五鎮守府の艦娘連合艦隊、総勢25名は次々と、宮戸島鎮守府を出港して行った。
宮戸島鎮守府でほとんど使うことのない指揮艦には、直哉と桐山と眞一郎、それに美紅が乗り込んだ。
武藤は、南三陸鎮守府に戻って、皆の帰りをご馳走を作って待つことにした。
ロリ奈々海も、危ないと言うことで、武藤と一緒にお留守番である。
「行ってらっしゃ~い!皆頼んだよ~!」
「無事帰ってくるんじゃよ~!」
奈々海と武藤の見送りの言葉に、艦娘達も全員意気揚々と、
『行ってきまーす!』
と、声を上げる。
途中、デスペランに寄港して、補給と食事を摂る。
デスペランには、熊崎提督経由で直哉が話を付けてくれたのだ。
「まあ、宮城の皆さん総出で、どうなさったんですか?」
「いやあ、ちょっとDSタイラントレギレクスを狩ろうと思ってね?」
直哉の言葉に、居住ルームでだらけていた摩耶と多摩と深海提督の顔色が、さっと変わる。
「アレを狩るのか!?悪いことは言わないから、よしたほうが」
「そうだにゃ。あれはやばいにゃ」
「そうです。悪いことは言いませんから……」
その言葉に眞一郎が、
「ところが、そういう訳には行かなくてな。自業自得とは言え、大村二佐が子供化から戻れなくなってしまって、DSタイラントレギレクスの肝臓が必要なのだ」
と説明すると、美紅も必死に懇願する。
「お願いです!デスペランからも戦力を出してください!」
その必死さ具合に、三人は顔を見合わせると、頷き合った。
「そんなに必死なら、手伝ってやるぜ」
「多摩も出るニャ」
「私も戦場に出ましょう。軽巡棲姫、改ヲ級、従いて来なさい」
「はい」
「分かりました」
総勢29人の艦娘・深海棲艦達は、巨大な輪形陣を作って北極海に向かって行った。
フリーのハンター達が、驚くような大行列である。
北極海に差し掛かった時に、
バリッボリッ
大きな音が響いた。
駆逐艦の艦娘が、10mほどの恐竜に食べられている音である。
「あいつだ!」
摩耶が指差すと、駆逐艦の艦娘が巨大な牙に咀嚼されて、断末魔の叫びも上げること無く飲み込まれて行くのを見るしか無かった。
「グルルルルルルルルルル!!!」
ギロリと艦娘の集団を睨むと、物凄い勢いで近づいて来た。
「避けろ!腹を空かせてるぞ!!」
摩耶の指示で、艦娘達は左右に分かれる。
その後ろの指揮艦から、直哉が無線で指示を出す。
「駆逐艦隊、あの速度を振り切れるか!?」
「大丈夫なのです!」
代表して電が答える。
「よし、駆逐艦隊は目標に追い掛けられながら逃げ捲れ。済まないが、エサになってくれ」
「分かったぴょん」
「了解です」
「わかったよ!」
「素敵な逃走パーティしましょ!」
「皆、やるのです!」
卯月、薄雲、子日、夕立、電の駆逐艦クインテットが、直哉の指示通りにDSタイラントレギレクスを惹き付けて、逃げ回る。
DSタイラントレギレクスは、とにかく美味しそうな駆逐艦を捕食しようと、必死で追い縋るが、速力は駆逐艦隊が上である。
「木曾、多摩、摩耶、援護してやれ。後ろから追い掛けて魚雷を叩き込め!文字通り、尻尾に火を点けてやれ!!」
「あいよっ!」
「了解だにゃ!」
「わかったぜ!」
追撃戦の得意な桐山が、木曾達に命令を下す。
木曾達が、逃げ回る駆逐隊を追い掛けるDSタイラントレギレクスの後ろに回って、魚雷を叩き込む為に接近する。
その瞬間、ギロッとDSタイラントレギレクスが木曾達を睨んだ。
ブゥンっと、尻尾の薙ぎ払いが木曾達を襲う。
その瞬間、振り向いた電達が尻尾を狙い撃ちにする。
「グオオオッ!!」
尻尾の先が千切れ飛ぶと、返り血が木曾達に降り注ぐが、そのまま三人で魚雷を叩き込むと、尻尾が根元から千切れ飛んだ。
再び、小癪な駆逐隊を追い掛けにDSタイラントレギレクスが走って行くと、返り血を浴びた三人は腰を抜かした。
『し、死ぬかと思ったぁ………』
「す、すまん!」
艦娘達を危険に晒した桐山は、謝罪を口にする。
すぐさま、深海提督・軽巡棲姫が、戦意を失ってしまった三人の艦娘を回収に向かう。
「次のターゲットは両腕だ。戦艦・重巡部隊整列!」
眞一郎が金剛四姉妹に陸奥、妙高四姉妹、扶桑に山城、それに三笠に武蔵を整列させる。
その判断が、間違っていた。
もっと美味しそうな、戦艦・重巡に向かって突進し始めたのだ。
「ああっ!従いて来ないのです!」
駆逐隊が追い縋る中、戦艦・重巡部隊は主砲を乱射し始める。
先頭の妙高に噛り付こうと、襲い掛かる。
「きゃああっ!?」
「危ない!」
ガキンッ!!
