圭一はいろいろな提督に意見を聞きに北上していく
今までヘタレな男だった桐山△回。
圭一は苦悩していた。
番長を辞めるべきか、自分とは釣り合わなくなってしまった史絵と別れて、遠いところで幸せを願うべきか。
圭一は、女川鎮守府にやって来ていた。
桐山が応対に出た。
「おお、どうした?君は、高菜のところの原くんではないか?」
「すんません、突然。ちょっとご相談したいことがありまして……」
「そんな深刻な顔をしてどうした?神通!神通や!」
声を掛けると、漸くデスペランでの教育係を一段落させて、女川に帰って来た神通がやって来た。
「どうされました、崇?あら、圭一さん?」
「相談があるらしいんだ。応接室を使うから、コーヒーを用意してくれ」
「はい」
「原くん、こっちで話をしよう」
「うっす」
圭一はコーヒーを出されて、対面に桐山が神通と座ったところで切り出した。
「俺と史絵がお付き合いしてることは、知ってると思うっすけど」
「うむ、聞いておる」
「はい」
「俺達、別れた方がいいんすかね?」
『えっ?』
その吐露に、二人は言葉を失った。
「待ち給え、どういうことかね?」
「史絵が、作家としてブレイクしたことは知ってるっすよね?俺でいいのか?俺よりもっと釣り合った人間がいるんじゃないか?と思うんすよ」
桐山は、腕を組んで考えてから口を開いた。
「…………原くん、私の私見を言わせてもらってもいいかね?」
「うっす」
真っ直ぐ見ると、少し躊躇いがちに続けた。
「…………私は、別れない方がいいと思う。私なんぞを見てみろ。プライドが高く、艦隊運用は後輩達の足元にも及ばない、それでいて負けず嫌いで、よく神通を困らせる。神通は、私にとってはもったいないくらいの女房だ。それでも別れていないのは、偏に神通を愛しているからだ」
「崇…………」
「原くん。苦悩している、と言うことは、それほどその史絵さんを愛しているのだろう?」
「うっす」
桐山は、真面目な顔で語った。
「だが、君は私一人の意見に流されるほど、軽い人間ではない筈だ。いろんな人のアドバイスを聞いて、それで
「…………」
黙っている神通が、少し微笑みを浮かべて続ける。
「本当に、崇はどうしようもない男です。すぐキレる、人のせいにする、男として器はお世辞にも大きいとは言えません。でも、そんな崇がたまらなく好きなんです。私も家出を繰り返す不器用な女です。それでも離れて判ったことは、『離婚しないで良かった』と、言うことです。離婚していたら、きっと後悔して再婚していたでしょう。そして、離婚と復縁を繰り返すような夫婦になっていたかもしれません」
「…………」
「すまんね、あまり参考にならなくて」
「うちはやっぱり特殊なんですよ。武藤提督のところなら、もっと気の利いたアドバイスをしてくれるんじゃないでしょうか?」
「二人は、どういう経緯で結婚されたんですかね?」
「ううむ……何と言っていいかな?」
「私からお願いしました。崇のような人は、私が結婚しなくては誰も結婚しないだろう、って」
「神通……」
桐山が苦笑いを浮かべる。
そんな桐山を、ちらりと横目で見て涼し気に言葉を続ける神通。
「うちは、嫁艦一人にそうでない艦娘の組み合わせの鎮守府です。他の艦娘は、あくまでも提督と部下。私は僚友、と言った関係です。そういう意味では、『夫婦で鎮守府を運営している』と、言うことになりますか?私が、デスペランの教育を一段落させて帰って来ましたから」
「私は提督としての戦術能力は神通に劣る。神通はハーフェン提督のもとで勉強して来たからな。それでも私は別れていないだろう?」
「うっす」
圭一が答えると、桐山は優しい顔になる。
