「まあ、そういう訳で、手品をしようか?皆、左手を出してごらん」
「なのです」
「ぴょん」
「了解です」
「うんっ!」
四人の艦娘が重ねて出した左手の上に、ポンと直哉が左手を置く。
「
銀色のケッコンカッコカリリングが輝くと、
「これで、艦娘の最後の能力。ケッコンした人物との間に、子を成すことができるようになったよ」
直哉は肩を竦めて、皆を見回した。
「これでカッコカリが取れて、ケッコンリングになった訳だ」
そう付け加えると、四人を優しく抱き締めた。
明石は、その光景を目に焼き付けていた。そして、少し寂しそうに、しかし嬉しそうに、
「おめでとうございます。その通りです」
そう祝福した。
「明石、君はやはり大貫 悟を……?」
「はい。ですが、新しい出会いを探しますとも。それに私には、まだ研究という恋人がいます」
「はは、あまりやり過ぎないでもらいたいものだ」
直哉は苦笑いしてから、コホンと咳払いをする。
「さて。ここから、前回の一件の賠償のお話なんだが………」
「はて。請求されたものは、全て払いましたが……?」
明石が首を傾げると、直哉がにぃっと笑った。
「武藤レストラン食べ放題コースが履行されてないから……ね?」
「ああ、そう言うことですか。宮城の提督全員、開封させる気ですね?了解です」
――――――――
改めて、メカいなづまちゃん事件のお疲れ様会が、武藤レストランで執り行われた。
全員のケッコンカッコカリリングが、ケッコンリングに変わって、皆大喜びをしていた。
そして、間違えて酒を飲んで酔っ払った夏海が、
「明石さん!私、艦娘達や結有に、子供を孕ませたいです!何とかしてください!」
「ええっ!そんなの無理ぃ……」
と、滅茶苦茶過ぎる無茶振りをして、明石を困らせていた。
「まあ、明石の技術力なら、何とかなるだろう」
「いやいや、私を何だと思ってるんですか?一佐は」
と、直哉は更に退路を断って、明石は困り果てていた。
「散々迷惑掛けたんだから、そのくらいやれんだるぉ!?」
「ぐえっ!!しぬ……しぐぅ」
「夏海さん!落ち着いてください!これ以上やると、死んでしまいます!?」
「なっちゃん!明石さんを殺す気!?」
「散々、メカいなづまちゃん事件で迷惑掛けた
と、夏海は人格が変わったようなドスの効いた声で、明石の首を絞めて脅しているのを、加賀と結有が止める形で、
そんな様子を見ながら、一同はどっと笑っていた。
後に明石が、新技術を用いてそれを可能にして、世の中の同性愛者の希望の星になるのだが、
それはまだ、もう少し先の話である。