武蔵が、大きな口に飛び込んで、口につっかえ棒のようになって、閉じないように支える。
強力な顎の力で、武蔵の膝がどんどん曲がって行こうとしている。
「撃てぇぇぇっ!」
至近距離からの、戦艦の主砲乱射である。
DSタイラントレギレクスは、両腕を上げて防御する。
その間に、武蔵は再び腹の底から力を入れて、無理やりに口を押し開く。
「ガアアアアアア!!!」
顔面を防御した片腕が千切れ飛んで、首をブンブン振り回す。
「うわぁぁあぁっ!?」
「オゥ!シィット!?」
『きゃああああ!?』
遠心力で吹き飛ばされた武蔵が、金剛四姉妹に向かって飛んで来て、ボウリングのピンのように吹き飛ばして行く。
金剛達は、艤装に大ダメージを受けて、戦闘不能に追い込まれた。
武蔵もまた、艤装に大ダメージを受けて、海に浮かんでいる。
電達が、後ろから魚雷を乱射して再び惹き付けると、妙高達は足に力が入らなくなる。
それほどまでの恐怖を味わったのだ。
「お前達、よくやった。残った戦艦・重巡は、薄雲と合流だ」
「は…………はい……」
妙高が、身体の奥底からの恐怖で体を震わせながら、駆逐隊から抜け出した薄雲と合流する。
戦艦や重巡の艦娘達が、恐怖で慄いてるくらいだから、追い回されてる駆逐隊は、もっと怖いのだ。
齧られたら、即死なのだ。
練度の低い子日は途中で脱落し、電が横に蹴飛ばして深海提督が回収する。
回収された子日はぼろぼろ泣いて、失禁するくらい怖いのである。
トリオになった駆逐隊は、必死で逃げ回っている。
燃料も半分を切って、そろそろデンジャーゾーンに入りつつある。
妙高四姉妹に山城・扶桑・三笠が、フォーメーションを組んで錨を下ろす。
そこに薄雲が収まって、アイキャンフライ砲こと、80㎝三連装砲を構える。
「航空隊、発進して爆撃を加えてください!急いで!」
深海提督の指示に、大鳳と加賀、翔鶴と瑞鶴、それに改ヲ級が順次爆撃機を発進させる。
空からの攻撃にも、頭を振って艦載機と撃ち落とさんと、大暴れする。
それでも爆撃を食らって、藻掻き苦しむように、身体を捩らせる。
動きが止まった。
「アイキャンフライ砲発射!」
美紅の号令で、80㎝三連装砲が大轟音を発しながら、火を噴いた。
ズガァン!
