「よーし、今日から俺様の手伝いをしてくれる教官を紹介するぜ」
天龍は、新入社員を浜名湖に集合させる。
まだ朝の五時半である。
天龍の横には、龍田が立っていた。
結局、天龍の傍から離れるのが耐え切れず、自衛隊を除隊してしまったのだ。
これで釧路鎮守府は、熊崎提督の嫁艦である不知火のみになってしまった。
その動きを察知した三隈は、龍田を訓練部次長として引き抜いたのだ。
入社して来たのは、入社祝いの浜焼きの翌々日である。
「天龍ちゃんがお世話になってるわねぇ、龍田よ。よろしくねぇ?」
『よろしくお願いしまーす!』
一斉にビシッと敬礼する、初海以下50名の人型駆逐艦深海棲艦ズ。
制服は白いワンピースで、その上に艤装を着けている。
もちろん、スパッツとタンクトップも履いている。
「よっしゃあ、まずは海を走る練習だ!!駆逐艦らしく素早く正確に、海を走り抜ける技術を覚えてもらう!!」
『はーい!』
浜名湖に浮いているブイを、スラロームで走らせる。
まだまだ練度の低い、駆逐艦ちゃん達である。
ブイに衝突したり、遅かったりしている。
「きゃんっ!」
「まだまだ!!やり直しだ!」
「は、はい!」
衝突した、ロ級二番艦ちゃんがスタート位置に戻る。
「皆のお手本にならないとっ!」
初海は、ザザーッと音を立てて、ブイをスラロームで駆け抜けて行く。
そして、ザザーッと転回する
「よし。お前等、初海ねーちゃんのように走るんだ」
『はいっ』
イロハ級の駆逐艦ちゃんズが、何度もブイにぶつかりながら機動航行訓練をする。
その様子を見ながら、龍田が天龍に声を掛ける。
「ねえ、天龍ちゃん?」
「ん?どうした?」
「皆、元々はあの
「そうだな」
「やっぱり、人型になって、体の動かし方に慣れてないんじゃないかしら?」
「そうなると……」
天龍は、暫し考え込むと声を張り上げる。
「お前等!航行訓練中止!陸に上がるぞ!」
『えっ?』
「ロードワークに行くぞ!人型の体の動かし方を慣れてもらう!」
『はいっ!』
次々に陸に上がると、艤装を収納する一同。
「ロードワーク始めるぞ!車の迷惑にならないように走るからな!声上げろ!」
『おー!』
浜松の海岸線を、走り始める一同。
「いっちにーさんしー!」
『いっちにーさんしー!』
天龍の声に続いて、駆逐艦ちゃんズが続く。
「ごーろくななはち!」
『ごーろくななはち!』
「にーにっさんし!」
『にーにっさんし!』
「ごーろくななはち!」
『ごーろくななはち!』
「さんにっさんし!」
『さんにっさんし!』
「声上げろ!」
『こえあげろ!』
「足上げろ!」
『あしあげろ!』
「顔上げろ!」
『かおあげろ!』
天龍は怒鳴りながらも、どんどん速度を上げていく。
龍田は、最後尾でへとへとになってる子達に檄を飛ばす。
「さあ、ここから後ろは首チョンパよ~♪死にたい船はどこかしらぁ♪?」
檄と言うより、最早
「ひええええっ!!」
落ち零れ掛けている駆逐艦ちゃんズ達は、顔を青くして気合を入れ、再び走り始める。
そんな中、天龍に食らい付いているのは初海である。
「よし、初海、もっと上げるぞ!」
「はいっ!皆、従いて来い!」
『おーっ!』
「皆頑張ったら、そこの先のかき氷屋でかき氷奢ってやる!」
『かきごおり!?』
駆逐艦ちゃんズは、目をキラキラさせて速度を上げて行く。
「おっ、やればできるじゃねえか?ラストスパート行くぞ!それかき氷!」
『かっきごおり!』
「かき氷!」
