宮戸島の提督と仲間達のお気楽日記   作:SAMICO

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源一郎とサイン会と作家への道

作家・夏向 伊知玄楼(かなた いちげんろう)は気難しい人間、と世間では評判である。

ツイッター等をやっているが、おかしいと思う時はおかしいと発信し、高名な政治家や著名人相手でも真っ向から衝突する。

そして、大抵は論破して『読書の邪魔をするな』或いは『仕事の邪魔をするな』と言って一方的に議論を打ち切り、ブロックまでする。

 

作家・夏向としては、熱心なファン以外はそんな感じの塩対応なのである。

逆に、熱心なファンにはこぼれ話などを披露したり、時には住所を聞き付けて、『最新刊は絶対買うな』と言って、最新刊をサイン付きで送り付けたり、とファンサービス旺盛な作家である。

 

今日も神谷事件の調査の傍ら、鎮守府に居座っては貰った本を読んでいる。

それが数日なら、直哉も仕事の()()をしながら過ごすが、一週間を超えた辺りで源一郎から、

 

「真面目にやってるふりなぞせんでもよろしい。ツイッターで、史絵ちゃんから聞いておる」

 

と言われた為、ありがたく何時も通りの執務に戻った。

 

史絵は、自身の書いた長編作品を持って、毎日やって来る。

しかも、今時珍しい原稿用紙で、だ。

神谷事件の調査や本を読むのに忙しい筈なのに、史絵がやって来ると小説教室に変わる。

毎日添削を受けては書き直し、翌日には完成度の高い小説を持って来て、源一郎を驚かせる。

 

「おい親父、勉強もついでに見てやってくれんかね?史絵ちゃんは、進学校を目指したいそうだ。東大で文学を学ぶんだと」

「何、学校じゃなくても学べることは多いぞ。要は学ぶ姿勢じゃ」

「そうなんですね。私、もっともっと勉強します。小説も、学問も」

「そう、その姿勢じゃ」

頭を撫でると、笑みを浮かべる。

 

一方圭一は「ジジイに浮気された~」と嘆きながら、史絵の趣味を応援しており、家で一生懸命小説を書く史絵のお買い物を頼まれたり、コーヒーを淹れたり、もはやアシスタントになっている。

 

「早く帰れよ、じじい」

 

そんな直哉の言葉にも耳を貸さず、滞在すること早一ヶ月。季節は、秋本番の10月になっていた。

ツイッターで、史絵がうっかり『夏向先生が宮戸島に滞在されています』とツイートしてしまった為、ファン達が集まるようになっていた。

鎮守府で、勝手にファン交流会を開いたり、やりたい放題している。

直哉は、そんな親父を放っておいて仕事をしていない。

 

史絵が書いた「金と銀の瞳の竜の物語」が漸く完成を見たところで、源一郎は神谷事件の調査に本腰を入れた。

 

いろいろな人の証言や、警察の記録を調べたり、新聞を調べたり……

そんな中で、神谷騒動は愛を狙った事件だと判明すると、神谷はやはり反艦娘派の手先だった、と結論付けて神谷事件の調査は完了した。

 

「さて、そろそろ宮戸島での用事も済んだことだし、青葉が戻って来たらサイン会をしてから帰ろうか?」

「いい加減にしてくれよ、親父。今まで好き勝手しやがって」

 

直哉は大きな溜め息を吐くと、源一郎を諌める。

 

「ご、ごめんなさい。私のツイートのせいで……」

 

しょんぼりしている、史絵の頭を撫でる圭一と源一郎。

 

「ほれ、直哉は可愛い女子中学生をいじめて何が楽しいんじゃ?」

「いや、史絵ちゃんが悪いんじゃないからね?そこのクソジジイが悪いんだからね?」

「夏向先生を、クソじじいなんて言うのは、高菜一佐でも許しません!」

「らしいぜ、師匠よぉ」

 

一気に集中砲火を食らうと、直哉は大きな溜め息を吐いた。

そんな中、青葉がやって来た。

 

青葉はこの間、東京と宮戸島を往復して、読み終えた蔵書を高菜図書館に収蔵したりしてたのだが、今回やって来たのは違う目的だった。

 

「先生、「金と銀の瞳の竜の物語」のサンプル、持って来ました!」

「え゛っ!?」

 

