11月も、下旬に差し掛かった頃のことだった。
「大村二佐、いい加減に戻ってください」
「ふぇ?」
東北地区警務隊長となった、幸田美紅二佐が解毒剤を持って気仙沼に殴り込んだのは……
「もういい加減、大人の身体に戻ったらどうですか?」
「うん、そうだねぇ」
ごくごくと、紫色の液体の入った瓶を一気飲みするロリ奈々海。
明石謹製の解毒剤を飲んでも、効果がない。
「あれ?戻らない」
「えっ?明石から、減給処分の打ち切りの嘆願書を書く代わりにもらった解毒剤なのに……明石め……騙したな……」
美紅は、肩をワナワナ震わせて、明石に電話を掛けた。
『はい、こちら硫黄島科学要塞研究所です』
「明石!大村二佐の身体が、解毒剤飲んでも戻らないんだけど!?」
『ああ。きっと、ロリ化が固着して解毒剤
「えっ?…………えええぇぇ?ちょっと待ってください」
美紅は愕然とした。そして、はっと思い出したように奈々海に、
「大村二佐、生理来てます?」
「七歳の身体で、来る訳無いじゃん」
「ですよねー!?」
だめだこりゃ、と思いながら直ぐに電話を耳に当てて、明石との通話を再開する。
「やっぱりそのようです。どうすれば元に戻るんですか?」
『普通に年月を費やせば、大人になるでしょう』
「いやいやいや、そう言うのはダメです。一発で治す方法、教えてください」
『そうですねえ。
「30個要るじゃないですか!DSグリズリーを30匹も狩るんですか!?」
『もう一つあることはあるんですが……』
「何でも良いから、教えてください」
『DSタイラントレギレクスの肝臓を煎じて飲めば……強力な解毒復元作用で、戻ると思います』
「………」
DSタイラントレギレクスとは、DSビーストの最上位に君臨する、暴君の名を持つ巨大恐竜のことである。
恐竜が絶滅した時の負のエネルギーが深海に溜まって、極稀に出現する強力なビーストである。
これを狩り取った艦娘や深海棲艦は、『タイラントキラー』と呼ばれ、最上位の栄光を以て讃えられるほどで、討伐例は一件もない。
不知火は、その際に轟沈してしまったほどで、それ以降艤装のない生活を余儀なくされているくらいである。
その際の出現では、北海道管区の艦娘が総動員で、北極海へ押し返す事に成功した。
偶々いた深海棲艦達も、DSタイラントレギレクスに立ち向かった、と言う噂もあるのだ。
裏を返せば、今も北極海の何処かで暴れているのである。
DSグリズリーもかなりの強さを持っており、30体狩るのは一苦労である。
そこで美紅は、一計を案じた。
警務隊の『緊急命令権』を使用して、宮城県の全提督と艦娘を緊急招集したのだ。
「と言う訳で、DSタイラントレギレクスを狩ります」
「おいおい。急に集めておいて、何を言い出すんだね?」
羽佐間眞一郎准将補が、その宣言に異議を挟む。
「あのですね、ロリ大村二佐が警務隊長会議で問題になりまして。自衛官でもない、中学生の夏海さんが実質的に艦隊の指揮をしていることがバレまして、足立秋也一佐から『ばっか、お前何を見てるんだ!?』と糾弾されました。七原将補から、すぐに戻すように命令されまして、明石に解毒薬を作ってもらって飲ませたんですが………」
眞一郎から目を逸らしながら説明すると、
「効き目無かったんだよね?」
と、奈々海が付け加える。
「全く、傍迷惑な話だな」
「本当だ」
「うむ」
直哉に桐山、それに武藤二佐が続く。
「グリズリー30体を狩るか、タイラントレギレクスの肝臓を収集するか。後者なら、タイラント級の霊子結晶はかなりの数のケッコンカッコカリリングを作れますから……全員一階級昇進は間違いないと思います」
『…………』
そう。今は、戦時中ではない為、昇進の条件がかなりきつくなったのだ。
ジレーネ戦で活躍した、直哉以外は全員二佐なのだ。美紅を含めて。
最近、煩雑だった艦娘の階級制度が撤廃されて、給与の見直しが行われた。
唯一階級を保持している艦娘は、大和や旧土佐鎮守府艦娘の『司令官兼任艦娘』のみとされた。
そして艦娘の給与は、司令官の給与に連動されることになったのだ。
つまり司令官が昇進する、と言うことは、艦娘の給料も上がるのだ。
それに加えて、艦娘検定と言う資格が新設された。
検定は三級から特級まであり、艦娘の練度によって給料が上乗せされる制度なのだ。
特級の条件の一つに『タイラントレギレクス級のDSビーストの討伐』と言うものが有り、艦娘にとっても悪い取引ではないのだ。