「私は、その時決めたんだ。私のやるべきことは、艦娘達が働き易い職場を作ることだ、と。変なプライドを捨てて、今まで迷惑を掛けて来てもそれでも付き従ってくれた艦娘達の為に何ができるか?この、神通のいない期間で学んだよ」
その言葉に、圭一はコーヒーに視線を落として少し考えてから、顔を上げる。
「男が女を支えるのも有りだ、と言うことっすかね?」
「うむ。武藤さんのように、『行ってらっしゃい。お帰りなさい』を言うだけの提督もいる、と言うことだ。そして、武藤さんは家事を全部やっている。主夫とも言えるな。それを喜んでやっている。私は、家事は苦手だから神通に任せてしまっているが……」
「むぅ」
唸る圭一に、桐山は諭すように続ける。
「原くん。釣り合ってるか釣り合ってないか、そんなことは
「うっす」
「だったら、他の提督達にも意見を聞いてみるといい。特に、女性でもある大村母娘の意見は、聞いておいた方がいい」
「すんません。貴重な時間を、ありがとうございました」
圭一が去って行くのを見送ると桐山は、
「彼もまた不器用な男だ、と言うことだな?」
「ですね」
圭一の姿が見えなくなるまで、見送っていた。
――――――――
圭一が次に訪れたのは、南三陸鎮守府の武藤レストランだった。
今日は偶々定休日で、ガラーンとしているお店のカウンターに案内された。
「圭一くん、どうしたんじゃね?」
「実は…………」
圭一は、事の経緯を武藤に話した。
「別れて、遠くから見守る。それも一つの選択肢じゃろうなあ」
「やっぱりそうっすかね?」
「うむ。圭一くんには圭一くんの譲れない部分もある訳じゃ。それを貫いて愛する者の幸せを願うのも、一つの生き方じゃ。二人共まだ若い、もっと幸せな相手に巡り会える
武藤は、事前に桐山から連絡を受けていたので、敢えて違うアプローチから意見を述べた。
「でも後悔して、それがずっと残ってるようでは、本当の幸せと言えるのか?ワシにも判らんよ」
「…………」
「桐山くんからも話を聞いたが、私達はアドバイスしか出来んからのう」
「いや、そのアドバイスが欲しいんすよ。どうするか俺が考える為の」
「別れるにせよ、別れないにせよ、史絵ちゃんと話し合わなくてはな。史絵ちゃんも、きっと悩んでいるに違いない。夢を優先するか。圭一くんとの愛を優先するか」
その言葉に、圭一はガタッと立ち上がった。
「そんなの、俺は史絵には夢を優先してもらいたいんだよ!」
「わかった、わかったから落ち着きなさい」
エキサイトする圭一を宥めると、圭一はすごすごと椅子に座る。
「すんません」
「こりゃ重症じゃのう。ちょっと待ってなさい」
武藤は、電話で奈々海を呼び出した。
奈々海と夏海親子がやって来たのは、それから数十分後だった。
武藤は、圭一を落ち着かせる為に、美味しいパンケーキをごちそうしていた。
カランカラン
扉が開くと、大人に戻った奈々海と夏海が入って来る。
「よっす、話は聞いてるよ。圭一とフーミンで悩んでるんだって?なっちゃんからも聞いてたし」
「私は、史絵さんからも相談を受けていますし」
相変わらずの、脳天気な態度の奈々海に、真面目一徹な夏海。
相談場所をテーブル席に移して、改めて圭一が口を開いた。
「おれ、分かんなくなっちまったんすよ。本当に史絵を愛して行けるのか」
「こりゃこりゃ。また重症だねえ」
「母さん、もっと真面目にしてください。二人共、本気で悩んでるんですよ?」
軽い態度で答える母親を、諌める夏海。
「参考になるか判んないけどさ、あたしとダンナ遠く離れてるじゃない?最初は、結婚してドバイに転勤になった時に、辞めるつもりだった訳、自衛隊」
「そうなんすか?」
「
だからねえ、夫婦ってのは