史絵には、寝耳に水だった。

作者名の入っていない無線綴じのA4本。青葉が文字起こしして、イラストレーターに挿絵とカバー絵を依頼して、パーソナル製本機で自家製本して完成した、世界で一冊の本。

 

「この、挿絵のイラストレーターの先生……私が大ファンの冬風先生…………」

「うん。原稿見せたら喜んで書いてくれまして。出版社にも見せたんだけど、もう乗り気でして。どうします?」

「ど、どどどどどどうしますって…………け、圭一?」

「良いんじゃねえの?」

 

狼狽える史絵に、気楽な圭一。

 

「ワシも、これは行ける、と思っているがのう」

「…………分かりました、お願いします。ペンネームは既に決めてたんです……『扶桑 咲花(ふそう えみか)』って」

「草加史絵のアナグラムじゃな?」

 

敬愛する夏向先生の後押しに、史絵は強く頷いた。

そのやり取りを見て、青葉が携帯を取り出して電話を掛け、「GOサイン出ました」と、出版社に声を掛ける。

 

「そうじゃ、『金と銀の瞳の竜の物語』のプレビュー版も頒布したらどうかね?」

「それ良いですね。先生ならそうおっしゃると思って、序章の部分を作ってありまして…………300部あれば足りますよね?」

「それはいいな、それを頒布しよう」

 

史絵が目が回る思いの間に、あれよあれよとサイン会に『金と銀の瞳の竜の物語』プレビュー版の頒布会も追加されることになった。

夏向の公式ツイッターで発表された「宮戸島の英雄勤務の宮戸島鎮守府で、サイン会します。当日は、私の弟子の作品のプレビュー版も頒布します。10月20日10時より」と言うツイートにより、多数の夏向先生ファンが集まった。

 

「先生、気まぐれも程々にしてくださいよ」

「はっはっは。ファン交流の一環で、宮戸島の英雄とワシと新進気鋭の若手作家が一同に会すイベントなぞそうそうないじゃろう?」

出版社の担当は苦笑いしながら、プレビュー版の『金と銀の瞳の竜の物語』の入った箱を持ってやって来た。

 

鎮守府は休業日だが、直哉達や圭一と愉快な仲間達もやって来て、テント等の設営を手伝っている。

 

朝からファン達や作家仲間が詰め掛け、源一郎は和気藹々と作家仲間と雑談している。

他にも、他の出版社の担当者等もやって来ては、源一郎に挨拶する。

多数の出版社から本を出している彼は、イベントを開くとメイン担当の出版社の他にも、出版している担当者がやって来るのだ。

そんな中、史絵はガッチガチに緊張している。

それはそうだ。初めて書き上げた作品が、皆に見られるのだ。

一番のおめかしをして、眼鏡も瓶底眼鏡ではなく圭一セレクションの眼鏡、ギャルズ達と選んだ秋物ワンピースと、今までになく気合が入っている。

 

そんな緊張の中、サイン会が始まった。

基本的にファンは、宮戸島の英雄高菜直哉一佐と握手をして、夏向のサインを貰って帰って行くが、

何人かに一人は史絵……もとい。扶桑咲花の『金と銀の瞳の竜の物語』のプレビュー版を貰って帰って行く。

作家仲間も、直哉と握手をして最新刊にサインを貰って行く。

 

電以下、艦娘と番長と愉快な仲間達は、出版社の担当とその後ろで手伝いをしている。

そのうちに、有名なMeTuberの「しゃちょー」と言う人物もやって来た。

もちろんカメラ付きで、高菜一佐と握手をして、夏向先生に「いつも読ませてもらってます!」と、サインを貰って握手する。

夏向先生も、MeTubeで夏向作品を取り上げてもらっているので、見知った仲のようで軽く雑談を始めて、「また後で」と横にずれて、ひょいっと『金と銀の瞳の竜の物語』のプレビュー版を受け取り、時間潰しも兼ねて目を通し始める。

 

「これ、超面白い!」

 

しゃちょーが絶賛すると、帰ろうとしていた夏向ファンも戻って来て自分も自分も!となって、余らせる予定だった300部が一気になくなってしまう。念の為に、もう300部用意しておいたことで事なきを得たが、