現在、薄雲と
タイラントレギレクス級を討伐出来たなら、全員特級で司令官の階級も上がり、お給料もウハウハなのだ。
「しかし、ワシは心配じゃ」
武藤二佐は、不知火の一件を知っており、艦娘達の身を案じている。
「正直私も、給料が上がろうとも、今の給料で困ってないからな。別にカネには困ってない」
直哉も、あまり乗り気ではない。
「私は、神通と新しく家を建てるのにローンを組んでしまったから、できれば給料のベースは上げておきたい」
そう言い出したのは、桐山二佐である。
女川鎮守府の横に、マイホームを建築中なのだ。
「幸田二佐の言い分も分る。チマチマ30体、DSグリズリーを狩るよりも、大物を仕留めた方が武人の誉れではあるな」
眞一郎が、顎に手をやりながら艦娘達を見回した。
………艦娘達は全員、目が¥マークになってるようで、目をキラキラさせている。
『特級検定ゲットです!』
美紅は内心、ちょろいぜ、と思いながら、眞一郎に顔を向けた。
「と言う訳で、私も指揮艦で出ます。DSタイラントレギレクスをハンティングしましょう!」
「そう言う幸田二佐も、昇進が掛かってるのではないかね?」
「うっ」
「そうかそうか。他の警務隊長は、全員一佐だものなぁ?」
眞一郎がニヤニヤし始める。
美紅は、がっくり項垂れて両手を上げる。
「それどころか、降格が掛かってるんです。七原将補から、今月11月が終わるまでに戻さなければ、連帯責任で三佐に降格し、警務隊長を更迭する、とお達しが出まして……もちろん、大村二佐も降格して、司令官職の更迭になって……」
「まじで!?」
奈々海が、ぎょっとしてから両手を上げて、ぴょんぴょん飛び跳ねる。
「降格はともかく、更迭は嫌だ!皆助けて!」
「分かった分かった」
「仕方がないのう」
後輩の、涙目での懇願に、直哉も武藤も大きな溜め息を吐いて同意した。
「と言う訳で
美紅も、大きな溜め息を吐きながら懇願する。
――――――――
仙台駐屯地の会議室を借り切って、作戦会議が始まる。
「と言う訳で、皆さんの活発な意見をお願いします」
司会進行役の美紅が、DSタイラントレギレクスのデータを、稚内鎮守府から取り寄せて全員に配布する。
全長10Mの、二本足歩行の恐竜で、尻尾による薙ぎ払いや両手の爪による攻撃、それに強力な牙による攻撃で、
それこそ、北海道エリアに侵攻して来た時には、二桁の艦娘と深海棲艦の犠牲を払ったのである。
ジレーネ戦争勃発前に、DSタイラントレギレクスに関して
何とか、北極海に押し戻して以降は北極点近くにいて、他のDSビーストや無謀にも手を出すハンターを食べながら生息しているらしい。
「やはり、メカいなづまちゃん事件同様、
そう眞一郎が口にすると、全員が頷いた。
「予め言っておくが、眞一郎は
那智が、釘を刺すのを忘れない。
眞一郎も、
「流石に、化物相手に戦死したくないので、大人しく指揮艦に乗り込むさ」
と、両手を上げながら答える。
「駆逐艦隊がしっぽを避けつつ牽制して、航空隊が爆撃をして惑わせている間に、戦艦と重巡隊で両腕を破壊してから、腕で頭を防御できなくなったところで、アイキャンフライ砲を頭に放つ、と言うのはどうでしょう?」
今回ばかりは、夏海に頼れない奈々海は、真面目に作戦を立てる。最早必死である。
「それで行こう」
「そうじゃな」
桐山と武藤も、その作戦案に頷く。
「アイキャンフライ砲に頼るのも、あまり健全な作戦じゃないが、まあ仕方ないだろうねえ」
直哉も、そう言いつつも対案を出さなかった為、その作戦案をベースに決定した。
「さあ、皆さん出陣です!狩りに出掛けましょう!!」
『おー!』
美紅の号令で、全員が立ち上がる。
こうして、後に伝説となるDSタイラントレギレクスハンティングが始まるのだった。
――――――――
ボリッバリッ
その頃、DSタイラントレギレクスは、北極点近くで無謀にも数人のパーティでハンティングしに来た艦娘と深海棲艦を、食べ終えたところだった。
「グルルルルルルルルル……………」
満足したDSタイラントレギレクスは、再び眠りに就いた。
お題「奈々海二佐、復活」 toshi-tomiyamaさん
→明石さんの秘薬で「幼女化」していた奈々海二佐……
幸田二佐の査察と、自由裁量の縮小で、「元に戻す」ことに……
タイラントレギレクス
ソード・ワールド2.0からお借りしました。