クリスマス・イヴ。
全員大人しく過ごしたようで、皆各部屋で朝食を摂って集合した。
学生組は学生服が正装なので学生服、圭一も慎も普通の学生服を身に着けている。
直哉は、将官の正装である飾緒付き陸上自衛隊第1種礼装で
肩の階級章も、将官用の三本で細かく編み込まれた金色モールに、銀の桜バッジが一つ付けられた、准将補の礼装用階級章である。
艦娘達の襟には、特級艦娘検定徽章が付けられている。
「おはよう、皆よく眠れたかい?」
『はーい!』
元気のいい皆の声に、直哉はふっと笑みを零すと、
「さて、そろそろ迎えが来る時間だが……」
「皆さん、お迎えに来たわ」
燿子が、海上自衛隊の第1種礼装で現れた。肩の階級章は尉官の二本で編み込まれた金色モールに桜が一つの、三尉の礼装用階級章である。
「お待たせしました、それじゃあ向かいましょう」
「ありがとう、ところで愛ちゃんは?」
バスに向かいながら、直哉が声を掛ける。
「もう既に式場入りして、乾杯の音頭のスピーチを練習してたわ」
「だろうねぇ。あの若さで仲人になるなんてねえ」
「最初は足立ご夫妻も考えたんだけど、遠方から何度も足をお運びいただくのも悪い、ってことでいずれ結婚するんだし、愛ちゃん達が仲人になることになった、と」
「なるほどね。二人の上官でもある訳だしね?愛ちゃんは」
「そういう事」
「なるほどね」
直哉はふふっと笑うと、真っ先にバスに乗り込んだ。
皆バスに乗り込むと、最後に燿子が乗り込んでバスが結婚式場に向かって行った。
全員で受付を済ませると、
「つけもん!久しぶりだな」
と声を掛けられる。同期の足立秋也一佐である。彼も陸自礼装で、肩の礼装用階級章は三本モールで桜バッジ三つである。
「ああ、秋也か。そう言えば、四国の警務隊長だったな。よく問題児がなれたな?」
「ばっか、元々北海道の警務隊副隊長だっつうの」
「そう言えばそうか。何でも、祝辞はお前さんなんだってな?」
「そうなんだわ」
その言葉に、幕僚総監足立昭彦陸将夫妻がやって来る。足立総監は苦い顔をしている。
「私は今から心配だよ。秋也が何を言い出すか、判ったものではない」
「ばっか、円城寺に一応原稿はチェックをしてもらったよ。アドリブ入るかもしんねえけど」
「バカモン、私はそれが心配だと言っているのだ」
「まあまあ。
そんな足立を、直哉が宥める。
艦娘達は艦娘達で、中学生組は中学生組で固まってワイワイ話をしている。
「ひでえな」
「まあ、日頃の行いでしょうな?」
「おいこら、円城寺」
「うむ、円城寺君。うちのバカ息子を頼んだぞ」
「了解いたしました」
お手洗いを済ませた円城寺がやって来て、しれっとそう言うと、秋也は文句を言い、足立総監は満足そうに、改めて息子の手綱を曳くように頼む。
警務隊からは、この二人が招待されたのだ。
「先輩!先輩のところは皆全員招待ですか?」
大村奈々海がやって来た。
「何だ、大村も来てたのか?だったら、一緒に来ればよかったじゃないか?」
「いやあ。招待は同期で親しかった人間、と言うことで、気仙沼からは私だけだったので、観光も兼ねて何日も前から四国入りしてたんですよ」
「なるほどね。郷里の同期と言うと、後は……」
そう考えていると、
「先輩、おはようございます!」
「高菜、元気そうだな?」
七原夫妻がやって来た。秋奈はもう臨月で、マタニティドレス姿である。
「七原に師匠、久しぶりだねえ」
「うむ」
「七原は大丈夫だったのかい?」
「あはは。これで、今日出産とかだったら洒落になってないですけど、予定日は来月頭なんで、まあ大丈夫でしょう」
暫し談笑していると、式場の係員に案内されてチャペルに入る。
宮戸島の愉快な仲間達は、新婦側の席に案内される。
結婚式は、翼のウィットに富んだ司会で無事終了し、披露宴になる。
披露宴会場もクリスマス色一色で、トナカイの絵等が飾られている。
各テーブルにも、小さなツリーが飾られている。
宮戸島軍団は2テーブルに分けられ、叔母の優花とその婚約者の寛太は、親戚席に行く為、
直哉と艦娘達と圭一&史絵で1テーブル、慎にギャルズ達とめぐみで1テーブルである。
「花梨さん、とっても綺麗だったのです」
「霊子がとっても溢れてた式場だったぴょん」
