――武藤廉三佐――
宮戸島鎮守府の高菜直哉二佐は、南三陸鎮守府の武藤 廉
「もしもし、お久しぶりです」
昼下がりの鎮守府。電は出撃に出掛け、卯月は海に出る訓練で近海を周回している。
まだ、捨て艦戦法で失われた艦のトラウマで、沖合には出られないのだ。
高菜二佐は微睡んだところで、鳴り響くスマートフォンを取り出して電話に出る。
『いやあ、話は聞いたよ。ブラックのところから来た
陽気な声である。
「相変わらず情報が早いですね。あの堅物と同期なだけはありますね」
『足立一佐から話は聞いたよ。私はね、話を聞いただけで泣いてしまったよ』
いつもながら、涙脆い男である。ボロッボロに泣いて、足立一佐を辟易させたことは想像に難くない。彼は艦娘を異様に溺愛するのだ。溺愛し過ぎて、ちょっとでも傷をつけて帰って来ると心配し、狼狽し、オロオロと涙を浮かべる。
所属艦娘の長門、夕立、木曾のトリオは、提督を泣かせない為に努力に努力を重ね、今では長門が三尉、夕立と木曾が曹で、夕立は三尉昇進目前なのである。
「全く。またボロッボロに泣いて、足立一佐を困らせたんじゃないですか?」
『足立くんには、そんなことでは提督なぞ務まらん、と叱られてしまったよ』
そうは言っても、足立にとっては安心して艦娘を預けられる、査察を最優先で後回しにできる数少ない鎮守府なのだ。
世間的に言えば『ホワイト鎮守府』。
給料は色を付けて渡す。給料日には、パーティーを開いて料理を振る舞う。
「まあ、それだからこそ足立一佐的には安心できるんでしょうね?それがなければ」
『ところでだ、本日はなんだか分かるかね!?」
武藤提督は、嬉しそうに話を切り出す。
「分かってますよ、給料日でしょう?私は、もう午前中に振込処理をしておしまいですがね」
『何だ、相変わらずドライなやつだな。手渡しで艦娘達が喜ぶ姿と言ったらもう……』
「はいはい。武藤三佐のご意見は、ありがたく賜りますとも。それで、わざわざ連絡したってことは?」
力説する武藤提督の言葉を、溜め息を吐きながら遮ると、本題を引き出そうとする。
『そう、今日は海辺でバーベキューでもしようと思ってね。高菜くんと、電ちゃん、あと、新しく来た卯月ちゃんをご招待したい、と思ってね』
「あー、いいですね。それじゃあ、買い出しも兼ねてお伺いしますよ。肉と野菜と焼きそば辺りを買って行けばいいですかね?」
『うんうん、そうしてくれるとありがたいね。うちの長門も喜ぶから、制服なんかじゃなくておめかししておいで、って伝えてもらえるかな?無論高菜君もな?』
「了ぉ~解です。ところで、そろそろ二佐に上がるんじゃないですか?」
『いやあ。経理畑の二尉だったのが、あれよあれよと昇進して、目まぐるしくて敵わんわ。そんなことより、艦娘達が安全に帰ってくるほうが大事だよ』
「全くです。それじゃあ
『うむ』
戻って来た電と卯月に、着替えるように伝えると、自分も執務室で、休日用の服に着替える。
ベージュのジャケットとチェックのパンツに黒いカッターシャツ、赤いネクタイに、紺色のベストに着替える。靴も、作業ブーツからスニーカーに履き替える。
「お待たせだぴょん!」
「お待たせなのです!」
卯月は、吊りスカートにボーダーのシャツ。肩からは、二人で買いに行ったお揃いのショルダーポーチを掛けていて、靴もスニーカーである。
電は、ダメージドジーンズにTシャツに薄手のフード付きパーカーを、前を開けて着ている。楽楽コンドルズの野球帽を被って、お揃いのショルダーポーチを肩から掛けている。靴はショートブーツである。
「さあ、行こうか?」
「「はいっ!!」」
鎮守府の駐車場には、業務車三号と軽トラック、それにセダンタイプのハイブリッド車が停められている。
そのセダンのキーを片手に、三人共乗り込むと、宮戸島で食材を調達して、お菓子も沢山買って、トランクにあるクーラーボックスに大量に詰め詰めにする。
そうしてやって来た南三陸鎮守府。時間は
埠頭の方から、艦娘達の賑やかな声が聞こえて来る。
そっちの方に、クーラーボックスとレジ袋を持って…もちろん艦娘達も、両手にレジ袋を持っている。
埠頭に向かうと、長門達がバーベキューセットの炭の火を起こしているところだった。
後にはテーブルが並べられていて、料理が多数並べられている。
「おお、高菜くん!」
焼き上がったアップルパイを、ミトンで持ちながら官舎から出て来た、エプロンを付けてノーネクタイのスーツ姿の武藤 廉三佐は、テーブルにアップルパイを置いてから、艦娘達に駆け寄る。
卯月は、そのスキンヘッドという風貌に一瞬怯えるも、電の「大丈夫なのです」と言う言葉に、おずおずと顔を出す。