DSタイラントレギレクスの顔面に、一発クリーンヒットするも、下顎が吹き飛ばされた状態でまだ生きており、薄雲を睨み付ける。
「嘘………ああ、ここで終わるのね……不幸だわ」
山城が嘆くも、薄雲が急いで再装填する。
「薄雲、避けろ!!」
三笠が薄雲を外に放り投げると、三笠達はボウリングのピンのように吹き飛ばされる。
『きゃああああっ!!!』
「やります……皆さん、さようなら」
薄雲はそのまま着地すると、
ズガァン!!!
DSタイラントレギレクスの、後頭部に直撃した炸裂弾は頭を吹き飛ばし、今度こそこの伝説の海獣の生命を断ち切った。
薄雲の姿は、何処にもなかった。
『薄雲ぉぉぉぉぉ!!!!!』
艦娘達の叫びが北極海に響き渡った。
――――――――
「全く、死ぬところでした」
薄雲は生きていた。お守りに着けていたパラシュートで、ゆっくり降下したのだ。
電達駆逐隊は、疲れ切って海に座り込んでおり、戦艦・重巡は大怪我を負って浮き輪を付けられ、指揮艦で曳航されている。
薄雲は、二発目の反動で艤装が故障しており、同じく浮き輪を付けて曳航されている。軽巡棲姫がパラシュートを発見しなければ、そのまま着水して沈没していただろう。
無傷の空母隊が、肝臓と巨大な霊子の結晶を取り出している。
肉も切り取って、積み込めれるだけ積み込んでいる。
「いやあ、とんでもない戦いだったねえ」
深海提督がデスペランを呼び寄せて、次々と収容される。
轟沈は無かったものの、艦娘達は口々にこう言った。
『もうビーストハンティングなんて二度とゴメンだ!』
摩耶も多摩も、叫びはしなかったものの、
「もう一体出て来たら、嫌だよなあ」
と、引き攣った笑いを浮かべていた。
電が、大急ぎで南三陸鎮守府に戻って、DSタイラントレギレクスの肝臓を武藤二佐に渡した。
それを武藤二佐が、明石の指示通りに煎じて、そのエキスを奈々海に飲ませた。
奈々海の姿はどんどん大きくなって、服を破って元の大人の姿に戻った。
「わ!?」
「武藤提督は、見ちゃ駄目なのです!」
「おっとぉ、そりゃそうなるわね」
「母さん、服です。早く着てください」
素っ裸の奈々海は、慌てて目を逸らす武藤二佐を見ながら、笑っていた。
そんな中、冷静な夏海が服一式を渡し、奈々海はその場で身に着けた。
修繕を終えて、宮城連合艦隊が大漁旗を掲げて戻って来たのは、日も落ちた夕方の事だった。
すぐ大本営に、DSタイラントレギレクスの討伐を報告した。
大本営幕僚総監の足立は、
「何て無茶なことをしたんだ!?君達は」
と、叱責の言葉という形で、その偉業を讃えた。
こうして、宮城県所属の全艦娘に艦娘検定特級が授与され、
眞一郎は准将に、直哉は准将補に、そして美紅を含めた二佐は一佐に昇進した。
「ところで、幸田一佐。何でもする、と言ったよね?」
直哉が、意地悪そうな笑みを浮かべる。
「うっ、言いました………」
そう。査察する側とされる側の力関係が、逆転した瞬間だった。
当分の間は、宮城県の各鎮守府の自由裁量は、一佐に昇進した美紅の手により守られることになった。
もちろん大本営から、正式に夏海の艦隊指揮は禁止された。
奈々海は、今日も娘の代わりに艦隊の指揮を執る。
夏海は、行ってらっしゃいとお帰りなさいを言うだけに戻ったが、満足していた。
母が更迭されると、愛する艦娘達と別れるかもしれなかったのだ。
そうさせない為に頑張ってくれた艦娘達に、感謝の気持ちを持ちながら、学業に専念することになる。
ただ時折、母の指揮艦に同乗して参謀の真似事をしているのは、幸田美紅一佐と夏海達だけの内緒である。
――――――――
「やれやれ、大騒動だったなあ」
「なのです」
「もう二度とごめんだぴょん」
「おしっこ漏らしちゃったよぉ……」
今日も、宮戸島鎮守府の面々は呑気なものである。
そんな中、熊崎提督が東北にやって来る。