旅館で着替えた後、それぞれのカップルが出掛けるのを見送った直哉と秘書艦ズ。
「さあ、我々も行こうか?」
「ところで、どこに行くのです?」
笑みを浮かべる直哉に、電は首を傾げた。
「そうだね。まずは、坂本将補の墓参りに行くとしようか」
「知り合いだったのですか?」
再び不思議そうな顔をした電に、直哉は笑みを浮かべたまま首を振った。
「いいや、直接の面識はないさ。でも、優秀な自衛官だった、と聞いているよ」
「遺された艦娘達も大変なのです」
「そうだぴょん。司令艦娘として頑張ってる、って聞いてるぴょん」
「確かに、大変そうですね」
「そうだね」
直哉達は、レンタカーで五人乗り乗用車を借りていた。直哉の乗ってるのと同じプリウスである。
薄雲がハンドルを握り、電が助手席に座って、後部座席の真ん中に直哉。その両サイドに卯月、子日が座る。
薄雲と電はハンドルキーパーで、ノンアルコールカクテルを飲んでいたのだ。
霊園に到着すると直哉が花束を、電がお線香をあげる。
五人で手を合わせると、直哉は振り返った。
「坂本龍馬は、『日本を洗濯したい』と言っていたそうだけど、正に坂本将補は彼の生まれ変わりだったのかもしれないね」
直哉が肩を竦めると、艦娘達も頷いた。
「死に方まで、彼の真似をして欲しくなかったのです」
「そうだぴょん、殺される理由なんてなかったぴょん」
「そうですね」
「子日は知らない人だけど、死んじゃったら全て終わりだよ」
子日の言葉に、直哉も頷いた。
死んだら全て終わりだ。勝ち逃げして逝ってしまった……
羽佐間准将の言葉を思い出す。
「でもね。彼の遺志は、確かに受け継がれているさ」
ふっと笑い皆の頭を撫でると、直哉は悪戯っぽい顔をして、とんでもないことを言い出した。
「さあ、帰ろうか?」
「えっ?旅館には戻らないって言ったのです」
「どこに帰るぴょん?」
「もしや?」
「宮戸島!?」
電が首を傾げ、卯月は不思議がり、薄雲が察すると、子日は驚いた顔をして口を開けている。
「そうだよ。貰ったチケットを何とか振り替えて、羽田経由の仙台空港の最終便を取ってあるから帰ろう。やはりクリスマスは、慣れ親しんだ宮戸島で、
等と直哉は言っている。
嫁艦達は、あんぐりと開いた口が塞がらない。
「どうしたんだ?」
「いや、どうしたんだって、番長達はどうするのです?」
至極当然である。一応彼は、引率者としてここに来ているのだ。
「『朝起きたら、引率者は宮戸島に帰っていた』ドッキリかねえ?差し詰め。さっき、史絵と席を外しただろ?その時に、史絵には事情を話して20万ほど預けておいたんだ。使い切っていいから、全員無事に帰って来てね。って」
「おー、ドッキリを仕掛けるぴょん」
「知りませんよ?後で何言われるか解ったものじゃないです」
「いいじゃん?たまにはそう言うドッキリも」
「ふふっ。直哉は、子供の時があるのです」
艦娘達が笑いながら直哉を諌めるが、直哉は笑っている。
「まあ、彼等へのサプライズはそれだけじゃないさ」
そう言って直哉達は、高知龍馬空港から空路羽田経由で仙台空港へ移動していた。
自宅のリビングに入って電気を点けると、部屋にはびっしりとクリスマスの飾りがされていた。
出掛ける時には、何もしていなかった筈である。
「これは………?」
「いやあ、武藤提督に頼んだんだよ、飾り付けをしておいて欲しいって。冷蔵庫を見てご覧?」
「冷蔵庫なのですか?」
電達がトテトテと冷蔵庫に向かい、扉を開けると中にはご馳走の数々が入っていた。