電の言葉に、お気楽トリオの長門達も、テーブルの方に向かう。
「おお、高菜提督に電。久しぶりだな?」
「長門も三尉昇進おめでとう。夕立は、今度三尉試験だって?後はキャプテン、相変わらずだね?」
「キャプテンと言うのはよせ」
てしっとツッコミを入れる木曾に、高菜二佐は軽く笑って、
「紹介するね。新しく、宮戸島にやって来た卯月」
「卯月だぴょん」
電の後ろから顔を出したまま、挨拶する卯月。
長門達も事情は知っている為、咎めようとはしない。
「さあ、早速肉を焼こう。料理もいっぱいあるから、どんどん食べなさい」
その言葉に、卯月も表情が笑顔に変わる。
電も、唐揚げがいっぱい盛り付けられているのを見て、ニコニコ顔である。
「電は、武藤提督の唐揚げが一番だと思っているのです!」
そう言って、卯月の手を引いて連れて行く。
「待った―!一番乗りは夕立っぽい!」
それを追い掛けて行く夕立。
その様子を、微笑ましく眺めている、お姉さん艦の長門と木曾。
「さあ、我々も夕飯にしようではないか?」
と言う武藤提督の言葉に、電と卯月が足元に置いて行ったビニール袋を持って向かう一同だった。
「それでは長門、お疲れ様でした」
「うむ。ありがとう、提督」
皆一通りの食事を楽しんだ後、給与授与式が始まる。
「ウチもこういうのあるぴょん?」
「ウチはないのです。銀行に振り込まれてるのです」
卯月の質問に、肩を竦める電。
そして高菜二佐に向けられる、卯月の純粋な瞳光線。
「はいはい、わかったよ」
そう言って、封筒を二人に渡す。
「「おおー!」」
喜んで、二人が封筒を開けると、中には……給与明細が入っていた。
「「…………」」
そしてジト目で見上げる二人の艦娘。
「はっはっは。高菜二佐は、相変わらず振込派なんだな?」
武藤提督が艦娘達と共にやって来ると、艦娘達はそれぞれ給与袋を持って、嬉しそうな顔をしている。
「ペーパーレス化ですよ。地球の資源を守ってるだけです」
肩を竦める高菜二佐に、宮戸島の艦娘達が口を揃えて、
「「現金支給がいいのです!」ぴょん!」
と言い始める。
「だぁ~め。どうせ、翌日には銀行に入れるんだろ?ダメダメ。第一、その銀行のカードでお買い物も出来るじゃないか?」
そう。所謂デビット機能付きの銀行カードなのだ。小銭いらずで、残高の範囲でお買い物が出来る。
「現金支給は浪漫なのです。貰ったその日に、遊びに行くのです」
「そうだぴょん!」
「そうだぞー!!」
「そうだっぽい!」
「高菜二佐、諦めろ」
電と卯月の主張に、南三陸の艦娘達の支援砲撃も入る。
高菜二佐は、ふむっと考えてから、何か悪いことを思い付いた顔をして、
「わかった。来月は、現金支給にしてあげるよ」
『ばんじゃーい!』
そう言うと、二人どころか全員が万歳三唱して喜ぶのを見て、肩を竦める高菜二佐。
……翌月。全部千円札、小銭分を全部一円玉にして手渡された給料を見て、やっぱり振込がいい、と言うことになるとは、思ってもみない二人だった。
しかも卯月は、過去一年分の給与も認められたので、ピン札の千円札の札束の山を手渡されたのだ。
結局、即座に二人共銀行に入金に行ったことは言うまでもない。
本人曰く「現金支給には変わりないだろう?」とのこと。実に大人気ない。
「そろそろ、宴も酣だしお開きに……」
そう言った時、武藤提督の仕事用携帯電話が鳴った。
「もしもし。うん、また桐山二佐が?うん。了解だ」
「どうされましたか?」
真顔になった武藤提督に、声を掛ける高菜二佐。
「うむ。桐山二佐の艦隊が、ル級多数をお持ち帰りして来たようで、南三陸の方に流入して来た」
「それじゃ、電もお貸ししますよ。卯月は……ここで待ってような?」
ぽんと頭を撫でる高菜二佐を、卯月は決意を秘めた顔で見上げる。
「うーちゃんも行くぴょん!」
「む、無理はしたらいかんよ?」
心配そうに声を掛ける武藤提督に、卯月は首を横に振った。
「よし、私達も海に出ましょう。私が指揮を執ります。いいですか、武藤三佐?」
「私も出よう。指揮は任せたぞ?」
念の為に、制服を持って来て正解だった、とすぐに制服に着替え、戦闘モードになる艦娘達。
五隻並び立っている後ろに、モーターボートの操縦桿を握っている武藤提督。
そしてポケットに手を突っ込み、片手でボートの手摺りを摑んだ高菜二佐が声を上げる。
「よし、長門を旗艦に艦隊連結。全員抜錨、
『おーっ!!』
艦娘達の声が響き渡った。
本日のテーマ「いつもと違う服で」
次回もパーリィパーリィ
《今回の前書き解説》
何も思いつきませんでした。
《作者のこぼれ話》
高菜二佐って打ちづらいんだよな…
表記には理由はあるんですが