『かっきごおり!』
「あともう少しだぞ!行くぜ!かき氷!」
『かっきごおり!』
漸くかき氷屋さんの前にやって来ると、天龍は息を整えながら、かき氷屋の親父さんに財布から万札を出して、
「おい、オヤジ。かき氷52人前だ!」
「えっ?」
「えっ、じゃねえよ。早くしろ!」
「は、はいっ!」
かき氷屋さんの地獄が始まった。
順次できて来る、ブルーハワイのかき氷を、ゴール順に配って行く。
艦の番号が大きい子達ーー人型になって日の浅い子達ーーはヘトヘトになっている。
結局、妹艦達からかき氷を食べさせるように回って行く。
駆逐艦ちゃんズは、
「ちゅめたいー!」
「あまいー!」
「おいしい!!」
等と言いながら、天龍の奢りであるかき氷を頬張っている。
天龍は、一番最後に宇治金時の
「天龍ちゃん、相変わらず粒餡苦手なのねぇ?」
「うっせえ、粒餡なんて滅びちまえばいいんだ」
うっかり名古屋人に言ったら、処刑されそうな問題発言である。
次に、本社埠頭横にある中田島砂丘で、ビーチフラッグス大会が始まる。
これも、体幹の動きをコントロールするのに良いと、龍田の提案で取り入れたのだ。
「よし、優勝者の景品は間宮アイスだ!」
『おー!』
駆逐艦ちゃんズは、ばっとワンピースを脱いで、スパッツタンクトップ姿になる。
そして、龍田が旗を設置している。
10人に対して、旗は5本。
初海にはハンデとして、天龍の着けている足の錘(10㎏ずつ)を装着しての参加である。
「よーい!どん!」
天龍の掛け声で、旗に背を向けてうつ伏せになっていた駆逐艦ちゃん達が、バッと起き上がって走って行く。
「やったー!」
「負けたぁ!」
優勝者が決まる頃には、皆砂だらけになっている。
結局、ハンデを物ともせず優勝して、アイスを食べている初海は、
「初海おねーちゃん、ずるいー」
と、妹達に文句を言われていたが天龍は、
「負けたオメエラが悪い」
と、ピシャリと黙らせる。
本社の食堂でお昼を食べてから、今度はまたスラロームの練習である。
天龍の先導で、まず列になってゆっくりスラロームを走って行く。
慣れて来たら、だんだんとスラロームの速度を上げて行く。
そんな猛訓練で、一日が終わる。
「よーし、今日の訓練はおしまい。皆、まっすぐ家に帰れよ!」
『ふぁーい』
駆逐艦ちゃんズ達は、会社の食堂で夕飯を食べると、公営団地に向かって大移動を始める。
「チビちゃん達、訓練はどう?」
空母棲姫が、コンビニ袋を片手に声を掛ける。
コンビニ袋には、ビールがいっぱい入っている。
「てんりゅーぶちょうがちょーきびしかった」
「うん、つかれた」
口々に感想を語ると、空母棲姫がふふっと笑う。
「頑張って、一人前の警備員になれるようにね?」
『はーい!』
駆逐艦ちゃんズ達は、家に帰り着くとベッドに飛び込んで、そのまま寝てしまう。
天龍教室の訓練は、そこまで疲れるのだ。
初海を除いて。
初海は、摩耶達に従いてビーストハンターもしていた為、基礎はできている。
初海は、夜の海岸線を一人自主練習をしている。
天龍から譲り受けた、足の錘を着けて。
「精が出るね」
丁度本社に帰って来た時に、出て来た最上が声を掛ける。
「はいっ、副社長! 副社長はお帰りですか?」
「お帰りしたいんだけど、もう少し残業かな?休憩で、コンビニでアイスでも食べようかな?って」
「そうなんですね。ダンナさんはお家で待ってるんですよね?」
「うん、夕飯作って待っててくれてると思う。だから頑張って、仕事終わらせないとね?」