「人間同士でもああやって輝くんですね…………」
「子日もウェディングドレス着たい」
新婦の家族席を見ると、紗花がマタニティドレス。妙高四姉妹と扶桑山城は、お揃いの和服に身を包んでいる。
「和服も良かったのです」
「でもうちにはないぴょん」
「そうですね……」
「直哉、買って?」
子日のお強請りに、直哉はハハッと笑って、
「仕方ないなあ、分かったよ。帰ったら呉服屋さんに行こうな?」
『わぁい』
圭一と史絵はそんな姿を見ながら、
「史絵の和服姿見たいな?」
「でもうちも和服が……」
なんて会話を聞いていた電達が、
「直哉、史絵のもクリスマスプレゼントで買うのです」
「うーちゃん達のボーナスは多かったぴょん。直哉のボーナスはもっと多いぴょん」
「そうですね、圭一の夢を叶えてあげるべきです」
「そうだよ、それで帯回しをするの」
子日はどっかズレている。
「帯回しは駄目だけど、どれ、宮戸島軍団のお呼ばれ用に用意しておくかね?ほら、後三年で愛ちゃんと健太くん結婚だろう?深海棲艦化して、身分が成人になってしまったから。もちろん男子達の礼服も用意してあげるかね?クリスマスプレゼントで」
「おお、直哉は太っ腹なのです」
「いやあ、今回の移動費が割と浮いたからね」
軽く肩を竦めると、式次第が始まる。
「さて、披露宴でも引き続き司会を務めさせていただきます。新郎新婦入場いたします」
仲人である健太と愛、それに招待客が見守る中、二人がタキシードと真っ赤なウェディングドレスで入場して来て始まる。
「ふむ。タキシード姿の郷里も、意外になかなか様になるな」
「なのです」
後輩の晴れ姿に、少々毒の籠った賞賛を口にすると、電も同意する。
「凛々しくてカッコイイぴょん」
「石器時代の勇者が、文明時代の勇者になりましたね」
「うん」
カッコイイおじさんにお目々キラキラの卯月に、とんでもない暴言を放つ薄雲に、同調する子日。
「タキシードもいいな。花梨さんも綺麗だ。俺達もクリスマスにしような?」
「圭一、気が早過ぎます。後五年待ってください」
「だよなー。早く史絵と結婚したいぜ」
「…………もう」
圭一もタキシードに憧れて、もう結婚の話をしている。
史絵は顔を赤らめながら、満更でもないと言う顔をしている。
「それでは、乾杯の音頭を、土佐鎮守府司令官で仲人でもある笹野 愛一佐にお願いいたします」
翼の紹介に、愛はグラスを持って立ち上がるとマイクまで向かう。ガッチガチに緊張している。
「愛ちゃん、ガッチガチに緊張してるのです」
「だろうねえ」
直哉と電が、小声で話している。
「ただ今ご紹介にあずかりました、新郎の剛さん、新婦の花梨さんと同じ職場の土佐鎮守府司令官の笹野 愛でございます」
深々と頭を下げると、
「このような若輩者が
『乾杯!』
一同、コップのお酒やジュースを空けると、拍手が巻き起こる。
愛は、一礼して仲人席に戻って行く。
「それでは、艦娘と提督を統括いたします、四国地区警務隊長の足立秋也一佐より、祝辞を述べさせていただきます」
そう言うと秋也が立ち上がり、原稿を取り出して、マイクの所に向かう。
新郎新婦と両家の家族が立ち上がる。
「えー、只今ご紹介いただきました、お二人の勤務先の上司の上司に当たります、足立でございます」
そう言うと、一礼する。
足立総監にとっては、ヒヤヒヤものの時間が始まるだろう。
秋也は二人に向くと、
「諸先輩方を前に、誠に僭越ではございますが、ご指名を賜りましたので、一言お祝い申し上げます。剛君、花梨さん、ご結婚おめでとうございます。そしてご両家ご親族の皆様、心よりお祝い申し上げます。本日は、この素晴らしい披露宴にお招きいただき、誠に光栄に存じます」
そして、両家に向き直り一礼しながら祝辞を述べる。
「皆様、どうぞご着席ください」
秋也の言葉で、一同着席する。
そして、原稿をポケットにしまい込む。
直哉が自衛隊幹部席を見ると、足立が渋い顔をする。そして秋奈が何か言うと、苦笑いに変わるのをにこやかに見ていた。
その秋也の、長くも心の籠った祝辞が終わると、秋奈と紗花がそれぞれの夫に付き添われて、そっと会場を出て行くのが見えた。
直哉はすっと立ち上がると、めぐみの横で、