「えっ?」
その言葉に、今度は圭一が言葉を失った。
「史絵ちゃんね、高菜先輩のお父さんの下に下宿して、東京の学校で文芸を極めることも考えてるみたいなんだ。知らなかった?」
「今、初めて聞いたっす」
「遠距離恋愛になっても大丈夫?」
「…………余計解らなくなったっす」
圭一は、苦悩のピークに達していた。頭を抱えて唸っている圭一を見て、三人は困った顔をした。
「圭一さん。一緒に東京に行く方法は無くはないです」
「大村先輩、どう言うことっすか?」
「二月に、東京にある私の通っている女子校系列の、男子中高一貫校の中等部二年次編入試験があります。もちろん私立ですから、費用は公立中学校より掛かりますが、越境入学可能で、下宿か寮の選択制です」
「…………」
「これは、ご両親と相談しないといけない話ではありますが」
「…………それだ!」
「待ってください。それにも、いろいろ問題があるんです」
ガタッと立ち上がった圭一を、夏海が慌てて座らせると、
「まずは、編入可能なのが特進コースなこと。編入できても、特進コースの成績最下位者は、一般コースに脱落することです」
「どう言うことっすか?」
「少なくとも、偏差値70台の成績を叩き出さないと、勝ち残れない」
「…………」
「次善策は、二年待って高校受験時に、東京の学校に越境入学するか」
「…………だぁぁぁ!!!」
頭をボリボリ掻いて叫び出す圭一に、奈々海がキツめの口調で諌める。
「そりゃ悩むよね?声も出したくなるよね?でも、何で史絵ちゃんと相談しないの?」
「えっ?」
「史絵ちゃんも、一人で苦悩してるんだよ。何で、恋人同士相談し合わないのさ?」
「それは…………」
「まさかとは思うけど、それがダサいから、とか思ってないだろうねえ?」
ずずいっと顔を近づける奈々海は、少し怒っていた。
「……その通りっす」
「だろうねえ。先輩は、二人共に頭を冷やす為に離したんだろうけど、余計悪化しちゃったねえ」
「すんません…………」
「謝るのは史絵ちゃんにね。それで圭一はどうしたい訳?」
「……
「バッカ!私のダンナは、エリートスーパーサラリーマンで、私なんか娘に戦術の才能で追い越されてる一提督よ。それでも結婚してるんだからさ、釣り合うか釣り合わないか、そんなモンはドブに捨てちまえ!」
「…………」
「もう一度聞くよ。圭一はどうしたい訳?」
「史絵の支えになりたいっす!」
「よっしゃ、腹は決めたね?」
「うっす」
その言葉に、夏海が母の後に続く。
「それで、編入試験に挑戦しますか?ただし、此処から先は勉強詰めになります。遊んでる暇もありません」
「…………」
「正直、私はお勧めしません。特進コースはストレスの掛かる場所です。私のところにも特進クラスがありますが、私は敢えて普通クラスを選びました。蹴落としあいがあるから、特に女同士は」
「…………どうしてあんた等、俺を余計に悩ませるんすか?」
「それは、あなたの人生の話だからですよ。自分の人生を自分が悩まないでどうしますか?」
「…………そうは言ってもよぉ」
頭を抱えている圭一を尻目に、武藤謹製のパンケーキを口に運ぶ大村母娘。
「はっは。悩める時に悩め、若人よ」
「こうやって脳天気な母でも、悩んだ時は多々有りました。例えば私がレイプされた時には、母は苦悩したと思います」
「なっちゃん…………」
「夏海先輩……」
「だから、悩むのは当たり前です。しっかり悩んで悩んで悩んで悩んで、悩み抜いてください。そして最後には、史絵さんに相談してください」
「…………そうっすね」
トボトボと、武藤レストランを後にする圭一を見送りながら、三人は溜め息を吐いた。
圭一は、未だ答えを見い出せていない。