そう言えば出掛けるから、と冷蔵庫をほぼ空にしていたのを思い出した。
そしてシャンパンが冷えている。
温めないといけないものはレンジで温めて、皆で手分けしてダイニングテーブルに戻って来ると、
直哉はサンタ衣装を着て、袋を持って待っていた。
「さて、プレゼントを渡そうか?皆テーブルに置いておいで」
『はーい!』
「まず、子日。クリスマスに欲しいものは?」
「スマホとタブレット~」
「と言う訳で、子日には最新スマホと12インチタブレットをプレゼントするよ」
「わぁい!!やったぁ!」
子日が大燥ぎで、直哉から渡されたラッピング済みの携帯電話会社の袋を開けて、スマホとタブレットを取り出すと、
「ありがとう!直哉!!」
とジャンプして抱き着き、頬にキスをすると早速スマホから開封し始める。
「次に卯月、クリスマスに欲しいものは?」
「最新のゲームソフト!」
「卯月の言ってた欲しいソフトを全部買っておいたよ」
「おおお!!すごいぴょん!直哉、ありがとうだぴょん」
ラッピングされたゲーム屋の袋を直哉から受け取ると、同じく直哉にキスをする。
「薄雲は、欲しいものは何かな?」
「はい、電子書籍リーダーを希望していました」
「と言う訳で、
「分かりました。感謝します、直哉」
薄雲はペコリと頭を下げる。キスしたさそうな顔をしている為、直哉が身を屈めるとそっとキスをした。
「最後に電だが、電の欲しいものは?」
「電気自動車なのです。でも、ローンで買っちゃったのです」
「……だろう?納車前ってことで、車屋さんに最新カーナビとオーディオを追加で付けてもらったよ、あと、うちで充電できるように電気工事も手配したよ」
「おおおお!!!ナビとオーディオと充電ポートは、予算で諦めていたのです。直哉、ありがとうなのです!!!」
目録を電に渡すと、電も抱き付いてキスをする。
「直哉サンタさん、ちょっと待つのです」
電達が、どどどっと二階に駆け上がって行くのを見送ると、すぐに戻って来る。
ラッピング包装された箱。
「直哉。これ、電達から直哉へのプレゼントなのです」
「お。皆、ありがとうな」
包装と箱を開けると、直哉が仙台でそろそろ替え時かな?と擦り切れた自分の財布を見ながら、欲しいな…と呟いたブランド物の財布が入っている。
「それで、もう一つ。皆で話し合って決めたぴょん」
「私達は妊娠が可能になりました」
「でも、第一子は……」
「電と直哉との間の子供が良い、って皆賛成してくれたのです。一気に産休は出来ないのです」
「それじゃあ、四人の年子の異母兄弟が生まれるな?」
直哉が笑うと、全員笑ってダイニングテーブルに着いた。
シャンパンをお互い注ぎ合うと全員で、
『かんぱーい!!』
楽しい、遅めの夕食が始まる。
途中から卯月はゲームを始め、子日はスマホとタブレットを嬉しそうにしながら器用に弄っている。
薄雲は、黙々と電子書籍リーダーで読書を始めている。
一番始めに購入したのは、電子書籍版が発売された『金と銀の瞳の龍の物語』である。
「ねえ、直哉」
「何だい?」
電が直哉の隣りに座って声を掛けると、ブランデーを飲み始めた直哉は電の方を向いた。
「鎮守府が始まってから、また新しい年が来るのです」
「そうだね」
「二人が着任した時には、思ってもみなかったことなのです」
「卯月や薄雲が来て、もう二回目の年末なんだね。短いようで」
「長かったのです。いろんなドタバタがあったり」
「まあ、これからもいろんなドタバタがあり続けるんだろうな?」
その言葉に、電はふふっと笑った。