途中からは艦娘達が総動員で史絵に手渡して、史絵からファンに渡すことになる。

サインも欲しい、と言われてパニックになりかけたが、一応練習しておいたサインをすると、夏向先生のサイン会は、

高菜一佐の握手会に有名作家夏向先生のサイン会、それと新人作家のお披露目会へと変わっていた。

 

サイン会が終わると、今度は史絵の争奪戦が始まる。

もう既に、夏向のメイン出版社からの出版は決まっているものの、

うちでも出版しませんか!?と言うオファーで、史絵の取り合いになる。

史絵がパニックを起こして訳が判らなくなってるのを、青葉と夏向でまあまあと、落ち着かせる。

結局、メイン出版社でハードカバーの新書、ジャンケンに勝った一社が、何巻かに分けて文庫本契約を結ぶことになった。

史絵としては、自身の作品が世に出ることが喜びであって、印税その他のことは全く頭に入っていない。

 

――――――――

「それでは、古本屋長兵衛シリーズ重版記念と扶桑先生の作品のヒットを祈って……」

『かんぱーい!』

 

夏向のメイン出版社担当の乾杯の音頭で、その夜は仙台の居酒屋の大座敷で打ち上げ会が始まる。

作家仲間が、夏向の周りに集まって、最近の文学談義を披露する。

作家仲間の先生達もプレビュー版を読んでいるので、その隣にちょこんと座っている史絵こと、扶桑咲花に感想を言ってくれたり、アドバイスをしてくれたりしている。

更に、挿絵を担当してくれたイラストレイター・漫画家の冬風も来てくれていて、「ぜひ漫画化させて欲しい」と頼み込まれた。

「この作品、挿絵を書いた以上は、どうしてもあたしがコミカライズしたいよ」

「えええっ!?そんな……私の憧れの冬風先生に、そんな……」

「どうかな?」

「はいっ!よろしくお願いしますっ!!」

深々と頭を下げる咲花に、ギャルズ達も「よかったじゃん」と祝福する。

 

そんな賑やかな打ち上げは夜遅くまで続いて、史絵は幸せ気分であった。

圭一は、()()()()()が遠くに行ってしまった、と寂しさを感じていたものの、それを言い出せずにいた。

 

大座敷の隅で、艦娘達と飲んでいる直哉に、

「オレ、史絵と別れたほうが良いのかな?不良だし……」

そう相談すると、直哉は隣に座りなさいと前置いて、まっすぐ見つめる。

「圭一の気持ちは分かってる、分かってるつもりだ。釣り合わないと身を引くか、愛を貫くか、もう一度ゆっくり考えると良い。それまでは、私の方から史絵ちゃんに、圭一とは会わないように言っておくよ」

「………すんません」

 

――――――――

史絵はギャルズ達の宣伝により、本出るよ面白いよと言うことで、学校の人気者になっていた。

11月初頭に出版される本は皆予約してくれて、予約数が出版予定を上回り、まさかの発売前重版が決定したのだった。

 

そんな史絵は、ある日直哉の下に呼び出された。

「何でしょう?」

「圭一が、ちょっと今後も付き合って行けるか悩んでる。彼なりの結論が出るまで、そっとしてやって欲しい」

「…………」

 

史絵も半ば予想は付いた話だった。以前、親からも言われた話だったのだ。

不良番長と優等生が付き合うのは大変だよ、と。

 

「分かりました」

 

史絵は、まっすぐ直哉を見て答えた。

 

そんな様子を、圭一を除く愉快な仲間達も心配そうに見ていた。

圭一は圭一で悩んでいる。自分の道を曲げて愛を貫くか、番長を貫いて身を引くか…………

圭一は圭一で、番長としてできた仲間達も多い為、そう言う仲間と縁を切れるか?

そのジレンマがあった。

 

そうして、色んな人の思いを残して、11月初頭の『金と銀の瞳の竜の物語』の発売日がやって来る……




今回のお題「源一郎さんのサイン会大騒動」toshi-tomiyamaさん提供

→宮戸島を去る前に、「宮戸島でサイン会をしよう」と言い出した源一郎さん……
そのサイン会に意外な人物が……

今回はちょっと変化球で攻めてみました。

史絵と圭一はどうなってしまうか!?
それはもう少し先のお話になります。


―――――――――――――
日記シリーズ3ヶ月目突入。 千早(72)回達成、
ついでに誕生日。

今後とも宜しくお願いします。
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