「めぐみ先生、多分陣痛でしょうね?」
そう言うと、めぐみは頷いて会場からそっと抜け出す。
そのまま、ジュースとビール瓶を持って新郎新婦仲人席へと向かう直哉。
「おお、先輩。ありがとうございます」
「結婚おめでとう。君に限っては戦死の心配はないから、安心して花梨さんを託せるんじゃないかな?羽佐間准将も」
ビールを注ぎながら「まあ飲みなさい」と、一気飲みさせてそれを見ると、
「郷里君には、グラスじゃなくてジョッキのほうが良いかな?」
「はっはっは。皆さんに注いでもらえるよう、今日はグラスで十分です」
「儀礼服も様になっていたが、タキシードも良いね」
「はっはっは。馬子にも衣装、と言うやつですな」
「幸せそうで何よりだ」
そう言うと、今度は花梨の前にやって来る。
「人間として、私の想像以上に成長したね」
「いえ。私なぞ、まだまだ未熟です」
ビールを注ぎながら語る直哉。
「いやあ、未熟じゃない。半熟と言ったところかな?郷里くんと一緒に、花梨も隣の若人を支えてやってくれ」
「はいっ。死んでしまった、葵の分も生きると決めています。それまで愛ちゃん提督を支えます」
「うん、それでいい。夫婦は支え合うものだからね」
「ところで。紗花さんと秋奈さん、大丈夫ですか?」
「めぐみさんも居るから大丈夫だろう。足柄と妙高も行ったし」
「そうですね……無理なお願いをしてしまいましたね」
「いやあ。これで無事生まれたら、クリスマスにウェディングにバースデーと、めでたいことだらけになるさ」
申し訳なさそうにする花梨を慰めてから、招待した花梨の同期がやってくるのを見て、敬礼する同期に答礼しながらその子達にビール瓶を渡して、
「禁酒解禁で飲みが足りないようだ。任せるよ」
と、ニヤッと笑ってから仲人席へずれる。
「やあ、愛ちゃん。大任ご苦労さま」
同期の女子達に、どんどん飲まされている花梨を尻目に、愛に声を掛ける。
「あはは、一つポカしちゃいました」
「『全員起立』を忘れてたね?まあ良いじゃないか、司会がどんどんやらかすんだから」
「あははっ」
そう言いながら、グラスにオレンジジュースを注ぐ。
「深海棲艦化した健太には、ビールが良いかな?」
「いいえ、ジュースで。ビールは苦くて嫌い、って言ってました」
「そうか。今度ゆっくり、酒の良さを教えねばならないな」
「あまり飲まさないでくださいよ。深海棲艦化して成人になったとは言え、中学生ですから」
「ははは、努力するよ」
釘を差すのを忘れない愛に、笑いながら健太の前にずれる。
「師匠、将官昇進おめでとう御座います」
「まあ、今日は結婚のほうがおめでたいよ。ジュースでいいかい?」
「はいっ」
「一番弟子の健太は成人だから、後三年で結婚式だね?
「あははは………」
「その時には、もちろん駆け付けるからねえ」
「ありがとうございます」
「えー、それではこれより、土佐鎮守府空母二人娘による、艦載機曲芸飛行を行います」
その翼の言葉に、席に戻る。
伊勢と鳳翔が同時に矢を放つと、艦戦が曲芸飛行をして、ハートのスモークを作る、と言う演出が為される。
皆万雷の拍手をする。
『改めまして、おめでとう御座います!』
伊勢と鳳翔が、祝福の言葉を述べる。
その後は出産報告があったり、ビスマルクとアイオワの漫才や、大井北上の居酒屋事件暴露話等、余興は続いている。
異例づくめの結婚式・披露宴がお開きになると、直哉を先頭に立ち上がり、会場を出て行く。
新婦側は妙高と眞一郎が、新郎側が鐵太郎と小夜子が、新郎新婦の横に並んでお見送りである。
「結婚と出産、おめでとうございます」
「うむ、ありがとう」
「名前はこれからですか?」
「紗花がもう決めててな、女の子で眞梨紗にするそうだ」
「眞梨紗ちゃんですか。もしかして、両親と姉で1文字ずつ?」
「ご名答」
笑う直哉と眞一郎。
それぞれから感謝の言葉を受けると、直哉はロビーに皆を集合させる。
「愛ちゃんには、LINEで連絡して二次会は遠慮させてもらうことにしたよ。ここからは、一度戻って着替えたらカップルで自由行動をしていいよ。飲酒と問題だけは起こさないようにね?」
『はーい!』
皆のクリスマスは、ここから始まるのだ。
次回からはそれぞれのクリスマスの過ごし方になります。