皆も、直哉の方を見て笑い掛けている。
皆に笑顔で返す直哉。
笑い声が、辺りを包み込んだ。
――――――――
寝室で、電と直哉が買い直したキングサイズベッドに横たわっている。
「電」
「どうしたのですか?」
「ありがとうな」
「何がなのですか?」
首を傾げる電に、真面目な顔をしている直哉。
電が不思議がっていると、直哉は電を抱き寄せた。
「こんな私に、秘書艦として連れ添って何年かと。嫁艦として一年半、私は電に出会えてよかった」
「他にも居るのですよ?」
「原点は、やはり君だよ。だから皆、これを望んだんだろう?」
「かもしれないのです」
「君が卯月を一緒に嫁艦にしたい、と言い出して、薄雲を受け入れて、子日も受け入れてくれて」
その言葉に、電はふふっと小さく笑った。
「また増えるかもしれないのです」
「それは私が困るな。電はそれで良いのかい?」
「嫁達は、皆仲良しなのです」
直也は肩を竦めたが、電は自信満々な笑顔を見せる。
「もしかしたら、羽佐間准将のようになるかもしれない、ってことかな?」
「かもしれないのです。直哉はいい男なのです」
「ありがとう」
頭を撫でる直哉に、擽ったそうな顔をする電。
「さ、あの子達も見てます。早速始めるのです」
ドアの隙間から覗き込む三つの目をちらりと見ながら、電は直哉を見上げると唇を重ねる。
『んっ…………」
――――――――
翌朝。土佐に居る番長と愉快な仲間達が目を覚ますと、枕元にプレゼントが置いてあった。
直哉が、仲居さんに頼んで置いたのだ。
皆の欲しいものが入っている。
それよりも深刻だったのは、置き手紙だった。
『宮戸島に帰ったよ』
「師匠は、俺達を置いて帰っちゃったってことか!?」
「…………」
憤慨する圭一のその言葉に、仕掛け人である史絵は何も言わない。
「そんなあ………」
不安そうにしている寛太。
「だいじょうぶだよぉ。飛行機乗って帰るだけだからぁ」
天然の優花は動じていない。
「……ふむ。史絵先輩、何か知ってるんじゃないですか?」
「い、いえっ!ドッキリなんて事は知りません!」
鋭い慎の言葉に、慌てて無意識にバラしてしまったダメダメ仕掛け人に、全員が溜め息を吐く。
「いくらか預かってますので、それとチケットで帰りましょう。ね?」
皆を宥めようとする史絵だったが、あまり効果はなく。
東京で三高ワンダーランドに立ち寄って、宿泊までして預かったお金をほぼ使い切って宮戸島に帰って来た、圭一と愉快な仲間達であった。
『ただいま~』
鎮守府にやって来た一同に、直哉と電は顔を見合わせて笑った。
「思ったよりも遅かったね。史絵ちゃん、お釣りは?」
「その、ありません」
「そうだろうねえ」
ふふっと笑いながら、肩を竦める直哉。
電も笑いを堪えている。
「師匠、非道いじゃねえか!」
「まあまあ、圭一」
「俺達も預かった金使い切ったから、相当酷いぞ?」
「だよねぇ~」
「慎の言うとおり」
「それな」
「うん」
圭一は憤慨し、寛太が宥め、慎がツッコミを入れて、女子達が同意する。
「クリスマスが終わったら、こっちも大仕事だな」
『え?』
慎がギャルズ達を見ると、ギャルズ達は首を傾げる。
「引っ越しだよ。年内に終わらせるぞ?」
『はーい!』
慎がそう言うと、三人共笑顔で手を挙げる。
「オレも手伝うぜ」
「はい」
「僕も手伝うよ」
「そうだねぇ」
残りの面々も、俄然やる気を出している。
「それじゃあ、鎮守府は今日で仕事納めにしようかね?」
「なのです」
こうして、皆の協力の下、クリスマスの翌日に大引っ越しが始まる。