そんな会話をしている、現在2000。
初海は、途中まで最上と会話を楽しみながら、コンビニの前で別れ、公営団地へと歩いて行く。
家に帰ると、ワンピースを脱いでタンクトップもスパッツも脱ぐと、シャワーを浴びてからタオルを体に巻いて、
そのままベッドに飛び込んで眠る。
そんな毎日を繰り返し、11月に入ろうとしている頃だった。
量産型メカいなづまちゃんから、勝利を勝ち取る子達が現れたのだ。
「よし、ロ級15番、合格だ!」
「やったぁー!!」
「よし、ハ級7番、合格だ!」
「わぁい!!」
合格した子達は、警備員見習いとして戦艦棲姫率いる通常訓練の傘下に加わる。
もちろん、海上警備にも同行する。
残ってる子達は、デスペランへのホームシックに陥っている子もいるが、天龍が厳しく、龍田が優しく、アメとムチを使い分け、脱落者は発生させなかった。
何より、初海という駆逐艦ちゃんズの長姉が、人一倍頑張っている姿を見て、
憧れの感情が生まれて、頑張るようになったのだ。
初海は正警備員に昇格しても、自主練習は欠かさず行っている。
そんな姿を見せて、天龍は檄を飛ばす。
「お前等のお姉ちゃんは、今日も頑張ってるのにお前等は降参か!?」
『やります!』
今夜も天龍夜間教室は、厳しく激しく行われている。
毎日疲れ果てた駆逐艦ちゃんズは、部屋の神通ママの写真を見ては、明日も頑張ろう、と眠りに就く。
もちろん、教える側も大変である。
夜遅くまで訓練をしてから、天龍は業務統括の仕事があり、龍田は訓練報告書を上げる。
毎日、2200まで会社に残っている。
因みに、三隈・最上・曙は、それ以上に仕事を抱えているし、部下より先に帰らない、のがモットーの為、もっと遅くまで仕事をしている。
更に言うと、経理部の五十鈴は、毎日定時帰宅である。
経理部のモットーは『ノー残業ノーライフ』らしい。
この日も、天龍達が帰っていくのを見計らって、本社社屋を出る旧浜鎮トリオ。
「くまりんこ、お疲れさん」
「ぼ、ぼのちゃん、今日はどこかで外食でも……」
「もがみん、お疲れ。金曜日だから飲みに行こうか?」
居酒屋のカウンター席で飲んでいた五十鈴と天龍龍田姉妹を掻っ攫うと、奥座敷で飲み会が始まる。
『おつかれちゃーん』
一斉にビールジョッキを掲げると、ごくごく飲み干す一同。
「天龍さん、訓練はどう?」
「あと三人かな?それで、全員卒業になるぜ」
ビールを一気に飲みながら言うと、三隈はニコっと笑った。
「それ終わったら、第二陣のニナ級ちゃん達が50人来るから、頑張ってね?」
「ぶっ!?」
天龍は、ビールを噴き出しかけた。
そんな天龍に、皆どっと笑う。
「いいじゃない、天龍ちゃん。
「そ、そうだな……二級にナ級なら、もう少し期待できるかもしれねえからな」
三隈は、そんな皆を見ながらああ、平和が来たんだ、と思いながら、その姿を見せてやれなかった少女恵美への申し訳無さと悔恨を、ビールで流し込んだ。
そして、翌日やって来た新人の少女型深海棲艦の駆逐艦ちゃんズ。
「おーし!お前等。オレが浜松警備保障の業務統括兼訓練部長の天龍だ。こっちは次長の龍田だ!いいか、上司の命令は絶対だ。右に行けと言えば右に行け、左に行けと言えば左に行け、空を飛べと言えば空を飛べ!」
『はいっ!』
「おーし、いい子だ!!」
「頑張りましょうねぇ」
二人はにぃっと笑って、天龍と龍田の厳しく楽しく激しい訓練が始まる。
リクエストお題の続きです。